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060 別れのけじめ

本日2回目の投稿です。

大樹の森編 最終話です

 



 次の日、私とサクラさんとつくもで、つくも(猫)のさんぽコースを回ることにした。


 魔鳥車を引いているのは、メガロだ。


 いろいろ検討した結果、魔術学院にいっしょに行くのはペンテとテネリになった。体力があり、魔力量が多い方が旅に向いているからだ。シンティがテネリを気に入っているのも理由のひとつだ。


 なので、他の2体はお留守番になる。メガロがすごく残念そうにしているからと、サクラさんが気を利かせてくれた。


 荷台には、次元箱が積まれている。そう、あのフィギュアが大量に入っている箱だ。




「つくも(猫)、おまえのさんぽコース、なんかずいぶん広くないか」


 つくも(猫)の指示のまま、魔鳥車がどんどん進んでいく。野良ちゃん猫でも、広くて半径500メートル位だったような気がするが……。




「おう、ねこちゃん、久しぶりだな」


 ここは、『()木戸(きど)』の(とりで)である。入り口の町西側にある。


「なんだ、こいつはカナデの猫か」


「はい、何か迷惑掛けていませんでしたか」


 私が恐る恐る聞くと、


「迷惑だなんてとんでもない、すげえ役に立ってるぞ。なにしろ、獲物が少なくて落ち込んでいる冒険者は、こいつに癒やされて元気になるんだぞ。すげえよ」


 守衛さんが、つくもの頭を撫でる。


「お役に立てているようでよかったです。で、残念なんですが、私達、もう直ぐ魔術学院に留学するんです。で、この猫も一緒に行くのでしばらくお別れになるんです」


「なんだ、そうなのか。寂しくなるな。でも、また戻ってくるんだろ」


「はい、必ず」


「おう、待ってるぞ」


「で、この猫人形を置いていきます。この猫だと思って飾っておいてください」


「おーすげーな、そっくりじゃねえか。おう、そこに飾っておくよ。きっと、冒険者達がみんな頭触っていくと思うぞ」

 

 そう言って、その守衛さんは、出入り口のそばに猫人形を飾ってくれた。




 ととと、とん。


 つくも(猫)がその猫人形に近づいた。


 その猫人形は、尻尾を巻き込み、前足をきちんと揃えたエジプト座りだ。


 その猫人形の頭に、とんと前足を乗せた。すると、人形が少し光って「にゃん」と鳴いた。


「おう、すげえな、この猫人形鳴くのか」


 素直にびっくりしてくれたが、きっと、神装力(しんそうりょく)第三権限の力で何かをしたに違いない。


 まあ、魔法がある世界だから、不思議なことが起こっても、誰も気にしないが……。




 守衛さんに見送られて、火の木戸を後にする。


「つくも(猫)、何したの」


「ちょっと、神力を入れただけだ。状態異常の改善になる」


 ああ、落ち込んだ人を癒やすって事ね。


「大サービスだね」


「ふん。この町の神なのだから当然だ」


 へえ、「神の仕事はしないぞ」って、カルミアさんに言っていたのに、神としての自覚が出てきたんだ。


「ねこちゃん。立派です」


 サクラさんに喉を撫でられて、ゴロゴロしているつくも(猫)を見ながら、ちょっと、嬉しくなった。




 そのあと、『()の木戸』『(ごん)の木戸』『(すい)の木戸』『()の木戸』と砦を回る。入り口の町を1周したことになる。距離は約100キロメートルだ。時間にして3時間ぐらいかかった。


 どこの砦でも、守衛さんの反応は同じような感じだった。毎日ではないが、冒険者が帰ってくる時間帯になると、いつの間にか現れて寝そべっていたようだ。


 冒険者達も、いつの間にかその姿を見るのを楽しみにするようになっていたと守衛さんが話してくれた。


 こうして、つくも(猫)の神力が入った猫人形が、各砦に鎮座することになった。


 うん、そのうち、御利益(ごりやく)に感激して、『(やしろ)』でもできるんじゃないだろうか。


「さて、次は町の中か……。これは、今日1日では回りきれないぞ」




 結局、工場区、工房区、農業区を回って、日が暮れた。


 時間も日時も決まっていないが、なぜか、落ち込んでいたり疲れていたりしているときに、ふらっとやってきて近くにいてくれるらしい。


 みんな感謝していた。猫人形をもらい、大事そうに飾ってくれた。その人形全てにつくも(猫)の神力が注がれた。


 今日1日で配った猫人形は、296個だった。




 2日目は、行政区、芸術区と、賢魔鳥(けんまちょう)牧場がある管理区を午前中に回り、午後、私の住宅がある住宅地区と研究区を回ることにした。


行政区では、なぜか感謝状をもらった。理由は、この町の料理が美味しくなることに貢献したからだ。そこにはなぜか、コパンさんや他の食堂仲間も集まっていていて、涙ながらに見送られた。


 芸術区では、サクラさんとコンサートをした人たちが集まっていて、歌をで見送ってくれた。うん、感激した。


 サクラさんも参加した臨時のコンサートは、大成功だった。サクラさんのソロパートもあり、きっと、自信がついただろう。これで、魔術学院でも気後れすることはない。


 集まっていた人たちには全員に猫人形を手渡した。さすがに一つ一つに神力を注ぐことはできないので、まとめて何かをしていた。一斉に「にゃん」と鳴いた猫を見て、みんな笑っていた。


 養成学校には、校長室と昇降口に置かせてもらった。さすがに学生一人ひとりには無理だ。


 賢魔鳥(けんまちょう)牧場では、メガロが行くとみんなが近寄ってきた。メガロも満足そうでよかった。猫人形は管理人室に置かせてもらった。




午後、私の住宅がある宅地区に来た。


「ごめんね、ねこちゃん。しばらくお別れなんだ」


「いかないでー」


とわんわん泣く子ども達に、猫人形を渡す。そして、つくも(猫)が神力を入れていく。


「にゃん」


と鳴いた人形を抱きしめて、


「絶対帰ってきてね」

「いってらっしゃい」

「ありがとう」


 涙を我慢する子ども達にバイバイをして別れる。




「そうかい、行ってしまうのかい」


 ベッドに寝たままのおばあさんが、一粒の涙を流す。


「また、帰ってきます」


「ええ、頑張ってきなさい」


 おばあさんは「にゃん」と鳴く猫人形を抱えて送り出してくれた。




 つくも、ちゃんと神様していたんだね。




 その日の最後は、研究区だ。ここは、最後と決めていた。


 音波研究所でツバキさんは椅子に座って待っていた。もう、私達が魔術学院に行くことは当然知っている。


 私が、恐る恐る切り出す。


「ツバキさん。お世話になりました。しばらくお別れです」


「なによ、私だってエルフよ。気持ちの切り替えぐらいできるわよ」


 そう言って、ぷいとそっぽを向いた。


「姉様、ねこちゃん人形です」


 サクラさんがつくも人形を渡した。


「よくできているわ。そっくりよ。うん、大事にするわよ」


 とととと、とん。


 つくも(猫)が、ツバキさんの膝に飛び乗った。


 前足を人形の頭に乗せて、神力を注ぐ。


「にゃん」と人形が鳴く。


 それをツバキさんが抱きしめた。目には涙が光っている。


「ツバキ、おまえの料理は、全て美味しかったぞ」


 つくも(猫)がそう声を掛けた。


 びっくりして、つくも(猫)を見るツバキさん。


 まんまるに瞳孔が開いた2つの目がじっとツバキさんを見上げていた。


「うん、ありがと。ねこちゃん、いってらっしゃい」


 もう一度人形を抱きしめた目には、涙はなかった。




 配った猫人形の数は、500個を超えていた。




 私は、ビオラ様が言った、「きちんとお別れしなさい」の言葉の重みをかみしめていた。







 今日は、3月29日だ。私とつくも(猫)がこの世界に来たのが、4月1日だった。そして、サクラさんと出会ったのが4月10日だった。




「カナデさん、この桜の木覚えていますか」


 突然、サクラさんがそう聞いてきた。


 ここは、カボーグ邸の裏庭にある小高い丘の上だ。そこに、1本の桜の木がある。


「もちろんです。私がこの大陸にきて、初めて出会ったのがサクラさんです。その日にここでカルミア様達と出会い、いろいろなお話をしました」


 私は、桜の木の幹に手を当てる。


「そして、次の日の朝、この桜の木がサクラさんのお気に入りだって、ここで教えてもらいました」


 サクラさんも、桜の木の幹に手を当てた。


「4月10日は、私の生まれた日なんです」



 えっ、マジですか……。


「あの日は、私が16歳になった日でした。あ、人族は毎年生まれた日に特別なお祝いをするんですよね。エルフはしないんですよ。エルフのお祝いは、1周期ごとなんです」


 サクラさんが、私が「しまったー」という顔をしていたので慌ててそう説明してくれた。


 でも、なるほど、確かあの日、カルミア様が「今日は特別な日」だと言っていた。


 誕生日パーティーの様な事はしないが、特別な日として豪華な夕食を食べるのがエルフの習慣なんだろう。


「1周期というと、50年ごとのお祝いなんですね」


 サクラさんがうなずいた。


「カナデさんのお祝い日はいつなんですか」


 エルフの感覚だと、誕生日は特別じゃないんだ。だから、いままでそういうイベントがなかったんだな。


 でも、転生して生まれ変わった私の誕生日っていつなの?


「よく分からないんです。でも、私もつくも(猫)も、新しい生活が始まった日は、サクラさんと出会った日です。だから、その日がお祝い日ですね」



「なら、3人いっしょですね」


「はい、2人と1匹ですが……」


「そうですね」と言って サクラさんはコロコロ笑った。




 さて、サクラさんの1周期祝いの時、私はどんな立場でお祝いをしているのだろう。







 2日後にエレウレーシス連合王国にある、『大陸総合研究所 魔術学院』へ留学するために旅立つことになる。


 魔術学院がある王都までは約1500キロメートルの道のりになる。大陸最大の湖である『アステル湖』を大きく迂回していくことになるからだ。


 風の道が使えない所も多いので、多分10日程の旅になるだろう。


 この世界に来てから、初めて入り口町から出て生活をすることになる。この町が、あまりにも住みやすい町だっただけに、権力者の力が強い他の国での生活には正直不安も多い。


 しかし、サクラさんを10層に届けるためには、全ての障壁を力と知力と胆力で乗り越えなければいけない。




「まあ、なるようにしかならんか」


「その世界を楽しんでくれ」


と、あの神様も言っていた。



 そうだよな、なんか、ずいぶん遠慮して生きてきたような気がするぞ。


 せっかく異世界転生したんだ。巻き込まれたとはいえ神様までついてきたんだぞ。もっと、いろいろなことができるはずだよな。


 うん、もっと、楽しまなきゃいけないな。

 




   『大樹の森』編 完結






次話は本日3回目の投稿です

登場人物紹介になります


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