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057 相談しよう

○○○ネタがあります

食事中、苦手な方はご注意ください

 



 1月に入ると、本当に雪が降り続いた。積雪は10日で2メートル程になっている。これからまだ降り積もるらしい。


 なるほど、これでは行政の仕事が止まるわけだ。出向職員は、12月末から3月末まで母国で長い冬休みになる。単身赴任の人も多いので、きっと家族といい時間を過ごせているだろう。


 そんなわけで、人口の3分の1がいなくなった入り口の町はとても静かになった。


工場は、外観だけ出来上がっている。どうやら、2月3月に内装の工事をするために急いでいたようだ。


 ロスナールさんは、紙工房を弟子達に任せ、新しくできる工場で研究職になるようだ。試したいことがたくさんあると、張り切っている。気持ちはよく分かる。応援しよう。


 黒板用のペンキは、別の業者に丸投げだ。特に秘匿(ひとく)する技術はないので任せられる。チョークについては、材料となる石灰石が1層でも採れるので、採掘はE級冒険者の仕事として定着しつつある。製造は、小さな工房が冬の間の内職として請け負ってくれた。


 ただ、今はこの町だけの需要なので間に合っているが、今後大陸に広がっていくといろいろ考えないといけないかも知れない。


 いずれにしても、私が1人でどうこうできることではない。今回のことでよく分かった。工場建設でお世話になった行政職の『レサリオ』さんが、全面的に協力してくれるというのでお願いした。


これも、どうやら10層が関係しているらしい。


 入り口の町全体が、私達に協力できる体制をこれから整えていくことになるだろうと、レサリオさんが言っていた。完全な自治権があるこの町だからこそできることは多そうだ。







 1月中旬、町は3メートルの雪で完全に覆われた。外は吹雪だ。外出している人は誰もいない。いや、できない。


 私はと言うと、冬の間はカボーグ家にお世話になることにした。出向者用住宅は、雪に埋もれていてもはやどこにあるの分からない。そして、そこには誰も住んでいない。いや、住めない。


 つくもに会いたい、カボーグ家の女性陣達の圧にも耐えられなかった。


 基礎研究の仕放題は、またまたお預けになりそうだ。ぐすん!




 ここは、カボーグ邸の応接室だ。テーブルには、紅茶のカップが3つ湯気を立てている。そして、なぜか空のカップも1つ冷めない魔法が付与されているティーポットといっしょにおかれている。


「なんで、こんなに頻繁(ひんぱん)に帰ってこられるんですか、ランダナさん、ナツメさん。外は大雪ですよね」


「何でって言われてもね、S級案内人に雪は関係ないからね」


 ハイ、空からやってきますからね。ナツメさん。


「愚問だ、サクラがいる場所が私の場所だ」


 身体強化して雪掻き分けてきましたよね。ランダナさん。




「カナデ君、あの○○○洗浄機、快適だね。6月から増産始まるんだろ。100個ほど注文しておいたよ」


 お買い上げありがとうございます。


「パチン」とランダナさんが指を鳴らした。


「ん、合図はランダナか。めずらしいな。サクラがいる場所で自分から入れ替わるなんて」


 ランタナさんに人格が入れ替わった。

 

「ああ、なるほど、このメンバーなら、私が適任だ」


 どこから現れたのか、ディナさんがスッとやって来て、空のカップに紅茶を注いでランタサさんのいるテーブルに置いた。


 すげー、プロの仕事を見た。と一瞬見とれてしまったが、直ぐ気持ちを切り替え、


「ランタナさん。今回は、いろいろアドバイスありがとうございました」


 私は、頭を下げる。


「切っ掛けを作っただけだよ。それに、製品がよくなければ行政職は動かないよ」


 うなずく私。


「それよりも、本当にアイデア料は徴収しないのかい。ちゃんと取れば、莫大な利益を生むよ」


 ランタナさんが不思議そうに聞いてきた。


「はい、アイデアっていっても、こんなの作れないーっていう程度です。試行錯誤して作ったのは職人ですから……」


「いや、その発想ができるできないが、大事なんだと私も思うよ」


 ナツメさんも、()に落ちないようだ。


 ぶっちゃけ、おれのアイデアではない。前世の誰かのアイデアだ。とてもじゃないけど、威張れない。


 それに、助けてもらわなければ何もできないこの状態で、自分の利益を主張するなんておれにはできない。


「今回のことで、人と人とのつながりの大切さを思い知らされれました」


 私がうなだれると、


「この町の行政職は、こういう事に慣れているんだよ。なにしろ、トリコン様がいたからね」


 ランタナさんが、遠い目をした。ナツメさんもうなずいている。


 何があったかは大体想像できる。質問はやめよう。


探求者たんきゅうしゃっていうのは、利益を求めないからね。カナデ君も、似たようなところがあるよね」


 はい、利益よりも研究結果が大事です。


「そうだよカナデ。ジェイドの時もそうだったけど、もっと、自分の利益も考えないといけないよ。カナデにはこれからお金も必要になってくるからね。財力は力だよ」


 ナツメさんが心配そうに言ってくれた。ありがたい。でも、お金はその気になればいくらでも稼げる気がする。


 それから、町が協力してくれるなら、戦略も変わってくる。




「実は、もっと、あくどいことを考えているんです」


 私が悪い顔でそう言うと、


「ほう、どんな悪巧みだい、興味深いね」


 ナツメさんが食いついた。


「私にも聞かせておくれ、その悪巧みを」


 ランタナさんも食いついた。




入り口の町は、セルビギティウムの名のもとに、権力者からの全ての命令を拒否できる。また、全ての国の法律にも縛られない。


 この取極めが制定されてから、500年が過ぎている。地球の歴史を考えると、これだけの期間同じ体制が続くということはめずらしい。これは、『世界樹の裁き』がそれだけ各国の政治や人々の暮らしに強い影響力を発揮したことが原因だろう。


 だが、歴史は繰り返される。長寿のエルフでさえ、500年間は生きられない。世代が変わるということは、過去の教訓も忘れ去られていくということだ。


 レサリオさんが言うには、怪しい動きをしている国が出てきているらしい。つまり、入り口の町を変えたいという勢力が表に出てきた。出向者達にも理不尽な命令が来て困惑しているようだ。もしかすると、4月になったら担当者が変わっていたということも考えられるそうだ。


 この町の行政の長は『町長』であり、町議会の議員の中から選出される。町議会の議員は、大陸の各国から5名ずつ出向してきて構成されている。つまり、改革派の町議会議員が多くなると、いろいろ支障が出てくる。


 議会は、主に行政の仕事のみに関わり、治安維持、裁判、立法には関わらない。法律は、町の設立と共に制定されたもののみで、変更するにはセルビギティウムの名の承認が必要になる。


 この取極めがあるので、簡単には(くつがえ)せないだろうが、町の行政機能が麻痺する可能性も否定できない。油断はできない状況だ。


 衛兵は、各国からの出向者で構成されている。この町としての軍隊はいない。


 しかし、この大陸で、この町を攻め落とせる軍事力は存在しない。ストラミア帝国でさえ、それは無理だろう……たぶん。


 世界樹の精霊は最強だ。つくも(猫)でさえ、かなわないと言っていた。怒らせては駄目だ。『世界樹の裁き』が大陸中で起こる可能性すらある。


 そんなことになったら、基礎研究の仕放題ができなくなる。それは困る。


 禍根(かこん)を残さないためには、無益な戦いはしないに限る。幸いにも、この町の力(人材)はかなり強力だ。そこに、つくも(猫)と私の暗躍(あんやく)が加われば……なんとかできるかもしれないぞ。




 よし、相談をしよう。


「ランタナさん、魔法刻印の効力について詳しく教えてください」


 しばらく考えてから、なにやら嬉しそうに説明してくれた。


「おもしろいところに目をつけたね。なるほど、カナデ君がやろうとしていることがなんとなくわかったよ。魔法刻印は、その製品が偽物ではない本物であることを証明するものさ」


 自身の鞄型次元箱の中からいくつか品物を取りだした。


「この、万年筆のペン先は、特別丈夫に作られている。身体強化をした状態で使う冒険者がいるからだ」


「あ、それ私も持っています。昇格試験の時使いました」


「もちろん、私も持っているよ」


 ナツメさんも、上着の内ポケットから万年筆を取り出した。


「ペン先全部に同じ図柄がついているだろう」


 3つの万年筆を見比べると、確かに同じシンボルがあった。


「アルエパ公国のマルモル家系列の工房で作られたという(あかし)だよ」


 マルモル家はシンティの実家だったよな。


「そして、この魔法刻印のすごいところは、簡単に複製ができないということさ。つまり、模造品を作って売り出すことはできないんだ」


「その刻印を付与する魔道具も複製できないんですか」


 大事な事なので聞いてみた。


「魔道具だけならできるよ。ただの道具だからね。その中にセットする刻印の方は、簡単には複製が作れないように厳重に管理されているはずだよ」


 なるほど、それなら、複数の工場に刻印を設置することは可能ということだ。


「分かりました。あと、この刻印に何らかの魔法を付与することはできますか」


私の言葉に、ナツメさんがピクリと反応した。


 ランタナさんも、ちょっと意外そうにしている。


「大きな刻印なら、魔法陣を付与することが可能だよ。ただ、この万年筆にある大きさには難しいかな。カナデ君は、どんな魔法を付与したいんだい」


「カナデ、付与する魔法によっては罰せられる事があるぞ」


「大丈夫です。人の精神に干渉するような変なものではないです。一定期間が過ぎると使えなくなる魔法です」


 何を言っているんだこいつは、という怪訝(けげん)な顔をする2人。


 私がその効力を説明すると、


「カナデは、権力者が嫌がることを考える天才だな」


「まったくだ、その仕組みでうろたえるやつらの顔が想像できるよ」


 3人でものすごく嬉しそうにニヤニヤとして、冷めた紅茶を飲み干した。






次話は明日7時10分投稿

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