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006 冒険者ギルド

 



 いよいよ冒険者ギルドだ。どんな手荒い歓迎が待っているのだろう。ちょっと楽しみかも。屋敷の前でサクラさんが待っていた。これから冒険者ギルドにいっしょに行ってくれる。


 今の時間は、午前10時ぐらいだ。依頼を受ける冒険者が皆出払っているこの時間が都合がいいらしい。


 この世界の1日は24時間。地球と同じだ。


「ねこちゃんは行かないのですか」


 サクラさんが少し残念そうに聞いてきた。


「たぶん、どこかで昼寝ですね。それに、あの姿だと乱暴な冒険者がいたら何かされるんじゃないかと警戒したのかもしれないですね」


「あー確かに…… 冒険者さんの中にはじゃまだって蹴飛ばす人がいるかもしれないですね」


「ハハハハ、もし、本当に蹴飛ばしたら、その人きっとねこパンチ一発で壁にめり込みますね」


「ですね。ねこちゃん強いですから」




 冒険者ギルドの中に、人はあまりいなかった。受付カウンターにも、人がいなかった。どうやら、異世界あるあるのイベントは起きないようだ。ちょっと残念。


「すみませーん。案内人のサクラです。フェロンさんいますかー」


「はーい。ごめんねー。ちょっと待ってて」


 奥から女性の声が聞こえ、しばらくしてから、人族のお姉さんが現れた。


「待たせたわ。ごめんね。所長に呼ばれてたのよ」


「いえ、大丈夫です。それで、こちらの方が、朝お話しした冒険者になりたい方です」


 どうやら、サクラさんが事前に話しを通して置いてくれたらしい。


「カナデと言います。よろしくお願いします」


 きれいなお姉さんから、ジーと見られました。恥ずかしい。


「ずいぶん若いわね。今いくつなの」


 おっ、そうだよ、これが普通の反応だよ。


 サクラさんの家族は、1度も年齢を尋ねてこなかった。


「はい、16歳です」


 嘘です。私のうっかりで前の世界より10歳ほど若い体になっています。


「えっそうだったんですか。すごく落ち着いたしゃべり方だったので、見た目よりも年齢が上だと思っていました。私も今16歳です。いっしょの歳だったんですね」


 サクラさんが嬉しそうです。でも、16歳ですか。エルフでも見た目通りだったんですね。


「ふーん、まあ、いいわ。この町では、9歳からでも見習いならE級になれるからね。問題ないわ。ただ、思っていた感じと違うからちょっと意外だったのよ」


「意外とは……たとえばどんなことですか」


「だってね、あの『まっすぐ』をパンチ一発で倒したって言うからね、どんな大男かって思っていたのよ。それが、こんなにひょろっとした人じゃない。びっくりよ。ということは、あなたはきっとすごい身体強化が使えるのね。ああ、言わなくてもいいわよ。独り言だから」


 すみません。倒したのはつくもです。でも、言えません。




「じゃ、登録済ませちゃいましょう。こっちに来て」


 受付横の小さな部屋から手招きされた。


「文字は書けそうね。じゃ、この用紙の四角い枠の中にカードに登録する名前を書いてちょうだい」


「あれ、名前だけですか。それに、登録する名前って、偽名でもいいんですか」


「偽名だって、かまわないわよ。どうせ、それが偽名だって証明することなんてできないんだもの」 


 めんどくさそうに手をひらひらさせながらそう言うと、早く書けと用紙を押しつけてきた。


 私は、ちょっと考えてから、カタカナで『カナデ』とかくイメージをしてから手を動かす。多言語翻訳君がこの世界の文字に瞬時に変換しているので、漢字でもカタカナでもたいした違いにはならないかもしれないが……。


 名前が書かれている四角い枠の上に、白い名刺ほどの大きさのカードを置いてから、バラの(とげ)のような物を渡された。


「じゃ、これを親指の腹に刺して、血を一滴出してちょうだい。それを、このカードの隅にある穴に垂らすように押しつけてね」


「…………」


 これは何の棘だ。大丈夫か。毒は無いか……と無言でいると、


「ああ、痛いのダメな人なのね。大丈夫よ。この棘は刺しても痛くないから安心して」


 この世界ではこれが普通なのだろう……あきらめて言われた通りにする。




 血を垂らすと、用紙に書いた文字がカードに浮かび上がりやがて消えた。そして、カードの色がE級の赤色に変化した。


 すごい。魔法だ。やっぱりここは魔法のある異世界だ。私が感動していると、


「はい、これで登録終わりよ。このカードはちょっとした魔道具になっているの。この町への出入りや別の国に行った時に、このカードをここにかざせば、カードの持ち主が本人であることを証明してくれるわよ」


 四角い箱のような物を指さしながら説明してくれた。このカードは、本人以外が持って装置にかざしても、反応しないらしい。血による遺伝子の生体認証なのかも知れない。


「さて、E級冒険者のカナデ君。早速の依頼よ。奥の部屋で所長と面会よ」


「…………」


 いきなり何を言い出すんだろう、この人は?


「サクラー。ごめんね。さっき所長に呼ばれてね。登録終わったら、カナデ君といっしょに所長室へ行くように伝えろって言われたのよー」


 やはりキョトンとしているサクラさんにそう言うと「お部屋はこっちよ」と手招きをした。




 フェロンさんに促されるままに所長室に入ると、そこにはゴリラがいた。いや違った、ゴリラみたいに大きな人族がいた。


「おまえがカナデか。てめえ、何者だ」


 ものすごい威圧が私に襲ってきた。


 この威圧はまずい。このゴリラは(所長)、何色だ……色無しか。まだ、敵でも味方でもないか……対処は、相手の出方を見てからだな。


 チラッとサクラさんを見る。大丈夫そうだ。この威圧は相手を選べるのかもしれない。


「…………」


 無言で、ゴリラ(所長)の威圧に耐える。にらみ合いがしばらく続いた。


 神装力(しんそうりょく)の結界は、威圧などの攻撃にも反応する。そして、全てキャンセルしてくれる。なので、森の魔物の威圧にも耐えられた。




 ゴリラ(所長)とのにらみ合いが、30秒ほど続いたころ、相手がふっと威圧を解いた。


「はっ、この威圧に耐えるどころか、にらみ返してきたか。なるほど、カルミアが一目(いちもく)を置くわけだ。なっとくだ。それに、サクラの嬢ちゃんも平気な顔かい。おじさん自信無くすよ」


「ラウネンさん、いきなりこれは失礼です。それに、この程度の威圧、カナデさんには全く通じません。カナデさんは、3層から歩いて10日の深層から来たんですよ」


 サクラさんが怒ってくれた。ちょっと嬉しい。


「とは言ってもなぁー。C級冒険者ぐらいなら、みんなションベンちびって腰ぬかす位の威圧なんだがなぁー」


 といって、頭をボリボリ手で掻いた。


「まあ、なんだ。試して悪かったな。改めてあいさつだ。俺は、冒険者ギルドの所長をしている『ラウネン』だ。強いやつはいくらいてもいい。歓迎するよ。E級冒険者のカナデ君」


 ゴリラは『ラウネン』だった。




「それで、私たちをここに呼んだ理由は何ですか」


 まだ、敵か味方かはっきりしていない。ここは慎重に行こう。そう思って気持ちを引き締めた。が、次の言葉にずっこけた。


「カナデ、おまえ、3ヶ月後の冒険者ギルトC級スターの昇級試験を受けろ」


「…………ハイッ『えっ』…………?」


 サクラさんと私の声が重なった。


「おう、即決かい。いいねえ。気に入った」


 いや違うから、「何ですかー」のハイですから。


 いけない。きっと、神様からもらった3つ目の力『多言語翻訳君』が誤作動している。いや、誤変換しているに違いない。メンテナンスはどうすればいいんだ。


 この世界に来て初めてテンパった。


 サクラさんが、最初に再起動した。


「ななな、何を言っているんですか。ラウネンさん。カナデさんは、今日E級になったばかりですよ」


「えー、だってよう。俺の威圧跳ね返すんだぜ。そんなの、すでにB級クラスだろうが」


「……まあ、確かに、すでにB級クラス。いえ、A級でもおかしくないかも知れませんが」


 あれ、サクラさんの勢いが弱くなった。


「だろっ。なら、C級なんて、楽勝だろうが」


「まあ、そうですねえ。C級なんて、S級への通過点でしかありませんね」


 あれ、あれ、なんか変な方向に……。


「だろ、だろ、なら、サクラも賛成だな」


「もちろんです。カナデさん。私も3ヶ月後に、案内人ギルドのC級昇格試験を受ける予定なんです。いっしょに頑張りましょう」


 ラウネンさんが勝ち誇ったような表情で聞いてきた。


「だってよ。で、おまえ、どうする」


 サクラさんが。キラキラした目で私を見ている。


「ぐっ……ぜひ、受けさせてください」


「うひひひひ。決定だな」


 所長はゴリラではなかった。狸だった。




 サクラさんがその気になった時点で、全てのことは決定した。あのキラキラした目で見つめられると、何故か期待に応えたいと思ってしまう。もしかして、魅惑魔法の使い手なのかもしれない。


 私は、3ヶ月後にC級スター冒険者になるための昇格試験を受けることになった。


 ところで、スター冒険者って何?


 上機嫌のラウネンさんが、丁寧に教えてくれた。


 スター冒険者は、『風の加護』を持つ案内人の公式パートナーになれる立場だった。


 そもそも風の道が使える案内人の人数は限られている。また、C級案内人からは、移動の際、裕福層への対応をする場面が出てくる。


 B級、A級になると、大商人や上位貴族、王族の対応をすることになる。


 その時に、その都度パートナーが変わるのは都合が悪い。なので、常に同じ人がパートナーになれるようにするための『スター冒険者』制度だ。


 つまり、C級スター昇格試験は、かなり難しい試験になるらしい。本当に、私で大丈夫なの。というより、森でのスローライフ、基礎研究のやり放題、から、どんどん離れて行ってるんだけど。どうしよう、もう逃げられない……。







 次の日から、試験に向けての猛勉強が始まった……そう、お勉強である。


「おやぁ、冒険者だよね。強さが大事なんじゃないの」


と質問したら、猪型魔物『まっすぐ』をパンチ一発で倒せれば、強さは問題ないそうだ。




 今の私に必要なのは、大樹の森や案内人、冒険者に関する知識、生息する魔物の生態と敵対したときの対処の仕方、この国の地理、歴史、経済、文化、芸能にいたるありとあらゆる広い知識なのだそうだ。


 これが、E級2日目の新人に要求する内容だろうか……勘弁(かんべん)して。


 先生は、ラウネンさんとフェロンさんだ。意外にも、どちらもその試験に合格した実力の持ち主だ。ギルドの仕事がある忙しい合間を縫って教えてもらっている。教え方はやはり『とにかく覚えろー』という脳筋だった。


 高次元空間で作られたこの体は、記憶力も応用力も優れている。


「あなた勉強の仕方が独特ね。その机に指で書いている記号は何なの」


「ああ、これは覚えるための記号ですよ」


 嘘である。日本語だ。『多言語翻訳君』は、頭の中では日本語だ。なので覚える言葉も日本語なのだ。


小さい時から覚えることは得意だった。試験勉強も苦労したという記憶は無い。


「あんた、ホントに優秀ね」


 フェロンさんも、びっくりしている。


 美少女エルフのキラキラした目に見つめられたら、その期待に応えようとするのが多分当然の反応なのだろう。でも、自分もそうなるのはちょっと意外だった。


 おれって、こんな性格だったかなー? 小学校や中学校にも美少女はいっぱいいたけど、その子に何か頼まれても嫌なことは全部断ったよな。うーん、よく分からないぞ。


 とにかく、受験勉強は順調だった。




次話は明日7時10分投稿

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