表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/76

054 妹思いの兄たち

 



 カボーグ邸での食事会が終わり、別室でランタナさんと2人きりになり、いろいろ話をした。


「カナデ君が、サクラをすごく大事にしていることはよく伝わっているよ。あいつが出てくると面倒だが、優秀な冒険者ではあるので、話が合うかもしれないよ」


「入れ替わったときに、その前の記憶はないんですか」


「ないね、全くの別人という感じかな」


 なるほど、脳に余計な情報を残さないようにして、2人分の人格を維持しているんだな、きっと。


「それだと、不便じゃないですか」


「まあね、だから、入れ替わるときは、大事な事をメモで残すようにはしているよ」




「そうそう、ディスポロ商業公国のケルデース商会は気をつけなさい」


「どうしてですか」


「君を取り込もうといろいろ動いている。今日も手下がカナデ君に近づこうとしていたから、軽く牽制(けんせい)はしておいたよ」


「ありがとうございます。でも、接点ないですよ」


「『狂乱(きょうらん)状態のまちぼうけ』その(つの)を競り落としたのが、この商会の会頭である『ドモン』だよ」


 ああ、なるほどね。そう言うねらいがあって、高値で競り落としたんだ。


「わかりました。気をつけます」


 ランタナさんがうなずき、ふっと、真剣な表情になる。


「どうかこれからも、サクラのことを守ってくれ」


 そう言って、頭を静かに下げた。


「もちろんです。全力で守ります」


 私がそう言うと、安心したようにグラスのワインを飲み干した。




 しばらくランタナさんと歓談をしているとカルミア様が部屋に入ってきた。


「カナデ君、ちょっと話をしてもいいかな」


 私がランタナさんを見ると、


「ああ、ランタナも一緒でかまわないよ」


 カルミア様が、ランタナさんにそのままで良いと手で合図を送る。


「あの笛を今ここに出せるかな」


 きっと、世界樹の横笛の事だろう。


「はい」


 携帯型次元箱から出す振りをして、アイテムボックスから取り出し、テーブルに置いた。


「実はね、トリコン様にこの笛のことを相談してみたんだよ。いろいろ調べてみたら『次元樹(じげんじゅ)』を呼べる横笛なんじゃないかと言う結論になった」


「次元樹は、次元箱の素材になる樹齢100万年以上の樹魔ですよね」


「ああ、それで合っている。そして、今使っている素材は、全て活動停止になっていた樹魔なんだよ」


 樹魔にも活動停止がある。研究者の見解では、多分寿命だったのではないかという推論(すいろん)だ。真実はわからない。


「なるほど、もし、その次元樹を活動停止でない状態で呼び出せたら、次元箱の研究が飛躍的に進みそうだね。パーソンが小躍りしそうだよ」


 じっと私達の会話を聞いていたランタナさんが嬉しそうに言った。


「ただね、残念なことに呼び出すための音番(おとばん)がどうしてもわからなかったんだよ」


 ん、音番。楽譜のことだよね。


 私はあることを思いだした。


「カルミア様、その音番もしかするとという心当たりがあります」


 私は、携帯型次元箱から出す振りをしてアイテムボックスから、森で書き写した紙を取り出した。


「これは、万年樹の森入り口にある岩場に空いていた穴を音番にして書き写した物です」


 カルミア様とランタナさんが用紙をのぞき込む。


「なるほど、この音番通りに演奏すればいいんだね」


「はい、でも、きっと万年樹の森まで行かないと駄目な気がします」


「そうだね、私もそんな気がするよ」


 カルミア様はしばらく黙って考えていた。


「これは、杜人の(おさ)との相談が必要だな」


 そうつぶやき、


「カナデ君。この用紙を書き写してもいいかな」


「もう1枚ありますから差し上げます」


 ドレミ音階にしたのがあるのだよ。


「そうか、助かるよ。まあ、どちらにしてももう直ぐ冬が来る。そして森は雪に埋もれてしまう。動き出すのは4月になってからだね」


「はい、そうですね」


 うなずいて、カルミア様は部屋から出て行った。




「忘れていたよ。その音番以外なら、その横笛を吹いても問題ないということだよ」


 カルミア様がわざわざ戻ってきて教えてくれた。


 ならばと、私は日本の童謡を吹いてみることにした。


 何にしよう。由来通りの『子守歌』でも吹いてみるか。


 邸内にやさしい音が響いた。


 カボーグ邸での夜が静かに過ぎていった。







 カボーグ邸は、朝からにぎやかだった。


「ランダナ兄さん、もし、カナデさんに失礼なことを言ったりやったりしたら、ランタナ兄様と入れ替わってもらいますからね」


 サクラさんが、指パッチンができる体勢で、変人兄に詰め寄る。


 詰め寄られて、嬉しそうな表情はするが、入れ替わるのは嫌なようで、シスコン行為を我慢している。


「母上、卑怯(ひきょう)だぞ。なぜ、その秘技をサクラに伝授した」


 ランダナさんが、ビオラさんに抗議する。


「あなたがいつまでも妹離れしないからよ。このアホ息子」


 散々な言われようだが、自業自得(じごうじとく)である。




 ベニザクラ号は、(べに)(はく)の戦闘型の姿で3層に来ている。ここは、樹木と草原が半々ぐらいの場所だ。


 今日は、S級冒険者であるランダナさんに、紅と白の訓練をしてもらうことになった。


「いいか、紅、白、サクラを守るためには、少しのミスも許されないんだぞ」


 樹魔(じゅま)にコミュニケーション能力があるかどうかはわからないが、何となく緊張して立っているように見える。


「そもそもだ、お調子者(ちょうしもの)ごときの侵入を許すなど、もってのほかだ」


 イグニスが、コバルトブルーの実をお調子者に奪われた話を聞いてこうなった。


 訓練は、ランダナさんが魔物役になりベニザクラ号に近づく、それを紅と白が触手で排除する。という、シンプルな戦いだ。


「紅、横払いから縦への変化が遅い。お調子者は、そこを()(くぐ)るぞ」


「白、足を払うなら頭上の触手をおとりに使え」


 ランダナさんは、ただの変人ではなかった。スパー変人だった。


 どうやったら、その動きができるの。体がSの字に曲がって触手を避けている。どうやら、体が猫並みに柔らかいみたいだ。




 うん、発想の転換だ。身体強化を『剛力(ごうりき)』ではなく『柔力(じゅうりき)』で強化すると、あんなにもしなやかな動きができるんだ。


 私が感心して見ていると、


「ぼうっとしていないで、貴様も訓練に参加しろ」


 そう言って、手招きをされた。


 うん、これ知っている。「かかってきなさい」の挑発だ。


 受けて立とうじゃないか。『柔力』を会得(えとく)するチャンスだ。




 初めは、ぎこちなかった。 


「ふん、(ゴールド)スターだというからちょっとは期待していたが、やはり、こんなものか」


 ランダナさんさんが、本気でがっかりしたという表情であおってくる。


 紅と白の触手を()けながら、ランダナさんに接近しパンチを入れる。この繰り返しだ。


 体を柔らかくすることに意識がいきすぎ、()けるタイミングが合わない。何回も、紅と白に吹っ飛ばされる。


 そして、ランダナさんだけを見ていると、紅たちの触手が降ってくる。それも、ランダナさんの訓練を受けた鋭い()(さき)がだ。 


「うわ、フェイントか」


 紅に足を払われてバランスを崩す。そこに、白の触手がとどめだと上から降ってきた。


神装力(しんそうりょく)第三権限開放 身体強化『柔力』)


 瞬時の思考だ。時間にすれば0.1秒もかかっていない。刹那(せつな)の時とも言える。


 ふにゃっと、私の体がゆがんだ。体が仰向けのまま『くの字』ではなく『Iの字』になる。


 白の触手が、地面を叩いた。


 そのまま、自分の股の間に頭を入れスッと、『Iの字』で逆立ちし、腕の反動で飛び上がり、白の触手の上に立つ。


 白がびっくりして、触手を振り上げる。その反動を使って、ランタナさんに近づいた。


「ねこパンチ、普通」


 パンチが空を切る。いや、打ち込んだはずの体がそこだけない。体が曲がっている。


 ランタナさんは、すっと、跳び下がった。今日、初めて見せる動きだ。


「つっ、なぜ、貴様にその動きができる」


 ランタナさんの体内魔力が膨れ上がった。


(くっ、赤玉……)


 瞬間自動神装結界が発動……しなかった。


 ランダナさんの手刀は、私の喉元1.1ミリ手前でピタリと止まっていた。瞬間自動神装結界の最終防衛ラインは、1ミリ手前だ。


「おそろしいな。あと、0.1ミリ踏み込んでいたら、俺が死んでいたな」


 ランタナさんの喉元、0.1ミリ手前で、つくも(猫)の鋭く伸びた爪がピタリと止まっていた。


 瞳孔を狭めた金目が「調子に乗るな」と見上げていた。


「ふん、今日の訓練は終わりだ」


 膨れ上がった魔力が解除され、ランダナさんはその場に座り込んだ。


「お疲れ様」


 そう言って、サクラさんが私とランダナさんにタオルを渡してきた。そして、ものすごいどや顔で、


「どう、ランダナ兄さん。これでもカナデさんは、私を守ることができないかしら」


 そう言った。


「ふん、負けたのはこのつくもにだ。あいつではない」


 ランダナさんが、つくもの頭をわんさとつかんでぐりぐりとした。


「負け惜しみね。あのまま踏み込んでも、カナデさんには届かなかったわ」


 サクラさんは「おほほほほ」と高笑いをしながらベニザクラ号に戻っていった。


「貴様、なぜ、あの動きができた」


 ランダナさんが突然聞いてきた。


「身体強化を『剛』ではなく『柔』で意識しました。ランダナさんの動きを参考にしました」


「この短い時間に、私の動きを見ただけで、つかんだのか。あの動きを……」


 ランダナさんは、しばらく黙り込んで何かを考えていた。


「ふん、貴様の名前は、カナデだったな。1ミリだ、1ミリだけサクラに近づくことを許してやる」


 そう言ってから、そっぽを向いて、


「いいか、私の代わりにサクラを守るんだぞ」


 そう、ぼそっとつぶやいた。


 ランタナさんが言っていた通り、冒険者としてのランダナさんは、一流だった。







「いやだー。行きたくないー。サクラのそばにいたいんだー」


 サクラ兄としてのランダナさんは、ダメダメだった。


「会長、世界樹の実を待っている依頼人がたくさんいるんですよ。我が儘言わないでください」


 従業員だろう、困っている。


「その役目はランタナだ、俺ではない。だから、俺はここに残る」


 いや、体は共有でしょう。できないでしょうそれ。


「兄さん、見苦しいです」


 サクラさんが「パチン」と指を鳴らした。


「ふー、サクラありがとう。これで出発できる」


 一瞬で入れ替わる人格……。


「では、カナデ君。サクラのことは任せたよ」


「はい、任されました」


 ランタナさんは優しく笑って、旅立っていった。



 



次話は明日7時10分投稿

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ