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053 変人

 



 入り口の町の商店街は専門店が充実している。店員も皆しっかりと教育がされていて不愉快な想いをする事はまずない。


 犯罪もほとんど起きない。なぜなら、ほぼ100パーセント捕まるからだ。


 出口が一つしかなく、樹魔車両に乗っていなければ町の外に出ることができない。守衛も優秀な人材がそろっている。犯罪者を見逃す事はまずない。

 

 各国の大使館に逃げ込めば、その中にいる限りは捕まらないが、一生そこで過ごす事になる。割に合わないのだ。




 次元箱の専門店に入ると、店員がチラリとこちらを確認する。特に動く気配はない。客の動きをさりげなく観察し、必要とあれば助言をする、そんなスタイルだ。


 さて、偽装(ぎそう)に使うだけだ、安いのでいいだろう。


 量産型の価格が安い物が並んでいる棚に向かう。


 どれも同じような性能で形も似ている。これがいいという決定打が見つからない。


 そう言えば、姉が言っていた。


(くつ)(かばん)は「安物買いの銭失い」ではだめよ。長く使える物だから、自分に合ったしっかりした作りの物を選びなさい」


 なるほど、お金はある。というよりも、使う機会がない。貯まる一方だ。


「すみません。ちょっとアドバイスが欲しいです」


 私は、店員に相談することにした。


「迷ったら、専門家に尋ねなさい」


 これも、姉が言っていたことだ。


「承知しました。どのようなご相談でしょうか」


 店員が笑顔で近づいてきた。


「鞄型次元箱がほしいんですが、自分に合った物というのがよく分からないんです」


 店員がちょっと考えた。


 うん、ごめんなさい。無茶な要望だった……。


「いくつか質問してもよろしいでしょうか」


 失礼にならない程度に私の全身を観察している。


「はいどうぞ」


「お支度は、見たことがない素材ですが、たぶん逸品(いっぴん)物だとお見受けします。ご職業を伺ってもよろしいでしょうか」


「はい大丈夫です。冒険者です」


「鞄はどのような場面でご使用になられますか」


「うーん、商談ですね」


「どのような規模の商店でしょうか」


 ん、ランタナさんのお店の名前知らないぞ……どうする。


 ロギスさんを知っていたということは、たぶん同じぐらいの規模の商店だろう。名前を借りるか。たぶん大丈夫だろう。


「ロギスさんという方のお店と同じぐらいだと思うのですが、わかりますか?」


 ロギルさんの名前が出たとたん、店員の顔色が変わった。まずかったのか。


「ロキス様と繋がりのあることをが分かる何かがありますか……」


 声がやや震えていた。


「これならありますけど……」


 さっきもらったばかりのカードを見せる。


 次元箱があるこの世界では、絶対に物は渡さない。見せるだけだ。


 カードを見た店員は、明らかに動揺し、


「少々お待ちください」


 そう言って、足早に店の奥に消えてしまった。


 ああ、上司に相談案件か。でも、おれの名前聞いていかなかったぞ。大丈夫か?


 1分ほど待っただろうか、奥から地位が高そうな服装をした男性が、先ほどの店員といっしょに出てきた。店員は少しうつむいていた。


ああ、やっぱり怒られたな。


 地位の高そうな男性は、私を見るとピクリと頬が少し動いた。


 神装力(しんそうりょく)で強化された感覚だから気づけるわずかな動きだ。


「カナデ様、何かご相談があるという事ですので、私がお相手させていただきます」


 そう言って、丁寧におじぎをした。


 え、何でおれの名前知っているの?


「私はこの支店の支配人をしておりますマティオと申します。そして、このお店のオーナーは、ロギス様でございます」


顔を上げたマティオさんは、そう言って爽やかに微笑んだ。


なんと、ロギスさんのお店でしたか。なるほど、ならおれの名前も分かるのか……な?


「すみません、先ほど商談相手の店の規模を聞かれたのですが、相手のお店の名前が分からなかったのでロギスさんの名前を使ってしまいました。まずかったでしょうか」


「いえ、構いませんよ。というよりも、本人はどんどん使ってほしいと考えております」


 ん、なんだろ、変な方向に話が行きそうだぞ。軌道修正だ。


「それでですね、鞄が欲しいんです」


「はい、だいたいご要望は伺いました。たぶん、ランタナ様とのご商談ですね」


 すごい、お見通しだ!


「よく分かりますね。その通りです」


「商人にとっても、情報は宝ですからね。さて、それでしたら、こちらがお勧めです」


 そう言って、鍵がかかっていた棚から一つの鞄を取り出した。


「冒険者のカナデ様は、装飾の凝った物は似合いません。シンプルで機能重視でありながら一目で逸品(いっぴん)だということが分かる、この鞄がよろしいかと存じます」


 確かに凝った装飾はない、しかし、確かに高価な素材を使った物だということが感じられるシンプルで使いやすそうな鞄だった。


「使い心地を確かめてもいいですか」


「構いません。どうぞお確かめください」


 差し出された鞄を受け取り、さわり心地や重さなどを確かめていると、


(たのしいね)


 あの声が聞こえた。


 間違いない。一級品だ。


「気に入りました。これがいいです」


 しまった、値段を聞かずに買ってしまった……どうしよう。


 ナツメさん仕込みのポーカーフェイスで動揺を抑え込んだ。


「ありがとうございます。お支払いはいかがなさいますか」


「樹魔硬貨の持ち合わせがないんです。古い金貨なんですが使えますか。駄目なら銀行で両替してきます」


 入り口の町では樹魔硬貨を使うが、他の国では、金貨や銀貨での払いだ。


「金貨を1枚見せていただいてもよろしいでしょうか」


 ポケットに転送した金貨を手渡す。


 つくも(猫)に転送技術を伝授してもらった。


 金貨をしばらく観察してから、


「問題ございません。それと、実はオーナーから、カナデ様が来店したときは大幅な割引をするよう申し使っております」


何この素早い対応、もしかしておれがここに来ること予想していたの?


「割引辞退……は無理そうですね。分かりました。それでお願いします」


マティオさんの無言の圧力を感じ、抵抗は無駄だとあきらめました。


 割引後の値段は……金貨20枚。日本円で約200万円でした。ホントの値段はいくらなのか気になるけど、聞けませんでした。そして、あの古い金貨の価値はディスポロ商業公国の金貨の価値とほぼ同じということでした。


 私以外は収納も取り出しもできなくなる、本人認証の手続きをして、正式に私の物となった。


 うん、姉の言ったことは正解だ。何というか、自信のようなものが湧いてくる。


 いったん住宅に帰り、言われた数の世界樹の実を買ったばかりの鞄に転送する。


 それを持って、指定された時間よりも少し早めにカルミア様の邸宅に向かった。




 玄関に、見慣れた紅色の樹魔(じゅま)車両が止まっていた。


 そして、その近くに、先ほどあったランタナさんがいた……が、ちょっと、雰囲気が違う。髪の毛の色も、紫が濃くなっているような……。


「ランタナさんさん、こんばんは。先ほどは、アドバイスありがとう……ございました?」


 振り返ったランタナさんの右頬に、モミジマークがついている。つまり、手形だ。誰かに叩かれたのだろうか。


「おまえは誰だ、なぜ、ここにいる」


「ん……」


「えーと、カナデですが、会場で会いましたよね」


「俺はおまえとなんか会っていない。それよりも、きさまがカナデか。よくもサクラのことをたぶらかしたな」


「ハイ……」


「いいか、サクラは誰にもやらん。おまえはとっととサクラのパートナーを辞退しろ」


「……」


 もう、何が何だか……。


 その時、


「ランダナ兄さん、左頬にも右頬と同じ手形をつけましょうか」


 サクラさんが激おこで登場した。


「サクラ、こんなやつは、とっとと排除しなさい。サクラには、この兄がいればいいんだよ」


「パーン」


 小気味いい音が、屋敷の玄関先に鳴り響いた。


「ぐぅぉー、なんて気持ちがいい、痛みなんだ」


 そう言って、左頬を押さえて転げ回るランタナさん?


「カナデさん。お見苦しいところを見せてしまいました。これが、私の2番目の兄、ランダナです。そして、多分、カナデさんが会場であったのが、やはり2番目の兄のランタナです」


 ん、ランタナとランダナ、「た」と「だ」が違うのですか。


「兄は、1人の中に2人の兄がいるんです」


 おー、二重人格だ。


「何ですか、騒がしい」


 サクラ母、ビオラ様の登場です。


「母様、駄目兄の方が出ています」


「まあ、それはちょと面倒ね。入れ替わってもらいましょう」


 ん、入れ替わる?


 ビオラ様が「パチン」と指を鳴らすと、


「ふー、すまん。油断をした。サクラが目の前にいると、どうしてもこいつが出てきてしまう」


 ランタナ兄様のご光臨(こうりん)です。


「カナデ君。よく来たね。さあ、商談だ」


 ランタナさんは、そう言うと屋敷の中に入ってしまった。


 サクラさんに「どうぞ」と案内され、小部屋の中に入ると、そこにはカルミア様も座って待っていた。


「カナデ君、早速で悪いが、現物を見せてくれ」


「わかりました。これです」


 さっき購入したばかりの鞄から、コバルトブルーの実を一つ取り出して渡した。


 ランタナさんさんが手袋をして、慎重に実の観察をする。


「うん、間違いない。これは、『特異次空(とくいじくう)』から出てきた実だね」


 ああ、空間から湧き出てくるのをそう言うんだ。


「その言葉は知らないですが、空間から湧き出てきた実です」


「うん、その空間のことを『特異次空』と呼んでいるんだよ。ということは、『大樹の杜人(もりびと)』と会うことができたんだね。里の中にも案内してもらえたようでよかったよ」


 カルミア様が、嬉しそうにそう言った。


 いや、『瞬間自動神装(しんそう)結界』がなければ死んでましたよ。多分……。


 カルミア様は、きっとサルーサ様から試験の内容を聞いてなかったんだろう。全く、神獣はみんな『ほうれんそう』ができないようだ。


「はい、ネポスさんとプリズさんに合いました。そして、名前をもらいました」


「どんな名前をもらったんだい」


 カルミア様がめずらしく身を乗り出した。


「『カナリズマ・デ・トゥーラ』です」


「なるほど、『学者の子守歌』か。うん、君にぴったりだ。良い名前をもらったね」


 カルミア様が、すごく喜んでいる。


「それから、これを預かりました」


 そう言って、携帯型次元箱から『世界樹の横笛』を取り出し、テーブルに置いた。


 これには、さすがのカルミア様も少し驚いたようだ。


「カナデ君は、この笛の音が出せるのかい」


「いえ、まだ試していません。吹いたら何が起こるのかわからないので、カルミア様に聞いてからにしようと思っていました」


「そうか、わかった。ちょっと考えるから吹くのは待っていてくれ」


 カルミア様は、そう言うと、そそくさと部屋を出て行ってしまった。 




 部屋に残ったランタナさんと、値段の交渉に入った。


「いいかい、カナデ君。物にはその物が持つ正当な価値があるんだよ。なので、その価値にあった高値で売ることが大事なんだよ」


「はい、わかりました。次からはそうします」


「うん、でも、口止め料での値引きという発想はおもしろい。ロギスもきっと、びっくりしたと思うよ」


 ランタナさんは愉快そうに笑った。それから、私の鞄を見て、


「いい鞄だ、大事にしなさい」


 そう言って、満足そうにうなずいた。


 姉よ、ありがとう。安物を買っていたら恥ずかしい思いをしたかも知れない。




ランタナさんから、今後注意することを教えてもらった。


「商人に売るときは、一度に3個までだ。でも、今年はもう売っては駄目だよ。私とロギスで上限だ」


「この実にはどんな効能があるんですか」


「まず、保存ができる。10年は大丈夫だ。それから、かなり進んだものでなければ、病気も回復する。保存食としても最高だ。1つ食べれば20日は何も食べなくても問題なく動ける」


 なるほど、みんなが欲しがるわけだ。


「でだ、この『特異次空』から出てきた実は、通常の3倍の効果がある」


 え、マジですか。


「そう、だから値段も3倍だ」


 そう言って、ランタナさんは、自身の鞄型次元箱から金貨が入った袋を3つ取り出した。


「1つの袋に金貨が50枚入っている。通常価格の5つ分の値段だ。そして、3倍だから3つだよ。受け取りなさい」


「樹貨金貨じゃないんですが……」


「カナデ君は、これからこの町の外に出ていくことになる。金貨はたくさん持っていたほうがいいんだよ。お金は、あれば便利だよ」


 そう言って、ランタナさんは優しく微笑んだ。


 金貨はありがたくいただくことにした。次元箱に入れるふりをして、アイテムボックスへそっと送った。

 

 青50個の値段は、2倍になった。一千万なので金貨100枚だ。


 つくも(猫)が見つけた金貨も鞄購入で使ったが、まだまだ残っている。金貨がいっぱいだ。ホクホク。




 夕食会は、穏やかに進んだ。話題はやはり、『大樹の杜人』の事になった。また、みんなが「カナリズマ君」と呼ぶので、恥ずかしかった。


 つくも(猫)は、通常運転だ。猫は一日16時間ぐらい寝るとのこと。つくも(猫)もよく寝ている。


 夕食会が終わると、カルミア様は、またどこかに出かけたようだ。大陸の象徴はいろいろと忙しいのだろう。





次話は明日7時10分投稿

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