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052 実の競売

 



 ここは、冒険者ギルドの野外訓練場だ。広さは野球場ぐらいある。


 綿まつりが行われたのが昨日、今日は、ここでその実の販売が行われる。


 その実を買い付けるために、各国から商人達がたくさん集まってきている。


 入り口町で活動している案内人は300人程いる。そして、樹魔車両は、だいたい200台ぐらいだ。


 一方、冒険者は、E級を含めれば1000人ほどが常時滞在しているので、冒険者に対して、樹魔車両の数が圧倒的に足りない。


 なので、綿まつりの日に、他国で活動している冒険者の参加は極めて難しいのだ。


 つまり、商売人達は入り口町の冒険者から実を購入するしかないのだ。







「この日だけは、俺たちが主役だから気持ちがいいぜ」


 イグニスが上機嫌だ。それもそのはず。今回の実の獲得順位がトップ3に入ったからだ。


 しかも、単独パーティーとしてなら、ダントツのトップだ。


 今日は、一番いい場所で競売ができるのだ。


「質も期待できるわよ。何しろ全く邪魔が入らずに収穫できた実もたくさんあるからね……」


 マーレさんの言葉は、最後の方は感情がこもっていない。


「この冬は豪遊できる」


 クエバさんが「くくく」と笑う。


「ボク、いろいろ質問されて恐ろしいです」


 リーウスが震えている。




 会場に着くと、商人達がたくさん並んでいた。ここに並んでいるのは、個人で商売をしている人たちだ。


 単独パーテーの冒険者や低ランクの冒険者達と商談をすることになる。「もう少し色つけて」「これがギリですー」というやりとりの商談だ。


 大きな商店は、この人達よりも先に商談を済ませてしまう。トップ3に入った風の森パーティーも、この大商人達と商談をすることになる。


 商談場所に指定されている天幕の中に入ると、


「お待ちしてました。風の森パーティーのみなさん。今回一番初めに商談をする権利を得たディスポロ商業公国のロギス・シアンテと申します。ロギスとお呼びください」


 一目見て、この人は切れる。そんな雰囲気を(まと)った男が、用意された椅子の近くで立ったまま待っていた。


「すみません。遅れましたか」


 イグニスが焦ってそう言うと、


「いえ、約束の時間30分前です。私共が早く着きすぎただけです」


 ロギスは風の森パーティーのメンバーに椅子を進め、自分も座ると、いきなりこう提案してきた。


「今回、私共は、風の森パーティーのみなさんが集めた実を、そちらの言い値で全て、買い取る準備が整っています」


「……」


 固まるイグニス達。


「あのー、実の状態を確認しなくていいんですか」


 マーレさんが、恐る恐る聞くと、


「ベニザクラ号が関わっている案件です。それだけで、ほぼ全てが一級品であることを確信しています」


「正解、この人わかっている」


 クエバさんが、どや顔だ。


「言い値って言われても、相場がよく分からないです」


 リーウスは素直だ。でも、気をつけないと足下を見られるぞ。


「昨年の価格表です。今年も、風の森パーティーのみなさんが私共の他にその実を流さない限り、このままの価格で取引されるでしょう」


 そう言って、ロギスさんが1枚の価格表をリーウスに渡した。


「黄緑、緑、1㎏1万」

「青緑、1個1万」

「青、1個10万」

「コバルトブルー、1個100万」

「その他の実、1㎏1000」


 イグニスがそれを読み上げた。


 へぇー、コバルトブルーの実が1個100万かあ、確か、アイテムボックスの中に300個ほど入っているから、全部でえーとゼロが6個と2個で3億だ。


 うわー、やっぱり出店しないで正解だな。コバルトブルーの実の値段が暴落するとこだったよ。


「すげえな、この金額でそっちに損はないのか」


 イグニスの口調が元に戻った。うん、その方がイグニスらしい。


「ございませんね。この価格で十分利益が出ます」


「私達の実が、他に出るとどうなるの」


 マーレさんが、尋ねると、


「他の冒険者達の実の価値が、これよりかなり安くなってしまいます」


 静かにそう答え、なぜか私を見つめていた。




 商談は、直ぐに終わった。風の森パーティーも、他の冒険者達に迷惑を掛けたくない。それに、この人は信用できる。そう思ったからだ。


 金額は、すごいことになった。


「では、こちらが最終的な金額になります。お確かめください」


 換金表を受け取ったイグニスが読み上げた。


「黄緑、緑、30㎏×10000=30万」

「青緑、80個×10000=80万」

「青、150個×100000=1500万」

「合計 1610万」


 読み上げたまま固まるイグニス。


「一千六百十万んんんー 信じられないっす 」


 リーウスは、そう叫んで泡を吹いて倒れた。


「違うって、続きがあるのよ」


 マーレさんが、直立で固まっているイグニスから換金表を奪い取り、続きを読む。


「尚、これらの金額は、通常価格での計算である。出品された実の品質は、傷が一切なく、魔素の劣化も認められないことから、最高級の世界樹の実であることが鑑定の結果で証明されている」


「よって、……」 


 ここで、マーレさんが固まった。


 クエバさんが、マーレさんから換金表を奪い取り、続きを読む。


「よって、この金額の倍の値段で買い取らせていただきます」


「超豪遊決定、ブイ」


 クエバさんがVサインを出した。


 風の森パーティーの3人が固まって動かないので、クエバさんが、了承の意を示し、売買契約が成立した。


 3220万のお金は、その日の内に風の森パーティーの銀行口座に振り込まれることになった。樹魔硬貨や金貨でも取引はできるが、大金の持ち運びを嫌がったクエバさんが即決した。


 クエバさんにお尻を蹴飛ばされながら、イグニスが、フラフラと帰って行った。




 さて、おもしろい物も見られたし、帰るとするかと、椅子から立ち上がった時に、


「カナデ様、ちょっとお話をさせていただいてもよろしいでしょうか」


 ロギスさんが、そう言葉を掛けてきた。


「お願いがございます。カナデ様が持っていらっしゃる、特別な実を3つだけ、分けていただけないでしょうか」


 特別な実は、きっと、コバルトブルーの実のことだろう。そう見当をつけて、


「私がその実を持っていると、どうして思ったのですか」


 と、尋ねてみた。


「商人の直感でございます。カナデ様の言動を観察してそう確信しました」


 本当に切れる人だ。そして、誠実だ。


「わかりました。値段は通常価格でいいです。ただ、1つお願いがあります」


 私がそう言うと、なぜか期待する顔で、


「どんなお願いでしょうか」


 と、ワクワクしながら聞いてきた。


「風の森パーティーをAランクにする推薦人になってくれませんか」


 期待していたこことちょっと違ったのか、少し残念そうな顔をしたが、直ぐに切り替えて、


「そんなことでよろしいのでしたら、もちろんお約束いたします」


 私は、携帯型次元箱から出すふりをして、コバルトブルーの実を3つアイテムボックスから取り出し、手渡した。


「……まるで、空中に浮いたままの実を手も触れずに収穫したという感じの見事な実です」


 しれっと、真実をついてきた。本当に油断がならない人のようだ。


「本当に、通常価格でよろしいのですか。この実ならば、3倍出しても惜しくないのですが……」


 ロギスさんが、申し訳なさそうにそうつぶやいているので、


「この実の出所を話さない。と言う口止め料で割引ですよ」


 そう、言うと、


「あはははは、わかりました。本当に、あなたはおもしろい人だ」


 ロギスさんは、初めて、素が出た表情で笑った。


 帰り際に、ディスポロ商業公国に来たときには、是非、お店に立ち寄ってくださいと、何かのカードを渡された。


「これは何のカードですか」


「私のお店の特別会員証です。尋ねてきたときに、受付で提示してください」


 そう言って、立ち去っていった。




 では、こんどこそ、と天幕の外に出ると、そこには、風の森パーティーとの商談ができなかった商人達が不満顔で立っていた。


「ちょっと、いいか」


 そう、声を掛けてくる無駄に太った商人。


「離れてください。カナデさんは風の森パーティーのメンバーではありません。商談はできません」


 警備の人に止められた。そして、警備の人に促されるままにその場を去る。


「ふん、若造が調子にのりおって」


「まったくだ、ただのC級のくせに」


「何でカナデ様は、出店リストに載っていないんだ」


「ああ、しかたない、今回は諦めだ」


 などなど、様々な反応が強化した耳に届いた。


「あの人達が一番でなくて本当によかったよ」


 つい、本音が声に出てしまった。




「そうですね。本当にその通りです。嘆かわしい」


 後ろで、声がした。びっくりして、ちょっと前へ出る。接近に気がつかなかった。


「ああ、カナデ君だよね。びっくりさせたね。すまないね」


 その人は、薄い紫色の髪の毛を持ち、耳の形に特徴がある男性だった。


「私はランタナというエルフだよ。サクラの2番目の兄と言った方がわかりやすいかな」


 え、サクラさんのお兄さん。




 ここに来る前に、サクラさんがすごく申し訳なさそうに私にこう言った、


「すみません。2番目の兄がその会場にいると思います。御迷惑をかけるかも知れません」


 それよりも前に、何かの話しのついでに聞いたことがある。


「サクラさんのもう1人のお兄さんて、どんな人なんですか」


「……変人です」


「……姉と比べてどちらが……」


「間違いなく、その兄の方です」


 そんな会話をしたのを思いだした。




「サクラさんの、お兄さんでしたか。会場にはいるだろうと、サクラさんから聞いていました。カナデです。よろしくお願いします」


 ん、なんか、普通っぽいけど……。


「カナデ君。ちょっと、お話してもいいかな。ここでは何だから、ギルドの会議室にいこう」


 サクラ兄はキョロキョロしながらそう言うと、そそくさと歩きだした。


 その後を私もついて行く。


 会議室に着くと、椅子に座るよう勧められた。そして、自分も座ると、直ぐに要件を切り出した。


「今回、カナデ君が出店しなかったのは、実の価格が値崩れしないためだろ」


 う、鋭い。今日はこんな人ばっかりなのかな。


「はい、そうです。よく分かりましたね」


「うん、良い判断だ。カナデ君は商売人にもなれそうだね。でだ、ここでお願いがある。カナデ君が持っている実を少し分けてくれないか」


「もちろんかまいませんが、大丈夫なんですか。抜け駆けとかにならないんですか」


「カナデ君が出店していればそうなるね」


 はい、確信犯ですね。


「わかりました。どれぐらい必要ですか」


「うん、話が早くてありがたい。青い実が50個、コバルトブルーが5個だよ」


 今、私のアイテムボックスの中には、最高品質の青が500個ほど入っている。


 まるで、私の在庫を正確に知っていて、このぐらいなら困らないだろうと言うような注文だった。


「わかりました。少しなら今出せますが」


「いや、父の邸宅でお願いするよ。今夜食事に来いって母から言われているだろ」


「わかりました。ではその時に」


 そう言って、私が立ち上がろうとすると、


「ロギスを、どう思ったかい」


と、突然聞いてきた。


「ロギスさんですか。ディスポロ商業公国の商人さんですよね」


 ランタナさんがうなずく。


「誠実で、切れ者……ですかね。それも、ちょっと怖くなるぐらいに……」


「うん、いい目をしている。その通りだよ。彼は、信頼できる男だ。困ったことがあったら頼りなさい」


「……はい。ありがとうございます」


 今度こそ、私は部屋を出た。


 うーん、普通どころか、しっかりした、すごくいい人だぞ。どうなっているんだ。


サクラさんが冗談を言うはずがない。もしかしたら人違いなのではないだろうか。


 まあいい、夜また会うのだから、その時に見極めればいいことだ。


 悩んでいても仕方がない。そう気持ちを切り替えて、偽装(ぎそう)に使うカバン型の次元箱を購入しに、魔道具専門店に向かうことにした。





次話は明日7時10分投稿

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