049 綿まつり
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「C級魔物がみんな森の奥に向かっています」
「穴叩きが集団で2層に向かっています」
「間違いないな、明日の朝、綿が降る」
「よし、今年の綿まつりが始まることを関係各所に知らせろ」
綿まつり監視官のその指示で、E級案内人達が賢魔鳥に乗って散っていった。伝令は彼らが適任だ。
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しばらく、ダンジョン勝負の事で騒がしかった入り口の町も、綿まつりが近づくにつれ、その話題で盛り上がりを見せ始めた。
「やっと、落ち着いてきたよ。ホントに貴族ってしつこいよな」
ベニザクラ号の中で、私が伸びをしながら愚痴をこぼすと、
「そりゃーそうだよ。おまえを取り込めって上から命令されれば、必死にもなるさ」
腕組みをしながらこちらを見て、「諦めろ」と諭すイグニス。
「でも、この町にいるから冷たくあしらっても文句を言わないけど、町の外では権力を盾に脅してくるわよ」
マーレさんがその横で顔をしかめる。
「貴族も、一匹いたら百匹系、姉様に頼んで駆除してもらおう」
クエバさんが真顔でそう言いい、リーウスをチラリと見る。
「はい、もう使い方を間違えません。ボクに任せてください」
リーウスが「振動波発生装置」の制御盤を持ち出した。
いや、それは十分使い方が間違っているだろ。
「振動波発生装置」は、そのままベニザクラ号の標準装備になった。強力な魔物相手なら、十分兵器になるからだ。
「みなさん、そろそろスタート地点ですよ。準備をしてください」
サクラさん声が御者台から聞こえたので、そそくさと風の森パーティーのメンバー達はそれぞれの装備を調え始めた。
C級からの冒険者は、自分専用の次元箱を購入することができる。値段は手頃なところからとてつもなく高価な物までと様々だ。
Bランクの冒険者ともなれば、本人認証機能が付いたかなり高価な物を購入する。なぜなら、装備に使う武器なども、貴重な素材を使った命を預けられる逸品になるので盗難防止にも気を配ることになる。
また、それらの荷物は樹魔車両の中に置いておくことにもなるので、よからぬ事を考える者達への牽制にもなる。
私の場合は、アイテムボックスがあるので、次元箱は飾りだ。盗られても、中身はカモフラージュに入れている安物ばかりなので実害はない。
そんなお飾りの次元箱から、拳を守るグローブを出す。実際は、神装結界で覆うので、これもお飾りなのだが……。
「スタートは、3層からなんですね」
グローブをはめながらイグニスに話しかける。
「ああ、1層、2層は低ランクの冒険者専用になっている」
次元箱から、いろいろな剣を出して状態を確かめながら答える、
「高ランクの魔物達も、より魔素が濃い実を求めて奥の層に行っているから危険も少ないのよ」
その横で、イグニスがどんな剣を選ぶのかを見守るマーレさんがそう教えてくれた。彼女はイグニスのサポート役だ。イグニスがいない時は、彼女がリーダーになる。
暗器なのだろう、小さな刃物をいろいろな場所に隠しながら、
「今日だけは、魔物も俺たちを相手になんかしませんよ。より多くの実を食べるために必死なんです」
リーウスがにやりとする。
「今日だけは、うじゃうじゃも出てこない。なぜなら、森が魔物だらで踏み潰されるから……ちっ」
クエバさんだけは、ぶれない。
「綿の実って、人間も食べられるのかなー」
私がつぶやくと、
「食べられるわよ。町の中にもたくさん飛んで行くわ。だから、子ども達が追いかけて捕まえるのよ。地面に落ちる前に捕まえれば、綿のお菓子よ。甘くて美味しいの」
サクラさんが、御者台からやってきた。打合せをするためだ。
「ああ、町の人たちも、この綿のお菓子を食べると冬を健康に過ごせるんだ」
イグニスがそう教えてくれた。
町にも雪のように降るので、誰でも簡単に捕まえられる。そして、地面に落ちると雪のように消えてしまう。
きっと、魔素の雪なんだろう。そうやって、1年に1度、地面に魔素を届けるんだろうな。私にはそう感じた。
「それでだ、森の中は穏やかじゃねえぞ、戦場だ。魔物対人間、魔物対魔物、人間対人間、全てが敵だ」
イグニスの表情が真面目になった。
「森の中の実は、綿になる前の実だ。大きさは拳ぐらいだ。そして、なぜか空中にいる間はふわふわ浮きながら飛んでいる」
マーレが続く、
「ええ、浮きながら1層に向かっていくの。1層につくと、はじけて綿になるわ」
クエバが続く、
「実は深度が深いほど青い。8層では真っ青、7層で青緑、6層で緑色、5層で黄緑、4層で黄色。そして、3層では橙色で2層で真っ赤になる」
「ああ、8層深部だと、コバルトブルーの実もあるらしいが、俺は見たことがない。まあ、いつかは手に入れるがな」
最後は、イグニスがかっこよくしめた。
「おれらの大事な収入源なんです」
リーウスがそれをぶち壊した。
イグニスに殴られて「痛いですよ」と涙目で抗議するリーウス。
「まあ、ぶっちゃけそうなんだ。ここで稼いでおかないと、どのパーティーも、この冬が越せない」
イグニスがそう白状すると、マーレさんも、
「そうなのよ、だから、案内人が見つからなくて、本当に困っていたのよ。本当にありがとね。サクラちゃん、カナデ君」
といって、手を合わされた。
「感謝」
クエバさんも手を合わせた。
まあ、案内人が見つからなかったのは、ラウネンの悪巧みだったんだけど、それは黙っておこう。
「でも、風の森パーティーのみなさんは、『残り物には福がある』ですよ。このベニザクラ号なら、今日なら8層の近くまで行けるかも知れませんよ。魔物も襲ってきませんし……(ねこちゃんもいますからね)」
サクラさんがそう言うと、風の森パーティーの顔が冒険者にもどった。
「8層、マジか」
「うん、確かにそうね」
「勝利」
「おれ、頑張ります。冬越しのために」
「スタート時間は、6時頃ね。朝日と共に実が舞い始めるはずよ」
「サクラ嬢ちゃん、一気に行くだろ、7層へ」
「もちろんよ。6層までは風の道で突っ切るわ。そこで戦闘型よ……。シンティ、いい加減起きなさい」
サクラさんがソファーで爆睡しているシンティを揺り起こす。
今日は、みなさん朝3時起きなのだ。
「ふわー、もう着いたの。さすが、サクラの風の道ね」
「そろそろスタートよ。6層で戦闘型になるわ。白は任せたわよ」
「ええ、任せて、こっちのサポートは本当にカナデでいいの」
「ええ、私には、ねこちゃんがついててくれるから全く心配はないわ」
そんなやりとりを「何で猫が……」と不思議そうに見つめる風の森パーティーのメンバー達。
「作戦の最終確認だ。紅と白が50メートル位離れて先行する。その間を俺たちパーティーが進む。そして、俺たちに近づき獲物を横取りしようとする奴らを。紅と白が触手で排除する。でいいな」
「ああ、それでいい」
「様子をみて、カナデも実の確保に動くでいいな」
「ああ、初めてだからしばらく戦力にならないぞ。たぶん」
「はは、そこは全く心配してないさ。直ぐに俺たちよりもうまくなるからな」
本当に何だろう。この信頼感は……。
「世界樹の枝」
ベニザクラ『白銀』が、静かに浮いた。
朝日が昇った。それと同時に、いつからそこにあったの……と言うタイミングで、橙色の実が無数、本当に空が橙色になるぐらい、浮かんでいた。
「すげえー」
初めて見る景色に見とれていると、突然、橙色が線になって後ろにすっ飛んで行った。
ベニザクラ号が、いきなりのハイスピードで飛び出したのだ。
同じように、数十メートル上を飛んで行く樹魔車両が複数台見える。A級B級の樹魔車両だ。スタートの技術は互角だ。
ベニザクラ号は、どんどん上昇していく。
大樹の森に速度制限も高度制限もない。樹魔車両の性能と案内人の実力が全ての世界だ。
相手の御者台が見えた、どんどん上昇していくベニザクラ号をチラチラと気にしながら他の樹魔車両の様子も伺っている。余裕があるところを見るとA級なのだろう。
サクラさんは、まっすぐ前を見たまま、周りを気にする様子はない。そのまま、一番上まで上昇すると、加護の力が膨れ上がった。
薄い紅色の風の道が一気に数キロメートル先まで伸びていく。渦の回転速度も上がっているように感じる。
あ、これ、ナツメさんと同じだ!
私がそう思った時に、ベニザクラ号は一気に他の樹魔車両達を豆粒にした。
加速するじゃないんだよな、どう表現したらいいのかなこの感覚。発進と同時にトップスピードになっている。そんな状態……?
重力が無効化された真空の中を進んでいる。宇宙空間みたいな感じなのかな。
追従する樹魔車両は一台もない、圧倒的なトップで6層入り口に到着した。
「紅、白、戦闘型よ」
ここからは、時間との勝負だ。
だいたい、午前中で全ての決着がつくようだ。午後は、強い魔物達が満腹で動けなくなっている隙に、弱い魔物達がお零れをいただくことになる。
もちろん、実力がない冒険者達もこのお零れの仲間だ。なので、B級以上の冒険者は、午前中が勝負だ。
作戦通りの布陣で6層を深部めがけて私達は進み始めた。
「くそ、てめえ、それは俺のもんだ」
イグニスが,猿型魔物「お調子者」と獲物を取り合っている。数では「お調子者」の方が多いので苦戦している。
「火の玉」
マーレさんの火魔法が炸裂する。お調子者も魔物だ。火には本能で避けてしまう。その隙に、周りに浮いている青緑に近い色を選んで高速で手を動かすイグニス。
「マーレありがと。ここは終わりだ」
イグニスとマーレが移動を始めた。
「すまん、数が多くて防ぎきれなかった」
私が謝罪する。
「いや、いつもに比べたら半分以下だ。さすがはカナデだ」
イグニスがニカッとして手をあげる。
「リーウスがすごい。私の出番がない」
クエバが頬を膨らませている。
「隠密行動はあいつの十八番だろ。しょうがないだろ」
イグニスが慰めている。
ベニザクラ号は、6層深部に入り込んでいた。普段なら、強い魔物達の領域だ。
「白って本当に優秀だわ。触手で敵を排除しながら、実も集めているわよ」
シンティが、あきれている。だいぶ余裕が出てきたようだ。
「よし、このまま7層に行くぞ。実の色はできる限り青を狙え。他の色は大体必要数が確保できたからな、ここからは、高く売れるのを優先だ」
イグニスが他のメンバーに指示を出す。それから、私の方を見た。
「カナデ、ここから先の深層は、俺たちではちょっときつくなりそうだ。おまえの役割はここまでだ。ありがとな。後は自由にしろ」
そう言って、親指を立てた。
サクラさんが、紅で近づいてきた。
「カナデさん。ねこちゃんが白と合流しろって、そして、カナデさんが8層へ行けだって」
ん、8層に何かあるのかな?
「わかった。なら、つくも(猫)も行くんだね」
「うん、もう行っちゃた。9層に行ってくるって」
マジですかー。まあ、つくも(猫)なら心配ないけどね。
紅と白が10メートル程の間隔で並んで進み出す。その間に、風の森パーティーがいる。そして、彼らがいる場所に入ってこられる魔物はいなくなった。
近づけば、全て触手で排除されてしまうからだ。
「なあ、マーレ。おれ、りんごを摘むみたいに実が採れてるんだけど、気のせいかな」
「気のせいじゃないわ、私もそうだから」
「右に同じ」
「ボクもです……」
これなら心配なさそうだ。
サクラさんに、危険が迫ったら歩行型になってベニザクラ号の中で待っているように伝える。この大陸で一番安全な場所だからだ。
「よし、俺も暴れてくるか」
そう言って、神装力第三権限の力を解放した。
普段はめったに見ない、鹿型魔物『角あり』が、お得意の魔法攻撃をして、他の魔物達を分散させている。
角ありは、群れを作って行動し、その中に幼体と思われる個体が確認されている。なので、子育てをする魔物ではないかと考えられている。
「うわつ、容赦ないな。お調子者達がみんな氷漬けになってるよ。白い角のやつが氷魔法の使い手だったよな。うん、近づかないようにしよう」
角ありたちの集団を避けることにした。魔法を使う魔物を相手にするのは面倒だからだ。
よし、7層の青は、だいぶ確保できたな。
面倒なので、「神装結界」で気配を消してひょいひょい青い実の確保に努めた。
「さて、8層に行ってみますか。あいつ(まだら)には、まだ会いたくないけどね」
フンと、地面を蹴り、風になる。
次話は明日7時10分投稿




