047 決着
ここは、冒険者ギルドの野外訓練場である。広さは野球場ぐらいだ。
私とイローニャのダンジョン勝負の決着は、ここで行われることになった。
訓練場の真ん中には、仮説のステージがすでに用意されている。
本来ならホールで行う予定だった、しかし、会場を変えざるをえなくなった。
それはなぜか、
「うおー、カナデ、絶対におまえの勝ちだ。おれは、ここ1ヶ月の稼ぎを全部おまえに賭けたぞ」
「カナデさん、いつも我々に力を貸してくれてありがとうございます。カナデさんの勝ちを信じています」
「カナデー、ねこを俺に譲ってくれー」
このうるさい冒険者達が、わんさか押しかけたからだ。そして、それだけではない。
「これで、やっと、正式なサクラシア様のパートナーが決まるわけですな」
「あの国も、ここでイローニャが負けても、さすがにもうごねることはできないでしょう」
「この町での実績を考えると、まあ、カナデ君の勝ちでしょうな」
「いや、帝国もなりふり構わず妨害していましたからな、分かりませんぞ」
「まあ、どちらになっても、決まり次第、直ぐに本国に知らせないと」
「ただ、もし、イローニャが勝ったら、だいぶ困ったことになるかも知れませんぞ」
「これから、いろいろ騒がしくなりそうですな」
どこから現れたのか、冒険者ではない文官と思われる男達、目つきの悪い男達、偉そうな奴らがどんどんわいている。
「これはこれは、好都合ですな。これだけの証人がいれば、さすがの大陸の象徴も、我が国のイローニャが正式なサクラシア様のパートナーであることを認めざるをえませんな」
ストラミア帝国の魔動機関技師、グライヒグがほくそ笑む。もう、勝ちを確信している顔だ。
その横には、顔色が悪いイローニャが立っている。
先ほど発動させた『真色眼』で、敵がどのぐらい潜んでいるかは確認済みだ。
至る所に数人ずつ塊を作って散らばっている。不都合なことがあれば暴れさせて、うやむやにするためだろう。
本当にどこまで用心深いんだ。
「そ、それでは、ダンジョン勝負の結果を発表して行きます」
3人の見届け人さん、なんかすごく緊張しているけど、大丈夫かな。
「勝負は、時間、数、質で争われました」
ん、黒板が出てきたぞ。なんか、いろいろなところで使われだしたな。
見届け人の1人が、「時間」「数」「質」と書き込み、下に私とイローニャの名前を書いて表にした。
「では、1番目の勝負は時間です」
「イローニャさんからです」
「ダンジョンに入ったのが、午前8時40分です。出てきたのが午後4時5分です」
「ダンジョンにいた時間は、8時間45分になります」
見届け人の1人が、黒板に時間を書き入れた。
「次、カナデさんです」
「ダンジョンに入ったのが、午前9時ちょうどです。出てきたのが、午後2時ちょうどです」
「ダンジョンにいた時間は、5時間ちょうどになります」
ここで、拍手と歓声が上がる。
「お静かにお願いします」
シーンとなる。この町の冒険者は素直だ。
「時間勝負は、カナデさんの勝利です」
「うおー。よくやった」
「カナデ、いいぞー」
再び騒がしくなる。
そこに、次元箱が封印された箱が準備されたテーブルの上に運び込まれた。
そして、3人の魔石鑑定士も一緒に現れた。なんと、わざわざエレウレーシス連合王国から来たらしい。
ラウネン何やってるの。
「2番目の勝負は魔石の数です」
「この次元箱には、カウンターがついています」
「入れた魔石の数が、数字で出ています」
「では、イローニャさんからです」
イローニャが、ステージに上がり、自分のギルドカードを取り出した。
「では、封印を解きます」
4人がカードをかざすと、ほのかに光っていた光が消え、箱の側面が四方に開いた。
見届け人の1人が、回収箱に浮かび上がっている数字の確認をする。
「イローニャさんの魔石の数は、723個です」
どよめきが起こる。
「すげー。1日でその数かー。俺には絶対無理だー」
「あほ、誰だって1人じゃ無理だろ。B級の4人パーティーでも3日は必要だ」
「だな、そういえば、あのダンジョン4日ぐらい、入り口で通せんぼされて、入れない冒険者がいたって言ってたな」
「おい、それって、ずるしたんじゃねえの」
「ずるだー」「卑怯者ー」
さまざまなヤジが出はじめた。
「お静かにお願いします」
「シーン」
……この町の冒険者は素直だ。
「次は、カナデさんです」
私は、ゆっくりとステージに上がった。
グライヒグと目が合った。あざ笑うような冷たい目だった。
イローニャとも目が合った。やりきれない、そんな目だった。
カードをかざし、封印を解除する。
見届け人が、数の確認をした。
「カナデさんの魔石の数は、54個です」
「数の勝負は、イローニャさんの勝ちです」
シーンとなる会場。
「パンパンパン」と乾いた拍手の音がした。グライヒグだ。その顔は、勝利を確信した表情だった。
イローニャは、ものすごくびっくりした顔をしている。
そうだろう、何もしないで帰って行った。そう妨害者達からは説明されているはずだ。
「最後は、質です」
「大陸公認の魔石鑑定士が鑑定し、換金された金額をこの用紙に書いて封をしてもらいます」
「私がこの場で封を開けて、金額を読み上げます」
「しばらく時間がかかりますので、お待ちください」
会場に重たい空気が流れている。誰もが、カナデの負けを予感していたからだ。
「おい、なにしけたつらしてるんだ」
イグニスが、周りの冒険者達を叱責していた。
「そうよ、魔石は数じゃないわよ、質よ」
マーレさんも立ち上がり拳を握る。
「奇跡の魔石、奇跡のカナデ……ククク」
クエバさんが楽しそうに笑う。
「あの魔石、売れば数億ですよ」
シケットがおどける。
「奇跡の魔石……」
「数億……」
「おいおいおい、あの、カナデだぜ」
「見てみろよ、あそこでしれっとしているぞ」
「こりゃ何かあるぞ」
「ああ、あきらめることはないな」
「奇跡のカナデだ」
「おう、奇跡のカナデだ」
「カナデーすまん。ちょっと、あきらめた」
「カナデ」「キセキ」「カナデ」「キセキ」
会場に、コールが湧き上がった。
「うるさいですね。奇跡は起こりません。この私が、完璧な作戦で準備をしたんですよ。あり得ませんね」
グライヒグは、自分がしたことをもう隠そうともしない。いや、自慢している。
「お静かにお願いします」
「シーン」
おい、冒険者、本当にそれでいいのか。子どもより聞き分けがいいぞ。
「鑑定が終わりました。私の元に、2通の封筒が届いています」
「あー、金額の発表の前に、ちょっと説明がある」
1人の白髪の魔石鑑定士が、拡声魔法で会場に語りかけた。
「おい、あれ、魔術学院の学園長じゃないのか」
「ほんとだ、何でここにいるんだ」
「イローニャ冒険者の魔石は、数が多いが、傷、地面接触による魔素量の著しい減少が多くの魔石に認められたので、723個中301個は査定額0だ。これは嘆かわしいぞ」
「くっ、だからいらないと言ったんだ」
「ふん、それがどうした、数は力だ。数の前には奇跡は起こらん」
イローニャの表情がこわばり、グライヒグがふんぞり返る。
「次に、カナデ冒険者じゃが、54個の魔石、全てがブラス査定の最高品質じゃった。すばらしい。見事じゃ」
「うおー、カナデ、やっぱりおまえは最高だー」
再び盛り上がる会場。
大騒ぎの冒険者達に手をあげて静止を求める、静まったのを確認して、話を続ける。
「さらにだ、1体が狂乱状態での霧散なので角付きである。、魔石と一緒にその角も査定金額に反映されていることを伝えておこう」
ここで、いままで余裕の表情を見せていたグライヒグの頬がはじめてピックと動いた。
しばらく考えてから、おもむろにボサボサの髪の毛を掻いた。
合図を待っていた妨害者達が、指示されていた行動を起こそうとした時、なぜか、足下を、尻尾をピンと立てた猫がすり抜けていった。
「ん、なんで猫が…… ぐえー」
妨害者達が覚えていたのはここまでだ。全員、白目をむいてその場に座り込んだ。
「それでは金額を発表します」
「イローニャさん、214万9千5百ペタです」
「カナデさん、なんと、丁度500万ペタです」
「うおーおおおおおおおお」
「すげーぞカナデー」
「何じゃその金額はー」
野外訓練場がビリビリと震えた。
「質の勝負はカナデさんの勝ちです」
「よって、2つ勝利のカナデさんが、ダンジョン勝負の勝者となりましたー」
「やったー」
「勝ったぞー」
「おい、イローニャに賭けてるやついねーぞ。賭けになってねえぞ」
「信じてたぞ、カナデ」
「奇跡のカナデだー」
「おう、奇跡のカナデだー」
「カナデ、カナデ、カナデー」
もう、誰も止められない。大騒ぎだ。
「ふざけるなーあああああああー」
「シーン」
「はあはあはあ、そんな馬鹿な金額がなぜ出る。数は力だぞ」
すげえ、グライヒグ。止めたよ。
「そうじゃなあ、大陸公認の適正金額だから、秘密にする事はないのう、ほれ、これが査定書じゃ」
魔術学院の学園長が1枚の書類を見届け人に渡し、見届け人がそれを読み上げる。
「E、D、C、Bの魔石なし、A最高品質魔石が50個で、275万」
「S、えっSですかぁ、うおほん、S最高品質魔石3個で75万、SS、エスエスーだとー……。おほん、SS最高品質魔石1個で50万……。角、S級魔物の狂乱状態の角が1個で、100万……」
「合計で、丁度500万です」
「……」
「どっひゃああああああああああああー」
全員たまげて、ひっくり返った。
見届け人が査定書を読み上げている間、グライヒグは辺りをキョロキョロと見渡し、落ち着きがない。
「ちっ、あいつらは何をもたもたしている。私が時間を稼いでいる間に早く暴れろ。そして、サクラシア様を確保しろ」
小さくつぶやいた言葉だが、聴力を強化した私にはよく聞こえた。
「ん、サクラシア様、そういえば、サクラシア様をまだ見ていないぞ」
グライヒグが突然大きな声を上げた。
「ん、サクラさんなら、邸宅で俺の祝勝会の準備をしているけど、何か用事でもあるの」
しれっと、そう言うと、
「……貴様はカナデだったな、今回は、貸しにしといてやる。しかし、覚えておけ、貴様は、我が国の敵対者として今後マークされることになるとな」
グライヒグは私をひと睨みし、その場から去って行った。その去り際に、
「その力は危険だ、排除が必要だ……」
と、つぶやきながら。
さて、全部終わったし、ミイラ(グライヒグ)も帰ったし、お腹も減った。帰るとするか。
そう思って、立ち上がると、目の前にイローニャがいた。
その顔は、何か憑き物が落ちたようにスッキリしていた。
「おい、カナデ、やってくれたな。まさか、ここまで徹底的に力の差を見せつけられるとは思っていなかったぞ」
そう言って、自分のギルドカードを渡してきた。
「俺の負けだ、好きにしろ」
「見届け人さん、確か、ダンジョン勝負を受けた方が勝った時は、賭けるものを変更できるルールでしたよね」
「よく知っていますね。その通りです」
「なら、私は、あれがいいです」
没収? した、魔動車を指さした。
「うっ、さすがにそれは、私の一存では決められない」
イローニャが首を振る。
「私が許すわ。持っていっていいわよ」
突然、後ろから女性の声がした。
「初めまして、カナデさん。勝利おめでとう。すごいわね君、S級エリアまで、どうやって移動したの。すごく興味があるわ。ああ、ごめんなさい。自己紹介していなかったわね」
その女性はペロッと舌を出した。
「私は、ストラミア帝国情報機関所属のミラーシです。以後よろしくね」
ん、以後、何それ。それと、情報機関って、それ、スパイって事だよね。ばらしてもいいのかな。
「一応、あれ、最新型だから。機密もあるのよねー。どう、ベニザクラ号の秘密と交換ってのは」
私が黙って、考え込んでいると、女スパイがウインクしながら、しだれかかかってきた。
私は、それをヒョイと避けながら、
「いいですよ。自由に探ってください。でも、樹魔に吹っ飛ばされても文句は言わないでくださいよ」
そう言ってから、
「ああ、そうだ。ミラーシさんでしたっけ、イローニャはどうなるんですか」
ミラーシさんは、ちょっと、真面目な顔になる。
「本国には返さないわ。私の預かりにします」
ミラーシさんはイローニャをチラッと見て、ラウネンの所に行ってしまった。
「私に、貴様と話をする時間を作ってくれるようだな……」
そうつぶやくと、
「なぜだ、カナデ、どうして本気を出した。貴様なら、その力を隠したままでも、余裕で勝てただろう」
「おまえが、この森の冒険者だったからさ」
「……」
「B級の魔物、残してくれただろ」
「ああ、そうか。わかった。そうだな」
そうつぶやいてから、こう言った。
「気をつけろ、おまえのその力は危険だ。グライヒグはそう判断したはずだ。そして、できればサクラシア様を巻き込むな」
ああ、イローニャ、おまえはそう考えられるようになったんだ。なら、おまえは、こちら側にこられるかもしれないな。
「イローニャ、さっきの質問のもうひとつの答えだ」
私はイローニャの目を見据えた。
「俺は、サクラを10層に連れて行く。それが、力を隠さなかった理由だ。おまえはどうする」
そう言って、颯爽と去ることにした……。
「すまん、イローニャ、あの魔動車、どうやって動かすんだ」
「……後で教えてやる」
イローニャは颯爽と去っていった。
次話は本日12時10分投稿




