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005 晩餐会




「カナデ様、ねこちゃん様、食事の用意ができましたので、会場にご案内します」


 ただ者ではないメイドさんが、キラッキラの毛並みをしたつくもをみて、満足そうに微笑んだ。そして、私の服装を見て、約3秒……無言でどこかにすっ飛んでいき、直ぐに3人ほど応援を引き連れ戻ってきた。


 それから持ってきた正装用の服に、あっという間に着替えさせてから、何事もなかったように、


「では、会場にご案内します」


と言って、スタスタ歩きだした。できるメイドさんです。プロですね。


 会場には、すでにカルミア様、ビオラ様、サクラさんが席に座っていた。


 待たせたのかな……。すみません。 


 私は、サクラさんの真向かいに座り,つくもはサクラさんの隣の座席に飛び乗りちょこんと座った。




 普段着ている服は、高次元空間で作られた特別製だ。仕様も、正式な礼服ではないが、今日のような突然のご招待なら失礼にはならないだろうという服らしい。


 それでも心配だったので事前に確かめた。


「カルミア様、ご相談が……実は、私は今着ている服しか持っていないんです。食事の時に失礼にならないでしょうか」


「内々の簡単な食事会だから、大丈夫だよ」


 大丈夫だったんじゃないんですか。カルミア様ーぁ。




 サクラさんは、ドレスを着ていた。ビオラ様も気合いが入っている。カルミア様は……正装だった。チラッと見たら、視線をそらされた。


 食事が出てくるまでの少しの時間、カルミア様が申し訳なさそうに話しかけてきた。


「いやね、私は簡単な食事会にしようと言ったんだけどね。命の恩人に失礼だと2人に押し切られてね。すまん」


 命の恩人だなんて大げさだけど、この世界の人にとってあの場所は危険な森ということだよな、言えないぞ、スローライフしていましたなんて……。


「カナデさんのその服、兄が以前着ていた服ですね。すごくよく似合っています」


 そうか、お兄さんがいるんですね。


「サクラさんもとても似合っています。あの制服も似合っていましたが、この姿もすてきです」


 姉が言っていた、着飾った女性を見たら、必ず褒めなさいと……。


「ふふふ、ありがと」


「ニャッ」


 つくもが、テーブルの上にちょこんと乗って短く泣いた。


「ふふ、ねこちゃんも毛並みが最高よ」


 サクラさんは、できるメイドを見て小さく拳を握りしめた。できるメイドは、(恐縮です)と静かに一礼をしていた。


 サクラさんのドレス姿は、制服とはまた違った大人びた雰囲気だ。やはり貴族令嬢なのかもしれない。


 年齢は、見た目では15歳から18歳ぐらいの間に見える。しかし、エルフだ。もしかすると、前の世界での私の年齢を超えているかもしれない。気になるが、年齢は絶対に聞いてはいけない。姉がそう言っていた。




 本当に晩餐会(ばんさんかい)だった。フルコースの料理だ。さすがにスピーチは求められなかったがこういう場には慣れていない。緊張する。


 メニューは、エルフなので肉は出ない。と言うことはなく、肉も魚も野菜もすべてまんべんなく美味しく料理されていた。森での生活を思い出すと、涙が出そうだった。


 この世界の貴族マナーは知らないので、カルミア様の様子をさりげなく観察させてもらった。日本で経験したレストランのコース料理と似ていたので何とかなった。連れて行ってくれた先輩に感謝だ。


「カナデ君は、このような形式の食事をしたことがあるようだね。もしかして、貴族なのかい」


 カルミア様が何か探りを入れるような感じで聞いてきた。


「いえ、貴族ではないです。ただ、私がいた国は、少し無理をすれば、庶民でもこのような食事形式を経験できる国でした」


「そうなんだね、この町も、他の国とくらべれば、平民と貴族の格差はないよ。私たちも、普段は案内人ギルドの食堂で他の職員と一緒に食事をしている。ただ、今日は特別な日でもあるのでこのような場を用意したけどね」


 特別な日か、誰かの誕生日だったりして…… まあ、いろいろ聞かない方が無難かな。


「お心づかい感謝します」


「ところで、その、神獣(しんじゅう)様は今何をしているか教えてもらえないだろうか」


 つくもを見ると、皿に盛られたスープに前足をちょんとつけて、それをペロペロなめ、また、ちょんとつけてペロペロとなめていた。


「……たぶんですが、ねこが水を飲むとき、前足でちょんと水面を触って確認してからペロペロなめて飲む。という習性がありまして、今それをしているのではないかと……」


「……スープが熱いというわけではないんですね……」


 ビオラ様がほっと息を吐いてから、


「カナデさんは、これからどうするか決めてあるの」


と、聞いてきた。


 丁度いい、金貨のことを聞いてみよう。


「特には決めてないですが、とりあえず生活していくのに必要な物を買いそろえたいと思っています。それで、ちょっと確認したいのですが、この金貨はまだ使えるのでしょうか」


 ポケットから取り出したかに見えるように、金貨をアイテムボックスから出して、テーブルの上に置いた。


 できるメイドがさっと寄ってきて、ハンカチの上に金貨をのせて、カルミア様のところに持っていく。


 カルミア様は、それを持ち上げ、裏表を回しながら見てから、


「ずいぶん古い金貨だね。でも、この町でなら、多分大丈夫だよ」


 怪しむ様子はないな、なら大丈夫そうだ。


「実はその金貨、つくも(猫)が森のどこかで見つけたものなんです。そういう場合は、どこかに届け出なけばいけないのでしょうか」


「そんな決まりはないよ。それにね、森の中で見つけたものは全て見つけたものに所有権が移るのさ、だからこの金貨はカナデ君達のものだよ」


そう言って、金貨を静かにテーブルの上に置いた。


「よかったです。これでいろいろ買えそうです」


「ただね、この町は、大陸の金貨を使わないんだよ。銀行で『樹魔(じゅま)硬貨』に両替しなさい」


 おう、銀行があるのか。意外と文化レベルが高いのかもしれないな。


「町にあるお店の様子もわからないだろうから、サクラに案内してもらうといいよ。サクラいいよね」


「もちろんです。いつ行きますか。明日ですか」


 サクラさんが目をキラキラさせながら聞いてきた。


 うっ、このキラキラした目で見られると断りずらいんだよな。これは、森に行くのはもうすこし落ち着いてからの方がよさそうだぞ。


「すみません、明日は、宿を探そうかと思っています。どこかにつくもも泊まれる宿はないでしょうか」


「えっ、何を言っているの。宿なんて必要ないでしょう。ここにいればいいでしょう。ねえ、カルミア……」


「も、もちろん、カナデ君さえよければ、かまわないよ」


 何だろう、歯切れが悪いぞ、カルミア様には何か別の思惑がありそうだな……。


「とてもありがたいお話なのですが……実は、私はしばらくこの町で暮らしてみたいなと思っているのです。そして、ここで仕事も見つけたいと思っています。その時に、貴族のお世話になっているとは思われたくないのです」


 少し生意気なことを言ったかな、でも基礎研究と森でのスローライフのためには絶対に譲れないぞ。


「貴族のお世話になりたくない。なるほど、探求者らしい考え方ですね。でも、私は確かに貴族だが、領地を持たない『名誉貴族』だよ」


 なんだろう、えらく嬉しそうだけど……。

 

「カナデ君は、働きたいんだね。なら、いい仕事があるよ。『冒険者』さ」


 あれ、この世界では、冒険者のことを案内人と言っているんだと思っていたぞ。


「冒険者という仕事があるのですか。案内人とどう違うのですか」


「文字通りだよ。『案内人』は、冒険したい人を冒険ができるところまで案内するのさ」


 カルミア様は、そうだろうと言うようにサクラさんを見た。


「はい、もし、カナデさんが冒険者になったら、私が案内しますよ。任せてください」


「サクラさんの『風の道』ですね。ああ、なるほど。わかりました。確かに、魔物がいるところまで歩いていたら、何日もかかってしまいます。だから、風の道、案内人なのですね。そして、樹魔車両なら、確保した素材も運べる。()にかなっています」


 しまった、ついいつもの癖で思いついたことを言ってしまった。


「おどろいたな。あの説明で、そこまでたどり着くのか。なるほど、これが探求者のひらめきなんだね。『一を聞いて十を知る』とは、まさにこういうことか」


 どうしよう、なんか勘違いをされているぞ。


「でもね、冒険者ならこの家から通ってもできるわよ」


と言って、チラッと(つくも)を見るビオラ様とメイドとサクラさん。


 なんだ、目的は(つくも)か。


「……(つくも)なら、いつでも遊び来られますよ。猫ですから自由です。なあ、つくも」


 テーブルの上で丸まったままのつくもに呼びかけると、しっぽをヒョイと持ち上げた。


 この仕草で全てを悟った3人の女性達は、それ以上何かを言うことはなかった。




 私の自立宣言騒動も一段落したので、今後の事をカルミア様と相談した。


 この町には、研究者や行政職などがたくさん出向してくるので、そういう人たちを受け入れる住宅があるらしい。


 長く滞在するならそこがいいだろうと、明日の午前に早速案内してもらうことになった。


 そして、できれば、その足で冒険者ギルドに行って、登録してしまおうという流れになった。そんな話がまとまり、今日の会食はお開きになった。


 明日はいろいろな所を回るので、多分早起きだ。忙しくなりそうだけど楽しみだ。


 ワクワクしながら柔らかいベッドで眠りについた。







「おかしい。なぜだ。なぜ、誰も起きてこない」


 今日は、遠くまで行って家を選び、その足で冒険者ギルドに行くはずだ。なら、忙しいはずだ。


 しかし、朝のこの瞬間、この屋敷にその緊張感がない。起きているのは私とできるメイドさんだけだ。つくも(猫)でさえまだ、丸くなった『アンモニャイト』状態だ。


「ディナさん、他の人たちはまだ起きないのですか」


 ホールを1人でうろうろしているのも変なので、聞いてみた。


「そうですね。今日はいつもよりゆっくりですね」


 背筋を伸ばした姿勢でテキパキと朝の勤めをしながら答えてくれた。


「あの、今日は冒険者ギルドにも行くので忙しいのでは……」


 みんな忘れているんじゃないの……というメッセージをさりげなく送る。


「ああ、知らなかったんですね。すみません。出向者用住宅はすぐ隣です。冒険者ギルドは案内人ギルドの真向かいです。歩いて5分です」


 昨日寝る前に言ってよー。ぼくももう少しふかふかベットで寝たかったよー


 心の声はぐっとしまいました。




 二度寝するわけにもいかないので、私は屋敷の外に出てみた。


 季節は、日本で言えば春真っ盛りだ。屋敷の周りは広い庭園になっている。木々はまだ、冬の装いだが、地面からは水仙のような芽が出はじめている。


 オオイヌノフグリによく似た小さな花が、その周りに群生している。ふと、少し離れた小高い丘を見てみる。


 ん、あれは、桜の木……にそっくりだよな。


 近づいてみると、やはり桜の木にそっくりだ。この世界に転生してくる時に神様は「地球によく似た環境の世界」と言っていたが、本当にその通りだ。


 私が、桜の木をじっと見ていると、後ろから声がかかった。


「カナデさん、ここにいたんですね。ディナから聞きました。早く起きて待っててくれたんですってね。近いって言わなくすみませんでした」


 サクラさんは、申し訳なさそうに頭を下げてから、ふと、私が見ていた桜の木に目をやった。


「八分咲きって所ですね。満開になるのは明日ぐらいですね、きっと」


 花のつぼみを見ながらそうつぶやいた。


「ここは、私のお気に入りの場所なんです。春には私の名前と同じ花が咲いて、夏になれば木陰になるんです。カナデさんにも、気に入ってもらえたら嬉しいです」


 そう言って花のような笑顔で振り向いた。


 サクラさんは、食事の用意ができたからと、呼びにも来てくれたようだ。そのまま、屋敷の食堂に案内された。




 食堂には、カルミア様とビオラ様もすでに着席していた。つくも(猫)も、サクラさんの隣の席でちゃっかりと、前足を揃え後ろ足をたたんだ『エジプト座り』で待っていた。


「みんなそろったね。では、朝食をいただこうか」


 食事前の「恵みに感謝を……」の様な儀式はないようだ。


「食べながら聞いてくれ、私はカナデ君を『出向者用住宅』に案内をしたら、案内人ギルドに行かなくてはならないので、そのあとの事はサクラに任せることにした。サクラいいかな」


「はい、任せてください」


「ギンギツネ号は修理に出しているので使えない。しばらくサクラの配達はお休みだ。なので、その間にカナデ君にこの町のことをいろいろ教えてあげなさい」


「わかりました」


 ん、配達? そういえば出会ったときにもそう言っていたな。案内人は、宅配みたいなこともするのかな。


「いろいろ甘えちゃってすみません。よろしくお願いします」


 いろいろ疑問はあるが、いちいち聞いてはいられない。早くこの町のことを知るためにも、この提案はありがたい。ここは素直に甘えることにしよう。


 出向者用住宅は、本当に屋敷のすぐ隣の敷地にあった。


 この町の案内人ギルド、冒険者ギルドは、この大陸にある全ての国と関わりがある。なぜなら、『大樹(たいじゅ)の森』に入るには、この入り口の町を通るしかないからだ。


 つまり、いろいろな国から、この森で取れる素材目当てに人が集まる。人が集まれば、それを管理する人が必要になる。だから、出向だ。


 ビジネスマンや行政のお役人が都心に集まる様な感じだろう。その人達が滞在する場所がたくさん必要になるわけだ。


「今空いている場所で、屋敷と一番近いのはこの家になる。ビオラから、くれぐれも近い場所と言われていてな、これは決定なのだよ。すまんな」


 まあ、(つくも)が目的だからね。仕方ないよな。


「とてもいい場所だと思います。ここでだいじょうぶです」


 両方のギルドにも近いからね。こちらとしてもありがたい。


「ベッド、テーブル、椅子など、生活するのに必要な物は一通りそろっているので、当面はこのまま住みなさい。慣れてきたら、いろいろ買いそろえていけばいい」


「わかりました。私もそう思っていました」


 鍵を受け取り中を確認すると、本当に直ぐ暮らせるようになっていた。部屋は台所の他に3つもある。


 ん、もしかして妻帯者用なのでは……。家賃いくらなんだろう。まあ、お金はあるから気にしないで使わせてもらおう。


 住宅問題は、30分ほどで解決してしまった。


 それにして、なんか、流されているような気がするぞ。でもなあー、いろいろ分からないことが多すぎるし、ここの人たちみんな青玉だから心配はないか。


 そう、私の真色眼(しんしょくがん)は、敵と味方を見分けられる。なので、青玉の人たちの好意は素直に受けるのが正解のはずだ。人付き合いが苦手な私には、ものすごくありがたい能力なのだ。



次話は明日7時10分投稿

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