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040 ツバキさん




振動波(しんどうは)発生装置』は、午前の狩りのままで設置されている。あとは、目盛りをセットして振動を流すだけだ。


 今回は、私とイグニス2人で仕留める。さっきの様子だと、1人1体が限界だ。


「ツバキさん、どのぐらいの範囲で行きますか」


 イグニスとどの位距離を空ければいいかが分からないので、ツバキさんに確認する。


「そうねー、100×100で行くわ」


 おう、10000平方メートルか、結構広範囲だぞ。


「イグニス、かなり広いぞ。ギルドの野外訓練場ぐらいだ」





「そうか、どこから現れるかも分からないからな、お互い距離を取るか」


「賛成だ。さっきの様子だと地表にはあまり振動が来ないから、真ん中辺りで50メートル離れることにしよう」


「それでいい。じゃ頼んだぞ」


「おう、たぶんいけると思う」


「はは、おまえなら、必ずだ!」


 相変わらず、おれへの信頼が厚い。こそばゆい……。




 私とイグニスが配置についたのを確認したツバキさんが指示を出す。


 一応、強化した聴覚で様子を確認する。




「リーウス、M3そのまま、M2(100×100)よ」


「了解です」


 リーウスがM2を(100×100)にセットする。 


「圧力10にセット」


 ツバキさんが追加の指示を出す。


 リーウスが、目盛りを打ち込もうと数字を1,0、とセットした時に、それは起こった。


「ガサッ」


 後ろで音がした。いつもなら、常に周りの気配に気を配りいつでも動けるように注意をしているリーウスだが、ベニザクラ号の快適さに慣れてしまい、ここが6層だということを忘れていた


「なんだ」


 びっくりして後ろを振り返った。


 木の上から、何かが落ちた音だった。


 ホッとしたその時、うっかりもう1つ、0を打ち込んでしまった。10ではなく100と……。




 誰でも使える装置にするなら、安全装置を組み入れる。しかし、これは試作品。なのでそんな物はない。だから、私が隣で確認をした。


 その確認もない。事故とは、こういうミスの積み重ねで起こるのだ。


「リーウス、流して」


「スイッチオン」


 ズオオオオオオオオオン


 10000㎡、小学校の校庭ぐらいの広さに地響きが起きた。砂が波打っている。私とイグニスも立っているのがやっとだ。


 幸いにも、一気に魔力を使ったので、魔石の方が壊れた。地響きは直ぐに止まった。




 惨状(さんじょう)は目を(おお)うものだった。




 砂の上には、まんまるが数十体ひっくり返って転がっていた。振動にびっくりしてみんな()い出してきたようだ。たぶん、この地帯にいた全てのまんまるだ。




 何が起こったのか理解できないまま、固まっていたツバキさんが、復活した。


 装置に近づき、目盛りを確認する。そして、何が起こったかを正確に理解した。


「つうっ……」


 その表情は、カナデがいなかったのだから、確認は自分がするべきだったという自責の念のようだった。


 リーウスも、理解した。自分がミスをしたことを……。




 砂上に転がる数十体のまんまる達。もはや、「これで活動停止だ」の宣言も必要ない。完全に活動を止めていた。


「おい、カナデ、こいつらどうする」


 イグニスが、聞いてくる。


「せっかくですから持ち帰りましょう。ラウネンに頼んで、向こう10年、まんまる捕獲禁止令も出してもらいましょう」


 私が辺りを見回しながらそう言うと、


「そうだな。それがいいな」


 イグニスもやれやれという表情で腕組みをした。




 ベニザクラ号に積んできた,予備の大型次元箱が1つある。一つに3メートル級よりも小型なら5体位は入る。


 今、特大には5メートル級が3体、3メートル級が2体入っている。3メートル級ならあと12体ぐらいは入るか。


 ざっと見渡し数を数える。3メートル級が50体と言ったところか。5メートル級が15体位だろう。ああは言ったが、どうやっても持ち帰るのは無理そうだ。


さて、困ったぞ。おれのアイテムボックスなら、一瞬で全部入るだろうが、これだけ目があるとそれはできないな。


 うーん、どうするか……。


 ん、そうか。第3世代型次元箱があったな。あの中身をアイテムボックスに移せれば全部入りそうだぞ。


 だが、どうやって入れ替えるかだな。


(つくも(猫)、次元箱の中身、異次元収納に転送する事ってできるの)


(俺様ならできるぞ。何を転送するんだ)


(パネルの中にあるユニット全部なんだけど)


(わかった。……終わったぞ!)


 まじですか。神様すげー。




 ベニザクラ号の収納ボックスからユニットが入っていたパネルを2枚持ち出す。サクラさんが不思議そうな顔をしていたので、小さな声で事情を説明する。


「わかりました。ねこちゃんすごいですね」


 いや、直ぐ受け入れられる、その反応がすごいです。


 何が起こっているの説明して! という風の森パーティーメンバーの視線を全て無視して、現場に向かう。




 大型に小ぶりの3メートル級が5体入った。残りは45体だ。


 特大には、3メートル級が10入った。残りは35体だ。


「イグニス。これは機密だ。見なかったことにしろ」


 次々とパネルの中に吸い込まれていくまんまるをぼう然と見守るイグニス。


 1つ目のパネルに3メートル級35体全て収納できた。いや、びっくりです。


 2つ目のパネルに5メートル級15体を全て入れた。


(林の奥に7メートルと6メートル級の大物が10体ぐらい転がっていたから一応回収しておいたぞ)


 できる猫から念話が届いた。


 これだけの数だ。やはり、この場所にいたまんまるは一掃されてしまったのだろう。


 まんまるの生息地である砂上地帯は東西約100キロメートル南北約50キロメートルの楕円形をしている。他の場所にもたくさんいるのだ。なので、ここが一掃されても全体の種族にはさほど影響は出ない。


 だが、この場所の生態系には何らかの影響が出るかもしれないので、それも継続調査が必要だろう。ラウネンのイライラした顔がちらつく。また、説教かも知れない……。







 待機場所であるワルト湖までは、戦闘態勢だ。もともと、無駄話はしない緊張した時間だ。


 それを差し引いても、ベニザクラ号のなかの空気が重い。


 一番重いのがツバキさんだ。つくも(猫)の背中に手を置いたまま、ずっと下を向いて黙り込んでいる。


 次に重いのがリーウスだ。口をポカンと開け、魂が半分口から出ている。


 その次に重いのが、なぜかクエバさんだ。じっと、何かを考えている。


 他のメンバーも、それぞれ視線をずらし、黙っている。







「さて、すんだことは仕方ないです。向こう10年、まんまるの捕獲は必要なくなりました。前向きに考えましょう」


 ワルト湖の待避場所に着き、あまりにも元気がない姉様達にそんな言葉を掛けるサクラさん。でも、その通りだよツバキさん。


 前向きに考えましょう。

  

と、口では簡単に言えますが、ミスとはいえ、1つの種族を絶滅させかねない兵器を作ってしまったことに気がついたのだろう。


 セルビギティウムの名を持つ一族として、今ツバキさんの心の中は、混沌(こんとん)としているだろう。




「わたしはこう思う」


 同じく重たい表情で、じっと黙っていたクエバさんが口を開いた。


「いつの間にかうじゃうじゃ増えるやつらは、いなくなっちゃえばいいと思う。穴叩き達のことは、まあ、許せるけど、うじゃうじゃだけは、どうしても許せない」


 うん、私も日本にいたとき、ヒアリは完全駆除すべきだと思ったよ。


「ツバキの新兵器があれば、あいつらを何とかできるかもって思った……」


 ちょっと考えるクエバさん。


「でも、兵器は使い方を間違えると、危険なもの、今日はじめて知った」


 しばらく下を向いて沈黙するクエバさん。


 あっ、リーウスの魂がさらに抜けていく。


 クエバさんが、顔を上げて小さいが決意がこもったはっきりした口調で、


「わたしはこう思う。使い方を間違えなければいい」


 そう言うと、ちょこんと床に座った。


「そうだぞツバキ、あのとき、ツバキが自分で言ったじゃないか。これで、冒険者の負担が少なくなるって、そういう思いで、これ、作ったんだろ」


 イグニスが静かにツバキさんに語りかけた。


「もう、絶対油断しません。すみませんでした」


 リーウスが復活した。


 この『風の森』パーティーは、本当にいい人たちだ。なら、私も続くか。


「ツバキさん。出発までに時間があったから、ギルドでまんまるのこと調べたんです。ここ10年の記録を見たら、年平均6体の捕獲です。10年で60体です。今回は、それと同じぐらいです」


 ツバキさんが顔を上げた。


「そして、まんまるを捕獲するときに怪我をした冒険者の数が10年で100人程です。中には、冒険者を廃業するほどの怪我もありました」


 ツバキさんの目に光が戻ってきた。


「ツバキさんおかげで、向こう10年、冒険者達は怪我をしなくて良くなりました」


 しれっとした顔でそう言うと、


 ツバキさんが、フラフラと立ち上がり、ちょこんと座り込んでいるクエバさんを抱きしめた。


「うわーん。ありがと、クエバ。そうよね、二度と、使い方を間違わなければいいのよね」


 ツバキさんの涙に誘われて、クエバさんもポロポロと大粒の涙を流した。2人で抱き合って、わんわん泣いた。







「そうよね。うじゃうじゃは、人類の敵よね。全て駆除しましょう」


 ツバキさんの物騒な言葉が聞こえてくる。


「賛成、姉様お願い」


 クエバ、いつからツバキさんがおまえの姉になった。


 抱き合ってわんわん泣いた2人は、すっかり打ち解けてしまった。




 ここは、リムジン型になったベニザクラ号の車内だ。後ろには『まんまる』が容量限界まで詰め込まれた次元箱が積まれている。


 マグロ漁なら、大漁の旗を立てた凱旋(がいせん)だが、そこは自重が必要だ。


 ベニザクラ号の歩行型も、今は時速40㎞まで出せるようになっている。樹魔達がどんどん進化しているのだ。


 これ以上の面倒事には関わりたくないので、帰りはつくも(猫)に頼んで神装力第三権限の威圧を少し垂れ流してもらった。


 結果、周りの全ての魔物達が逃げていった。







 何事もなく、入り口の町に帰還した。 ラウネンさんに事の顛末を説明するため、イグニス、ツバキさん、私で冒険者ギルドに行った。


「まったくカナデが絡むとろくな事がないな」


 予想通りの反応だ。ラウネンが不機嫌だ。


 え、何、俺が悪いの。ぐれるよ。




 その日の内に、向こう10年の『まんまる捕獲禁止令』が発令された。


 そして、まんまるの素材処理が7日間ほど掛けて行われた。


 つくも(猫)の異次元収納内で時間漬けになっている超大物達のことをいつ話そうか……。


 いや、当分やめておこう。


 そう決心した。




 


次話は本日12時10分投稿

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