039 風の森の実力
『活動停止』それは、冒険者の実力をはかる試金石だ。高ランク冒険者ほど、無駄な傷をつけずに「これで活動停止だ」の宣言ができる。
この技術が磨かれることにより、ただ霧散させ、魔石のみを得ていた時代から、魔物の素材が持つ可能性を最大限に活用する時代に変化した。
魔石を得るためだけの乱獲は、魔物達の食物連鎖の崩壊を招いた。
冒険者達は、本能で魔物との共存の方法を感じ取っている。
風の森パーティーとまんまるの戦闘が始まってすでに3時間が過ぎている。
イグニスに追い詰められたまんまるは、必殺技のハイジャンプをひとつして、そのまま砂中に潜ろうとしている。体長5メートルはある大物だ。
「イグニス、あいつ潜ろうとしているわ」
マーレが叫ぶ。
「させるか」
イグニスが、身体強化をした足腰でひとっ飛びし横から胴体を蹴飛ばす。
「大丈夫。下は岩です。誘導済みです」
リーウスが、叫ぶ。
指摘の通り、30センチほど潜ったところでもがくまんまる。
「よし、マーレ、クエバ。合わせるぞ」
「火の玉」
イグニスが直径50センチほどの火の玉を剣に纏わせ待機する。
「水の球」
マーレが水魔法で30センチほどの水の球を作る。
「主は火なり、水は従、下はボウボウ、上はモクモク。フュージョン」
マーレの水魔法とイグニスの火魔法の融合魔法が炸裂する。これは、クエバの固有魔法だ。
ドカーン まんまるの近くで水蒸気爆発が起きた。
巨体が宙を舞う。そして、そのまま仰向けで地面に落ちる。
『マーレ、支え棒』
「了解、集まれ、そして、伸びろ」
マーレが木魔法で周りの蔦を木の棒に変える。それを丸まろうとしている『まんまる』の鎧の間に挟み込む。
「イグニス。お願い」
「まかせろ」
イグニスが、むき出しになっているまんまるの頭に一発パンチを入れる。
まんまるの動きが止まった。
「これで活動停止だ」
そう言ってイグニスは、そっと頭に手を乗せた。
まんまるの全ての動きが停止した。
「鮮やかね。もう、A級に昇格してもいいレベルよ。イグニス」
ツバキさんが、拍手をしている。めずらしい。
「おう、推薦よろしく」
ガッツボーズをしたイグニスがニカッと笑う。
B級からA級への昇格は、それなりの地位がある人物が推薦するところから始まる。ツバキさんの推薦なら間違いない。
まんまるの活動停止条件は、頭部への振動波だ。イグニスは拳に振動波を乗せてパンチをしたのだ。
まんまるは、鎧の中に頭部や四足を包み込んで丸まる。丸まってしまうと、近づく敵に棘で攻撃してくる。この棘がくせ者だ。予測不能のタイミングで飛び出してくるので、毎年この棘による負傷者が出ている。
丸まらないようにして頭に振動波を流せるのが一流の冒険者になる。
イグニス達は、鮮やかにその方法で活動停止にして見せた。
「本当にバランスの取れたいいバーテーだわ」
ツバキさんの賞賛が止まらない。
「リーウスが狩りがしやすい場所に誘導して、イグニスが力押しで追い詰める。マーレはイグニスが動きやすいように補助をする、極めつけがクエバの融合魔法よ。すごいわ」
「よく見てますね。その通りです」
私も同じ意見だ。
「こいつで3つか、他の奴らはかなり深く潜っちまったな。ここでの狩りは終わりだ」
イグニスが「ふー」と息を吐き、狩りの終了を告げる。
「お疲れ様、まんまる達はきっと、深さ3メートルぐらいのところにいるわよ。このままなら、3日は出てこないわ」
ツバキさんが砂地の地面を足で軽く小突きながらそう言うと、
「新兵器のお出ましですね」
サクラさんがベニザクラ号でシャカシャカとやってきた。
A級の実力がある樹魔2体がいると、まんまる達が警戒してしまうので、離れた場所で待機していたのだ。
「やったー。ボク、楽しみにしていたんです」
リーウスがはしゃぎだした。
「イグニス、まだ魔力は残っている」
「おう、問題ない」
イグニスは、体内魔力の確認をする。身体強化系の魔法も、魔素が濃くなるほど強くなる。魔物と一緒だ。
「これから、『振動波発生装置』の試しをします。効果があれば、びっくりして這い出てくるはずよ」
「出てきたところを、頭部にガツンだな」
イグニスが、拳をビュンと振り下ろす。
『振動波発生装置』から長いチューブがひとつ伸びている。その先には、スピーカーのような円盤がついている。その円盤から、振動させた縦波を出す。
ツバキさんは、音は波というたったひとつのヒントから、振動も波であることを推測し、試行錯誤しながら何とか完成させた。
ベニザクラ号に積んである魔石を使い、装置を動かす。かなりの魔力を消耗するので、装置自体は小型化できなかった。
チューブの円盤を砂の中1メートル位のところに埋めて準備は完了だ。
「リーウス、それじゃあ、昨日教えた通りにお願いね。カナデは隣で補佐よ。よろしく」
ツバキさんから指示が来る。リーウスと2人でうなずく。
「リーウス、M2(10×10)よ。圧力は3でお願い」
「了解です」
100㎡の範囲を指定する。これで出てきてくれれば、成功だ。
ツバキさんが、イグニスをみる。イグニスがうなずく。
私も数値を確認し、合図を送る。
「流して」
「スイッチオン」
ブーン
かすかな振動を感じる。地下、1メートルのところを縦波が平行に広がっているはずだ。
10秒ほど待つが、何も起こらない。
「きっと、平面じゃ深いところまでは届かないのね」
ツバキさんが言葉にしながら考えをまとめている。
「リーウス、M2そのまま、圧力そのまま、M3(3)でお願い」
(10×10)の底面積で、深さが3メートルの設定だ。100㎡の広さで3メートルの深さまで効果が広がるはずだ。小学校だと、音楽室より少し広いぐらいの大きさだ。
「了解。設定しました」
私も確認する。間違いない。ツバキさんに合図を送る。
『リーウス、流して』
「スイッチオン」
ブワン
という衝撃が来た。やや地面が揺れた。
効果は直ぐに現れた。
びっくりしたのか、3体のまんまるがあわてて飛び出してきた。
イグニスが跳躍し、一体目の頭に拳を入れる。振動波を受けたまんまるは、動かなくなった。
次、と周りを見渡すが、後の2体はすでに丸まっていた。こうなってしまうとへたに手を出さない方がいい。棘で返り討ちに遭うからだ。
「ふう」
ひと息はいてから、イグニスは動かなくなったまんまるの頭に手を乗せて
「これで活動停止だ」
と宣言する。まんまるの全ての活動が止まった。
「成功よ」
あまり表情を変えないツバキさんが、満面の笑顔だ。
「これで、まんまるの捕獲はずいぶん楽になるはずよ」
ツバキさんの声が弾む。
「ああ、まったくだ。地中に潜っちまったやつは、諦めるしかなかったからな。この方法なら、今までの半分の時間で仕事が終わるぜ」
イグニスもその効果をみて、驚いている。
時間は、そろそろお昼だ。休憩をしようということになった。
「感激です。新兵器の威力、すごいです。ツバキさんは、冒険者の救世主です」
リーウスがうるさい。
「感激なのは、それだけじゃないわよ。何なのこの車両。ここ、6層よね。なんでゆっくりランチが食べられるのよ」
マーレさんもうるさい。
「ふふふ、この装置があれば……あいつらに一泡吹かせてやれる……」
あいつらとは、きっと、一匹いたら百匹系の事ですね。クエバさんが黒い。
「確かにとんでもねえ樹魔車両だな。このベニザクラ『白銀』は」
やっと分かりましたか、イグニス。
それぞれのお昼時間が過ぎていく。はあ、ゆったり。あれ、ここ6層だよね。
つくも(猫)の神装力第三権限の結界で守られたベニザクラ『白銀』に手出しができる魔物はこの世界に存在しない。この世界でいちばん安全な空間だ。
ゆっくりランチを食べ、おいしい紅茶を飲みながら、午後の打合せを始めた。
「実験は成功よ。これ以上は必要ないわ。私の仕事は終わりよ」
ツバキさんは、ゆっくりと紅茶をすすりながら、つくも(猫)の背中をさすりさすりしている。いつもの冷静なツバキさんだ。
「まんまるは今4体だ。依頼は5体だから、後一体だな。どうする。この場所ではもう無理だぞ。移動するか」
イグニスがみんなを見た。
「正直、移動は面倒ですね。後一体なら、さっきの方法でいけるんじゃないですか」
リーウスがウズウズしている。
「まあな、どうするツバキ」
イグニスがツバキさんを見る。確かに、ツバキさん次第だ。
「そうねえ、もうちょっと範囲を広げた時の反応も、この際だから確かめておこうかしら」
ツバキさんの興味にスイッチが入った。
結局、後1体をさっさと捕獲して、任務を終わらせてしまおうという事に話はまとまった。
また、ラウネンからは、できれば6体あると、在庫的には余裕が出るということを聞いていたイグニスが、私と一緒に2体捕獲してしまおうという提案をし了承された。
午後の実験の結果次第では、振動波発生装置は、かなり有用な捕獲用装備になりそうだ。
次話は明日7時10分投稿




