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004 サクラの家族




「あそこにいるのは、私の父と母です。帰りが遅いので心配したみたいです。助けていただいたことを説明してきますからここで待っていてください」


 ギンギツネ号からピョンと飛び降りて走って行く少女の背中を見ながら、今の状況を考える時間ができた。


 あれ、何となくまずい状況なんじゃ……


 やがて、話を聞いている内に驚いた顔になった父親がこちらにやってきた。


「初めまして、私はサクラの父親で『カルミア』と申します。こちらは母親の『ビオラ』です。本日は、娘を助けていただきありがとうございました」


「いえ、たまたま近くにいただけです。私はカナデと申します。このねこは、つくもです。よろしくお願いします」


 私は焦って頭を下げる。なぜなら、何の考えもなく、なんとなく、ここに来てしまったことに今、気がついたからだ。


 何やっているんだおれ、これでは助けてやったんだから面倒見ろって言ってるようなもんだぞ。


「あなた、立ち話では失礼ですので、まずは客間にご案内をして、カナデさんと猫様には休んでいただきましょう。サクラ案内をしてあげて」


「母様、わかりました。カナデさん、ねこちゃん。こちらです。ついてきてください」


 サクラさんが先頭に立ち、案内をしてくれるようだ。メイドのような服装の女性が、私が荷物を何も持っていないことを少し不思議に思ったようだが、口に出すことはなく静かにあとをついてくる。


 すみません、変なやつですよね。ごめんなさい。




 客間で緊張しながらソファーに座って待っていると、先ほどのメイドさんがお茶をもって入ってきた。そして、カップに紅茶を注ぐと、一礼して部屋から出て行った。


 この世界で初めて飲んだお茶は、少し苦みがあるがコクのある美味しい紅茶だった。


 ひと息ついた頃、先ほどのメイドさんが「失礼します」と言って入ってきた。


「カナデ様、当主が応接室にてお話がしたいとのことですが、よろしいでしょうか。そちらの『ねこちゃん様』もいっしょにとの仰せです」


「わかりました」


 さて、どう説明したらいいものか、恩を売る気はないよとはっきり言っておかないと面倒なことになるかもな。それに、早くノートと鉛筆を買って、森に戻らなきゃいけないからな。




 メイドさんに案内されて、応接室に入ると、そこにはカルミア様1人がソファーの前で立ったまま待っていた。


「あらためてご挨拶させてください。神獣(しんじゅう)さま、そして探求者たんきゅうしゃ様。ようこそ入り口の町へおいで下さいました。歓迎いたします」


 つくも(猫)は、その場で深々と頭を下げているカルミア様の横をトコトコと歩いて横切り、ソファーの上に飛び乗ると、


「俺様は神獣としての営みをするつもりは今のところないぞ」


と言って、そのまま4つの肉球を1つずつペロペロと舐めだした。


 猫がしゃべったよー。びっくりしないのかな? まあ、サクラさんにばれてるので今更だが……。


「承知しました。私たちも、神獣様に何かをお願いすることは今のところありません」


 カルミア様は、猫がしゃべったことを気にもせず、私もソファーに座るよう手を差し出した。そして、自分も座った。


 初めが肝心だ、こちらから切り出すぞ。


「サクラさんを助けたのは本当に偶然です。それに、町まで送ってもらったらそこで別れるつもりでした。何かをしてもらう気は全くありません」


 それともう一つだ。


「サクラさんにもお願いしたのですが、このつくもが人の言葉を話すこと、私が探求者かもしれないことは、秘密にしたいのです」


「探求者かもしれないということには、どんな意味があるのですか」


「信じてもらえないかも知れませんが、私は、自分がどうやってこの森に来たのかを思い出せないんです。気がついたらこのつくもといっしょにいました」


 神様とのやりとりをぬかせば嘘ではないぞ。気がついたら食われていたからな。


「なるほど、確かににわかには信じられないお話ですね。しかし、実はその話しを裏付けることができるんですよ」


「……詳しくおねがいします」


「この町は、世界樹様が樹立する『大樹の森』の入り口です。なので、入ってくる者には必ず身元確認をします。ましてや3層以上の深い場所に入れる実力がある者を見逃すことはないのです」


 チラッとつくもを見る。


「いくら神獣様の力があってもです。そして、カナデ様、あなたたちがこの町に入った記録はないのですよ」


「……不法侵入者……ですね」


「記録上ではそうなります。しかし、カナデ様。あなたは自分の今の状況を正直に話してくれました。それだけでも私はあなたを信用します。そして、神獣様と共にいられる資質を持った方だ。信じないわけにはいきませんな。なあ、みんな」


「……最初から私は信じています。カナデ様もねこちゃんもいい人です」


 ドアが少し開きその隙間からサクラさんが恥ずかしそうに顔を出した。ドアの向こうで立ち聞きしていたのがばれていたからだ。その後ろにはビオラ様もかくれていた。


「も、もちろん、わ、わたしだってサクラを信じています。そのサクラが信じる方を私は信じます」


 ビオラ様がオロオロしている。




「はい、今日はここまでにしましょう。カナデさんたちも疲れています。それと、カナデさん、ねこちゃん。今日は我が家に泊まること。これは決定よ。そして、美味しいご飯をいっしょに食べましょうね」


 復活したビオラ様が全てを決めた。どこの世界でも母が決定権を持っているようだ。


 つくもは、大きく体を反らして伸びをしてからあくびをひとつする。


 そして、タタタタと少し早歩きで部屋を出て行った。それを慌てて追いかけるビオラ様。なるほど、つかまる前に逃げたな。


「カナデさん。母がねこちゃんをお風呂に入れたいみたいです」


 サクラさんが、そっと耳打ちしてきた。


「わかりました。捕まえることができたらですね」


と思っていたが、あっさりメイドさんに捕獲され、お風呂に強制的に入れられていた。このメイド、ただ者ではないかも。


 私も、この世界に来てから初めてお風呂に入った。すごく気持ちがよかった。


 異世界によっては、お風呂がなくてそれを作るまでにすごく苦労するお話があったが、この世界には普通にある。


 よかったぁー 神様ありがとう。




「聞いてないぞ。言ってよー」


「聞かれなかったからな。言ってないぞ」


 漫才のような会話だが、つくも(猫)の森での所業について、今、追求している。




 時は少しさかのぼる。




 つくも(猫)は強制的に、私は自主的にお風呂に入り、気持ちも体もすっきりした爽やかな気持ちでくつろいでいた。


「なあ、つくも(猫)。今後の事について相談したいんだけどいいかな」


「ああいいぞ」


 つくもの毛並みが半端ない。キラッキラだ。


「夕食では、たぶんいろいろ聞かれるけど『記憶にございません』で何とかなると思うんだ」


「さっきの流れならそうだろうな」


 少し毛玉になっている部分を丁寧に舌で舐めてほぐしている。


「でもね、これからこの世界で生活していくのにどうしても必要なものがある」


「ん、何かあるか」


 大きくあくびをして、前足をペロペロする。


「何言っているの。お金だよ。俺たち一文無しだよ。それに荷物を入れるカバンですらないんだよ。メイドさん、荷物無しのおれを見て不思議だったと思うよ」


「ん、金が欲しかったのか。金ならあるぞ」


 そう言って、つくも(猫)は、何もない空間から金貨をジャラジャラと出して床にばらまいた。


「ちょっとまて、今どこから出したの」


「ん、異次元収納からだぞ」


 アイテムボックス、あったんかーぁい。


 で、冒頭の会話につながる。




「異次元収納あるんなら、最初に言ってよ。森での10日間の生活は何だったの」


「何言っている。『スローライフは最高だー』と言って、のんびりしていたじゃないか」


「うっ、確かにそうだけど。いい加減、獣の肉や木の実ばかり食べているのに飽き飽きしていたんだぞ。それにだ、ナイフやスコップがあれば、キャンプだってもっと楽だったよ」


「日本で売っているような物はないぞ。すべて、この世界に来てから調達した物だ」




 つくも(猫)の説明では、私が結界があるからと安心して爆睡している時に、つくも(猫)は、森の中の探索をし、財宝が洞窟に置き去りにされているのを発見した。


 その状態から既に100年以上は放置されているようなので、何かの役に立つかもしれないと異次元収納に保管して置いたということだ。


 なんとできるつくもだろう。ちなみにこの収納は時間停止付きだった。




 お金の問題は一気に解決してしまったかもしれない。ただ、この金貨を使ってもいいかはカルミア様と相談した方がよさそうだが……。


 異次元収納が私でも使えるか聞いてみたら、神装力は『使えると認識し、「こうしたい」と思うことで使えるようになる』と言うことだった。


 試しに、(金貨を収納)と思ったら、床にあった金貨が一瞬で消えた……。何これ、めちゃくちゃ便利だ。


 異次元収納に金貨を入れたり出したりしている時に、ドアがノックされた。



次話は明日7時10分投稿

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