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028 第5王子

 



 約束の時間1時間前に、私達はマイアコス王国の国境(とりで)に到着した。


 時計のように正確に時を告げる魔道具はこの世界にも流通している。しかし、高価なため、誰もが持っているわけではない。なので、前後1時間ぐらいのずれは気にしないのが慣例(かんれい)だ。


幸いなことに、ベニザクラ号には時計がある。


 30分ほど待つと、砦の向こうが少しにぎやかになった。馬車が到着したようだ。


 やがて、10歳ぐらいの男の子が、正装をした男2人と、軽装備の騎士5人を引き連れて現れた。


 なるほど、整った顔立ちだ。10歳でこれなら将来はすごい美形男子になるだろう。ただ、ちょっと影があるな。まあ、今の環境がよくない。仕方ないだろう。


 さて、敵は何人だ。『真色眼(しんしょくがん)』発動。


 やはり、全員が色無しか。この力は、こうしたいという具体的なイメージがあれば進化できるはずだ。時間があるときに改良してみよう。




 出迎えは私1人だ。ナツメさんは有名すぎて相手(敵)を警戒させてしまう。


 サクラさんもそうだ。ここは、まだ他国に存在が知られていない新米C級冒険者の出番なのだ。




「マイアコス王国第5王子ジェイドスター様、お待ちしておりました。今回の試練のお世話をさせていただきますC級冒険者のカナデと申します。よろしくお願いします」


 王族対応はしなくていいという確約だが、側近(そっきん)がいるので余計な面倒ごとを起こしたくない。対応は丁寧にだ。


「出迎えありがとう。それから、国境を越えたこの場所では私はただの子どもだよ。丁寧な言葉遣いは不要さ」


 そう言って、ニコッと笑った。


 私は了承の意味でうなずき、近くに突っ立っている側近の反応を待った。


 側近たちは特に何かを言うでもなく、台車に乗せてある少し大きめな木の箱を台車ごと私に押しつけてきた。


 その態度は「荷物運びは新米C級冒険者の仕事だ」という高圧的なものだった。


「……」


 王子の大事な私物である。他人に任せるなんてことがあるはずがない。なら、当然、荷物を運ぶのは側近の仕事になる。どういうことだ。不覚にも頭に? マークを浮かべてしまったその時、


「ああ、説明が不足していたね。この旅のメンバーは私1人だよ。ここにいるのはただの見送りさ」


 えっマジですか。


「わかりました。では、お荷物をお預かりします。ジェイドスター様、樹魔(じゅま)車両にご案内します」


 いかんいかん、王族対応の心得その1、常に冷静にポーカーフェイスで、だった。動揺を何とか抑え込み、その場を立ち去った。


 残った見送り達の反応は、あからさまだった。


 側近2人は、にやっと笑い、「新米C級冒険者ごときが偉そうに」「やっぱり今回の慣例は失敗ですな」「王妃には予定通りですと報告だな」と、ひそひそと相談をしていた。


 神装力(しんそうりょく)第三権限貸与の身体強化舐めんなよ全部聞こえてるからな。


 ただ、護衛の騎士達は、そんな側近2人の様子を見て顔をしかめていた。どうやらまともな思考の持ち主のようだ。


だが、おかげでいろいろな面倒事が全てなくなったぞ。これはこれでありがたい。




 ベニザクラ『白銀』の中に入ると、サクラさんがマイアコス王国正式のカーテシーで、ナツメさんは貴族の礼をして待っていた。


「マイアコス王国第5王子ジェイドスター様、お待ちしておりました。今回の旅の案内人は、サクラとカナデが務めさせていただきます」


 サクラさんがそう言って、軽く膝を曲げて挨拶をした。


「セルビギティウムの姫様。そうかしこまらないでください。身分で言うと、私よりもサクラシア様の方が上ですよ」


 ジェイド様はそう言って、いたずら好きの子ども顔でにやりとした。


「ふふふ、2人ともそこまでにしなさい。ここにいるのは、ただのマイアコス王国の国民と新米C級案内人のサクラだよ」


 ナツメさんも、にやりとしてそう言った。




 セルビギティウムとは、『始まりの大樹(たいじゅ)』の古代エルフ語だ。なので、多言語翻訳君もそのままの発音で翻訳している。


 今から約2000年前に、世界樹を長い休眠状態から解放した『目覚めの杜人(もりびと)』が大樹暦始まりの宣言をした時に、世界樹から名乗ることを許されたと言われている。


 その子孫であるカボーグ家は、この新大陸で唯一その名前を名乗ることができるのだ。


 なので、その名前を名乗るときだけサクラさんは『サクラシア・セルビギティウム』となる。つまり新大陸の姫様だ。




「分かりました。では、ジェイド様とお呼びしますね。私のことはサクラでお願いします」


「はい」


「では、今後の予定を説明しますね」


 サクラさんはそう言って、部屋の隅に置かれていた小型の黒板を取りに行った。


 サクラさんもナツメさんも、王子が1人であることを気にもとめない。さすがだ。




 ベニザクラ号は、今、リムジン型になっている。


 縦長型だと味気ないからと名前を考えていた時に「長い高級車といえばリムジンだよなー」とつぶやいてしまい、シンティさんの「何それかっこいい」と言うことで採用になった。


 黒板を運んできたサクラさんが、そこに書かれていた事を説明し始めた。

   

「まず、入り口の町までの移動になります。私の風に道なので、途中で休憩を入れて7時間ぐらいです。今から出発して、午後5時頃の到着予定です」


 そう言ってからチラリと兄を見る。兄がうなずく。


「入り口の町では、宿は取りません。そのままアルベル湖で簡易宿泊型での滞在(たいざい)になります」


 サクラさんは、ジェイド様の方を見る。ジェイド様がうなずく。


 どうやらナツメさんとジェイド様のお兄さんとで事前に打ち合わせていたようだ。


「その後の細かな打合せは、夕食の後でになります。何か質問はありますか」


 特にないので、みんなが首を横に振る。ただ、ジェイド様は、黒板に興味を持ったようだ。じっと見つめていた。


「出発します」


 御者台に移動したサクラさんがそう宣言すると、ペンテとテネリに引かれたベニザクラ号がゆっくりと動き出した。




 国境の砦から1キロメートルほど進むと、広い草原に出た。グリーンベルトと平行して続いている草原の道だ。


 幅は3000メートルほどある。ここからは、風の道での高速移動が可能になる。


「私、C級になったので高度は10メートルまで上がれるようになったんです」


 サクラさんがはしゃいでいる。


「じゃ、始めますね」


 そう言って、サクラさんは右手を前に差し出した。


「世界樹の枝」


 世界樹の枝が右手に現れた。


「ベニザクラ『白銀』高速移動型になって」


 そう言ってから、制御木琴を奏でる。


「シャラララーン」


 軽快なリズムと共に、樹魔たちの変形が始まる。


 後ろの車軸がそり状に、前の車軸が翼のように平らに広がる。かかった時間は数秒だ。


「風の道」


 頭の上でクルクルッと世界樹の枝を回す。そこに風の渦ができた。


 D級では半透明だった色が、透明に近い桜色に染まっている。


 その渦を、ポンと前に投げると、音もなく薄い桜色に染まった風の渦がスーと100メートル以上にわたって伸びていった。


 そして、ベニザクラ号もその渦に包まれて静かに浮かび上がる。


 すでに、羽を広げた飛行状態で待機していたペンテとテネリも浮かび上がる。


「相変わらずのきれいな風の道だ。しかも、今回はリムジン型のままでそれを成功させるのか……」


 ナツメさんが驚いている。S級を驚かせるなんてやっぱりサクラさんは特別なんだろう。


「発進します」


 衝撃も、音もなく静かに景色が後ろに吹っ飛んでいく。慣性の法則がこの魔法の世界では無効化されている。


 実は、止まる時も、減速無しにピタッと止まるのだ。もちろん衝撃もない。宇宙戦争に出てくる三角の大型母艦みたいだ。


「すごいねこれ、こんなの初めてだよ」


 ジェイド様が10歳の子どもになっていた。流れていく外の景色を食いつくように眺めている。喜んでもらえて良かった。




 高度は地上から10メートルぐらいの所を維持している。


 時速は…… これ、100㎞以上出てるんじゃないだろうか。


 ナツメさんの時よりも速く感じる。ナツメさんもそう感じたのか動いた。


「サクラ、赤色だ、速度違反で訴えられるぞ」


 御者台にある速度を知らせるランプの色を見てから忠告をする。時速が100㎞を越えると赤色に点灯するからだ。


 グリーンベルト沿いの草原では、C級は時速80㎞までという決まりがある。


「すみません。テネリの魔力が思っていたよりも多くて、制御できませんでした」


 そう言って、テネリに何かを語りかけると、すっと減速された。


「全く、サクラの加護は相変わらずやっかいだ」


 どかっと椅子に座ると、やれやれという顔で首を振った。


「聞いてもいいのか分からないんですが、ナツメさんも加護を持っているんですか」


「いい聞き方だね。でも、冒険者にはその質問をしては駄目だよ」


「ああ、はい。すでにラウネンさんにこっぴどく怒られました」


「……」


 なにやってるのこいつという顔で見つめられてから、


「風の道を使えるということは、当然風の加護をもっていることは想像できるよね」


「はい」


「これは、あまり知られていないが、エルフはほぼ全員が風の加護を授かっている。そして、もう1つ魔法も授かる。その証がこの青い髪さ」


 そう言って、自分の青い髪を指さした。


「青は水の魔法が使えるのさ。エルフ以外の種族は違うけどね。」


「サクラさんの桜色は何ですか」


「……分からないんだよ。だから、やっかいなんだ」


 そう言うと、ナツメさんは黙って考え込んでしまった。




 サクラさんの髪の毛は『桜色』だ。入り口の町でこの髪色のエルフはいない。この大陸にもいないかも知れない。


きっと、『資格持ち』『エルフの選択』と何らかの関わりがあるのだろう。つくも(猫)に聞けば何か知っているかも知れないな。でも、何も言わないと言うことは、何か差し迫った危険があると言うことでもない。


 つくも(猫)は神様なので、命に関わる危険でなければ基本無関心だ。まあ、過保護な神様だとやりにくいので、おれとしてはありがたいが……。


 さて、今はこの王子様をどう接待するかに集中しよう。


 側近、護衛はいない。せっかくあおってやろうと思っていたのでちょっと残念だが、砦での感じでは、護衛はまともだぞ。側近は予想通りで笑える。


 王子には、何かを諦めたような影が見える。人間関係が苦手なのは、他人に無関心だからでその気になれば、仕草や言葉尻で大体の感情を読む事ができる。まあ、そのおかげで研究所では、『予算を減らしたい役人』との交渉を押しつけられたのだが……。


今回の旅の目的は、『魔石の確保』と『ひとときの安らぎ』を提供する事になりそうだな。


 つくも(猫)を抱きしめ、窓の外をワクワクしながら見ている10歳の少年を見つめながら、そんなことを考えていた。





次話は明日7時10分投稿

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