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025 カナデとサクラの事

★以降は視点が変わります


 



 つくも(猫)が放った神装力(しんそうりょく)第三権限の力の余波で案内人ギルドの広場に張られた結界がビリビリと震えている。


 その広場の中央には、紅色だが白銀に輝く最新型の樹魔(じゅま)車両が静かにたたずんでいた。


 誰もが言葉を発しない。その神秘的な色に魅入(みい)られていた。




 つくも(猫)は、屋根の上で、んーと前足を伸ばしてから大きなあくびを1つし、香箱座(こうばこずわ)りで目をつぶった。


 一番最初に意識を覚醒させたのは、カルミア様だった。


「カナデ君。神獣(しんじゅう)様が今何をしたのか説明できるかい」


 その言葉でみんなが「はっ」となる。


「シンジュウサマ……」


 そう、この大陸の人なら誰もが知っている。言葉を(あやつ)る強獣は皆『神獣様』と呼ばれていることを。


「ねこパンチで、最初に張った結界を壊しました。そして、新しく神力で結界を張り直したように見えました」


「やっぱりね、私にもそう見えたよ」


「ねこちゃん。『精霊のおねがいだから』って言ってたわ」


 サクラさんがつくも(ねこ)を見る。


「カナデ君。一体どうなっているの。しっかり説明してもらうわよ」


 ツバキさんは、私の肩をつかんでゆさゆさと揺らしながら目をつり上げている。


「いや、これにはギルド機密がいろいろ絡んできて、私の一存では……」


と言って、チラリとカルミア様を見る。


「……わかった、説明は私とラウネンでしよう……」


 しばらく考えてからそう言って、ラウネンさんを見るが、まだ、一歩踏み出したまま固まっていた。


 気持ちは分かるよラウネン。




 ツバキさんからお尻に蹴りを入れられて覚醒したラウネンとカルミア様がしばらく何かを話し合っていた。


 その間に、私はつくも(猫)と念話で詳しい状況を確認する。


(つくも(猫)、どうなているの)


(あいつにたのまれたからな、ふん、まあ、結界はサービスだ)


(あいつって、精霊のこと)


(そうだ)


(何を頼まれたの)


(双子の樹魔とサクラのことだな。守ってほしいそうだ)


(どこまではなしていいの)


(どうせ禁則事項は話せないだろう。なら、話せることは全ていいと言うことだ)


(なるほど、わかりやすいね)




「さて、これから私達が話すことは、ギルドと言うよりももはやこの大陸にとっての最重要機密と言ってもいいことだよ」


 カルミア様がラウネンさんを見た。


「あのアホねこが神獣様というのは、認めたくねえが事実だ。みんなも、とんでもねえ神力を見ただろう」


 ラウネンさんは、くやしそうに屋根の上で目をつぶっているつくも見る。


「じゃぁ、カナデ君は探求者様なの?」


 シンティさんが聞いてきた。


「まあ、そうなるな」


「なるほどね。なら、あのでたらめな力や知識にも納得するわ」


 ツバキさんがうなずく。


「それでだ、いいか、これは決定だ。いいろいろ言うんじゃねえぞ。これから、おまえ達には機密保持のための特別な契約を結んでもらう。この契約をすると、ここで話したことは、このメンバー以外の人間と話したり考えたりすることができなくなる」


 みんなは黙ってしまった。しかし、理解している。もう、どっぷり関わってしまった。逃げられない。


「まあ、なんだ。俺も、伝説級の鍛冶師の事なんて他ではしゃべりたくねえし、ばれていろいろ聞かれるのも面倒だから、話せねえようにしてもらった方が安心だな」


 ずっと黙っていたカルコス親方のこの言葉で、みんなも体に入っていた力が抜けた。


「いいわ、契約するわ」


 ツバキ姉様がそういうと、みんなもうなずく。


「だから、初めから拒否権なんてないんだって言ってるだろ。まったく」


 ラウネンさんからも余計な力が抜けた。




 スクロールに描かれた青白い術式が1人ひとりの頭からつま先までスキャンをするように降りていくと、契約がなされた。


「では、まず、カナデ君のことだ。つくも(猫)君が神獣様であるなら、カナデ君は探求者だ。これは、この大陸の(ことわり)だ。しかし、カナデ君達は、どうやらこの大陸の人間ではないかも知れない」


「ごくり」


 みんながつばを飲み込んだ。


「ああ、カナデたちは、ある日突然、大樹の森の7層より深い場所に現れた。と言うより、何者かの力によって転移されてきた。本人達は、その前のことをはっきり覚えていない。そうだなカナデ」


 ラウネンさんが私を見る。


「はい、転移される前のことを説明しようとすると、頭の中にもやがかかって説明できません」


 嘘ではない。その事は禁則事項らしい。

 

「つまりだ、この大陸のどこかの国のダンジョンから転移してきたのか、この大陸ではない他の大陸から転移してきた……ということだ」


「ごくり」


 また、みんながつばを飲んだ。


「ちょっと、まってよ。大陸移動説が絡んでいるってこと。とんでもないやっかいごとじゃない」


 ツバキさんが取り乱している。


「そうだ。だから、みんなには契約してもらった」


「納得したわ。私達の安全を守るためね」


 ツバキさんがカルミア様を見ると静かにうなずいた。




 大陸移動説は、この大陸では話題にしてはいけない事柄だ。どうやらナダルクシア神国が絡んでいて、迂闊(うかつ)に話をすると粛正(しゅくせい)の対象として目をつけられてしまうらしい。




「次は、サクラのことだよ」


 今度は、カルミア様が話を始めた。


「カナデ君の報告書に、精霊がサクラのことを『資格持ち』と言っていたと書いてあった。そのことで、ちょっと気になることがあったので、トリコン様とルーサス様に話を聞いてみたんだ」


 カルミア様は、サクラさんの方を向いて少し心配そうな顔をした。


「サクラ、今から話すことはサクラの今後を決めるとても重要なことだよ。」


と、前置きをしてから話し始めた。


「精霊のいう『資格持ち』とは、『エルフの選択』ができる資格を持っている。と言うことなんだ。そして、このエルフの選択をしたのは、今から約2000年前の『カロス・エニュオン』様ただひとりなんだ」


『カロス・エニュオン』様とは、大陸暦の始まりを宣言した人物だが、それ以外のことは記録に残っていない。謎の人物だ。


「そしてね、多分だが、世界樹の精霊は、もし、詳しいことが知りたいなら、サクラが10層に来なさいと言っていると思う」


 そう言ってから、カルミア様は、つくも(猫)の方を見て、


「神獣様。精霊のおねがいには、このことも入っているのではないでしょうか」


と尋ねた。つくも(猫)は、黙ったまま、しっぽをピコンとあげた。


「あれは、そうだという合図です。精霊は、サクラさんのことをいろいろ助けてほしいとお願いしたそうです」


「やっぱりね。あの樹魔(じゅま)車両なら、10層に到達できると言うことだね」


 カルミア様の言葉で、みんなはもう一度、紅色だが白銀に輝く装甲を持った最新型の樹魔車両を見た。




「ベニザクラ『白銀(はくぎん)』……」


 パーソンさんが、つぶやいた。


「いい名前ね。ベニザクラ『白銀』これが正式名称で、ふだんは「ベニザクラ号」ね」


 ツバキさんがサクラさんを見た。


「私も賛成!サクラは……」


 シンティさんも手をあげてからサクラさんを見る。


「ベニザクラ『白銀』、それがわたしの新しい(かけ)る力なのね。そして、わたしは大樹の森10層で世界樹の精霊にあって話を聞かなければいけないのね」


 サクラさんが、私とつくも(猫)を見た。


「神獣様、探求者様、私に力を貸してくださいね」


 大樹の森で初めて会った時のキラキラした目ではない、なんだろう、いっしょにいることが当たり前、それが当然という感じのまなざしだ……、そうか、親愛だ、家族なんだ。


「サクラさん、ぼくはC級(ゴールド)スター冒険者です。そして、サクラさんのパートナーです。家族なんですからどこにだって一緒に行きますよ」


 サクラさんは、わたしの『家族なんですから』の言葉にびっくりしていたが、恥ずかしそうに微笑んでから「はい」とうなづいた。


(サクラ、ベニザクラ『白銀』は、神装力第三権限の力で守られている。この星で一番安全な場所だよ)


 サクラさんと私に、つくも(猫)から念話が届いた。


 サクラさんは、一瞬キョロキョロと辺りを見渡したが、直ぐににっこりと笑って、


(ありがとね、ねこちゃん)


と、サクラさんも、念話をつくも(猫)に送った。




「サクラ、本当にいいんだね。10層への到達は、技術的なことだけではなくいろいろなしがらみもあるから並大抵の気持ちでは達成できないよ」


「はい父様、わたし、双子の樹魔を(ゆず)ってくれたことのお礼をしっかり言いたいんです」


 みんなが、「ああ、サクラさんだ」とほっこりしたところで、

 

「さて、カナデ君。もう1つ、君のことだ」


 カルミア様が、ゆっくりと私を見て、半端ない威圧を放ってきた。


 なんだろうこれ、C級スター試験を受けろとラウネンさんに言われた時の雰囲気に似ている。


「サクラと一緒に10層を目指してくれるんだね」


 威圧が高まる。これって、娘を思う父親の威圧ですね。すさまじい。


「はい、サクラさんを10層へ必ず届けてみせます」


 私がそう答えると、威圧が消えて、いつものカルミア様の穏やかな顔があった。


「10層に到達できた人間は、記録で残っている限りまだいない。それは、9層にいると思われるS級の魔物達に対抗できる力がないことと、各国家が牽制(けんせい)し合っていて、お互いの足を引っ張っているからだ」


 権力争い。既得権争い。どこにでもありそうなよくある話だ。


「なので、カナデ君には、探求者を超える存在になってもらい、それらのしがらみを一掃してほしい」


「……」


 それは正直勘弁(かんべん)してほしい。


  サクラさんを10層に届けるだけなら、おれとつくも(猫)で簡単にできそうなんだよな。まあ、9層にいる奴らがどのぐらいの強さかは分からないけど、8層の魔物は今のおれなら多分勝てる。


 しかしなー、それでは駄目なんだろう。カルミア様達が求めてるのは、全ての条件をクリアしての10層到達なんだろう…… でもなあ、それはちょっと面倒そうだ。


「カナデさんですもの、そんなのお茶の子さいさいです」


 ほんと、何でこの言い回し知ってるの。


 サクラさんが一点の疑いもないキラキラした目で私を見ていた。


 この目なんだよ。おれの本来の面倒事には関わらない性格をなぜか前向きに変えてしまうんだ。


 本当に、勘弁(かんべん)してほしい。おれは、基礎研究がしたいんだ。この世界は、基礎研究の宝庫なんだ。1000年位かけてじっくりと調べたい。


「カナデ、いつだったかお前に言ったよな。お前が発見したり発明したりしたいろいろな事を、誰にも文句を言わせないで発表できるようになれと…… これは、それと同じだ」


 ラウネンさんがめずらしく真面目だ。


「カナデ君。あなたと一緒に発明した第3世代次元箱は、このままでは世に出せない。でも、カナデ君が圧倒的な名声と権力を確立すれば、更なる高みも夢ではないんですよ」


 パーソンさんに言われると、その気になってくる。


「あーなんだ、伝説の鍛冶師って言う道もあるぞ」


 カルコス親方、ホッとします。


(おもしろそうじゃないか。普段使っていないおまえの能力を活かせばいいだけだ。簡単じゃないか。それに、俺様も退屈しないですみそうだ)


 つくも(猫)から、まさかの承認念話が届いた。


「カナデ君。みんなが面白がっているけど、サクラと10層を目指すには、君が誰にも文句を言わせない圧倒的な力を示さないと実現が難しいと私も思うわ。つまり、ここでそうしますって宣言するんじゃなくて、それぐらいの気持ちで望まないと駄目だって事だと思うの」


 ツバキ姉様が真面目に(さと)してきた。


 カルミア様、ラウネンさん、カルコス親方、パーソンさんがにっこりとうなずいた。


「ぼく1人では無理ですよ。みなさん、協力してくれますよね」


 そう言うのが、今の私には精一杯だった。




       ★ ★ ★ ★ ★




「ねえ、エル。10層に行くためには、うちに何が足りないと思う」


 シンティが、エルにささやいた。


奇遇(きぐう)だね。実は、ぼくもそう考えていたところだよ」


 エルが、何かを決心した時に見せる鋭いまなざしで言った。


 パーソンが、優しいまなざしでそんな2人を見つめていた。



       ★ ★ ★ ★ ★




(10層にはベニザクラ『白銀』ごと乗り込んでみるか。なにしろ、あの精霊は、一度とは言えこの俺様に負けを覚悟させたやつだからな。そのぐらいはやらないと気が済まないぞ……)


 つくも(猫)は、前足をペロリとなめては顔を前足で洗うを繰り返しながらそう考えていた。






次話は明日7時10分投稿

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