024 お披露目会
サクラさん専用車である最新型の樹魔車両がついに全てが完成した。
次元箱の改良に約2ヶ月かかったので、製造期間は約4ヶ月だ。
それでも、この最新技術がてんこ盛りの動くギルド機密を4ヶ月で完成させてしまうのは、この『入り口の町』の職人、技術者、研究者達の実力がものすごく高いからだろう。
今日は、そのお披露目になる。製造に関わった各機関の代表が集まっている。
場所は、案内人ギルドの広場で最高レベルの結界が張られている。
メンバーは、案内人ギルドのギルドマスターであるカルミア様。冒険者ギルドの所長であるラウネンさん。樹魔車両工場の責任者であるカルコス親方。パルトの店の魔導具師であるパーソンさん。音波研究所の所長であるツバキさん。加工鍛冶術士であるシンティさん。魔道具技師のエルさん。そして、サクラさんと私とつくも(猫)の9人と1匹だ。
内装職人のパルトさんは、無理がたたって自宅療養中とのことである。また、パーソンさんは、なんと、次元箱を発明した探求者の後継者なんだそうだ。
あの知識と技術力に納得だ。エルは、パルトさんとパーソンさん両方の弟子という立場らしい。
「なあシンティ。本当に俺がこの場に居ていいのか」
エルがとんでもないメンバーに囲まれて、オドオドしている。
「何言ってるの。あの、形状記憶樹魔繊維を完成させたのはエルでしょう。あれができたから、次元箱と内装の問題が全て解決できたのよ。大功労者よ」
「でもなあ、あれはカナデのアドバイスがあったからだぞ。樹魔を炭素にするなんていう方法は俺1人じゃ思いつかなかったぞ。それに、形状記憶の調整はツバキさんがいなければできなかったよ」
「それでもよ!いい、カナデ君の事は気にしなくていいの。あの人は何かがおかしいの。気にしたら負けよ」
何かひどいことを言われている。
「まぁーなんだ。それじゃー外装から説明始めるぞ」
カルコス親方が広場の中央に鎮座している白く輝く樹魔車両の前まで歩いて行ってからそう宣言した。
「この形が基本型だ。これが、歩行型、戦闘型、宿泊型、高速移動型に変形するのが今までの樹魔車両だ。だが、この最新型は、さらに変形ができるようになる。このことについてはツバキが後で詳しく説明するだろうから俺はしないぞ」
そう言ってから、30センチ四方の白い板をカバンから取り出した。
「これは、アルマジロ型魔物『まんまる』の鱗を魔力で叩いて平らにした装甲だ。厚さ0.5ミリが10枚重なっているので5センチの厚さがある。この堅さだとA級魔物の体当たりでもへこまない頑丈さだ」
そう言って、その装甲のサンプルをハンマーで思いっきりバンバンと叩いた。
「そして、この頑丈さでありながら、このようにくにゃと曲がるほど柔らかいのもこの装甲板の特徴だ」
親方は、くにゃっと装甲板を曲げて見せた。
「この丈夫で柔らかい装甲が、今回の最新型に使われている。10枚重ねは、戦闘型の時の装甲だ。この最新型なら、きっと8層より深い場所に行けるぞ。とんでもないな」
「次は他の型の説明だ。カナデ、おまえの力をこの装甲に流してみろ」
親方が私に装甲サンプルを投げた。私はそれを片手でキャッチすると、神装力第三権限貸与の力で指に身体強化を掛け、ピンと弾いた。
すると、装甲が10枚にきれいに分かれ、縦5枚×横2枚の平らな装甲板になった。つまり、縦150センチ横60センチの板だ。
「こんな感じに、縦横30センチの装甲がここまで広がる。そして宿泊型の装甲はこの厚さになる……。でだ、この寸分の狂いのない、見事なつなぎ目の装甲にするには、本来なら数百年の修行をしたマスタークラスの職人技だ。それをだ、カナデは2000枚全て同じに揃えやがった」
親方がジトーとした目で私を見た。
「さらにだ、この最新型は今までのどの樹魔車両よりも、丸みを帯びた車体に仕上がった。それは、この寸分の狂いのないつなぎ目だからできた技術だ」
親方がまたジトーと私を見た。みんなも同じように見ている。
サクラさんだけが、
「カナデさんですから当然です」
いつもと変わらない。女神だ!
「はーぁ、次は私ね」
ツバキ姉様。なぜ、ため息から説明に入るのですか。
「私は樹魔が樹魔車軸に変形する方法を教えるのが仕事よ。ああ、形状記憶って言うんだっけ、ねえ、カナデ」
ツバキさんがジトーと私も見た。そっと、目をそらした。
「まあーいいわ。で、今回は双子の樹魔なので、2つの樹魔の動きを同期させなくちゃいけなかったのよ。で、カナデが和音を教えてくれたわけ。それで、大陸で初めての樹魔による同期が完成したわ。あとは、いつもと同じよ。問題なく調整できたわ」
「ツバキ姉様、この間町の楽団の人に聞いてみたら、音が重なるなんて演奏している人なら誰だって知っていると言ってましたよ。研究馬鹿の姉様が知らなかっただけです(私も和音知らなかったけど……)」
サクラさんの援護射撃が入った。ありがとう。
「ふん、いいのよ私は研究一筋で……。ああ、型の説明をするのよね。えーと、基本型、高速移動型、歩行型ね。で、歩行の時は2台に分かれることができるわ。後は、戦闘型ね。ああ、戦闘型も2台にできるわよ。そして、基本型を長細くした縦長型。その縦長型から簡易宿泊型。そしてそして、完全宿泊型ね。今は全部で9つの型になるわ。じゃ、簡易宿泊型だけやってみせるわね。サクラお願い」
そう言うと、ツバキさんは調整木琴をサクラさんに手渡した。
「はい、分かりました」
サクラさんは木琴を左手で支えると、右手を何かを受け取るような体勢にした。
「世界樹の枝 和音」
と、つぶやくと、差し出されていた右手には1本の世界樹の枝が握られていた。
「サクラ号、簡易宿泊型よ」
樹魔車両にやさしく語りかけ、調整木琴を奏でた。
すると、不思議なことに、そこに見えないばちがあるかのように、一本で叩いているのに発する音は和音になっていた。
樹魔達も、直ぐに反応をした。メロデーに合わせて、車輪の軸になっている部分がするすると伸びていく。
太かった麺の塊が伸すことで伸びていくような感じだ。
車輪になっていた部分は1つの輪が12本の尖った触手のようになる。全部で48本だ。
その内の4本ずつ合計16本が、車体を持ち上げながらうねうねと動いて移動する。
残りの触手もうねうねと動いて渦状になる。これで近づく敵に攻撃をしたり威嚇をしたりすることができるようになる。
外装も樹魔の動きに合わせて、重なっている装甲が広がっていく。
演奏が終わるころには、樹魔車両は、横が5メートル、縦が10メートルの車体に変形したのだ。
「これが簡易宿泊型です。中に入って内装もぜひ見てください。パルトさん渾身の作です」
サクラさんが、ドアを開けると、ステップが自動で出てくる。
ここら辺の魔道装備は、エルがアルエパ公国から持ち帰った技術だ。みんなでぞろぞろと室内に入っていく。
5メートル四方のの部屋はそれなりに広い。10人位なら余裕で入れる。
「ずいぶん広いな。これで簡易型かぁ」
ラウネンさんが、あきれている。今までの樹魔車両だと、最大でこれぐらいの広さだ。そりゃぁあきれるだろう。
「この部屋だけで十分過ごせそうね」
ツバキさんが、つくも(猫)を抱きながらぐるりと部屋を見渡してつぶやく。
この部屋は常設設備の部分と簡易宿泊型用に広がった部分が合わさっている。
この体型の時は、食事や打合せなどを全てこの部屋で行うことになるので、追加のテーブルやソファーと簡単な台所が、広がった床から浮かび上がってきている。
「奥が寝室です。その部屋にあるベッドは、パルトさんが作ってくれました」
「パルト最後の作品かー。売れば高く売れるぞ」
ラウネンさんが良からぬ事を考えている。それから、パルトさんは健在です。
「なるほど、二段ベットね。5個あるから10人まで泊まれるのね」
冒険者のパーテーは、大体が3人から5人だ。なので、2つのパーテーが組んでの依頼にも応じられる設備になっている。
「この設備なら、本当に8層の本格的な調査に向かえそうだね」
カルミア様はいつも冷静だ。
「カナデ君、あれもお披露目して」
シンティさんが、私の脇腹をつついてくる。痛いって。
「みなさん、ちょっとこの部屋から出てください。部屋の模様替えしますから」
みんなが期待に満ちた顔でうなずいた。そう、これが本日の主役だ。
「これの説明は、パーソンさんとエルでお願いします」
私がそう言うと、パーソンさんがエルの背中を押して、「任せた」と耳打ちしている。
「無理無理、パーソンさん。お願いします」
「形状記憶樹魔繊維の説明は、エルがやりなさい。この発見は、次元箱の革命になるよ。誇りなさい」
そう言われればやるしかない。うん、エル顔つきが変わったよ。
「わかりました。それでは、まず寝室部屋の設備を収納しますね。2番部屋収納」
そう言って、エルが基本形の部屋の壁に並んでいるボタンの1つを押した。
すると、部屋の床の壁際に広がっていた黒い縄がうすく光だし、それに合わせて床全体がベッドごと下に沈んでいった。
そして、全てが沈むと、その黒い縄がするすると縮んでいき、やがて厚さが3センチぐらいのパネルと同じ大きさになった。。
エルはそのパネルを片付けると、別のパネルを持ってきて床に置いた。
「2番部屋、会議型セット」
エルがまた、別のボタンを押した。
すると、黒い紐がするすると伸びていき部屋の隅まで広がった。そして、淡く光り出し、床ごと会議用の机と椅子が浮かび上がってきたのだ。
「これで部屋の模様替えができました。この黒い縄が僕たちが開発した『形状記憶樹魔繊維』です。この縄は、この大きさからこの大きさまで広がれと例の木琴の曲でセットすれば、その通りに動きます」
そう言ってから、次に、操作パネルの蓋を開けた。中には4つの小型の次元箱があった。
「このサクラ号は、4つのブロックに分かれています。そして、各ブロックごとにこの次元箱が割り当てられています」
エルは、『2番部屋』と書かれているボックスから、パネルを取り出した。
「これが、さっき皆さんが見ていたベッドが収納されたパネルです。この厚さなら1つの次元箱に3つまでセットできます」
「いや、事前に説明はされてはいたけどね。実際に見ると壮観だね」
カルミア様が、めずらしく興奮した表情だ。
「今までの次元箱が第2世代だとすると、これは第3世代と言っていいね。もはや別物だよ」
パーソンさんが誇らしげにエルの方を向いてそう言った。
お披露目会は無事終了となった。ツバキさんが、まだ質問があると粘っていたが、カルミア様に一括されて黙った。
「さて、これからのことを相談するよ」
カルミア様が、真剣な表情でそう告げた。
「見てもらった通りに、サクラ号は当分は公開できないような最新技術が搭載されている。それもだ、軍事転用されたら大変危険な技術もある」
大容量収納の小型化に伴い、次元箱の中に別の次元箱を入れる技術まで備わっている。
他国の軍関係者が知ったら技術を奪うための争いが起きるかもしれない。
「そこで、私とラウネン、そしてトリコン様と相談した結果、当分この技術だけを秘匿することにした」
みんながうなずいた。予想される危険はみんなが感じていたことだ。
「本当はね、サクラ号そのものを封印するべき何だろうが、それだとこれからのサクラのためにならない。そう判断したよ。それと、兄たちがいろいろとうるさいだろうしね」
そう言って、カルミア様はサクラさんの頭を撫でたのだった。
「では、これより冒険者ギルド、案内人ギルドの責任者として私とラウネンが最上級封印結界によって技術を秘匿する処置をする。なお、この術式には、神獣『ルーサス』様の加護も付与されている」
カルミア様が、巻物の封を切った。この中には封印魔法陣が描かれている。
この魔法陣は、魔術師達が何千年という長い年月をかけて改良に改良を重ねて定義した最高峰の計算式を用いて作られている。
そこに、ラウネンさんが手を置いて、自分の魔力を流し込む。
カルミアさんも加護の力を流し込む。
巻物が赤く輝きだし、中に書かれていた魔法陣が空中に浮かび上がった。
やがて、輝きが白銀になったところでゆっくりとサクラ号に向かって移動し、サクラ号がすっぽり入る大きさまで広がると、そのまま下に向かって降りていく。
白銀の輝きが消えると、そこには白く銀色に輝くサクラ号があった。
しばらく、誰も動かなかった。誰もが、白銀に輝くサクラ号を見て、「やりきった」という高揚感に包まれていた。
トットット、軽やかな足音がする。音のする方に目を向けると、ツバキさんの腕の中から抜け出した。猫がいた。
猫は、そのままサクラ号の屋根に駆け上がる。屋根の上で前足を伸ばしてお尻をあげてしっぽをピンと立てて大きなあくびをする。
「かわいい。癒やされる」
そんな言葉が漏れそうな、ほのぼのとした光景だ。
猫は、そのまま、ひょこっと座り立ちをすると、前足を振り上げた。
(あっ、これねこパンチだ)
私がぼんやりそう思っていると、
「ニャッ」
と一声鳴いて、屋根にねこパンチきつめを叩きつけた。
「パリーン」
何かが壊れる音がした。
サクラ号に施された最上級の封印結界が完全に粉砕されていた。
「なあぁぁぁぁぁー」
みんなが現実に戻された。
「てめえ、アホねこ、何てことしやがる」
ラウネンが吠えた。
猫が、後ろ足で耳を掻いた。
「ふざけるなよ」
ラウネンが容赦ない威嚇を飛ばした。
それを猫がしっぽをふって霧散させた。
「てめえ、もう容赦しねえ」
ラウネンが一歩踏み出したとき、
「ちょっとそこでおとなしくしていろ」
つくも(猫)が、前足をちょいと動かして、威嚇返しをする。ラウネンは動けない。
「ねこがしゃべったー」
まあ、こうなるよね。私とサクラさん、カルミア様以外のみんなが固まった。
いったんエジプト座りをしてから、片方の前足をペロペロと2回舐める。
瞳孔が広がり黒目がまん丸になった。
「これは、精霊のおねがいだからな。特別に、この俺様の神力で結界を張り直してやろう」
立ち座りのまま上半身を伸ばし。前足を自由にする。
つくも(猫)の神力が湧き上がる。
ダブルコートの上毛がやや逆立ち、その毛一本一本に光が流れる。
その流れは、コンピュータが計算しているような光景だ。
前足で複雑な魔法陣を描くと、それを空中に浮かべていく、それが重なりまた新たな魔法陣が組み上がっていく。
尻尾を左右に激しく振りながら、耳をピクピクと動かし瞳孔を狭める。ご機嫌な時のつくも(猫)だ。
真ん中に大きな魔法陣、その周りに小さな5つの魔法陣が出来上がると、それが五芒星の形で光り出した。
神装力第三権限の神力が注ぎ込まれる。
神力が高まるにつれて、その波紋が広がり広場全体に張られた結界がビリビリと震えた。
そして、魔法陣は、紅色だが白銀色を帯びた神秘的な輝きを放ちながら、サクラ号全体を包み込むように広がって行った。
やがて、桜吹雪が舞うようなイメージで、術式が霧散していった。
そこには、紅色だが白銀色に輝く、全体的に丸みを帯びたサクラ号があった。
次話は明日7時10分投稿




