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023 製品開発会議

 



 サクラさんはギンギツネ号で配達の仕事をしている。本来は、3層よりも深い場所の配達以外は仕事を受けないのだが、リスタ(新人賢魔鳥(けんまちょう))が樹魔(じゅま)車両を引く練習を兼ねての仕事だ。


 なので、ペンテもいっしょだ。つくも(猫)も護衛としていっしょについて行った。


 私は、シンティさんと内装工房に向かっている。こちらは、テネリとメガロの練習を兼ねてのお出かけだ。


 といっても、樹魔車両ではなく普通の魔鳥車だ。1人乗りなので、私がメガロで、シンティさんがテネリだ。


 テネリは素直で穏やかなので、誰とでも仲よくできる。シンティさんが気に入っていた1番目がテネリだ。


 それに、以外にも体力があり長距離に強い。メガロはなぜか私には絶対服従の姿勢だ。まあ、いいけど……。


 目的地は、樹魔車両工場からさらに北西に2キロメートルほど行った工房区にある、魔道具と内装の店『パルト』だ。


 パルトの店とよばれている有名な工房らしい。そう、店なのだが工房なのだ。


 そして、この工房はいま、第1級ギルド機密保護が発令されていて、堅固な結界で守られている。


 シンティさんはこの工房のお助け技術者なので、専用のパスカードがある。私も、C級(ゴールド)スターのカードがあるので、問題なく入れるのだ。




「パーソンさん、居ますかー。シンティですよー」


 相変わらずの軽い言い回しのシンティだ。


 待つこと10秒、店の奥から30歳ぐらいの男性が現れた。


 白い作業服の上にポケットがたくさん付いているエプロンのような物をつけている。


「シンティ、よく来たね。待っていたよ。それと、あなたがカナデ君だね。噂はいろいろ届いているよ。あなたの不思議な力には、私もすごく興味があるよ」


 とても物静だが、よく通る声だった。そして、澄んだ青玉がぴょこんと頭上に浮かんでいる。


 この人は信用できる。なぜか私はそう確信してしまった。




「えーと、待っていてくれたの。うれしいかも……」


 シンティさんも、この人が好きらしい。


「もちろんだよ。私はいつでもシンティを待っているよ。もちろん、エルもだけどね」


 ん、エルって誰だろう。


「エルも居るの?」


「いや、今は居ない。ちょっとアルエパ公国に行ってもらっているんだ。あと7日位で戻ってくると思うよ」


「うん、わかった」


「今日は見学ということだけど、実はちょっと相談に乗ってほしいことがあるんだ」


「あれのこと」


「そう、あれのこと。ちょと、行き詰まっていてね。エルがいないので、シンティ達と問答(もんどう)をしたいのさ」


「いいよ、いつものことだし。それに、今日は、カナデ君がいるから、きっと、すごいアイデアが出てくるわよ」


「うん、私も期待している」


 なんか、私に対する期待度が大きすぎる気がするが、この人に頼られるのは嬉しい。




 パルトさんは、伝説の家具職人だ。王族が住む家の家具やソファーなどをいくつも制作していて、高い評価を得ている。


 パルトの店は、元々は本当の店だったらしい。今もその名残でパルトさんが作った家具が展示されている。もちろん売り物としてではない。各職人達のお手本みたいな感じで置かれているのだ。


 私がその家具の前に立つと声が聞こえてきた。


(たのしいね)


(ずっとここにいるよ)


 ん、なんだろう、誰の声だ。


 私が首を傾げていると、パーソンさんが、


「聞こえるんだね」


と、嬉しそうにこちらを見ていた。


「気のせいじゃないんですね。パーソンさんにも聞こえるんですね」


 パーソンさんがうなづく。


「うちにも聞こえるよー」


 シンティさんも何故か嬉しそうだ。


「パルトの家具の前に立つと、声が聞こえる人と聞こえない人にわかれるんだよ」


「サクラも聞こえるよ。うちとサクラはここで出会ったんだよ」


 シンティさんさんはそう言って、家具をそっと撫でた。


 詳しいことを、今は話すつもりはないようだ。なので、私も詮索はしない。でも、いつかサクラさんには聞いてみよう。あの声は、どうも気になる。






 私とシンティさんは、そのまま結界内の工房に案内された。『あれ』と呼ばれていたのは、次元箱の事だった。


 今の樹魔車両は、基本型から戦闘型や宿泊型に変形するとき、内装は基本変わらない。


 車両の床面積が大きくなったら、自分たちで次元箱から内装を取り出して設置している。


 しかし、制作中の新型樹魔車両は、それを自動で行えるようにしたいらしい。つまり、すでにセットされた内装が床から浮き上がってくるイメージだ。


 3人で椅子に座り、机上の小型次元箱を見る。


「で、何が問題なの」


「3つある」


「1つ目は、収納口の木枠が床面積と同じ広さまで広がらないんだよ」


「だってこれ、小型じゃない。特大じゃないんだから、収納能力から駄目なんじゃないの」


 シンティさんが容赦ない。


「いや、小型で特大とほぼ同じ容量まで収納できるように改良はできたんだよ」


「……それって、それだけですごいことなんじゃ……」


 シンティさんが固まってしまった。


「えーとね、言いにくいんだけど、今回はものすごく貴重な素材が自由に使えたからね。普通は、この素材だけで樹魔車両を数台作れるね。きっと……」


「あー、なるほど、納得したわ。で、2つ目は?」


「もし、収納口が広がっても、そのままだと内装が落ちちゃうんだよ。それに、人は落ちないけど、何もない空間に浮かんでいるような感じになってしまう」


「それ、落ち着けないわね。居住空間として駄目ね。で、3つ目は何」


「膨大な魔力が必要になる。つまり、もって3日で魔力が枯渇(こかつ)する」


「ダメダメじゃんそれ、致命的よ。案内人の仕事って、内容によっては数ヶ月の期間になるわよ」


 シンティさんが椅子から立ち上がり机をバンバン叩きながら抗議している。


「そうなんだよ。だから困っている」


 パーソンさんは、冷静だ。


「もう諦めたら、今までの方法でもいいじゃない。小型で特大までの収納ってことだけで十分な成果よ」


 どかっと、乱暴に椅子に座り直したシンティさんが投げやりに言い放った。


「それがね、パルトがやる気になっているのさ」


「えっ、パルトさん仕事できるようになったの」


「あーまあ、なんとかね。とにかく、サクラ嬢ちゃんのための最後の大仕事だって言ってね、聞かないのさ」


「わかったわ。これは絶対に何とかしなきゃいけない案件ね。と言うことでカナデ君後は任せたわ」


シンティさんはいつもの軽い話し方ではない。やはりこちらが素だ。まあ、何か事情があるのだろう。


 さて、ここで私に振るのか……とも思うが、実は今の話を聞いていていくつかのアイデアがすでに浮かんでいた。




 私は工房の中を見渡して、隅に目的の物があることを確認すると、そこに歩いて行って聞いてみた。


「パーソンさん、この板に色を塗ってもいいですか」


 パーソンさんがうなずいたので、腰につけている携帯型次元箱から深緑色のペンキを取り出して、刷毛で直ぐに乾くように薄めに色を塗った。


 板の大きさは、縦90センチ横180センチのコンパネぐらいの大きさだ。色を塗ったその板を机の上に置いて、箱から白く細い小さな棒を取り出した。




「で、その板とその白い棒は何なの」


 黙って私がやることを見ていたシンティさんだが我慢できなくなったのか聞いてきた。


「ジャーン。これぞ研究者が待ち望んでいた、何度でも、書いて消すことができる道具です。名前を、緑色だけど『黒板』と言います。そして、この白い棒は『チョーク』です」


 それがどうした。という顔のシンティさんとは違い、パーソンさんは、おどろいたように聞き返してきた。


「カナデ君。本当に何回でも書いて、消せる(・・・)のかい」


 やはり、パーソンさんは消せるという部分に強く反応している。


「はい、消すときには粉が舞うので、粉塵(ふんじん)が気になる場所では使えませんが、それ以外ならできます」


「それはすごい発明だね。まさに待ち望んでいた物だよ」


 研究職のパーソンさんには、これの恩恵(おんけい)が理解できるようだ。こんど、しっかりペンキを塗り込んだ物を進呈(しんてい)しよう。




 この世界は、鉛筆やホワイトマーカー等、書いて消すという文化がまだ無い。紙もインクも大量生産はされていないので、書く時は消さないことが前提(ぜんてい)となる。


「では、始めようか」


 私は、黒板をテーブルからよく見える位置に立てかけて、そこにチョークで3つの問題点を書き出した。


「3つ目の消費魔力の問題だけど、これは別の専門家達と相談するでいいね」


「ああ、たぶんエルが何かいい解決策をつかんで戻ってくると思うよ」


 パーソンさんがうなずきながら、黒板の文字を興味深そうに見ている。


「では、1つ目ですが、パーソンさん、高ランクの冒険者達は、大型の魔物を持ち帰る時に特大の次元箱を用意しますよね。それって、どれぐらいの容量で取込枠はどこまで広げられるんですか」


「一番大きい取込枠が、確か2メートル×3メートルだね。容量は、まっすぐが20体ぐらい入るかな」


「では、今回の改良型はどのぐらまでいけそうなんですか」


「理論上は、5メートル×5メートルまではいけるはずだよ。容量は5の3乗かな」


 おいおい、3乗の収容量と言うことは、125立方メートルの容積だぞ。小学校の教室位か、なるほど特大とほぼ同じだ。


「すごい容量ですね……えーと、枠は後2メートルですね。それぐらいなら、枠を延長すればいいんじゃないですか」


「箱が小型だから、枠がはみ出してしまうんだよ」


 ちなみに、枠板の素材は特別な樹魔(じゅま)である次元樹(じげんじゅ)だ。


「なるほど、重ねたり棚に置いたりする時に邪魔になりますね。せまい樹魔車両の中では駄目ですね」


 黒板に問題点を書き出していく。箱からどのぐらいはみ出すのかを、絵に描いて確認する。3人で思いついたことを、その周りに書き込んでいく。




「これ、はみ出すと言うより枠の上に箱が乗っているような物ね」


「そうですね。やっぱり、今までのような板状では駄目ですね」


「普通なら、板が駄目なら縄よね。でも、樹魔だと縄にはできないわね」


「その事なんですが、シンティさん。服は糸で編んでありますよね。その糸って植物から作られるんですよ」


「麻とか綿のことね」


「ええ、樹魔も一応植物に分類されますよね」


「ああ、なるほど、繊維ね」


「はい、紙も植物から作られます。活動停止状態の樹魔なら、繊維状にできるんじゃないかと思うんですよ」


「その通りよ、なんとなく、できそうな気がしてきたわ。エルが帰ってくるまでにいろいろ実験してみるわ」


 方針は決まった。シンティさんの目が燃えている。技術者魂に火が付いたようだ。


 そしてもう一つ、前の世界にあった形状記憶合金が、樹魔が変形を覚えることと似ていることに着目してみた。ただ、これはツバキさんの協力が必要になりそうなので、ここでは黙っていよう。


 パーソンさんは、議論している私達を嬉しそうに見守っていた。




 2つ目の問題については、5メートル×5メートルの床の上に内装を設置して、そのまま床ごと収納すればいいことになった。


 一段落すると、シンティさんが黒板を撫でながら、


「この板とこのペンキ、それにチョークだっけ、これ使えるわ。どこかで販売しないの」


「実はこのペンキ、ロスナールさんが苦労して作ってくれた物なんですよ。だから、販売するなら相談ですね」


 ロスナールさんとは、紙工房の職人だ。そして「絶対売れるからやりなさい」というシンティさんの命令は、きっと実行されることになるだろう。そんな予感がする。






次話は明日7時10分投稿

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