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017 世界樹の精霊

 



 真っ白な世界だ。この景色には見覚えがある。


「気をつけろ。俺様より力が強いやつが来るぞ」


「えっどうして分かるの」


「時間停止の規模だ。俺様よりも遙かに強く広く正確だ」


 パチパチと光る発光体が瞬時にやってきて私たちの目の前でピタリと停止した。


「色はあるか」


「ない」


「ちっ 敵か味方か決めかねているってところか」


 つくも(猫)が背中を丸め「フー」と体中の毛を逆立てる。


 すると、体から火花が飛んだ。すると、相手もパチパチと光り反応をする。




 あれ、これ、あの時の光の会話と同じじゃない。私は、高次元空間で神様とあった時のことを思い出していた。


しばらく背中を丸めて「フー」と言いながら、やんのかステップでパチパチとやり合っていたつくも(猫)が、威嚇をやめて尻尾をピンと立てた。


「おい、あの光にイメージを送れ。多分実体化する」


「えっ、どんなイメージ」


「あの時と同じだ、神様のイメージでいい」


「分かった……神様かー」


 どんな神様かなーと考えていた時にサクラさんをチラリと見る。サクラさんは色を失い止まったままだ。


「サクラさんなら、女神だなー」


とぼんやり考えていたら、いきなり発光体が実体化した。サクラさんに何となく似ている美しい女神の姿になった。


 やってしまった。




「うわー。声出るわ。体もある。あっあなた、私が見える? 声聞こえる?」


 立て続けに質問されてしまった。ウンウンと縦に首を振っていたら、


「この体便利ねー。ねこちゃんの言う通りね。これなら会話ができるわ」


 つくも(猫)を抱き上げてお手柄お手柄と頭をなでていた。


「ねこちゃんに聞いたわ。私の子ども達をいじめに来たんじゃないのね」


 ん、子ども達……。


「あ、私は……そうね-。世界樹の意志って感じかな。まあ、面倒だから『世界樹の精霊』とかにしておいて」


と言って、パチンとウインクをした。お茶目な精霊らしい。


「分かりました。それで、子ども達って、あの樹魔のことですか」


「あなたたちは『樹魔(じゅま)』って呼んでいるのね。まあ、呼び方は自由でいいわ。そうよ、樹魔は私の子ども達よ」


「それじゃぁこの森の木は、みんなあなたの子どもなんですか」


「違うわよ。樹魔は他の木とは違う種族よ」


「……詳しく」




「うーん。そうねえ。えっとね、私というお母さんがいるの。そして、この子達は私のかわいい子ども達なんだけど、ときどき、やんちゃって言うか好奇心が強い子達が出てくるのよ。そして、そういう子は、私の言うことを聞かなくなってくるの。反抗期ってやつね」


「…………」


「そしてね、私から離れたーいていう気持ちが強くなると、私の根から離れて1人で行動できるようになってしまうのよ。まあ、早い話が家出ね」


 樹魔は反抗期の家出息子と娘でした。


「それじゃー森にいる木魔(もくま)達もみんな家出息子と娘なんですか」


「木魔に意志はないわ。ただの魔素の塊よ。見た目が似ているから勘違いしているのよね。人族は……」


「あのー。今の話私にしちゃってよかったんですか」


 しっかりとつくもを抱いたまま頬ずりをしている女神様を見ながら恐る恐る聞いてみた。


「別に秘密じゃないからいいわよ。みんなに教えてもかまわないわ。あなたの自由にして」


「慎重に検討させて貰います」


「ところで、あの子……。サクラちゃんだっけ、あの子、エルフで風使いの子ね……」


 女神様は、動かないサクラさんに近づきまじまじと見てから


「しかも……エルフの『資格持ち』ね。会うのは久しぶりだわ……」


と、つぶやいた。


 ん、『資格持ち』加護のことかな。確か、他の人の十数倍だったよね。


 女神様はサクラさんから視線を外し、くるりとこちらに振り向いた。


「うん、サクラちゃんかわいい。気に入ったわ。たしか、強い子を探しに来たのよね。それも同じ性格の子を……」


 そして、手招きをしながらこう続けた


「私のとっておきの秘蔵っ子をあげるわ。しかも、双子よ」




 しばらくすると、白い世界にボワーとした樹木の影が浮かび上がった。


 その影がゆっくりとこちらに向かってくる。やがて、輪郭(りんかく)がはっきりとしてくると、もう一つ同じ形が続いているのに気がついた。


 樹木が2本、歩いてこちらに向かってきた。そう、木が根を使って歩いて来たのだ。


「この子達も、好奇心があって冒険に出たいと思っている子よ。でも、責任感も強いからなかなか家出する決心がつかないでいたのよね。この子達連れて行っていいわよ。本人達もやる気満々だから、きっと役に立つわ。それに、とっても強いわよ」


 女神様はちょっといけない顔でにこりと笑った。


「ありがとうございます。サクラさんもきっと喜ぶと思います」


「そうね、サクラちゃんとはまた会うことになると思うわ。楽しみにしてるって伝えて置いてね」


「わかりました」


 女神様はつくも(猫)をなごり惜しそうに地面に置いて、耳元で何かをささやいてから、


「じゃ、その子達のことよろしくね」


 そう言ってフッと消えた。その瞬間、周りの景色に色が戻った。時が動き出したのだ。




 サクラさんにも色が戻った。きっと、何が起こったのか全く分からないだろう。突然目の前に双子の樹魔(じゅま)が現れたのだ、


「うっひゃぁー」


 サクラさんが悲鳴を上げた。




 サクラさんには、今あったことを大まかに伝えた。詳しいことはもう少し落ち着いてから話そうと思う。なぜなら、オロオロしながら、


「よろしくお願いします」


と、全く違う木に頭を下げているからだ。




 ギンギツネ号には、意思疎通ができた樹魔を連れ帰るための次元箱が積まれている。今回は、2体の予定だったので2つある。


 次元箱は、入り口の大きさの物しか収納できない。また、生物も入らない。樹魔達も、生物として認識されるので本来は入らないのだが、何故か体の一部を出した状態でなら収納ができる。


 さすがに枝を張ったままでは2体の収納はできないので、何とか枝を丸めて貰うようにサクラさんがお願いをすると、すんなりと枝を丸めてくれた。


 意思疎通には問題なさそうだ。どうやら、優等生らしい。


 時間は11時頃だ。このまま5層の千年樹の森の入り口まで戻ることにしたのだが、母に何か言われたのだろうか、どの子もみんな直立不動で敬礼をして見送ってくれた。


 今日は、千年樹の森入り口での野営になる。入り口の町を出発して3日目だ。


 その夜、サクラさんに今日あったことを詳しく説明した。


 世界樹の精霊の事、風使いと呼ばれた事、資格持ちのこと、次にあうのを楽しみにしている事、双子の樹魔の事、木魔と樹魔は別の種族であることの全てだ。


 サクラさんは、何の疑いもなく全てを受け入れた。


 こんなサクラさんだから、隠し事はできるだけしたくない。


 そして、カルミア様とラウネンさんにどう報告するかも話し合ったが、結局全てを正確に話した方がよいだろうという結論になった。


 今回の樹魔捜索は往復5日捜索に5日の10日間の予定で計画されていたが、3泊4日で成果を上げてしまった。後は帰るだけだ。







 ラウネンさんは、あまりに早く帰ってきた私たちを見てボーとしている。


 今がチャンスとばかりに、千年樹の森であったことを口頭で報告したが、話の途中で覚醒(かくせい)したラウネンさんに、報告書にして明日提出しろと怒鳴られた。


 理不尽極(りふじんきわ)まりない。プンプン。


 頭にきたので、徹夜で報告書を書き上げ提出した。日本の貧乏研究者を舐めるなよ。


 報告書を見たラウネンさんがまた、頭を抱えていたが、知ったこっちゃない。さっさと退室させてもらった。




 サクラさんはどうなったのかが気になったので、案内人ギルドに行ってみた。


 食堂には毎日来て食事を食べているが、ギルドの中に入るのは久しぶりだ。


 案内人ギルドの中には、案内人達がちらほらといて、冒険者と打合せをしたり掲示板を見ながら次の仕事を探したりしていた。


 私は、受付に行きサクラさんのことを尋ねてみることにした。


「すみません。カナデですがサクラさんが今どこにいるか知っていますか」


 受付嬢は、書類に印を押している手を止めてから顔を上げると、いつものことだというような雰囲気で、


「ああ、サクラさんなら、連れてきた樹魔と散歩に行ってますよ」


と、にっこりと笑って教えてくれた。


「……それってここでは普通なんですか」


「ええ、時々見かけますよ。ただ、双子の樹魔はかなりめずらしいですけど……」


「気にするところがそこなんですね……。分かりました。それで、どこへ散歩に行ったか分かりますか」


「ええ、賢魔鳥(けんまちょう)のギルド牧場だと思いますよ」


「ああ、なるほど、分かりました。行ってみます」




 賢魔鳥は、鳥型の魔物だが、とても大人しくて賢いので案内人達にとっては貴重な存在だ。


 そして、足腰も強く持久力もあるので樹魔車両や魔鳥車を軽々と牽引(けんいん)してくれる。


 なので、賢魔鳥は案内人からも冒険者からも頼りにされ大事にもされている。


 そんな、賢魔鳥達が仕事がない時に安心して過ごせるために広い牧場がいくつか用意されている。


 私が向かうのはカルミア様の屋敷の裏にあるギルド牧場だ。広さは野球場が3つぐらい入る大きさだ。


 その中を、のんびりと賢魔鳥達が過ごしている。


 双子の樹魔は、直ぐに見つかった。遠くからでも、背丈が3メートルあればやはり目立つ。


 樹魔の側には、ペンテもいる。サクラさんは……と探すと、少し離れたところで誰かと話をしていた。


 サクラさんは、私が近づいてくることに気がついたらしく、手を振ってこちらに向かって走ってきた。


「カナデさん、どうしたんですか」


「サクラさんを探していたんです。森でいろいろあったから、大丈夫かなと思いまして」


「心配してくれたんですね。ありがとう。一晩寝たら全て吹っ切れました。それに、こんなにいい子達が私の所に来てくれたんです。ワクワクしています」


 はい、サクラさんはこういう性格でした。心配はいらなかったです。


「ところでさっき話していた人は誰ですか」


「ああ、スハイト湖牧場の管理をしているアナトレさんよ。こんど私専用の樹魔車両ができるでしょう。ペンテみたいな賢魔鳥がいないか相談してみたの」


「で、どうでしたか」


「だめね、ここにはいないわ。だから、いつか1層か2層に見つけに行くことになるわね」


「なるほど、その時は一緒に行きますよ」


「もちろんよ。頼りにしているんだから」


 サクラさんはコロコロと笑った。




次話は明日7時10分投稿

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