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014 サクラの配達




「おい貴様、どんな卑怯な手段を使って、トップ合格を俺から奪っていった」


 昨日の嫌な予感が当たってしまった。私が、D級冒険者カードをC級スター冒険者カードに更新するために立ち寄った中で、そいつに会ってしまった。




「俺は知っているぞ。おまえはカルミア様のお気に入りらしいじゃないか。しかも、冒険者登録をしてまだ3ヶ月のひよっこだ。そいつに、B級の実力があるこの俺が負けるなんて、どう考えてもおかしいだろう。何か、不正があったに決まっている。さあ、何をした、白状しろ」


 あーあ、B級の実力の持ち主がずるしてC級試験を受けたって白状しちゃったよ。こいつ、頭悪いな。


 私が黙っていると、相手は腰の剣に手を掛けた。




 ぴょこんと赤玉が相手の頭上に浮かび上がった。


 赤玉か、殺す気はないらしい。でも、痛い目には合わせてやるという気が満々だ……さて、どうするか。


 私が対応を決めかねている時に、


「おい、そこまでにしとけや」


 ラウネンさんが登場した。




「カナデは不正なんぞ一切やっていないぞ。それは、3人の試験官とトリコン様、サルーサ様が宣言したはずだ。それにだ、おまえの本国もこの結果を受け入れている。おまえは、本国の意向に逆らうのかい」


 ラウネンさんが畳みかける。


「ふん、俺は認めないからな」


 イローニャは、形勢不利と悟ったのか、お決まりの捨て台詞を残して出て行った。




「すまんな、あいつがおまえを探していたのは知っていたんだが、あいつがおまえに危害を加えようとしない限り、俺でも出て行けとは言えなかったんでな」


 ラウネンさんが、頭をかきながら、ちょっと真剣になって言葉を続けた。


「あいつ、本気で剣をぬいたと思うか」


「ええ、ラウネンさんが止めなければ、抜いていたでしょうね」


「そうかー。でも、おまえ強いからな。外で襲われたら逆に相手をボコボコにしそうだな。やり過ぎるなよ。ストラミア帝国はしつこいぞ」


 と、背中をバンバン叩かれた。痛いです。


「さて、カードの更新だな。俺の部屋に来い。やってやる」




 何回も呼び出されてお説教をされたなじみの部屋だ。おれ、どんな問題児なの。


「ほれ、カードよこしな」


 カードを渡すと、受付の奥の部屋にあった物と同じ四角い箱の上にカードを載せた。


 そして、カードの下に『五芒星(ごぼうせい)』の形が描かれた紙を置いて、例の棘を渡してきた。


「血を一滴垂らせや」


 カードの穴に血を垂らすと、まず、カードの色がD級の黄色からC級の青色に変わった。そして、五芒星の形が青色の中に金色に浮かび上がった。


「ほれ、終わりだ。この星形がスター冒険者の証だ。そして、金色は歴代最高記録更新の色だ。どうだ、かっこいいだろう」


 何故かどや顔で、出来上がったカードを手渡された。




 確かにかっこいいかも、この五芒星は日本のアニメにもよく登場していたなよな。この入り口の町も、樹魔(じゅま)の壁で正五角形に囲まれているしなー。この形にも何か意味があるんだろう。


 さて、これでしばらくおれは自由だ。教官の仕事も断った。引き留められたけど冗談じゃない。おれにやることがある。


「ふふふ、基礎研究のやりたい放題を始めるぞ」


 入り口の町は正五角形だ。大樹の森への出入り口はその五角形の頂点にある。冒険者ギルドからだと『()木戸(きど)』か『(すい)の木戸』が一番近い出口になる。


「持ち物確認。ノートある。鉛筆ない」


 そうなのだ、鉛筆がなかった。あれ便利なんだよなー。いつか作るか。


 仕方ないので万年筆で代用する。


「お昼のお弁当と細々とした観察用品もすべてアイテムボックスの中に入っているぞ。準備は万全だ」


 移動は、身体強化を掛けて走って行く。魔鳥車を使ってもいいが、おれの場合は走った方が速いのだ。




 今日は様子見だ。一番近いメーロ湖周りの森の調査に向かおう。


 メーロ湖は入り口の町の東側にある。水の木戸が一番近い。そこまで約20キロメートルなので、時速30㎞で走れば40分で到着する。


「さて行くか」


神装力(しんそうりょく)第三権限貸与(たいよ)開放 神装身体強化発動」


できるだけ人がいない場所を選んで駆け抜ける。


 調子に乗って速度を上げたからか、結局30分で到着した。多分トップレベルのマラソン選手の倍ぐらいの速度だっただろう。




「ダメダメ、C級の冒険者は、単独では森に行けないよ。樹魔(じゅま)車両かB級冒険者と一緒なら大丈夫だよ。誰か知り合いはいるのかい」


 はい、ちょっと考えれば分かる事でした。その通りです。


「カナデさんじゃないですか。こんなところで何をしているんですか」


 樹魔(じゅま)車両の知り合いが現れました。ギンギツネ号君です。







 ギンギツネ号の中には(つくも)がいた。


「サクラさんの制服姿、久しぶりに見ましたけど、やっぱりよく似合っていますね。それで、今日は、どこまで配達に行くんですか」


 私がつくもの背中をなでながら聞くと、


「3層のセーロ湖待避場所よ。そこへお届け物よ」


「D級案内人では危険なところなのですか」


「うーん、C級冒険者が護衛についてくれば大丈夫かなー。ただ、4層が近いから、できればC級案内人が安全ね」


 今のサクラさんは、そのC級案内人だ。なるほど、依頼されるわけだ。


 配達の仕事は、基本E級、D級の案内人の仕事になっている。E級は主に町の中の配達を請け負い、D級は、町の外だ。


 ただ、風の道を使える案内人は人数が限られている。


 サクラさんは、C級になったのでもう配達の仕事は卒業だ。今、E級の風使い達が厳しい訓練を受けているらしい。将来、サクラさんみたいになりたいと頑張っている。


「冒険者ギルドからの荷物です。中型が5箱、大型が1箱です」


 セーロ湖の待避場所には、5人位の冒険者と2人の冒険者ギルド職員の制服を着た男性がいた。


「サクラさんありがとう。待っていたんだよ。この荷物」


 2人の冒険者ギルドの職員が、走ってきた。よほどの急ぎの荷物だったらしい。


「遅くなってしまってすみません」


 サクラさんが申し訳なさそうに言うと、


「いやいや、本来ならC級になったサクラさんに頼める依頼じゃないんだが、今の案内人ギルドの中では最速がサクラさんなので無理を言わせてもらったんだよ。すまないね」


 2人の職員は平謝りだ。


「気にしないでください。パートナーとの初仕事になりましたから、丁度よかったです」


 サクラさんが私見て嬉しそうにそう言った。


「おお、歴代最高記録を更新した、噂の彼だね。ずいぶん若いけど、実力は証明されているからね。サクラさんのことよろしく頼んだよ」


「はい、任せてください」


 私が力強くそう言うと、2人の職員はやさしく微笑んだ。


「ギルドに持ち帰る荷物はありますか」


「ああ、あの冒険者が頼みたいそうだよ」


「初めまして、おれ、C級冒険者の『ドリット』と言います。C級スター冒険者のカナデさんですよね。ここで会えるなんて感激です」


 おや、私に対しての態度が妙に丁寧だぞ。何だろこれ。


「…………」


 私が困惑していると、


「カナデ君、君がやったことは、みんなに誇っていい偉業だよ。それに、サクラさんも救われた。みんなが感謝している本当によくやってくれた。ありがとう」


 2人のギルド職員が見守るような目で私たちを見ていた。




 サクラさんが試験勉強のために休んでいた間に、深い層への配達業務がずいぶんとたまっていたらしい。つくも(猫)は、カルミア様が頼んだ護衛だ。


 今回は、案内人の仕事ではあるが、配達の方なので私には声がかからなかったようだ。そして、パートナーとしての初仕事だと喜ぶサクラさんを見ていると偶然とは言え出会えてよかったと思う。


 でも、うっ、なんか罪悪感が……。


「カナデさん、私のことは気にしなくていいですよ。猫ちゃんと一緒にいられる貴重な時間ですから。1人でも大丈夫です」


 あなたはエスパーですか。なぜ、私が考えていることが分かるのでしょう。




 ドリットが頼んだのは、素材が入った中型の次元箱だった。その荷物を荷台に積み込むと、サクラさんが腕を背中側で組んだ姿でくるっと振り返った。


「『カナデさんが冒険者になったら私が案内人をします』って、前言いましたよね。その通りになりましたよ」


 そのままの姿で少し腰を折り曲げ、キラキラした目で私を見つめながら、


「カナデさん、どこか行ってみたい場所はありますか。C級案内人のサクラが最速でご案内しますよ」


と、満面の笑みを浮かべて私に言った。


 この笑顔なんだろうな、おれが基礎研究よりも試験を優先した理由は……。


 サクラさんにはかなわない。全面降伏だ。しばらく、基礎研究はサクラさんと相談してからやることにしよう。これからは、サクラさんのパートナーとしての役割をしっかりと果たすことになりそうだ。でも、いやじゃない、うん、すごくワクワクしている。




 どうやら、頼まれた荷物は急ぎではないらしい。ならば、ここは甘えよう。


「実は、少し気になっているところがあるんです。4層西側の『万年樹(まんねんじゅ)の森』の入り口なんですけど。ちょっと遠いですね」


「万年樹の森入り口の方ですね。ここからだと300キロぐらいです。風の道で2層を高速移動すれば、3時間ぐらいですね」


「今が10時だから、着くのは1時頃か。サクラさん、お昼はありますか」


「はい、お弁当持ってきています」


「私もです。なら、大丈夫そうですね」




 C級になったサクラさんは、大樹の森の中なら速度制限はなくなるのだ。D級は、時速80㎞までだが、C級は樹魔(じゅま)車両の性能と風使いの加護の力次第でいくらでも速度が出せる。


 ギンギツネ号は、カルミア様専用の樹魔車両として作られた。なので、性能は折紙付(おりがみつ)きだ。




 本当に2時間半ぐらいで目的地に着いた。時速にして120㎞ぐらいは出ていただろう。


「ここに何があるんですか」


 サクラさんが蔓だらけの岩を見ながら不思議そうに尋ねてきた。


「試験勉強の時に、大樹の森の歴史や史跡の分布について調べたんですよ。そうしたら、万年樹の森の入り口にたくさんの穴が空いた石ががあったという記述が残っていたので、いつか調べてみようと思ったんです」


「穴が空いた石があったんですか。ここは、時々来ている場所なんですが、うーん気がつかなかったです」


「万年樹の森は、確か次元箱の素材になる次元樹(じげんじゅ)が生息しているんですよね」


「はい、時々、案内人ギルドに素材運搬の依頼が入りますよ。ただ、素材が取れる場所は、7層の奥になるので私は入ったことがありませんが……」


「その入り口にある穴が空いた岩ですからね、その穴にも何か意味があるんじゃないかと思ったんですよ」


「なるほど、確かにそうですね。でも、どの岩なんでしょう。たくさん……同じような岩がありますね」


「記述には、たくさん穴が空いた岩があった……ですからね。それに、だいぶ古い資料だったので、もしかすると(つた)に埋もれているかもしれないですね」


「それならその草、風で吹き飛ばしちゃいましょう」


「世界樹の枝」


 サクラさんがそう言って、木の枝を右手に握ると、


「渦で切り裂け」


とつぶやいた。


 すると、カサカサと周りの木の枝が揺れ始め、やがて風が渦のように空に巻き上がった。小さな竜巻だ。


 竜巻は、岩の上にびっしりと巻き付いていた蔦を高圧洗浄機で洗い流すように剥ぎ取っていった。


「これ、魔法じゃないんですよね」


「ええ、加護の力よ」


 草がなくなった岩には、確かに穴が不規則に並んでいた。


 その穴の位置をじっと見る。ふと、あることに気がついたので、岩から離れた場所に移動してそこから全体を見渡してみる。


 そこには、日本でよく見ていた楽譜があった。5本線はないが、頭の中で線を引いてみると、穴の位置がぴったりと音階と一致した。


 これ、『神楽(かぐら)』なのかも知れないな。時間がある時にじっくり研究してみよう。


 そう思い、その楽譜を紙に書き留めた。


 サクラさんは、私の作業のじゃまをしないようにと、つくもと一緒に岩の上をピョンピョンと跳びはねていた。


 もしかすると、同じような石がまだあるのかもしれない。いつか、調べに行けるといいのだが……。







「カナデ、サクラ戻ったか。お前らに依頼だ。依頼主は案内人ギルドのギルド長だ」


 ラウネンさんが、私たちの姿を見つけるなりそう言った。


「父様ですか。どんな依頼ですか」


 サクラさんが不思議そうに首をかしげる、


「何言ってんだサクラ、おまえに関係があることだぞ。おまえ専用の『樹魔(じゅま)車両』をつくるって聞いていなかったのか」


「えっ、それって私がB級になってからの話じゃなかったですか」


「そうなのか。でも、車体の素材が集まったから、後は車軸になる樹魔を選んでくるだけになったって言ってたぞ」


 よく分からないからと、私たちはカルミア様の執務室に行くことにした。


「父様。私専用の樹魔車両をつくるって聞いたんですが……どういうことなんでしょう」


「ああ、そのことか。それがな、ランダナとナツメがな、C級合格祝いにと、樹魔車両の素材を大量に送ってきたんだよ。それも、カルコスの工房宛てにな……」


「……」


 サクラさんは無言で天井を見た。


「事情は、全て分かりました。ふー、ランダナ兄さんもナツメ兄様も相変わらずですね。そういう事情ならもやは手遅れですね。この話、このまま進めましょう」


「カナデさん、依頼内容は樹魔車両の車軸になる樹魔の確保です。そして、今回は私と相性がいい樹魔を2さがすことになりそうです。目的地は、6層奥の『千年樹(せんねんじゅ)の森』です」


 出発は、サクラさんの準備があるので、3日後になった。






次話は明日7時10分投稿

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