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013 試験の裏事情




「わっはははっははー。カナデ、サクラよくやった。文句なくのトップ合格だ。そして、どちらも歴代最高記録更新だ。ふふふふふふ。これで、あのいけ好かない大臣のふざけた要求も無視できる。いやー愉快愉快」


「ラウネンさん。ありがとうございます。これも、皆さんのご指導のおかげです」


「何、改まっているのよ。若いんだから、もっと、こう、パーとはしゃぎなさいよ」

  

 フェロンさんが、私の背中「バンバン」叩きながら(から)んでくる。


 いや、はしゃぎたくてもラウネンのテンションが高すぎてついて行けないんですが……。


「ところでラウネンさん。さっきから繰り返している、『大臣の無茶な要求』て、なんですか」


 少し気になってきたので聞いてみた。


「あ、それ、わたしもさっきから気になっていました」


 隣でつくも(猫)のお腹をなでていたサクラさんが顔を上げた。


「そうだな、お前らが気にして実力が出せなくなるなんて事はもうないな。それに、いろいろ周りがうるさくなるかもしれないし、知っておいた方がいいか」


 ラウネンさんは、カルミア様の方をちらっと見て、カルミア様がうなずいたのを確認すると、話し始めた。




「サクラはもちろん、カナデもこの大陸にある7つの国のことは知っているよな。」


「はい、『エレウレーシス連合王国』『カロスト王国』『アルエパ公国』『マイアコス王国』『ディスポロ商業公国』『ストラミア帝国』『ナダルクシア神国』ですよね」


「ああ、正解だ。じゃぁ、その7つの国の中で魔法が使えるのはどの国だ」


「えっ、全ての国で使っていますよね」


「カナデさん、外部から影響を受ける魔力のことじゃないですか」


「ああ、なるほど。なら『エレウレーシス連合王国』『カロスト王国』『アルエパ公国』『マイアコス王国』『ディスポロ商業公国』の5つです」


「どうして、他の国は使えないと思う」


木魔(もくま)がないからですね。魔素は、木魔から発生していると考えられています。ただ、まだ実証はされていないですね」


「さすがだな。よく調べてある。そこら辺は試験範囲ではないぞ」


「ええ、調べ始めたら結構おもしろくてついつい余計なところまで調べていました」


「……歴代最高記録更新者になるはずだわ……納得したわ」


 フェロンさんがやれやれという表情だ。


「カナデさんですからね。当然です」


 つくもがサクラさんの腕の中で右前足をペロペロ舐めている。




「でだ、話を戻すが、その木魔が全く生息していない国、それが『ストラミア帝国』と『ナダルクシア神国』だ」


「大陸の北西にある国ですね。この『大樹の森』とは1万メートル級の山で遮られていますから、大きく迂回するか海を渡らないとたどり着けない国です。『ストラミア帝国』は、大陸で一番広い国ですよね」


「……何でそこまで詳しいのよ」


 フェロンさんが、ジト目だ。


「カナデさんですからね。当然です」


 つくもが、お腹を舐めている。


「でも、地理についてはこれ以外のことが資料を見ても書いてないんだよ。これって、これ以上は調べるな……て事かなー。木魔のこともどこにも書いてない」


「正解だ。どの国も、もっと詳しい資料は厳重に保管されていて、許可がないと閲覧(えつらん)できないようになっているはずだ」


「何でそんな面倒臭いことしてるんですか」


「ストラミア帝国が、面倒臭い国だからさ」


「……詳しく」


「ここじゃー言えねえな。また、いつか、教えてやるよ」


「わかりました。じゃ、明日で」


「……てめえ、けんか売ってるのか」


 ラウネンさんの目つきが怖い。


「……じょ冗談ですよ。やだなー……ははは」


「冗談に聞こえなかったぞ」


 当たりです。本当はすごく気になっています。




「あのー、『大臣の無茶な要求』の話しの続きが気になるのですが」


 サクラさんが、腕からぴょんと飛び降りたつくもを気にしながら控えめに言った。


「おっと、そうだった。えーとだな、おおそうだ、ストラミア帝国に木魔はない。これはストラミア帝国も認めているので言っても問題ない。でだ、木魔がなければ魔素は薄い。だから、外部魔力の威力も弱い。でも、それでは強い魔物とは戦えないってわけだ。どうだ、困るだろう」


「困らないですよ。だって、魔素が薄ければ、魔物だって弱いじゃないですか」


「カナデさん。強い魔物は、森にいるだけではないですよ」


「森以外にいたっけかなー……」


「さすがの優等生も、行ったことがない場所のことは知らないのね。ちょっと、安心したわ。『ダンジョン』よ」


 フェロンさんが、勝ち誇ったように言った。


「ダンジョン……ってあるんですか」


 本気でびっくりしていると、


「何言ってるの。あるわよ。大樹の森にだっていくつかあるわよ」


「うわー知らなかったです。あれ、どうしてだろ。試験にも出なかったですよ」


「だから言ってんだろう。面倒臭い国だって……」


 その言葉でピーンと閃いた。


「……はい、全てつながりました。つまり、ストラミア帝国には、ダンジョンが多数あるのですね。そして、ダンジョンに関しては、いろいろ面倒なことを言うわけです。そして、帝国国民も受ける試験には、ダンジョンの問題は出さないんですね」


「…………なんで分かる」


「カナデさんですからね。当然です」


 つくも(猫)はテーブルの上でへそ天だ。


「なんだか、だんだん腹が立ってきたなあ。おい、カナデ。てめえならどうする。外部魔力に頼らなないで、どうやってダンジョンの強い魔物を倒すか言ってみろ」


「やだなー、そういうの私の国では『八つ当たり』っていうんですよ……でも、そうですねー」


 しばらく考えてから思いついたことを話し始めた。


「外部魔力は、周りの魔素を取り込む。ダンジョン内には、魔素があるはず。だって、なければ魔物は生存できない。なら……その魔素を使えば、強い魔法が使えるはずだよなー……」


「なるほど、ダンジョン内の魔素は、魔物が生存するために使ってしまうんですね。だから、攻撃に使える魔素はない」


「ならどうする……。魔石か、魔石を使えば強力な魔法が使える。じゃない、魔道具だ、魔石を使った魔道具を工夫すれば、強力な武器になる。……ですね」


「……なんでそこまでたどり着けるの……おじさん自信無くすよ……」


「同感だわ……」


「カナデさんですからね。当然です」


 つくもが,ラウネンさんの頭の上にぴょんと飛び乗り丸くなる。


 ラウネンさんは、落ち込んでやけ酒を飲み始めた。フェロンさんも付き合っている。




 当分復活できないだろう。この話は、ここで終わりかなと思っていたら、思わぬ人が名乗り出た。


「その続きは、私がしましょう」


 カルミア様だった。


 カルミア様は、ワインが入ったグラスをクルクルと回してから、一口飲むと語り出した。


「ストラミア帝国は、ダンジョンから取れる豊富な魔石を使って、魔道具の技術を発展させてきた国だ。 特に、魔石燃料を使った『魔動機関』は、強力な力を持っている。軍事面でもね」


「この先は今は言えないが、ある時から木魔(もくま)が消え始めてしまい、今は全て消滅している。でも、ダンジョンは残った。なので、魔石は今まで通り確保できるが、有る物が全く落ちてこなくなってしまったんだよ。それは『世界樹の葉』なんだ」


「世界樹の葉は、何千年も前から、薬草として使われてきたんだ。なので、それがないと病気や怪我をしたときに大変困ることになる」


 そう言って、また、ワイングラスをクルクルと回してから、1口飲む。


「ある時、1人の探求者が、世界樹の葉を『ポーション』として加工することに成功した。なので、ストラミア帝国は世界樹の葉の問題は解決してしまったんだ。権力者は大喜びだよ」


 残りのワインを飲み干すとグラスをテーブルに置いた。


「その、感謝の気持ちは、今でもストラミア帝国の中で引き継がれている。だから、ストラミア帝国は、この探求者とは敵対しない」


 ここで、ひと息ついた。


「ただね、最近、ちょっとおかしな勢力が力をつけてきていてね。自分たちの作った魔道具の性能を過信し始めているのさ」


 ここで、話すことをやめてしまった。このあとの事をどう話そうか迷っているようだ。




「カナデ君。魔力は使えないが、魔石燃料を使った『魔動機関』があれば、何ができると思うかい」


 私は、地球の科学文明を思い浮かべた。きっと、あと数百年後には、この世界もそのレベルになってしまうのかもしれない。


「『魔動機関』が私が想像する物なら、魔法を使わない技術が飛躍的に進歩すると思います」


「それは魔法がなくても困らない世界になるということかな」


「はい、普通に生活するのには困らないと思います」


「では、魔法ではない『加護』の力はどう考える」


「たぶん技術では真似できないです。この力は特別です」


 私がそう即答すると、カルミア様はサクラさんを見た。


「私たちエルフは、加護と魔力の両方が使える。しかし、サクラは魔力はないんだ。その代わりに、加護の力が私たちの数十倍はあるんだよ」


 カルミア様は、最後まで説明しなかったが、私にはストラミア帝国の思惑が見えてきた。


 魔石、ポーション、次にストラミア帝国が欲しいのは『加護の力』だと。




「父様、ストラミア帝国のねらいは、私の『加護』だったんですね」


 サクラさんも、気がついたようだ。


「でも、私、絶対にストラミア帝国の思い通りになんて動かないですよ」


 サクラさんが自信たっぷりに胸を張った。


「そこは、俺らだって心配はしてないさ」


 ラウネンさんが復活した。


「カルミアすまんな、嫌なところ説明させちまったな」


「自分の娘のことだ、当然だよ」


「でだ、ここでやっとさっきのくそ大臣の話になるわけだ」


 大臣の呼び方がどんどん酷くなっていく。




「サクラを思い通りにするなんて事は、あっちだってさすがに考えていないさ、だいたい、できるわけがねえ。でだ、目をつけたのがパートナーのほうさ。パートナーを自分たちの国の人間にしようと考えたわけだ」


「でも、そんなに都合よくいくんですか。それだって、サクラさんがいやだって言えばできないですよね」


 私がそう言うと、サクラさんも強くうなずいた。


「そこを自分たちの思い通りに進めようとするのがストラミア帝国なんだなー。だから、面倒臭い。ストラミア帝国の魔動機関大臣『コーチス・ピロチスタ』は……」


 ラウネンさんは、頭の上のつくもをむんずとつかむと、「ほれ」と言ってサクラに渡してきた。


「コーチスはな、今回の試験のトップ合格者が、サクラのパートナーにふさわしいといろいろな国に圧力を掛けて認めさせたのさ」


 なんですとー。聞いてないぞ。


 私が固まっていると、サクラさんがあきれたように、


「馬鹿じゃないですか、その大臣。トップ合格はカナデさんに決まっているじゃないですか」


「まあ、こいつが都合よく現れてくれたからな。じゃなきゃかなり危なかったんだぞ」


「すみません。すみません。ぼくが、頼りないばっかりに。御迷惑を掛けました。うわーん」


 さっきから、こいつ誰だっけと必死に思い出していた男がいきなり泣いて謝りだした。


「まったくだ、てめえがポンコツだからこっちはかなりやきもきしたんだぞ」


 ラウネンさんが、泣いている男の後頭部を容赦なく小突(こづ)いた。


「まったくよ。力はあるのにこの気の弱さ、もう、そういう加護持ちなんじゃないかと疑いたくなるわ」


 フェロンさんも、同じ所を小突く。


「ああ、カナデ様。ありがとうございました。あなたのおかげで、私は重圧から解放されました。オイオイオイ」


 そう言って、私の足にすがって泣き続けた。


「……言っている意味がよく分からないのですが……」


 私が困っていると、


「あんた、優秀なくせにこういう部分は鈍いわよね。つまり、あんたが現れるまでは、こいつがサクラのパートナー候補だったのよ。これでもね、力はかなりあるのよ……普段はポンコツだけど」


「思い出しました。今回の3人の合格者の内の1人ですね」


「はい、どうやらギリギリの合格ラインだったみたいですが……何とか受かりました。でも、ストラミア帝国の『イローニャ』には届きませんでした。ヒック」


 まだ、泣いている。


「ああ、そのイローニャっていう人がストラミア帝国が用意したサクラさんのパートナー候補だんたんですね」


「ああ、そうだ。こいつは、もともとB級レベルの冒険者だ。なのにだ、今回の試験でトップ合格するために、いままでの昇格試験を見送っていたずるいやつだ」


 ラウネンが威圧を飛ばし出した。やめて。




 気の弱い冒険者は、『メニーケ』という名前だった。


「うひひひひ。コーチスのやろうめ。いまごろ国で悔しがってるぞ。ざまあみろ。それに、あの通知が出たからな。さすがのあの国でも、もう文句も言えないだろう。ああ、何か気分がよくなってきたぞ。おい、みんな飲め。今日は俺のおごりだ」


「えっ、いいんですか。やったー」


 一番最初に喜んだのは、メニーケだった。


 なるほど。あの時のいろいろな出来事の意味が分かったよ。今回の昇格試験の裏には、こんな事情があったんだ。 


 私は、冒険者ギルドに試験の結果発表を見に行った時にあったいろいろな事を思い出していた。




 ****************




 最初から、異様な雰囲気だった。発表は、2日遅れた。何か、調整があったのだろう。


 私は1人で行くつもりだったのに、カルミア様とBランク冒険者『風の森』パーティーがなぜか一緒についてきた。


 冒険者ギルドのホールの中は、いつもの騒がしさはなく、シーンとしていた。


「なんか、ずいぶん空気が張り詰めていますね。こっちまで緊張してきました」


「今日は、結果を聞いたら直ぐにここを出るよ。落ちた冒険者が暴れるかもしれないからね」


 カルミア様が小さな声でささやいた。


「わかりました。暴れたくなる気持ちは分かります」




 みんなが固唾(かたず)をのむ中、3人の試験官がやってきた。


「今回の合格者を発表する。今回は3名の合格者が出た」


 おっ、3人はすごいんじゃない。


と、周りの反応を見るがみんなシーンとしている。


「では、発表する。合格者は、1番『イローニャ』5番『メニーケ』そして9番『カナデ』だ。おめでとう」


 よかったー合格だ。まあ、自信はあったけど、心配はしてたんだよ。


 小さくガッツポーズをしたが周りは無反応だ。


 おやーぁ、おかしい。合格したら「やったー」って周りと抱き合って喜ぶところじゃん。




「次に、今回のトップ合格を発表する……が、その前に、これから読む内容と同じ文書が2日前に君たちの関係者に届いている。そして、一切の抗議も質問も受け付けないことを了承して貰っている。そこのとこを重く受け止めて行動して欲しい」


 試験官の1人が、何か書いてある用紙を持って読み始めた。


「告知 今回の試験結果については、探求者トリコン及びその守護者ルーサスが立会人となり厳正な審査がおこなわれた。よって、一切の不正がなく、この結果が全てであることを宣言する。以上」


 ここで、どやーと初めてざわめきが起こった。


「では、発表する。今回のトップ合格は、筆記試験Aプラス、応用問題A、実技Aプラス、実績Aプラス、なお、筆記試験は過去最高点、つまり満点がでた」


「まじかー」


「すげー」


と、やっと騒がしくなってきた。




「今回のトップ合格は、歴代最高記録を更新した、9番「カナデ」君だ。おめでとう。君の偉業に敬意を表する。以上だ。解散」


 そう宣言してさっさと3人の試験官達は奥に戻ってしまった。




「おい、カナデって誰だ」


「ほら、あのお気楽冒険者を更生させた……」


「ふざけるな、何かの間違いだ。抗議する」


「うわーん、よかったよー。重圧から解放されたよー」


 私は、まわりがざわざわしている中を、カルミア様と『風の森」パーティーに囲まれて、逃げるように冒険者ギルドを出たのだった。




 あの時の『風の森』パーティーの人たちは、もしもの時のための護衛だったんだ。カルミア様とラウネンさんが配慮してくれたのだろう。


 それにしても、ここまでしないといけないストラミア帝国って、どこまで面倒臭い国なんだろう。


 何となく、これで終わりではなくこれからいろいろな面倒ごとが起こりそうなイヤーな予感がした。






次話は明日7時10分投稿

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