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Episode.3 夢

後書きで人物紹介を書いてます。

【日時】ミルス歴400年5月31日



 ガンサイから預かった許可証を、門兵に無言で差し出す。

 腐臭(ふしゅう)と血の気を帯びた姿に、門兵は顔をしかめ、一歩後ずさった。


「……うげっ、くせぇ……なんだおま──あ?」


 差し出された紙に目を落とすと、門兵の態度が急変する。


「ガンサイ様の……あー、通っていい」


 まるで早く処理を終えたがっているように、手短に門を開けた。


 奴隷が単独で街に出ることなど、通常はあり得ない。

 だが、ガンサイの名の重みは、その常識すら軽く踏み潰した。


 さすがは街を牛耳る大商人。


 ゴミはふらつく足を無理やり踏み出し、一歩一歩、石畳を噛み締めるように歩いていく。


 やがて、ゴイルの店にたどり着く。


「た…ただいま……も…戻りました……」


 呼びかけても返事はない。


「ゴイ……ル様?」


 戸口をそっと開き、中に入る。人気(ひとけ)はない。奥へ、二階へと足を進める。


 グォオオ……グォオオ……


 聞こえてきたのは、寝息だった。

 部屋の前に立つと、ドアの向こうから突然、大きな物音と声。


「くっさあ!!なんだ!?」


 バタン、と勢いよく扉が開き、寝起きのゴイルが飛び出してくる。


「お…お前かー!?うわぁぁ!!」


 尻餅をついたゴイルの視線の先には、返り血で染まったボロ布をまとい、口元に黒ずんだ血の跡をこびりつかせたゴミの姿。


 まるで化け物だ。


「いったい何が……」


 途中まで言いかけ、ゴイルは口を閉ざす。


「……待ってろ」


 吐き捨てるように言うと、扉を乱暴に閉めた。


 しばらくして、ふたたび扉が開く。


 ゴイルは鼻をつまみながら、反対の手を限界まで伸ばし、一枚の封筒を差し出した。


「これを持ってさっさと帰れ!旦那に、ちゃんと渡すんだぞ!」

「……かしこまりました」


 青ざめた顔のまま、扉はふたたび閉じられた。



 ────────────



 屋敷の門にたどり着いた頃、通行人の視線が突き刺さるようだった。


 誰もが遠巻きに避けて通る。

 その異様な風体は、ただそこに立っているだけで異物だった。


「おい坊主、なんだ?魔物とでもやり合ったか?」


 門番が声をかけてくる。


「は…はい……」


 うまく言葉が出ない。

 許可証を見せると、無言で門が開かれた。


 屋敷の奥、ガンサイの私室の前で足を止める。

 深呼吸をひとつして、震える声を出した。


「……ガ…ガンサイ様……」

「入れ」


 その一言に、思わず背筋が伸びる。

 ドアノブに手をかけ、力をこめて押し開く。


「こ…こちら……ゴイル様から預かりました……」

「寄越せ」


 封筒を受け取ると、その場で開き、静かに読み進める。

 数秒後──椅子が軋む音とともに、ガンサイが立ち上がった。


 ゴミの目の前に立ち、見下ろす。

 その目は、獣のように殺気を(はら)んでいた。


「……顔、上げろ」


 恐る恐る視線を上げた瞬間。


 バキッ──


「ヴッ……!」


 脳が揺れる音がした。視界が跳ねる。


 床に倒れ込みそうになるゴミの髪を尋常ならざる力で引っ張って起き上がらせ、拳を何度も、何度も振り下ろす。


「ご…ごべんなさ……ッ、ごべん……なさい……!!」


 涙を流し、必死に謝るが、口を覆われる。


「喋るんじゃねぇ!!」


 口を押さえていた拳が腹部にめり込む。


「グフッ──!!」


 呼吸ができない。


 死ぬ──


 意識が遠のきかけたその時、ようやく拳が止まった。

 髪をつかんでいた手が離れ、床に崩れ落ちる。


「フーッ……フーッ……」


 呼吸を荒げながら、ガンサイは赤くなった拳を見つめる。


「おぉい! アホを呼べ!」


 怒声が響く。

 数秒後、ノックの音。


「呼ばれて参りました」

「入れ!」


 扉が開いた瞬間、入ってきたのはアホと呼ばれる魔族(マージ)

 その肌は青く、パーマの掛かった青髪。肌はトカゲのような鱗があり、手には水かきのようなものが見て取れる。


 アホは膝をつき指示を待ったが、いつまで経っても何も言われないことを不思議に思い顔を上げると、息を飲んだ。

 血まみれで床に倒れるゴミの姿。腫れ上がった顔。異常な呼吸音。


「奴隷小屋まで運べ」

「……は…はい!」


 すぐに駆け寄り、慎重にその身体を抱え上げた。



 ────────────



 奴隷館に戻ると、他の奴隷たちの視線が集中する。

 その異様な様子に、誰も言葉を発せない。


「どけ!どいてくれ!」


 アホは走るように部屋へと向かい、ゴザの上にゴミを寝かせた。

 部屋には他に三人の魔族(マージ)がいる。


「ゴ…ゴミ!?」


 唐突に入ってきたアホとボロボロになったゴミの姿に動揺し、声をかけたのはクズと呼ばれる魔族(マージ)

 彼女は赤髪ストレートの髪を靡かせ、額には短い二本の角が生えている。

 顔立ちははっきりとしており、大きな目にぷっくらとした唇、すらっとした体型、肌はほんのりピンク色で控えめに言っても美人である。


 クズはすぐに冷静さを取り戻してゴミへ駆け寄り、顎を持ち上げて呼吸を確保する。


「カス!水を持ってきて!」

 

 名前を呼ばれるとともに茶髪で小柄、目はブルーとレッドのオッドアイを持つ少年魔族(マージ)が勢いよく立ち上がり、部屋を出て水を汲みに行く。


「アホは服を脱がして!」

「わかった!!」


 アホは血塗れの服を脱がせにかかる間に傷を覆うための布を探すクズ。

 しかし中々適した布は見つからず、クズの額に汗が滲む。


 クズが動き回っていると、大柄な男魔族(マージ)とぶつかる。

 彼はスキンヘッドで大きな角が二本あり、肌は緑色だった。かなりの筋肉量で立ち上がると威圧感がすごい。


「バカ……」

「………」


 バカと呼ばれた彼は無言で自分の服を引き裂き、差し出した。


「あ…ありがとう」


 クズは丁寧に身体を拭き、出血箇所には布を巻いて止血する。

 やがて、ゴミの呼吸が落ち着き始めた。


「み…みんな……ありがとう……」


 弱々しく、しかし確かに声が出た。


「ハァ……よかったぁ……!!今回ばかりは本当にダメかと思った……」

「だ…大丈夫……見た目ほど、酷くないよ……」


 クズに心配かけまいと無理に起き上がろうとしたゴミが、思わず呻く。


「イッ……!」

「寝てなさい!」


 クズがぴしゃりと叱る。


「……それにしても、何があったの?」


 カスが問いかける。


「街の外に出て……ゴブリンと戦ったんだ」

「「えぇ!?」」


 驚きの声とともに、扉が開く。


「街の外に出たんなら……逃げりゃええやん」


 アホが呟く。


 ゴミは一瞬、ぽかんとする。


「……忘れてた」

「忘れてたって……」


 思わず笑いが漏れる。

 だが、クズの顔だけが曇っていた。


「逃げることすら忘れるほど、私たちは……洗脳されてるってことよ」


 誰も返さなかった。だが、皆その言葉を噛み締めていた。

 沈黙の中、ぽつりとカスが言った。


「……僕さ、いつかここを出たら……故郷に帰りたい」


 希望。

 それは、この場所では“禁じられた夢”だった。


「私は……こんな腐った制度を、なくしてやりたい」


 クズの瞳には、静かに涙が浮かんでいた。


「わいは、笑って過ごしたいなぁ」

「今も笑ってるじゃん……」


 アホに笑い返すと、視線がバカに向かう。


「バカは……?」


 バカは無言で窓の外を見つめたまま、答えない。

 それでも、誰もがなんとなく察していた。


 バカも、夢を持っているのだと。


「……ゴミは?」

「俺は……」


 しばし沈黙。


 痛みに堪えながら体を起こし、クズがゴミの背を支える。


「……記憶を取り戻して、自分の家族に会ってみたい」


 ゴミは窓の外を見つめたまま、顔を見せない。


 だが、クズにはわかった。

 その背中が、静かに震えていることを。


「……いつか夢を叶えるために、みんなで強くなろう?」

「うん──」


 クズの声に、ゴミは小さく頷いた。

[ 人物紹介・異世界 ]

〈 奴隷 〉

ゴミ:一斑 黒髪・角が二本・肌は薄黒い


クズ:一斑 赤髪・女性魔族(マージ)・肌はほんのりピンク・耳が狐みたい・知的


アホ:一斑 青髪パーマ・男性魔族(マージ)・肌は青色・常に笑っている・関西弁


バカ:一斑 スキンヘッド・男性魔族(マージ)・肌は緑・筋骨隆々で角は二本・無口


カス:一斑 茶髪・少年魔族(マージ)・目が赤と青のオッドアイ・弱々しい


〈 商人 〉

ガンサイ・ボルバード:武器商人・黒獣とも呼ばれる・元B級冒険者


ゴイル・チルダック:奴隷商人・サル顔で笑い方が変


〈 その他 〉

門番:ガンサイが雇っている門番

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