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  作者: 北丘淳士
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慈しみ

 昇降口に来ると少し雨が降っていて、焼いたアスファルトを洗っていた。いい雨だ。これが慈雨というのかもしれない。

 しばらく遠くに虹がかかる空を私は眺めていた。その時、背後から声をかけられた。突然傘を差しだされて驚いたが、彼はもう一本あるから、明日持ってきてくれればいい、と言ってくれた。

 優しい。

 柄には彼の名前が書いてあった。ちゃんとしている。明日、彼をを探してお礼を言おう。

 この世界は優しさに包まれている。私は、ちゃんとお返し出来ているだろうか。

 私は慈愛を持って、その柄を握り傘を差した。斜陽が射す遠くの空を眺める。神々しく、心を揺さぶられる。

 今日は弟の為に、たい焼きを買って帰ろう。

 また、お母さんから、食事前に、と呆れた顔をされるかもしれないが、弟は成長期だ。いくらでも入るだろう。笑顔の弟の顔が浮かぶ。笑うと目がアニメのように細くなるのが好きだ。大人になったら可愛くなるだろう。ショタコンと笑われるかもしれない。でもいいの。

 気分良く傘をクルクルと回す。

 明日は弟の野球の試合があるから、雨は上がってくれると嬉しいな。

 ウィンドウショッピングをしながら、バス停に着く頃には雨が上がってくれた。私はスマホで明日の天気を、もう一度確認した。明日は晴れるようだ。球場も良い具合に乾いてくれると嬉しい。

 バスに乗り込むと、ベビーカーに乗った赤ちゃんがいた。私は向かいの席に座り、赤ちゃんの微笑ましい顔を見ていた。赤ちゃんは黄色いぬいぐるみを私に向けて笑顔を振りまく。

 可愛い。

 降りるバス停が近づいてきたので、私は笑顔で赤ちゃんに手を振る。同乗していたお母さんも笑顔でお辞儀してくれた。私の方が感謝したい。

 バス停近くのたい焼き屋で小倉あんを二つ買う。店員さんは私の顔を覚えているので、少し話をして手を振って離れた。

 一つは私が食べる。お母さんに見つかったら、また笑われるから。家までの帰り道、一つ齧った。カリッとした生地に、尻尾までしっかりあんが入っている。近くに、こんな美味しいたい焼き屋があって良かった。

 自然と足が弾む。

 目の前に、いつもこの辺を徘徊している猫を見つけた。

 何か食べているようだ。可愛い背中。丸くなって一心不乱に食べている。

 足音を立てずに近づき、私は静かに、その背中に手を伸ばした。


「廻」のep1「怒り」へ

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