僻み
机に戻ると、鞄につけているはずのキーホルダーが置いてあった。俺は自分の鞄を確認すると、確かにキーホルダーが外れていた。
別に、そのまま無くなっても良かったのに。
溜息を洩らした俺はポケットにそれを入れる。
周りの声が煩い。何をそんなに楽しそうに話す事があるんだ。どうせ日頃からLINEなどでやり取りしているくせに、よくネタが尽きないものだ。
嗚呼、周りが鬱陶しい。
周りが幼く見える。選ばれた自分は高尚な思想を持ち合わせているというのに。
僻んではいない。友達がいると、自分の意見が小さくなり、他人に合わせるという面倒事が増えるだけだ。俺は一人で良い。流行りのものを追いかけ、自分を周りに合わせて磨く必要もない。強い者は孤独だ、という言葉を自分は身をもって知っている。
皆が好む、カラオケとかスタバとかの何が良いんだ。
カラオケも歌を覚えないといけないし、周りに合わせて手拍子もしなくてはいけないと誰かが話しているのを聞いたことがある。くだらない。
スタバも、あの謎の呪文を覚えないと馬鹿にされると聞いた。余計なことに脳の容量を使って、高い金を払って、美味しいかどうかも分からないコーヒーを飲むことを羨ましいとは思わない。
鞄の中を漁り、読みかけのライトノベルを取り出す。初音ミクの栞を挟んでいるページを開き、物語の続きを楽しむ。
近くの徒党を組む女生徒から俺を蔑むような笑い声が聞こえる。
嗚呼、くだらない。
群れることしか出来ないヤツらには分からないだろう。
ライトノベルを読んでいると、一人の男子生徒が話しかけてきた。
この本が面白いかだって? お前には分からないだろう。
話しかけてきたのは、クラスでも人気の中心にいるヤツだ。スポーツも出来て、顔も良い。
目も合わさずに頷くと、ヤツは去っていった。
自分もライトノベルの登場人物のように強くて女の子にモテると、どれだけ気持ち良いか想像したことがある。ヤツはそれを現実で叶えている。癪に障る。不公平だ、なんて思ってはダメだ。その時点で俺の負けが確定してしまうだろう。
この世界は本当に腹立つ。