怒り
また背後から襲われそうになった。
あいつらは隙を見ては手を出してくる。いつもそうだ。不意打ちしかしてこないあいつらには、憤りしか生まれてこない。
今、腹の中には蜷局渦巻く怒りしかない。そう、怒りを原動力に生きてきた。この世に生まれてきて、どれくらいの時間が経ったか分からない。早くに兄弟を失い――、いやもう親や兄弟の顔も薄れてきた。ほとんどは病気や事故、餓死で亡くなり、あるいは捕まってどこかに連れ去られた。俺は一人で生きてきた。そこにプライドが生まれてかけてきてはいる。
だめだ。怒りが収まらない。空腹がそれに拍車をかけている。
嗚呼、腹減った。
腹が満たされれば、少しは、この怒りも治まるかもしれない。もうどれほどまともな食事にありついていないだろう。たまに食料をくれるやつらもいる。だがやつらの目は憐れみを湛えているようにも見える。それが癪だ。だが食わずに生きていけない事も知っている。その時ばかりは自分のプライドを捨てて、生きることを選んだ。
怒りといえば、隣町のあいつらだ。いつも徒党を組んで俺と戦いを挑んでくる。一人一人は弱いくせに、徒党を組まれると厄介だ。兄弟か何だか知らないが、徒党を組まないと生きていけないのか。おかげでこっちは生傷が絶えない。
俺の隣を裕福そうな三人の女生徒とすれ違う。やつらの好奇のものを見るような目で笑みを湛えながら俺を見る。くだらないものを見ているような目だ。気にくわない。だが手を出す事はできない。それはまだ俺が弱いからだ。この怒りで自分の身を守るために、もっと食って強くならなくてはいけない。
理不尽な環境に生まれたものだ。
俺と同時期に生まれたものは、上手く世の中を渡り歩いている奴もいる。立派な家に住み、家族からの愛情を貰っている。
だが俺には、この生き方しか出来ない。常に怒りを湛えて何の希望もなく生きるしか道は残されていなかった。不器用だとも思う。
嗚呼、腹減った。
少しでも腹を満たすため、路上の水たまりに口をつける。
前から、余所のシマのヤツが歩いてきた。
俺と戦うと言うのならば、せめて水を飲んでからにして欲しい。
だがヤツは容赦なく手を伸ばしてきた。
俺は憤りに任せ、その手を殴り返した。