二話『付き合い』
俺と凛月が付き合い始めて、早くも二ヶ月が過ぎていた。
彼女はよく土曜日に遊びに誘ってくる。たまに日曜日も。
放課後なんかは、ずっと彼女に拘束されている。
そして今日も、彼女によって拘束されていた。
千夏「優咲!あれ可愛くない?!」
俺達は二人で、アニメイツに来ていた。
彼女は推しグッズを見るため、俺に荷物を預けはしゃいでいた。
千夏「かわいい~!」
推しを見ながら悶える彼女を見ながら、俺は復讐の機会を伺っていた。
アニメイトで買い物を終えた彼女は、モックに行こうと言い始めた。
優咲「食いすぎると太るぞ…」
千夏「そういう事は余り言うもんじゃわないよ?」
彼女は呆れたように言うと、モックに入っていった。
仕方なく俺も彼女に続いて入り、モックセットを頼むことにした。
彼女は最近広告にあった新メニューを買って、写真を撮り食べていた。
千夏「ねね!一緒に撮ろう?」
そう言うと、俺の隣に座ってきた。
優咲「…顔出しNGで…」
千夏「了かーい!」パシャ
俺の顔をモックで隠しながら撮ったその写真を、俺に見せてきた。
確かに顔が写ってないのを確認すると、彼女はインタスに慣れた手つきで投稿した。
モックを食べながら、彼女の行動を見続ける。
なぜこんなにも見続けるのかと言うと、怪しい行動をしていないかを確認しているのだ。
人を信じなくなってから、真っ先に人の行動を疑うようになったのだ。そのおかげで、行動の一つが少し変わるとすぐに着付けるようになった。
優咲「…大丈夫か?」
千夏「へあ?!な、なんでもないよ!」
笑いながらスマホをポケットに隠す。
彼女は誤魔化すように、モックを食べ始める。
千夏「んーおいしい~!いっぱい食べれるね!」
そう言いながら、モックにかぶりつく。
そして、ようやく解散することが出来た俺は、彼女の後をバレないようにつける。
彼女が家とは反対の方向に向かうのを見た俺は、ニヤけた。
優咲(…ようやく正体を現すか…?)
気づかれないように、彼女の後を追うと、彼女は公園にまでやって来た。
公園のベンチに座ると、誰かと電話を始めた。
そして、数分後。ベンチに座る彼女の下へ、一人の女が近づいた。
俺は話の聞こえやすく、気づかれない程度の場所に身を隠すと、盗み聞きした。
千夏「話が違うじゃん…彼女がここへ来る話だったんだけど?」
「知るかよ、あいつはまだお前に何かさせたいんだろうよ…」
ボーイッシュな女は、懐から紙を取り出すと、凛月に手渡した。
千夏「……あいつ…何がしたいの?」
「知らねぇって、とにかく、16日までに済ませて、ここに来いってよ。」
それだけ伝えると、ボーイッシュは公園を後にした。
手紙を見ながら、凛月は震えていた。
表情の良く見えないところで見ていたため、表情は見えなかった。
優咲「……結局ただの無駄足だったか…」
俺は肩を落として、そのまま家へと帰った。
この時、もっと凛月の事を見ておけばよかったのかもしれない。
しかし、この時の俺は彼女に復讐することしか頭になかったせいで、何もせず帰ってしまった。
ー次の日
俺は凛月を見て驚いていた。
女子生徒A「どうしたのその髪?」
女子生徒B「何かあった?」
凛月を囲むように女子たちが廊下で心配そうな声をかけていた。
そんな女子たちの間から見えた凛月の髪型。
まるで昨日のボーイッシュの女と似たような髪型になっていた。
これまではポニーテールで一貫していた彼女からは、全く想像もしていなかったことに、俺は思わず声をかけていた。
優咲「どうしたんだよ、…その髪?」
突然陰気そうな俺が話しかけたことに、周りの女子が驚いていたが、俺は構わず凛月の髪に触れた。
優咲「お前、あの髪型気に入ってたろ?…推しと同じ髪型だった…」
そこまで言って、俺は自身が何にそんなに腹を立てているのかがわからなくなった。
凛月はいつものようにヘラヘラと笑っているが、そんな笑顔の裏に何か黒いものを感じたからか?
それか、俺の復讐以外に、凛月が苦しんでいるからか?
それとも…凛月が傷ついているから?
俺は、自分がわからなくなった。
千夏「…これも似合うから、私はやっぱり元がいいんだろーなー…!」
無理していることは明白だったが、周りの女子たちは笑って、いたっていつもと変わらない対応をする。
女子生徒A「なにそれぇ〜、自信家め!」
キャハハと、青春をしている。
そんな彼女たちとは違って、凛月はいつもよりも無理をして女子たちに合わせている。
そんな彼女を見ていて、俺は居ても経っても居られなくて。
気づけば凛月の手を取り、学校を飛び出していた。
その間、凛月は何も言わなかった。
まるで、安心しているように、沈黙していた。
そして、俺は凛月との思い出の地に来ていた。
凛月を問い詰めてから、一回も来ていなかったこの地に。
来たくもなかったこの地に、今再び来てしまった。
しかも、嫌いな幼馴染と共に。
千夏「……ここ、懐かしいね…」
凛月はよく漕いでいたブランコに座った。
俺も、彼女と同じようにブランコに座った。
お互いに口を開こうとはしない。
決して、気を遣っているわけでも、お互いを探り合っているわけでもなく。
ただそこで、ゆっくりと時間が過ぎるのを待っていた。
そこそこ時間が経ち、学校はチャイムを鳴らしホームルームを終えようとしていた。
ようやく、俺達はお互いの顔を見た。
千夏「…かっこよくなったよね、優咲は…」
優咲「……そんなことはないよ」
凛月は優しく微笑むと、雲一つない空を見上げた。
優咲「……お前も…」
千夏「…ん〜?」
気づけば、俺は自然とその言葉を出していた。
優咲「…お前も、昔よりずっと可愛くなったよな…」
俺の口から出たその言葉は、この二ヶ月間で彼女に惹かれている事を証明するものだった。
きっと、二ヶ月前の俺ならば、これは本心ではなく、嘘の言葉となっていただろう。
だが、二ヶ月間付き合って、ようやく気づくことが出来た。
逆に、なぜ気づかなかったのかと思うほどに、今の俺は、昔の俺に憤りを感じてしょうがない。
そして遂に、俺は彼女に真実を聞くことにした。
今度は、あの時とは違い、冷静に、何も疑わずに。
俺は彼女を、凛月千夏を信じて、聞いた。
優咲「……覚えてるか?…俺がお前を問い詰めたこと…」
千夏「…覚えてるよ。
…ごめんなさい。私のせいで、貴方は一人になっちゃった…」
彼女は、ずっと我慢していたであろう涙を、少し流した。
千夏「…ごめんなさい、私は、私、は…」
そして、涙をさらに流し、彼女はずっと溜め込んでいたすべてを、俺と彼女の思い出の地で、号泣するのだった。




