二十四話『不安な思い』
【視点:新星 彗憐】
僕は、海音と優咲が一緒にいるところを見てしまった。
少し…海音を羨ましく思った。
彗憐「僕も優咲くんと遊びたいなぁ…」
小さく呟き、僕は早朝のことを思い返した。
彗憐「明日が、手紙に書いてあった満月の日…」
怖いという気持ちは、まだ少しある。
けれど、昔ほどの恐怖心はない。
今回は守ってくれる人が、一人じゃない。
千夏に海音、健次郎。
そして何より、優咲が僕のことを守ってくれる。
これほどまでに頼もしい存在は、白石 叶以来だと思う。
彗憐「…僕、みんなに迷惑かけてばかりだな…」
拳を握り、みんなのことを見る。
みんな楽しそうで、この旅行を本当に楽しんでくれている。その裏では、僕の護衛が本来の目的とも知らずに…
彗憐「巻き込んじゃって…申し訳…ないな。」
罪悪感を感じながら、僕は優咲と海音を眺めるのだった。
【視点:黒和 優咲】
バレーボールを打ち返しながら、俺は岩陰からこちらを見ている者に感づいた。
俺はわざとボールをあらぬ方向へ飛ばし、海音の気を反らせるした。
優咲「悪い海音、ボーッとしてた。
俺が取ってくるから、海音はゆっくりしててくれ。」
海音の言葉を待たず、俺はボールを追って岩陰へと向かった。
ボールを拾い上げ、俺はそこにいた黒尽くめのスーツを着た女性に声をかけた。
優咲「アンタ…ずっと彗憐のこと見てたろ?」
女「…君こそ、ずっとワタシのことに気づいていたろ。なぜ今話しかけた?」
サングラス越しで、女性が何を考えているか読み取れない。
俺は言葉を慎重に選びながら、探りを入れようとした。
しかし、女性はそれを許さないように、威圧的な雰囲気を漂わせる。
頬を冷たい汗が流れる。
優咲「…これだけは聞かせろ。
アンタは、彗憐を狙ってる奴らの仲間なのか?それとも…」
息を飲み、女性の次の言葉を待った。
女性はため息を付き、俺に近づいた。
女「…君がそれを知って、ワタシになんの特があるのかしら?」
冷たくそう言うと、俺の服を掴み上げた。
女「手紙だって、もしかしたら奴らの仕業かもしれないのよ。
…もし彼女を、より簡単に捕らえるために作った嘘の情報だったらどうするつもりなの?」
俺は女性の高圧的な態度に、少したじろぎはしたが、すぐに冷静さを取り戻した。
優咲「なんで手紙のことを、部外者のアンタが知ってるんだ?」
女「…」
俺の指摘に反応したのか、女性は口を閉ざした。
優咲「俺や健次郎が愚かだというのは構いはしない…
だがアンタこそ、自分が喋りすぎていることに、気づくべきだな。」
女「ワタシが愚か者だと言いたいのか…?」
少し語気を強め、顔を近づけてくる。
俺は本心がバレないように、ポーカーフェイスに徹する。
そんな俺に、女性はなぜか小さく笑い始めた。
不審に思っていると、女性は俺の服から手を離し、乱れた服を直してくれた。
女「…ワタシはまた、同じ過ちを犯してしまうところだった…」
悲しげにそう言うと、女性は背を向けて歩き始めた。
わけが分からなかった俺は、女性を呼び止めた。
女性は足を止めると、こちらに振り返り、サングラスを外した。
女「…彗憐と仲良くしてくれて、本当にありがとう。
…でも、だからこそ、もうこの件からは手を引いてくれ。
キミらが巻き込まれる必要は、本来ないのだから。」
優しくも鋭い視線で俺にそう忠告をし、女性は再び歩き、その場から去ってしまった。
その場に取り残された俺は、女性が誰だったのかを考えるのだった。
ー…同日、13時頃
昼食として、皆がバーベキュウで用意していた肉や野菜を焼いていた。
海音も静らと共に食事を楽しんでいる様子で、俺は少しうれしく思った。
健次郎「優咲、お前も食えよ。俺が焼くの代わるからさ。」
優咲「おう、ありがとな。」
健次郎は空の皿に焼き終えたものを取り分けると、俺に渡してくれた。
俺は感謝を述べ、空いているところに行き、腰を下ろす。
そこへ、先程まで友達といた千夏が近寄ってきた。
千夏「お疲れ様。これ、優咲の好きなお茶だよ。」
優咲「ん、ありがとう千夏。」
お茶を受け取り、俺は一口飲む。
千夏は俺の隣に座り、焼いたピーマンを食べ始めた。
皆が楽しそうにはしゃいでいるのを楽しそうに眺める千夏を見ながら、俺も健次郎が取り分けてくれたものを食べる。
特に会話はなかったが、俺はリラックスできていたと思う。
食べ物を焼いているとき、ずっとあの女性のことを考えていたため、あまり集中できていなかった。
彗憐を守ると言った反面、女性が警告したように、俺達学生が彗憐を守りきれるかと聞かれると難しいと感じていたから。
優咲「千夏…、俺は、またお前に迷惑をかけるかもしれない。」
箸を置き、俺は不安な気持ちを吐露する。
千夏はピーマンを食べ終えると、箸を置き、耳を傾けた。
優咲「正直に言うけど…、もし彗憐が危険にさらされたら、俺は自分を犠牲にしてでも守るつもりなんだ。」
千夏「…うん。」
自然と拳に力が加わり、掌に痛みを感じる。
そんな俺の手を、千夏は優しく包みこんでくれた。
千夏「じゃあ…私は優咲を守るよ。」
優咲「千夏…俺は…」
と、俺が何かを言おうとする前に、彼女が遮るように右手で俺の頬に触れ、俺の顔を千夏の方へと向けた。
千夏はまっすぐとした目で、いつもとは違う、あの目にも似た鋭い目で俺をしっかりと見る。
千夏「たとえ…、私の身に危険が降り掛かっても、私はあなたを絶対に守る。
あなたに嫌われようとも、私はあなたを守ってみせる。
…今度は、絶対に離さないつもりだから。」
優咲「…」
彼女の目には、確かな覚悟が宿っていた。
その覚悟は、俺とは違う覚悟だった。
優咲「…ありがとう、千夏。
…俺は、お前に助けられてばかりだ。」
千夏の頭を撫でると、俺も、彼女には負けないように、改めて覚悟を決め直した。
優咲「俺は、彗憐を何が何でも守る。
だから、そのときはお前が、彗憐を守ってくれ。」
千夏「…自己犠牲は嫌いだからね。」
優咲「あぁ、理解してるつもりだよ。」
今までの考えは、もう使わない。
俺は、彼女に真実も告げずに居なくなるなんてことは、したくないから。




