二十二話『海音の苦悩』
塁 「沖縄と言えば!ビーチっしょ!!」
一同 「うぉ〜〜!!!」
大きく盛り上がっている塁たちを見ながら、木陰でのんびりしていた俺は笑う。
彗憐 「いいね…塁くんの明るさ。」
海音 「ハァハァ…塁の海パン姿ぁ…!!」
静 「おいおい、いつもの発作が出てるぜ〜?」
美鈴 「まぁ、アイツ細マッチョでなかなかスタイルもいいし、目が離せないのも、分かるけどな〜」
俺の隣りにいた三馬鹿と彗憐は、はしゃぐメンバーたちを見ながら笑い合っている。
千夏 「みんなも海に入ろ〜!」
優咲 「っ!!」
俺は目を背け、なぜか火照ってきた顔にうちわで扇ぐ。
静と美鈴は千夏に引っ張られるように連れてかれ、彗憐も彼女らについていった。
木陰に残ったのは、俺と海音の二人だった。
海音は水着の上にパーカーを着ており、肌を隠しているようだった。
海音 「それにしても…、アロハシャツ支給って、健次郎もなかなか浮かれてんな。」
呆れたように笑いながら、俺の着ていたアロハを触っていた。
優咲 「ま、みんなと楽しみたいってのは、本当なんだろうな。」
海音 「そうだなぁ。アイツも、色々と苦労の絶えない野郎だからなぁ。」
足を弄りながら、海音は海ではしゃぐ皆の姿を見つめていた。
俺は少し悩んだ末、尋ねることにした。
優咲 「…海…嫌いなのか?」
海音 「え?」
彼女は俺を見て、「どしたの?」と聞き返された。
俺は正直に、気になっていることを話した。
優咲 「俺はてっきり、お前も静たちみたく、みんなとはしゃぐものだとばかり…」
海音 「……あぁ…そうね…」
少し寂しげな表情で答えると、彼女は体勢を変え、体育座りのように丸くなった。
足で足を弄りながら、彼女は小さくため息を吐いた。
海音 「…海はね、嫌いじゃなかったんだよ。昔は…」
優咲 「昔は…か。何かあったんだな。」
海音 「そ、何かあって……海が怖くなった。」
少し、無理をしているような笑顔を俺に見せる。
聞いてしまったことに罪悪感を感じながら、俺は何をしてやることもできなかった。
そんな俺を見てか、彼女は俺の手を取った。
海音 「…話、聞いてくれる?」
優咲 「…海音が、辛くなければ…俺でよければ聴くよ。」
彼女は微笑むと、ギュッと、俺の手を握った。
ー…【視点:鐘川海音】
いつからだろう。
いつから、ボクはこんなにも弱い人間になったのだろう。
そんなのはとうの前に理解していた。答えは…昔から、だ。
ボクは誰かに知っておいてほしかったのかもしれない。自分でも理解はできない。
それでも、彼には、彼になら話してもいいと思った。
静や美鈴、彗憐にすら話してこなかったこと。
ボクは、その話を優咲にだけはなぜか話してもいいと感じてしまった。
海音 「…あれはね、二年ぐらい前かな。
ボクは静と美鈴とは関係なく、一人、一番親しかった子がいるの。
その子はね、とても明るい子で、静よりは大人しいけど、美鈴や彗憐よりは明るい子だったの。」
忘れもしない、あの子のことを、ボクは思い返しながら彼に話す。
海音 「髪色は紫髪で、今のボクみたいな髪型。ウルフカットっていうんだけどね。
彼女はとても似合ってたなぁ〜。
中学生とは思えない、大人びた印象の子で、スタイルも抜群だったんだから。」
彼は優しくボクを見てくれている。
手を、しっかりと握り返してくれて。
この事を思お出す度に鼓動が早まる。だけど、今は違う。
とても安定して、リラックスできている。
口が、いつもよりも軽く、息苦しさもない。
海音 「それでね、夏にその子と海に出かけたんだ。
めっちゃ楽しかったんだ〜。食べ歩きして、SNSで写真アップして。
やりたいことはぜ〜んぶ、やった。」
そして、ボクはその場面を思い返し、少しだけ言葉が詰まる。
いつもと同じように、喉がギュッと締まり、目元が熱くなる。
「ハァッ…ハァッ…」次の言葉を出そうとしても、喉の詰まりのせいで、声がうまく出せない。
まるで、あの時のことを思い出したくないと言わんばかりに、ボクの身体がそれを否定する。
海音 「それ…でね…。それ…で……ッ」
今まで、あの日の事件から目を背けて生きてきた。
だけど、いつかは向き合わなければいけない問題で、ボクは…
優咲 「大丈夫。」
海音 「…ッ…」
気付けばボクは、彼の胸の中にいた。
海音 「……ゆう…さく?」
優咲 「……」
黙ったまま、彼はボクの頭を撫でる。
皆の姿が見えない。
優咲 「今は思う存分に泣け。みんなは、どっか行っちまったけど…俺はお前といるからな。」
海音 「……そっか……そ…か…」
彼の優しい抱擁は、まるでボクのが抱えていた闇を、全て浄化してくれるようなそんな抱擁で…
ボクは彼の胸のなかで、子供のように泣きじゃくった。
ー…【視点:凛月千夏】
塁 「そういや海音と優咲は?」
海に浮かびながら、私に尋ねてきた。
私は微笑み、「さぁ?」と返した。
彼は納得した様子で、バタバタ泳ぎ始めた。
私は海岸沿いの木の下を見つめ、少し複雑な気持ちになったが、今だけは邪魔を出来ないと思い、「やれやれ」と首を振るのだった。




