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嘘は真実へ  作者: 文記佐輝
三章『嘘は矛に』
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二十一話『近づく距離』

 千夏に対する疑いが晴れ、俺は少しだけ、身体が楽になった気がする。

優咲 「ハァ〜…」

塁 「深い溜め息だなぁ。なんかあったのか?」

 何も知らない塁が、軽くストレッチをしながら尋ねてきた。

 俺は彗憐のことを隠しながら、呼び出された内容を濁しながら話した。

塁 「そりゃ大変だなぁ…。オレ巻き込まれなくてよかったぜ〜。」

優咲 「本当に怖かったんだからな。」

塁 「千夏ちゃんがそんな怖いかなぁ…?」

 呑気な事を言いながら、ストレッチを終えた塁は、ベッドに倒れ込んだ。

塁 「ま、とりあえず今日はもう寝よーぜ。

寝りゃ明日だ。明日になりゃ千夏ちゃんもいつも通りになってくれるさ〜」

優咲 「…そういうもんか…」

 塁の言葉に少し納得しつつ、俺も塁と同じようにベッドに横になった。


 目を閉じた俺は、懐かしい夢を見ていた。

優咲 「……ん…ここは?」

 辺りを見渡しながら、暗闇を歩き始める。

 いつも通り、何があるのかもわからない空間を、俺はただ歩く。

優咲 「…あれは…」

 それを見て、俺は足を止めてしまった。

優咲 「…ミハル?」

 それは、小学生の時の記憶だった。


ミハル 「誰にやられたの?」

優咲 「……転けただけだよ…」

ミハル 「…本当に?」

優咲 「……うぅ…」

ミハル 「ホント…嘘苦手だね」


 ミハルそう言うと、小学生の俺を、優しく撫でる。


ミハル 「大丈夫。私に任せて!」

優咲 「な、何する気?」

ミハル 「…ちょっと話すだけだよ。だから…」


 ミハルは優しい声で、そこにいる俺に対して、"その言葉"を伝えるのだ。


 目を開けた俺は、夢のことを振り返った。

優咲 「………ミハル…」

 彼女は今、どこにいるのか、もし生きているのなら、もう一度会いたい。そして、確かめたい。

 なぜ、俺から距離をとることを選択したのかを。

 なぜ、千夏に嘘をついてまで、俺に嫌われようとしたのか。

優咲 「…わかりやすいのは、お前もだよ…」

 彼女の笑顔を思い出しながら、俺は無意識に、顔をほころばせていた。


ー…翌日、八月八日早朝【視点∶新星彗憐】

 ボクはリュックを背負い、スマホを片手に持ち、行きたいところを目指した。

彗憐 「やっぱり、一人のほうが気が楽ぅ…」

 そんな事を言いながら、ボクはルンルンで歩いていた。

 少し歩いて、朝日も昇ってきた時、ボクの目に目的地が見えてきた。

 ボクは歩くスピードを速め、そこに近づいた。

彗憐 「ここ…昔のまま!」

 気持ちが高ぶり、ボクはリュックからカメラを取り出し、それを撮ろうとした。

 その時、背後の草むらから音が聞こえた。

彗憐 「っ?!」

 音のした方向にカメラを向け、何かに対して構えた。

彗憐 (誰?!ここまで誰にもつけられてなかったはずなんだけど…?)

 カメラを構えたまま、草むらから距離を取った。

 リュックを取ろうと、片手を伸ばしたとき、草むらから何かは飛び出した。

彗憐 「キャッ?!」

 咄嗟にシャッターをきったボクは、その場で尻もちをついてしまった。

 目を閉じてしまったため、その何かが何だったのかは分からなかったが、人ではないことに安心した。

 ボクは一息つき、カメラを見る。

彗憐 「…なんだ〜、イノシシかぁ…。びっくりしたぁ…」

 大きくため息をつき、安堵した。

 ボクは立ち上がると、改めてその地を写真に収めることにした。


 一時間ほど留まり、風と波の音を聞いていたボクは、そろそろ宿に戻ろうと立ち上がった。

 カメラをリュックに収め、その場を離れようと振り返った。

彗憐 「…ん?」

 草むらの方に目を向けたとき、人影が一瞬見えた気がした。

 ボクは恐怖心が今にも噴火しそうだったが、ぐっと拳に力を込め耐えた。

 リュックの肩紐を握りしめ、早足でその場を去る。

 もし、ここでボクが襲われでもしたら、皆に申し訳が立たない。


 しばらくして、道路沿いまでなんとか戻ってきたボクは、少しだけ乱れた息を整える。

優咲 「何してんだ?」

彗憐 「ぴゃぁーっ!?」

優咲 「うおっ…?!…どうした?」

 突然現れた優咲に、ボクは腰を抜かしてしまった。

彗憐 「ゆ、優咲、くん?…は、早いん、だね。」

 できるだけ冷静を装うが、優咲には見透かされていたようで、困ったような笑みを浮かべると、彼は手を差し出した。

優咲 「俺はいつもこんなもんだよ。そう言うお前も早いな。散歩か?」

 ボクは差し出してくれた手を掴み、立ち上がる。

彗憐 「ありがとう…。うん。散歩…みたいな、ものかな。」

 彼は「良いな」とだけ返すと、海を眺めた。

優咲 「…この旅行、例えお前を守る事が理由だったとしても…楽しかった。」

 少し寂しげな表情を浮かべながら、彼は少し目を閉じて、ボクを見直した。

優咲 「俺は…、何があってもお前を守るからな。彗憐。」

彗憐 「…!」

 優しい声色で、いつもボクの心臓を乱してくる。

 ずっと、彼の目をみていたい。

 ずっと、一緒にいたい。

 彼女じゃなくてもいい。ただ、一生側でこの人だけを、見ていたい。

彗憐 「…ありがとう。優咲…。」

 彼の手を握りしめ、千夏には勝てないと悟りながらも、ボクは彼を欲するのだった。

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