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嘘は真実へ  作者: 文記佐輝
三章『嘘は矛に』
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二十話『頼ってもらうこと』

優咲「千夏!!」

千夏「…な~に?」

 千夏のいるバルコニーに着いた俺は、息を整えつつ、ゆっくりと千夏に近づく。

優咲「…千夏、さっきのは誤解なんだ。美鈴達が勝手にやってきて…」

千夏「…勝手にねぇ。」

 千夏はバルコニーの柵に手を置き、夜空を眺める。

 近くまで来た俺は、千夏に触れようと手を伸ばした。

千夏「ねぇ、私のこと好き?」

 目を合わせず、千夏はその問いを俺にぶつけた。

優咲「当たり前だ。好きだよ。」

千夏「…ふーん。」

 なぜか納得がいかないというふうに言うと、ゆっくりとこちらを見た。

 千夏の目には、相変わらずハイライトが無く、ずっと俺が嫌いな表情をしている。

優咲「その…、千夏、その顔やめてくれないか…。正直、怖い。」

千夏「…誰のせいだろうね?」

 含みのあるその言い方に、俺は少しだけ苛立ちを覚える。

 俺は千夏の手を取ると、彼女に質問した。

優咲「お前こそ、…俺のこと、今でも好きなのか?」

千夏「…」

 俺の質問に、彼女は沈黙を返した。


 修羅場とも言えそうなその場所に、よりによって健次郎が現れた。彼は俺たちを見ると、「どういう?」と、状況の説明を求められた。

 俺は簡潔に状況を伝え、意見を求めた。

健次郎「う〜ん。…まぁとりあえず、飯でも食って落ち着こうぜ?」

 呑気なことを言う健次郎に呆れ、俺は健次郎から千夏に向き直り再び問い詰めようとした。

海音「やめておいたほうがいいんじゃない?優咲。」

 そこへ遅れてやって来た静たちと共にやって来た海音に、俺は止められた。

優咲「海音、これは俺たち夏の…!」

海音「優咲…、やめて。」

 海音は真っ直ぐな目で俺を見る。

 そんな海音を見て、俺は少しだけ心を落ち着かせることができた。

優咲「…ごめん…。みんな…」

 俺が落ち着いたのを見た海音は優しく微笑み、俺た千夏に近づいた。

海音「ボクたちは、君たちが楽しそうにしている姿のほうが好きなんだ。

…だから、しっかりと話し合ってくれ。もちろん、ボクたちに頼ったっていいから。」

千夏「…海音ちゃん…」

優咲「…そう、だな…」

 俺と千夏は顔を見合わせ、一緒に皆に頭を下げた。


ーーー

 食事を終えた俺たちは、それぞれの部屋に戻り、寝る準備をすることになった。

優咲「……」

 布団を敷きながら、俺は焦っていた気持ちと、訳がわからないという気持ちに支配され、いかりを表に出してしまったことを反省していた。

 そんな俺に同室の塁も、何を話せばいいか分からず、ただ静かな時間を過ごしていた。

 そんな部屋に、ノックの音が響いた。

健次郎「優咲、ちょっといいか?」

 扉を開けた健次郎は、いつになく落ち着いた声で俺を呼んだ。

 俺は彼に従い、部屋を出た。

優咲「…悪い…、せっかく誘ってくれたのに…」

健次郎「いいよ別に。

そんなことよりも、お前たちの仲が悪くならないようにするほうが大切さ。」

 普段は役に立たない奴だと思っていたが、この時ばかりは頼もしい存在だと感じた。


 健次郎に連れられ、やって来た場所は、バルコニーから見えていたビーチだった。

優咲「…千夏。それに…」

彗憐「…こ、こんばんわ…優咲くん。」

 なぜか千夏と共に、彗憐と海音が待っていた。

 なぜこのメンツなのか考えていると、健次郎が俺に頭を下げた。

 突然頭を下げられた俺は、どういうわけなのかを聴くことにした。


健次郎「実は、千夏には彗憐の護衛…みたいなものを頼んだんだ。」

優咲「…彗憐の、護衛?」

 俺が困惑していると、海音が説明してくれた。

海音「優咲には前話したと思うんだけど…、

過去に彗憐を狙っていた組織が、また動き始めているらしいんだ。」

優咲「あのヤバい組織が?」

 海音は頷き、どこからの情報なのか、それが分かる手紙を俺に手渡した。

 その手紙には、短い文でこう書かれていた。

『満月の日、彗星を狙う隕石アリ。』と…

海音「正直、イタズラにも近い内容ではあるんだけど…

実際、かなえさんに聞いた情報と、かなり合致するものだと分かったんだ。」

優咲「叶さんはなんて?」

彗憐「…家にも似た文章のが届いてて、ボクの身辺で怪しい行動をする人がいたって…」

 彗憐は怯えるような表情で話してくれた。

 俺は話を整理するため、頭をフル回転させた。


優咲「…つまりだ…、

その手紙は彗憐に忠告するためのモンで、叶さんの調べによると、彗憐の周辺に怪しい行動をするヤツがいたと…。

それで、この旅行は彗憐を守るために計画されたものだってのか?」

健次郎「んま、あながち間違いじゃないな。

お前の言う通り、この旅行は親睦を深めるためのもんじゃねぇ。

彗憐を家から離し、限られたメンバーで彗憐の事を守るというのが目的なんだ。」

 最初からその目的だったことを聞き、俺は深くため息をつく。

優咲「…つまり、俺は健次郎と千夏を見て、勝手に浮気だのなんだの思い込んでた恥ずかしい奴ってことかよ…」

 頭を抱え、俺は千夏に歩み寄る。

 千夏の表情はよく見えないが、きっと怒っているに違いない。

 俺は千夏のことを信じる的な事を言っておきながら、結局、こうして誤解してしまった。

 これは、俺が千夏を信じていなかったということになってしまう、彼女は怒って当然なことだろう。

 俺は深々と頭を下げ、今日の非礼と、一昨日からずっと勘違いしていたこと謝った。

優咲「…本当にごめん、千夏…。俺は、お前のことを信じてやれてなかった…。ごめん…」

千夏「……」

 千夏はそっぽを向いたまま、返事を返してくれない。

 きっと寂しかったのだろう。俺のことを好きだと真っ直ぐに言ってくれる彼女を、俺は疑っていたのだから。


千夏「…好きなの?」

優咲「…えっ?」

 ボソッと彼女が何か言ったので、俺は聞き返した。

千夏「だから…、わ、私の事、まだ、好きなの?」

優咲「…当たり前だろ?」

 夕食の時と同じことを聞いてきた彼女に、俺は本心を伝えた。

千夏「…ふ、ふ〜ん…。」

 彼女は、夕食の時とは違い、少し動揺が見える声で返事した。

千夏「…好きだよ…。」

優咲「……」

 俺はなぜいきなり好きと言われたのか分からず、ポカンとしてしまう。

 ポカンとする俺に、彼女は恥ずかしそうに顔を向け、睨みながらもう一度言った。

千夏「好きだよ…、夕食の時、君が聞いてきたでしょ。その答え!『好き!』ってこと!」

優咲「お、おう。」

 彼女は俺の嫌う目をやめ、いつもの可愛らしい目で俺を見てくれた。それだけで満足した。


健次郎「そろそろいいか?」

 俺達のことを優しく見守っていた健次郎が、痺れを切らしたやうに割り込んできた。

優咲「わ、悪い健次郎…」

 とりあえず謝り、俺は健次郎に向き直った。

優咲「…その、お前のことも勘違いしてた。ごめん。」

 誤解していたことを手早く済ませた。

 健次郎はやれやれとため息をつき、改まった口調で話し始めた。

健次郎「…ここに誘った以上、俺は彗憐を守るし、みんなのことも守る。

だから、このことを知るお前たちは、俺と一緒にみんなを、彗憐を守ってほしい!

千夏も海音も、自分を守ることを第一に考えてほしいが、優咲!

頼む、俺は優咲ほど強いわけじゃないから、彗憐を、なんの心配もなく任せれるのは、お前しかいない…。

彗憐を、守ってくれ!お願いだ!」

 健次郎はあの時以上に頭を下げ、地面にまで額をつける土下座をした。

優咲「…」

 正直、頼まれなくても俺は彼女を守るつもりではあった。

 だが、健次郎に頼まれたことによって、俺は一人だけの問題ではないことを再認識することができた。

 俺は何の躊躇もなく、「任せろ」とだけ返した。

 健次郎が俺に、千夏と海音に頼んだことは、俺も見習わなければいけない姿勢なのだと思う。

 あの時、千夏が言ってくれた『頼ってくれないと寂しい…』その気持ちが、こうして頼られたことで、より鮮明に理解することができたのだった。

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