十九話『千夏の嫉妬心?』
沖縄に無事着いた俺たちは、荷物を宿に置き、さっそく昼ごはんを食べに行くことになった。
基本的には自由行動で、俺はいつものメンバーと共に散策に出ていた。
静「久々に来たけど、やっぱりいいなぁ沖縄。」
美鈴「ただ暑いだけだろぉ〜…」
健次郎「文句があるなら今すぐ帰っても良いんだぞー」
美鈴「うげ…、なんでいんの…」
ワチャワチャと先頭で会話が繰り広げられる中、俺は、どこか気まずさを抱えながら歩いていた。
塁「いつもみたいにイチャイチャしねぇの?」
突然そんな事を言う塁に驚き、思わず肩パンを食らわせていた。
塁「痛い、なんでいきなりぃ」
塁はしょぼんとした様子で俺から離れた。
少し申し訳なく思ったが、今はそんなことはどうでも良かった。
そんなことよりも、千夏だ。
千夏「…どうしたの?優咲。」
優咲「いや、別の…」
千夏「…そ。」
皆は気づいていないのか、彼女はいつもとは違い張り付いたような笑顔で俺のことを見てくる。
俺以外には相変わらず眩しい笑顔を向けるというのに…
少しモヤモヤとする胸の内を落ち着かせつつ、せっかく来た沖縄を堪能しようと頑張ってみる。しかし、やはり気になって仕方がない。
気付けば一日は過ぎており、宿へ戻ってきた。
優咲「くそ…、一体何だってんだ…。」
ベッドに倒れ込み、今朝の千夏の目を思い出した。
アレは確実に、俺を孤立させた時の彼女の目と同じものだった。
そして、同時に思い出した彼女の言葉、『これで私をみてくれる?』
それは、どういう意味で言っていたんだろうと、今になって気になり始める。
俺が頭を悩ませていると、誰かが部屋をノックした。
同室の塁は買い出し組と一緒に出かけているので、俺は仕方なく返事をし、扉を開く。
優咲「海音?」
海音「暇だから来ちゃったよ〜、てことでお邪魔〜」
そう言いながら、彼女はズケズケと部屋に入ってきた。
優咲「塁の私物を盗る気じゃないだろうな。」
海音「ボクを変態みたいに扱わないでくれるかな?」
優咲「そう言うなら、ナチュラルに塁の鞄を漁り始めんな。」
注意はしたが、全く気にしない様子で漁り続ける。
俺は軽くため息をつき、自身のベッドに座る。
海音「…優咲、千夏となんかあった?」
突然そう聞かれた俺は、一瞬だけ完全に動きを止め、すぐには返答できなかった。
それを見た彼女は、何かを察したように塁の鞄をもとに戻し始めた。
海音「余計なお世話かもしれないけどさ、用心しといたほうがいいよ。
今の千夏、何しでかすか分かんないから。」
海音は俺にそう忠告すると、俺の前まで来た。
優咲「…用心?なんで俺が千夏に…」
海音「…それが、君の身を守るためのものになるから。」
彼女ば俺の額を指で弾き、ベッドに倒す。
倒れ込んだ俺は真っ白な天井を見ながら、彼女に問いかけた。
優咲「海音から見ても、今のアイツはやばいか?」
その問いに、彼女はしばらくの沈黙を返し、俺のベッドに座ると応えた。
海音「相当ね。」
ー…新星彗憐
彗憐「はふぅ〜…、海風が気持ちい〜〜」
歩き回り疲れた体を癒すため、ボクは宿の大きなバルコニーで風を感じていた。
彗憐「ふへぇ〜…」
全身の力が抜けていく感覚を楽しみながら、楽しかったことを頭の中で振り返る…。正直、全部楽しかったので、振り返ることなんてないのだが、スマホの写真フォルダを整理するときと同じような感覚で整理だけはしておく。
千夏「彗憐さんも風を感じているのですか?」
彗憐「うん…、歩き疲れちゃったから。」
風を感じていたら、バルコニーへやって来た千夏に声をかけられた。
彼女はボクの隣へ来ると、同じように風を感じようと目を閉じる。
千夏「……」
風に吹かられ彼女は、とても美しく、ボクなんかよりもずっと綺麗な人だと感じた。
彼女はボクのことを覚えていないようだが、ボクは彼女の事をよく覚えている。
最初に出会ったのは、幼稚園の時だ。
幼い千夏「いっしょに遊ばない?」
幼い彗憐「…えっ?」
幼稚園に途中入園したボクは、最初、なかなか馴染めずにいた。
そんなボクに声をかけてくれたのが凛月千夏だった。
彼女は太陽のように眩しく、ボクとはまるで違う世界で育ってきたかのような性格の良さは、ボクに勇気をくれるものだった。
いつも何かに躓くと、ボクはすぐに彼女の事を思い出し、自身を奮い立たせていた。
クラスで一人だった鐘川海音に声をかけた時も、怖い人たちがボクを襲ってきた時も。どんな時でも彼女の、太陽のような笑顔を思い出していた。
彼女はボクにとって、神のような存在で、まさかまた会えるなんて思ってもいなかった。
でも、奇跡というのはあるようで、優咲に惹かれていた僕の前に現れたのが、神である千夏だった。
千夏「彗憐さん、何か考え事ですか?」
彗憐「…えっ、あっ…」
つい昔のことにふけっていると、実物が目の前にいてなぜか驚いてしまった。
彗憐「すみません…」
千夏「なんで謝られた?」
彼女は優しく微笑み、昔のようにボクの頭に手を乗せる。
千夏「すぐに謝るのは、良くないことだよ。彗憐さん」
ナデナデと優しく撫でてもらえて、嬉しくなっているボクに、彼女は質問をしてきた。
千夏「…彗憐さんは、優咲のこと好き?」
彗憐「へっ!?」
突拍子もないその質問に困惑しながら、ボクは正直に答えることにした。
彗憐「す、好き…です。彼女である貴女に言うのはおかしいと思うんですが、…でも、好きなことは…、隠したくないって言いますか…。」
千夏「…」
ボクは恥ずかしさで顔を伏せていた。
やはり変な気分になったボクは、今の言葉を訂正しようと顔を上げた。
彗憐「…っ」
ボクは彼女の死んだような目を見て、恐怖を覚える。
背中から冷や汗が流れ始め、全身から血の気が引いていく。
千夏「…そっか、好きか…。」
彼女は撫でていた手を止め、その手でボクの頬にまでゆっくり下げた。
そして、彼女は耳元まで口を近づけると、冷たい口調で…
「私のモノだからね」
と言った。
彗憐「…っ!!」
ボクは思わず千夏から距離を取り、彼女何を考えているのか分からない顔を見つめる。
千夏「…どうしたの、そんなに距離取っちゃって。」
彗憐「…い、いえ。そ、そろそろ、中に戻ろうかと…」
その言葉を聞いた彼女はニッコリと笑うと、「そうだね」と言い、歩いて室内へと入っていった。
バルコニーに残されたボクは、その場でしゃがみ込む。
彗憐「…はぁ…はぁ…、こ、怖かった…。」
ボクは胸を抑え、いまだ感じる恐怖を、深呼吸で落ち着かせる。
彗憐「千夏、さん…、なんであんな顔を…」
憧れていた相手に、あんな顔をされてしまい、ボクはどうしたら良いのか分からなくなってしまった。
結局、ボクは何も変わっていないのだと、自覚してしまうのだった。
ー…黒和優咲
夕食の時間。皆でワイワイと食事を、バイキング方式で取っていく。
健次郎「好きなだけ食べてけー、寝るのにも体力使うからなあー」
そう言いながら、健次郎は大量に食事をとっていく。
俺は適当に盛り付けを終えると、皆とは少し距離を置くため、バルコニーへと移動する。
優咲「…お前、せっかく人と関われる時間なのに、なんですでにここにいんだよ…」
彗憐「あっ、…優咲、くん…。」
ちんまりと縮こまって食事を食べる彗憐の隣りに座り、自分の取った食事を食べる。
彗憐がたまにこちらを見てくるが、気にしすぎず、黙々と食べていく。
美鈴「おー、いたいたー!」
ゆったりと食べていた俺と彗憐のもとに、なぜか美鈴と静がやって来た。
静「おい、もっと他の奴らともつるめよオマエら。」
静は呆れたようにそう言うと、俺のすぐ隣に腰を下ろした。
美鈴笑いながら、「ウチらも人のこと言えねぇけどなぁ」 と言いつつ、なぜか俺の上に座ってきた。
優咲「おい!邪魔だぞ!」
美鈴「ここが特等席っつてなぁ〜」
静「オマエ、千夏の彼氏に何してんだ…!」
静が焦ったように、美鈴を俺からはがし、なぜか今度は静が座ってきた。
優咲「なんでだよ、わざとだろ!」
美鈴「特等席だろぉー?」
静「…まぁ、兄のこと思い出せるな…」
優咲「誰が兄だ…」
静を持ち上げ、俺のいた所に座らせる。
美鈴「ざんね〜ん」
ふわふわと笑いながら、美鈴は静の上に座ったまま食事を始める。
静も、少しだけ残念そうに食事を始める。
俺は小さくため息をつき、食事を再開しようと箸を持った時、どこからか視線を感じ取った。
優咲「…まさか…」
静「ん、どした?」
美鈴「もしかして、千夏が見てたか?」
彗憐「っ!」
俺は冷や汗をかきながら、視線の方向へ目を向ける。
千夏「…………」
やはりと言うべきか、千夏が俺達の事を、一つ上のバルコニーからしっかり見ていた。
千夏「…。」ニコ
優咲「ッ!!」ゾワ
不思議な笑顔をされた俺は、食事をその場に置き、千夏の元へ走った。
美鈴「おぉー、急げ急げ!殺されるぞ!」
優咲(誰のせいだよ!)
俺は呑気にエールを送る美鈴に心の中でツッコミながら、全力で走る。
これ以上、千夏にわけのわからない疑いをかけられるのは避けたいため、今夜、しっかりと彼女と話そうと決めたのだった。




