表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘は真実へ  作者: 文記佐輝
一章『嘘から始まる恋』
2/15

一話『はじめてのウソ』

黒和優咲は嘘をついたことがない。

どんな些細なことでも、嘘ではなく真実を語ってきた。

そんな性格のせいで、彼は周りから嫌われていた。

「あいつだよ、なんでもかんでもバラすクズ。」

「秘密も守れねぇゴミなんだぜ。」

嘘をつけないせいで、同年代から嫌がらせをされる。

嘘をつけないせいで、先生や大人から距離を取られ、嫌われる。 

嘘をつきたくないから、人から嫌われる。

孤立状態の彼でも、癒やしをくれる者がいた。

その少女の名は、川中ミルハ。

彼女だけは、彼に嫌な顔せず接してくれていた。

なのに、ある日から彼女も彼を避け始めた。

その理由を知った時、彼はどうしようもない怒りに包まれた。

彼はその犯人であった幼馴染を問い詰めた。

しかし、彼女から聞き出す前に、先生に止められたせいで、何もわからなかった。

その事が彼をいじめる理由となってしまった。

「お前女子に手出したんだろ、本当のクズだな。」

「母さんが言ってたぜ、女子に手出すやつはろくでなしって。」

大人も子供も全員から仲間はずれにされる彼は、もう誰も信じなくなってしまった。

小学、中学と除け者にされ続けた彼に、出会いなどなく、高校では誰とも関わらずに生きようとそう決心した。

決心したはずだったのに…

ーーー

高校に上がった俺は、周りが友達を作る中、一人机で眠っていた。

何人かに声をかけられたが、それらを無視し眠り続けた。

気づけば放課後になっており、皆帰り支度を始めていた。

俺は、きっと嫌われただろうと、そんな事を思いつつ鞄に荷物を詰め始める。

「黒和くん…だっけ?」

黙々と荷物を詰め込んでいた俺に、前の席にいた男子生徒が話しかけてきた。

俺は、今朝に行った自己紹介の事を思い返し、そいつの名前を思い出した。

「…工藤さんでしたっけ?」

そう聞くと、彼は嬉しそうに頷くと、手を差し出した。

「オレは工藤塁っていうだ!これからよろしく。」

「……」

彼は頬をかきながら、いかにも爽やかなオーラを漂わせていた。

一瞬迷ったが、前の席なためこれからも何かと関わるだろうと考えると、俺はその手を握り返した。

「…黒和優咲です。よろしく。」

「よろしく!…へへへ!」

彼は嬉しそうにそう言う。そんな彼の友達であろう男子生徒のグループが彼を呼んだ。

彼は俺に手を振ると、そのグループに入っていった。

俺は止めていた帰り支度を、手早く済ませると、教室を出ようとした。その時だった。

「…ゆ、優咲!」

小学以来に聞いたその声に、俺は鳥肌が立った。

その声が聞こえた方へ目を向けると、そこに立っていたのは。

「…凛月千夏…?」

この世で一番キライな女だった。

彼女は俺に近づくと、俺の耳元まで顔を近づけた。

「…校舎裏に来て、話したいことがあるから…」

「…はぁ?」

「じゃ、じゃあ、待ってるから…ね?」

彼女はなぜか赤面気味になっていた。

俺にそう告げた彼女は、そそくさと離れていった。

正直、俺が行ってやる義理はなにもないが、もしかしたらあの日の続きを聞けるのかもしれないと思い、悩んだ末行くことにした。

俺と彼女は、幼稚園の時からの幼馴染であり、小学まで一緒だった女だ。

中学の時は、彼女は親の都合で引っ越していたため、彼女に会うことはなかった。

しかし、まさかこっちに帰っているとは思わなかった俺は、とても憂鬱に思っていた。

あの件以降、俺は彼女の顔を見る度に、苛立ってしまう体質となっていたのだ。

きっと彼女には、俺の苦しみは理解できていない、彼女はあの件以降も、ちょくちょく俺に話しかけようと近づいてきていた。そんな奴が、俺の気持ちを理解できるはずがない。

俺は仕方なく校舎裏まで行くと、彼女がもじもじとしながら待っているのを見つけた。

彼女は俺に気がつくと、嬉しそうな顔をこちらに見せた。

俺は出来るだけ笑顔を保つように、彼女の前まで歩いた。

彼女はどこか気恥ずかしそうに、こちらを見た。

そんな彼女に、俺は吐き気がした。

そして、彼女は俺が求めていたこととは全く違うことを口にし始めた。

「優咲…私、優咲の事が、ずっと好きだったの…だから…」

「………」

俺を一人にした原因が、そんな事を俺に言ってきやがった。

彼女は手を前に出すと、

「私と、つ、付き合ってください…!」

「……」

俺は今どんな顔をしているのだろう、俺を一人にしたクズが、俺を好きだと、付き合ってくれとそう言ってきた。

それに対しての怒りが、心の内から沸々と沸き立ち。

俺はその手を弾こうとしたその時、一つの計画が脳裏に映し出された。

『このクズを陥れたくねぇか?』

悪魔のような声で、俺が俺に話しかけてきた。

『ダメだよ、そんな事をしたら本当のクズになるぞ。』

天使のような声で、もう一人の俺が俺に話しかけてきた。

『こいつに俺達の苦しみを与えてやるんだよ!』

『そんな事、俺達の本心は願ってない!』

天使は俺に向き直ると、熱心に復讐はダメだという。

しかし、そんな天使の後頭部を、悪魔は容赦なく殴りつけ、倒してしまった。

『…これは俺達の本心そのものさ、こいつのせいで誰も信用できなくなっちまった。』

悪魔は倒れている天使にとどめを刺すと、天使は泡のようになって消えた。

『これはチャンスだぜ。このクソアマに復讐する、最高の機会だ!

こいつを幸福の絶頂から、地獄に叩き落してやろうぜ!』

悪魔はそう言うと、その姿を消した。

「……俺もお前のことが気になってたんだ。」

気になっていたことは嘘ではない。

「ずっとお前のことを見ていた。」

俺は彼女の差し出した手を取ると、告白の返しをした。

「…俺もずっとお前のことが、好きだった。付き合おう…」

そんな心にも無い『好き』を、意外にもスラッと口にすると。

彼女のことを抱き寄せた。

そして、彼女に自身の顔が見えなくなると、思わず笑みがこぼれた。

しかし、その笑みは嬉しさからの笑みではなく、これから行うことへの期待を込めたような、ゲスな笑み。

「嬉しい…!」

彼女は嬉しそうな声で、俺を抱き返す。

俺もそれに応えるように、抱きしめる力を強める。

「……俺も嬉しいよ…千夏…」

二チャ、と言う効果音が似合うだろう笑みをこぼすのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ