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嘘は真実へ  作者: 文記佐輝
三章『嘘は矛に』
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十八話『その目』

自由時間は結局、いつものメンバーと合流し、観光をして終わった。

正直俺は、千夏と二人で観光をしたかったという気持ちがあった。しかし、合流した塁の懇願に負けた以上、俺が何かを言えなことはなく、いつものようにワチャワチャと過ごした。


塁「いや〜楽しかった!なぁ優〜!」

楽しそうに笑う塁を軽く小突きながら、「そうだな」と肯定した。

塁と共に、用意された部屋へと入った。

「すげぇひれぇ!!ほんとにオレらの部屋かぁ?!」

塁はそう叫びながら、鞄を適当に放り投げると、すでに用意されていた布団へ飛び込んだ。

優咲「お前…、まだ風呂入ってないだろ。汚いぞ…」

最初に荷物を置きに入った時も、塁は同じことを言っていたが、そこには触れずに汚いことだけを指摘した。

塁「そうだけど言い方…!ひどいぜぇ〜!!」

変なテンションな塁を放ったらかし、俺はさっそく浴場へと向かう準備を始めた。塁は不貞腐れたのか、ブツブツと何かを言いながら準備を始めた。


準備を終えた俺は、塁に先に行くことを伝え、部屋を出た。

優咲「ん?」

千夏「あっ…」

部屋を出ると、隣の部屋の前に、千夏と健次郎が何か話していたのを見てしまった。

健次郎は少しだけ険しい表情をしていたが、俺を見てすぐに微笑んできた。

健次郎「…それじゃ、今晩、また来てくれ。」

千夏にそう告げると、健次郎は浴場とは反対の方へと歩いて去っていった。


廊下に俺と千夏だけがいる状況で、気まずさがとんでもなかった。

(…二人は何を話していたんだ?

千夏に限って、まさかそんなことはないよな…?)

俺は気まずさを上回る勢いで、疑問も同時に湧いてきた。

最悪な想定も、俺はしてしまった。

そんな俺に、千夏は恥ずかしそうに、けれどどこかよそよそしく笑った。

千夏「優咲…、顔、怖いよ?…大丈夫?」

優咲「…っ…、ごめん…、考え事してた…」

気付かないうちに、俺は千夏のことを睨んでいたらしい。

俺は気持ちを落ち着かせるため、話題を考えたんだ。しかし、かえって疑念が湧く一方で、俺は後頭部を軽くかいた。

優咲「…なんでもないんだ、千夏…。ただ…」

それから先の言葉が思いつかず、言葉に詰まった俺に、千夏は耐えられなくなったのか、胸の前で抱きしめていた衣類を見せ、千夏は小さく「…お風呂…」と呟き走って行った。

そんな千夏を見ながら、俺は何もできなかったことに、少しだけ嫌気が差した。


ーーー…

もやもやが晴れないまま、俺は沖縄行のフェリーに乗っていた。

静「大丈夫かユウサク〜?」

優咲「ん?…せいか」

静「オレで悪いな」

静は笑いながら、俺の隣に立った。

特に何かあるわけじゃない。ただ静は、静かに俺の隣にいるだけ。

俺からも、何か話しかけることもなく、離れていく本島を眺めていた。


優咲「…静、相談したいんだけど…。いいか?」

ずっと隣りに居てくれたおかげで、少しだけ気持ちが楽になっていた俺は、昨日のことを濁しながらでも、彼女に相談しようと思った。

静「モチだぜ。

オレたちはトモダチなんだからよ、なんでも相談しな。」

静は優しく笑うと、設置されている椅子を差した。

それは、ゆっくりと話せという意図だと、俺はすぐに理解した。

俺は、長椅子に先に座った静の隣に腰を下ろし、相談を始めた。


ー…凛月千夏

揺れは少ないが、十分なほどに酔った私は、風を感じようと外へ出た。

「ふへぇ…。やっぱりフェリーだめだぁ〜。」

私は柵に掴まり、風を全身に浴びた。

「きもちぃ〜〜」

気分がスッキリとしたせいか、私は昨晩のことを思い出す。

「…優咲、勘違いとか…、してないよね?」

あの時、たまたま出くわしてしまった優咲から、私は逃げるように浴場へ向かってしまって、申し訳ないことをしたと反省していた。

正直、あそこが優咲のいる部屋だとは思っていなかったから、不意を突かれただけで、別にいかがわしいことをしていたわけではないのだから、優咲があんな怖い目で見なければ、私は逃げなかった…。

「…そうかな…?」

私は自問する。

あの時、もし彼があの目をしていなかったとして、私は本当に逃げなかったのだろうか。

「……んぅ…」

後で謝ろう、私はそう決意した。

モヤを晴らせたかというと、まだ不安が私のなかにあった。

嫌な予感、とでもいうのだろうか、私は胸騒ぎが抑えれなくなっていた。

その時、突然大きく船体が揺れ、私はその場でしゃがみ込んだ。

そして、それはあまりにもタイミングが悪かった。

下の階からドタンという音を聞き、優咲の声のようなものも聞こえてしまった。


「…」

私は悪い女なのかもしれない。

気づいた時には写真を撮っていた。

音は潮風によってかき消され、彼らには聞こえていない。

「…私の優咲…、なんで…」

私はどんな顔をしているのだろう…。

私は、彼女にどんな目を向けているのだろう…。

それすらも分からず、私は歩き始めた。


ー…黒和優咲

優咲「…静、大丈夫か?」

静「……ぁっ、あぁ、こんぐらい全然?」

俺は体を起こし、静の上から退いた。

なかなか起き上がらない静に困惑しながら手を差し伸べ、起きるのを手伝った。

優咲「にしても、さっきの揺れ大きかったな。」

静「…そ、だな…」

様子がおかしい静は、妙に顔が赤いように見えた。

熱でもあるのかと思い、俺は彼女の額に手を当てた。

静「ひゃっ?!な、なにすんだオメェ!?」

優咲「顔が赤いから、熱があるんじゃ…」

静「ッッッ!!!」

突然暴れ始める静に驚きながら、その動きを俺はなんとか抑え込み、彼女の両腕を左手で掴み上げ、右手で額に触れる。

優咲「やっぱり熱いぞ、無理してたんじゃないだろうな?」

静「風邪なんか引いてねぇし!!どけろ!!」

ウゥと猫のように怒る彼女から離れ、ゆっくりと起き上がった。

優咲「…体調悪いのに、相談乗ってくれてありがとな、静」

俺は彼女にそう伝え、横になれるところへ連れて行こうと彼女に近づいたが、静はシャーっと威嚇をすると、勢いよくその場から去って行ってしまった。

そこに取り残された俺は、もう一度感謝を心のなかで述べ、俺は再び椅子に座った。


少し経ってから、今度は千夏が現れた。

俺は少し気まずさを抱えながらも、とりあえず挨拶をしようと彼女の目を見た。

優咲「…っ!」

"あの目"だった…。

千夏「…優咲、沖縄楽しみだね。」

彼女はいつもとはどこか違う笑顔を見せ、それだけ伝えると背を向けた。

俺は全身から冷や汗を流しながら、「そうだな…」と返すことしかできなかった。

千夏が姿を消して、俺はすぐに全身の力を抜き、椅子に座り込んだ。

優咲「…なんでその目をしてんだよ…?」

俺は昔のことを思い返しながら、彼女の"その目"に恐怖を感じていた。


俺が唯一、彼女を、凛月りつき千夏ちなつに恐怖を覚えるその目は、あの時もそうだった。

それは、俺に気さくに話しかけてくれた川中ミハルについて、彼女に話した時だ。

いつもの彼女は、優しく、温かい表情で話を聞いてくれるが、その時だけは違った。


それが、あの目。

冷たく、何を考えているのかも分からないその目。

その目だけが、俺を恐怖に陥れる。


その目をした千夏は、ミハルを俺から遠ざけ、俺を孤立にしたのだ。

今でも覚えている。ミハルについて問いただした時、彼女は間違いなく冷酷な目を、その目をしていた。

そして、彼女は俺にしか聞こえない声で言った。






『これで私だけを見てくれる?』

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