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嘘は真実へ  作者: 文記佐輝
二章『嘘は盾に』
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十四話『優しさを知った』

ー…鐘川かねがわ海音みおん

朝、目覚めたボクはいつも通り学校へ行こうと思っていた。

「……」

だけど、ボクの心はそれを拒んだ。

昨日の放課後、彗憐から話を聞いてから、ずっと胸の内がモヤモヤとしていて気持ちがスッキリしないことが関係しているように感じた。

「…ボク、弱いな…」

そんな事を呟きながら、ボクはスマホを取り出し、学校へ行けない事を連絡した。

一応学校にも連絡し、ボクは学校を休んだ。

気分が晴れないまま自宅へ戻る。と言っても、まだ玄関を出て二、三歩しか歩いていないのだが。

ボクはリュックをソファに置き、冷蔵庫からブラックコーヒーを取り出し、それを飲んだ。

コーヒーの苦味を感じながら、ボクはある人に電話をかけた。

『…もしもし。』

ワンコールで繋がった。

「…お久しぶりです。鐘川海音かねがわみおんですけど…。」

久しぶりに電話をかけた相手は、ボクの名前を聞いてすぐに思い出したようだった。

『久しぶりだね。元気だった?』

優しい声色で、ボクの心はすぐに解きほぐされた。

「はい、すごく元気です。」

『すごく元気か…。それで、どうしたのこんな時間に、もう学校へ行く時間だろう?』

彼は不思議そうに尋ねてきた。

ボクは一瞬だけ躊躇ったが、すぐに気持ちを落ち着かせ、それを聞いた。

「…柳に会いたいんです、けど…、大丈夫ですか…?」

『………』

その申し出は予想できていなかったのか、彼は黙った。

少ししてから、彼はようやく口を開いた。

『……いいよ。』

まさか了承してくれるとは思わなかったボクは、驚きつつ感謝した。

『だけど、話せるかは別だよ。』

「……はい、分かってます。ただ、会いたいんです…」

『…そっか…、分かった。

私はこれから仕事があるから、お昼頃に夕咲北病院に来てくれるかな。その時間なら私も同行できるから。』

「分かりました。では、お昼にまた…。」

『うん。…それじゃあ、またね。』

そう言い、彼は電話を切った。

………

真っ暗な画面を見ながら、ボクは天を仰いだ。

「……ハァ~…。」

ボクはほぐされていた心を一気に強張らせた。

小刻みに震え始めた手は、ボクの緊張の度合いを表していた。

口内に溜まった唾を飲み込み、熱くなった身体を冷ますために制服を脱ぎ下着姿になる。

………

「……しっかりしろ…、ボクは、成長したんだろ…?」

そう言いながら、ボクは自身の両頬をパシッパシッと叩く。

深く深呼吸して、ぐちゃぐちゃな気持ちをどうにかしようと頭をフル回転させる。

その時、自身の汗だくの身体を見て、お風呂で落ち着くことにした。

脱衣場につくと、ボクはすぐに下着も脱ぎ、裸で風呂場へ入る。

蛇口をひねり、冷たいシャワーを頭から被る。

「………。」

冷たいシャワーは、徐々に常温に変わっていき、温かいお湯へと変わった。

その間、ずっと僕の頭の中には、彼女の言葉が残っていた。


彗憐『…あの時、ボクに勇気があれば…。』


彼女はきっと、長い間そのことで悩んで生きてきたのだろう。そのぐらい、あの言葉には様々な気持ちが乗っていた。

それをボクに言うためにも、きっとそれだけの勇気が必要だったはずなのだ。それなのに彼女は、ボクに真実を伝えてくれた。

怖かっただろうに、嫌われてしまうかもしれないのに、それでも彼女はボクを信じて伝えてくれた。

それなのに、ボクにはそれに返せるだけのものが無い。

「……何もないんだな…、ボクの人生…」

考えれば考えるほど、自身の弱さに悩まされる。

………

「……ふぅ。」

ボクはシャワーを止め、バスタオルで全身の水を拭き取る。

バスタオルを身体に巻き、自室まで戻ろうとした。

その時、父がリビングにいることに気づいた。

「……なんでいるの…」

ボクは父に近づき尋ねた。

父はコーヒーの入ったコップをテーブルに置くと、ボクを見た。

父「…君こそ、なぜこんな時間に家にいるんだい?」

ボクを見るその目は、まるで興味のないものだった。

「…どうせ、興味ないでしょ。」

ボクは冷たく言葉をかける。

父はボクから目線を外すと、「そうだな」と言い新聞を開いた。

「……ボクの質問に応えてないじゃん。」

拳を握り、できるだけ表に怒りが出ないように心がけた。

父「…私はこの家の主人だ。いてもなんらおかしくないだろう。」

「……あっそ…」

いつもと変わらない返しに、ボクも適当に返した。

相変わらずな態度に呆れながら、ボクは自室へ戻ろうとした。

父「…そんな格好で家を歩くもんじゃないよ。」

父は新聞に目を通しながら、これもまた、いつものように言ってきた。

ボクは下唇を噛み、その注意を無視して自室へ向かった。

自室へ着くと、ベッドにそのままダイブした。

「……ムカつく…」

ボクは父が嫌いというわけではない。ただ、興味を持ってもらへないことへの苛立ちが勝ってしまうというだけだ。

昔から父は人に関心を示さない。

母と結婚したのも、すべて利益のためであって、そこに愛などは存在しない。

ボクがもし産まれていなかったら、二人はすぐに別れていただろうと思う。

そう思わされるほどに、二人の関係ははじめから冷めきっていた。

そんな二人から産まれたボクは、当然愛なんてものを受けたことが一切なかった。

ずっと愛を知らずに生きてきたボクに、好きという感情を教えてくれたのが、他でもない新星彗憐にいぼしすいれんだった。


昔は誰かに興味を持ってもらおうと必死で、今よりもずっと悪いやり方で目立とうとしていた。

それが原因で、ボクは結局一人ぼっちになってしまい、クラスでも浮いた存在になっていた。


そんなある日、ボクの前に彼女が現れた。

彗憐「…一緒……。」

彼女は引きつった笑顔で、ボクに手を差し伸べてくれていた。

その手を見ながら、当時のボクは捻くれていたために、その手をはたいた。

海音「…一緒じゃねぇ!」

謎のプライドが邪魔をしたんだろう。

彼女とのファーストコンタクトは最悪なものだった。

それなのに、彼女はボクの前に何度も現れた。

最初はボクの前に現れるだけで、これと言って何かを言ってくるわけではなかった。

ボクもそんな彼女を鬱陶しく思い、怒鳴ったりしたが、次の日にも同じように現れた。

そんな日が毎日続いた。

正直、ボクはその当時から彼女に惹かれていた。

だから数日経った日に、ボクから話しかけてみることにした。

ボクは彼女のいるクラス探し回り、ようやっと彼女を見つけた。

その時、ボクは初めて心が高鳴ったような気がした。

手を挙げ、彼女に近づこうとした。

そこでやっと気づいた。


彗憐「………。」

彼女のもまた、ボクと同じようにクラスのはぐれものだったのだ。

海音「……おい。」

彗憐「ッ!」

ボクはそんな彼女を放おっておけなかった。

突然話しかけられたことに動揺した彼女は、小刻みに体を震わせていた。

海音「…おいって言ってるだろ。」

二度目の問いかけで、彼女はボクの方へ目を向けた。

ボクだと気づいた彼女は、なぜだか笑顔を見せた。

彗憐「……ッ…」

ボクは少し顔を背けながら、手を差し伸べた。

初めて会った時に、彼女がしてくれたように…。

それからボクと彗憐の仲は良くなり、普通に会話するまでになっていた。


その頃には、ボクも人との関わり方を理解しており、彗憐以外の子たちとも打ち解けていた。

ホグが順調に友達を増やしている一方で、彼女は相変わらずボクにだけにしか心を開いていなかった。

静「よ!お前が彗憐か!」

彗憐「…ッ!!」

美鈴「んぉ?なんだコイツ?」

海音「シャイなんだよ。」

小学三年の頃に出会った加藤静かとうせい笹野美鈴ささのみすずも、気兼ねなく彗憐に話しかけてくれていた。


だがその年の十二月のクリスマスイブに、例の喧嘩をしてしまったのだ。

喧嘩の内容は、彗憐がボクの悪い噂を聞いたということだった。

最初は怒る気なんてなかった。

いつものようにちょっと話せば彼女なら理解してくれると、勝手に信じていた。

だが話が進むにつれて、ボクと彗憐はヒートアップしてしまい、ボクは日頃のストレスを彼女にぶつけてしまったのだ。

海音「最初からスイのことなんか塵ほど興味なんて無かったから!!」

彗憐「…!!」

口から出たその言葉は、その場で出た本音だったのかどうか、今思えばどうしてあんな事を言ってしまったのか、不思議でならない。

しかし当時のボクには、それらの感情をコントロールする事は不可能であり、彼女と別れる原因となった言葉を吐露した。

彗憐「……ボクは、一人でよかったんだよ……。」

その言葉を聞いた彼女は、明らかに動揺していた。

口は必死に何かを言おうとしているが、言葉が出てこないようで、ただパクパクと動かしていた。

ボクは胸の内側が気持ち悪い感覚になり、うつむきながら服の裾を必死に押さえそれを止めようとする。

そんなボクに、彼女はようやく口から言葉を絞り出した。

海音「…なにそれ…?」

その言葉ら震えていて、ボクは思わず顔を上げてしまった。

彼女の目から、ポロポロと涙が溢れていた。

それを見た途端、ボクに罪悪感が一気に押し寄せてきた。

それと同時に、心音はさらに大きくなり、全身から血が引いていく感覚に襲われた。

「…あっ…」とボクが口を開こうとした時、彼女に頬を叩かれた。

ボクは叩かれた頬を手で押さえ、歪む視界で彼女を見た。

彗憐「…ワタシがアナタに話しかけなかったら、アナタは一生誰にも、興味、を……、興味を、持ってもらえなかったでしょ!!」

高ぶる感情の中、彼女は自身の口から出る言葉を抑えようと、少しの理性で口元を右手で覆い、左手で胸を抑えていた。

しかしその理性を振り切り出たその言葉は、ボクにとって一番言われたくなかった言葉であり、ボクは途端に呼吸が乱れてしまった。

海音「ハァッ…、ハッ、ハァッ…ハァッ……!!」

ボクは両手で胸を押さえ、腹の中から湧き上がってくる吐き気を必死に抑える。

ボクは手で口を覆ったが、抵抗は虚しく、口から大量に吐瀉物を吐き出してしまった。

海音「ゲホッ!カハッ!ゴホッゴホッ!!グゥフッ…!!」

それらはボクが気を失うまで行われ、気がついた時には病院のベッドに寝かされていた。

海音「……」

辺りを見渡しても、誰も居なかった。

また、一人になったのだと思った。

ボクは天井に手を伸ばし、彗憐のことを思い出していた。

もう会えないのだろうか?

その時はそう思って、誰もいない病室で、一人で号泣した。

だがタイミングというものを考えない馬鹿は居たようで、号泣するボクの部屋をノックもせずに入ってきたガキが居た。

美鈴「お!めっちゃ泣いてんじゃん!」

静「海音も泣くんだなぁ!?」

海音「………ぅあ……?」

歪む視界の中で、その二人はいつもと変わらずに笑顔で話しかけてくれた。

美鈴「泣き虫だったんだなぁ!!」

美鈴はそうからかいつつも、ボクの涙を子供ながらに優しく拭ってくれて。

静「鼻水ダラダラだぜ!たくよぉ、しっかりしろよなぁ海音!」

静はそう言いながら、ボクの頭を撫でてくれた。

そんな二人の優しさに触れて、ボクはさらに泣いてしまった。

静「うわ!?」

美鈴「なんだよぉ〜、せっかく拭き終わったのにぃ〜!」

海音「ごべん"〜!!」

美鈴「泣きながら謝られた!?」

静「ハハッ!なんだ、意外と元気じゃねぇか!」

その時分かった。

彗憐のおかげで、ボクも知らないうちにこんなにも良い親友と出会っていたということに。

ボクは彗憐に、気づかないうちに救われていたのだ。

……

だからこそ、今度はボクが、彗憐の力にならなければいけないのだ。

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