十一話『誰かに頼ること』
ー…新星彗憐
輩A「おい、本当にこんな事して良いのかよ?!」
輩B「もうここまで来たんだ!後には戻れねぇよ!」
男たちの声が、廃墟の中をかけていく。
ボクはゆっくりと目を開き、男達が口論しているところを眺めた。
(…きっと助けなんて来ない。)
すでに諦めているボクは、その時が来るのを待つ。
(何のために生まれてきたんだろ…)
大女優の娘として産まれただけなのに、その才能を引き継いでいなかったから、皆から勝手に失望されて、貶されて。
『本当にあの人の娘か?…だとしたらとんだ期待外れだな…』
ふとその言葉を思い出した。
ボクの指導役に選ばれた白石叶さん。
唯一ボクが信用した男の人。
そんな人に言われた言葉が、今まで言われたどの言葉よりもキツかった。
その日からだったと思う。
今思えば、その日からボクは、全てを諦めていた。
ボクは才能がないし、愛嬌もないし、友人と言えるものもいないし。
中学生の二年生の頃から、大女優であった母のとても綺麗だった顔だけを受け継いだボクは、身体目当ての男性によく話をかけられるようになった。
それからずっと、ボクは男性への恐怖心を拭えずにいた。
でも高校へ上がってから、あるニュースを観たのだ。
それは、一人の男子高生が、女子高生を護ったと言うものだった。
そこでボクは彼を知った。
彗憐「…黒和、優咲…」
ある記事では悪人のように書かれていた彼は、ニュースによってその印象をすべて覆し、女子高生を護ったヒーローのように言われた。
ボクはそれを観た時、思わず心を惹かれてしまった。
今まで、絶対に男性へ惹かれることはないと思っていたのに、その心はあっけなく崩されてしまった。
しかし、きっと彼とは会うことはないだろうと思っていたのに、
優咲「あの、新星彗憐さんは今日当番ですか?」
彗憐「……」(え…?)
あの時、珍しく図書室へ来たと思った人が、顔を見るとまさかの彼で、しかも…
優咲「突然で申し訳ないのですが、好きなタイプはどんな人なんです?」
そんな事を聞かれてしまった。
ボクはあの時、思わず口を滑らせてしまった。
彗憐「…それは、黒和くん…、です…」
スッと口から出てしまったその言葉は、彼の耳には届いておらず、気持ちの整理をしていなかったボクからしたらありがたかった。
ボクはできるだけうれしい気持ちを抑え、少し距離をとった。
とったのに、彼はボクのことを助け、次の日も会いに来てくれて。
しかも、彼はボクと同じ地区に住んでいて、同じ幼稚園で育っていて。
ボクはこれを、運命だと思ってしまった。
初めてボクは欲してしまった。
…そうか、ボクは欲しいのだ…
輩C「おい!依頼人が来るまで楽しんでもいいか?!いいよな!?」
色々なことが、走馬灯のように流れ込んでいたボクの耳に、その言葉が聞こえた。
輩D「…まぁ、別に商品がどんな状態でも構わないって話だったもんな?」
輩C「じゃあ存分に楽しむぜ!」
そう言うと、ボクの身体に男が触れようとしてきた。
彗憐「……い、…」
その時、ボクは脊髄反射的に、勝手に体が動いた。
彗憐「嫌だ!!!」
縛られた腕を、今出せる全力で振った。
その腕は、油断していた男の顎に直撃し、男は白目をむき少し仰け反った後、倒れ込んだ。
輩C「てめっ!?何しやがる!!」
怒った様子で近づいてくる男たちに、ボクは必死に腕を振りできるだけ時間を稼いだ。
ボクは信じたのだ。
きっと誰か来てくれる。
黒和君たちが、ボクを助けに来てくれる、と。
しかし必死の抵抗も虚しく、ボクはあっけなく男たちに取り押さえられてしまった。
輩A「ガキだからってもう容赦しないぞ!」
(もうだめ…!)
金槌を振り上げた男を見ながら、最後に、希望を信じて叫んだ。
彗憐「誰かぁ!!!助けてぇ!!!!」
輩A「黙れよ!クソガキ!!」
そして、その金槌は振り下ろされた。
ー…黒和優咲
俺は学校付近の、人通りのないところを徹底的に探した。
しかし、新星の姿は見えなかった。
優咲「いったいどこに…?」
スマホを確認する。
すでに学校を飛び出してから、すでに二十分が経っていた。
優咲「くそ…、どこにいやがる!?」
怒りで思わず壁を殴ってしまった。
壁を殴った拳から、血が出始めてきた。
千夏「優咲!何してるの?!」
そこへたまたまやって来た千夏に見つかった。
俺は拳を思わず隠してしまった。
優咲「何でここに…」
千夏「そんな事は今は良いでしょ?!とにかくその傷見せて!」
心配した千夏は、俺を怒鳴ると傷を手当てし始めてくれた。
優咲「…千夏、気持ちは嬉しいよ。…でも、今急いでるんだ。だから…」
千夏「…どうして…?」
優咲「え?」
千夏は顔を見せずに、肩を少し震わせていた。
そして、俺の手の甲に涙が垂れてきた。
優咲「ち、千夏?」
俺は心配で、千夏の頬に手をやり、彼女に顔を上げさせた。
優咲「…!」
彼女は泣いていた。
それは怒りから来るものなのか、それとも別の要因から来るものなのか、俺にはわからないが、彼女は泣いていた。
千夏「どうして頼ってくれないの?」
彼女は震える声で、そう尋ねた。
優咲「…それ、は…」
どう返せばいいのか分からず、狼狽えた。
千夏「…なんでも一人で解決しようとするのは、どうして?
私を、私達を頼ってくれてもいいじゃん…」
優咲「ごめん…、でも、迷惑はかけたくないから…」
千夏「迷惑だなんて、誰も思わないよ…!」
間髪入れずそう言った千夏は、しっかりと俺の目を見てくれた。
俺はきっと、間違っていたんだ。
今でも、俺は一人で何でもできると思い込んでいて、あの時も結局…
優咲「悪い…千夏…」
ようやく分かった気がした。
友達というものを、そして、彼女というものを。
優咲「…俺は、頼ってもいいのか?」
千夏「……当たり前じゃん、頼ってくれないと寂しいんだよ。」
優咲「そうか…なら…」
俺はこの日、成長することが出来たんだと思う。
一歩ずつ、たとえそれが、どれだけ小さくても俺は大人へと近づいた。
優咲「頼む、新星っていう女子生徒が攫われたんだ。
…その子を助けるのを、助けてくれ…!」
俺は頭を深々と下げ、彼女に助けてもらえるように頼んだ。
彼女は俺の頬に手を当て、頭を上げさせた。
頭を上げた俺は、優しく微笑む彼女の顔を見た。
千夏「…分かった、その子をみんなで探そう。」
優咲「…ありがとう、千夏…」
そして、千夏はすぐに塁たちに連絡を入れた。
塁たちはすぐに了承し、みんなで探し始めた。
俺はみんなに感謝しながら、捜索を再開した。
それから約四分後に、美鈴から連絡が入った。
優咲「もしもし!美鈴、見つけたか?」
美鈴『それっぽい現場は見つけたよ!場所は…、あれ、まずいかも!?』
優咲「美鈴?どうした美鈴!!」
美鈴『ーーーー!!』
スピーカー越しで、あまり音は聞こえなかったが、金属音が聞こえた。
俺は美鈴が危険な状況にあると思い、美鈴と同じ方向を捜索していた海音に電話した。
優咲「海音!美鈴が危ないかもしれない!」
海音『嘘…?!早く助けに行かなきゃ!』
優咲「俺も行く!場所を教えてくれ!」
海音はおおまかな位置を教え、電話を切った。
俺は海音に聞いた場所へと走った。
優咲「新星!美鈴!無事でいてくれっ!」
ー…鐘川海音
優咲『俺も行く!場所を教えてくれ!』
ボクは優咲に位置を教え、電話を切った。
そして、美鈴の位置情報を見ながら、走って向かった。
正直、ボクが行っても、何の役にも立たないことは分かっていた。
それでも、優咲が探しているという新星という名前に覚えがあったから、ボクはそれを確かめたかったのだ。
彼女とは小学生の時に、よく遊ぶような仲だった。
しかし、よく覚えていないが何かがボクらの中ですれ違い、仲違いしてしまった。
彼女とはそれから、顔も合わせたくない存在となっていた。
そのまま関係が直ることもなく、中学は別々のところへ行った。
もう会わないだろうと、ボクはその時思っていた。
それなのに、高校へ上がってすぐ、彼女の姿を見た。
すぐに思い出した。
ボクは思わず、彼女に話しかけようとしてしまった。
だけど、それは出来なかった。
なぜかと言われると、ボクにもわからない。
きっとプライドでもあったんだろう。
そのせいで、ボクはモヤモヤした気持ちのまま生活していた。
しかし、仲違いした理由も覚えていないのに、ボクが彼女の事を嫌うことなんて出来ない。
その理由を聞くためなら、どんなに危険でも彼女を助け出す。
だから、ボクは全力で走っているのだ。




