九話『意外な出会い』
俺は図書室へ来ていた。
優咲「涼しい…」
廊下と室内の温度差に、一瞬固まってしまった。
そんな俺を見つけた一人の図書委員が小走りで駆け寄ってきた。
「…扉、閉めてください。」
優咲「え?」
俺は背後を確認する。
扉が開きっぱなしだった。
優咲「…申し訳ないです。」
俺は図書委員に頭を下げ、図書室の扉を閉めた。
それを見届けた図書委員は、のそのそと歩き、椅子に倒れるように座った。
優咲「あの、新星彗憐さんは今日当番ですか?」
俺は座ったばかりの図書委員にそう尋ねた。
図書委員は怪訝そうにこちらを見ると、名札をテーブルから取った。
「…ん」
その名札をこちらに突きつけるように渡すと、ハンディファンで服の中に風を送り始めた。
優咲「……君が新星彗憐さん…?」
俺は名札を見ながら、一応確認した。
彼女は気だるげに頷くと、見つめてきた。…いや、きっと睨んでいるのだろう。
しかしそれは、上手くできていなかった。
優咲(…睨むことが苦手な人っているんだ)
俺は冷静を装いつつ、質問した。
優咲「突然で申し訳ないのですが、好きなタイプはどんな人なんです?」
本当に突然なことだったのか、彼女は一瞬思考が止まったように、口をぽかんと開いて数秒固まった。
ようやく動いた彼女は、ブツブツと言った。
俺はそれを上手く聞き取れず、もう一度聞いた。
彗憐「………なんでもない、です…」
彼女は凛とした姿で、そう訂正した。
優咲「…そすか、なんか邪魔しちゃってすみません。」
少し気まずさを感じた俺は、彼女に謝罪をすると、その場を離れた。
優咲(さて、健次郎には申し訳ないが、力にはなれそうにない。)
すぐに諦めた俺は、健次郎と約束した時間まで何をしようかと考える。
とりあえず、久しぶりに図書室へ来たので、時間を潰すために適当に本を漁ることにした。
それから数分後、約束の時間になったが健次郎はやって来なかった。
俺はスマホを取り出すと、健次郎の連絡先を探すが、そもそも交換すらしていなかった。
優咲(まずったな、これじゃ確認できねぇぞ。)
スマホを眺めながら項垂れていると、背後に気配を感じた。
チラッと少しだけ見てみたが、どうやら気の所為だったようだ。
背後には本棚しかなく、人っ子ひとりいなかった。
俺は仕方なく、今日はもう帰ろうと思い鞄を手に取った。
ー…新星彗憐
不良「…なぁ、良いだろ?」
彗憐「……本の整理中なので、邪魔しないでください…」
ボクはいつもやってくるモヒカンイキリ陽キャに詰められていた。
いつもはしつこく話しかけてくるだけだったので、今回逃げ場をふさがれてしまったのは想定外だった。
彗憐「…迷惑、です…。…そういうの、間に合ってるんで…」
不良「何が間に合ってんだよ?…どうせ彼氏もいねぇんだろ?
じゃあオレとシタっていいじゃねぇの。」
モヒカンイキリ陽キャモドキはボクの体に触れようとした。
その手を見ながら、ボクはすぐにあきらめた。
いつも通り、ボクは考えることをやめ、人の言いなりになる。
昔はちゃんと抵抗をしていたのに、いつからか抵抗することをやめた。
何度断っても、何度つっぱねても、全員何度でも言い寄ってきて、疲れてしまったから。
彗憐「……」
どうせ今回も、誰も助けてくれないのだから。
不良「嫌がらないってことは、オーケーってことだよなぁ…?!」
モヒカンイキリ陽キャモドキは、自身に都合の良い解釈をしボクの服をつかんだ。そして、また…
優咲「…何してんだ?」
…え…?
ボクは閉じていた目をゆっくり開き、通路側へ目をやる。
そこには彼がいた。
先ほど、ボクに好きなタイプを尋ねてきた、彼がいた。
不良「な、何だよお前?!」
モヒカンイキリは少したじろぐと、ボクから少し離れた。
優咲「まさか…」
彼は鋭い目つきでモヒカンを睨むと、
優咲「…もしかして邪魔したか?」
と申し訳なさそうに言った。
モヒカンは一瞬ぽかんとしたが、すぐにそれに便乗した。
不良「そ、そうだぜ!せっかくのオレたちの時間をよぉ!」
ボクの肩に手をやりモヒカンは自身の体に引き寄せる。
不良(こいつ、本気でオレとコイツがそういう関係だって思ってんだなぁ!こりゃ都合がいいぜ!)
モヒカンは嫌な笑みを浮かべながら笑う。
彼は愛想笑いを返すと、帰ろうとした。
彗憐「……ぁ、…」
ボクは気付けば声が出ていた。
しかし、それはとても小さく、きっと彼には届いていなかった。
なぜ助けを求めようとしたのか、ボクには分からなかった。
ただわかったのは、今、ほんの少しだけ希望を見たということだ。
ボクは小さくため息をつくと、モヒカンの手を見た。
いやらしい手つきだった。
……イヤだ…
そう思った瞬間、ボクはモヒカンを押しのけていた。
不良「ぐべっ?!」
ボクは走り、彼の背中を追った。
そして、ボクは彼に飛びついた。
彗憐「…た、たすけて…!」
彼は予想していたのか、振り返るとボクを優しく抱きしめた。
優咲「おう、じゃあ助けるよ。」
優しくそう言ってくれた彼は、ボクを後ろに隠すと、ボクを追ってきたモヒカンと向き合った。
不良「て、てめぇ…、カッコつけてぇのかぁ!?」
優咲「…図書室では大声は厳禁だぞ。」
彼はモヒカンを煽るようにそう言うと、鼻で笑った。
不良「黙れ!」
激昂したモヒカンは真正面から殴りかかってきた。
それを片手で止めると、彼はビンタをモヒカンに食らわせた。
不良「あんっ!」
モヒカンは変な声を出してその場で倒れる。
それをその場に放置し、彼はこちらに近づいてくる。
優咲「大丈夫だったか?」
彼は身長の低いボクと目線を合わせるために、少し屈んてくれた。
ボクはそれに対して、感謝を述べようとしても、口がうまく動かせなかった。
「…まぁ、見た感じ大丈夫そうだし、コイツを先生にでも突き出すか。」
そう言うと彼はモヒカンを担ぎ、図書室を出た。
ボクは彼に感謝を伝えられなくて、少し後悔した。
彗憐(きっともう、彼はこんなボクのところには来てくれないだろうな…)
そう思うと、ボクはいつもの定位置に戻った。
ー…黒和優咲
モヒカンは生徒指導のゴリ先に、こっ酷く叱られ、頭を丸められていた。
俺はそれを横目で確認すると、塁たちと再び談笑をしながら歩いた。
そして、その日の放課後。
俺は再び図書室へ来ていた。
優咲(さて、今日はどんな事を聞き出せば良いんだ?)
そんな事を思いながら、俺はとりあえず本を手に取り考えた。
実は昨日、俺の家の固定電話に一つの留守番電話があった。
それは健次郎からのものだった。その内容というのが、
健次郎『悪い!今日部員がケガしちゃって、それを介抱してたら行けなかった!
申し訳ないんだけど、今日の予定は明日でも良いか?
それとついでに、新星から何か聞き出しといて!お願い!!』
といったものだった。
アイツはどこまでも俺をこき使うらしい。
仕方なく俺はこうして図書室へ来たのだが、何やら視線を感じる。
昨日のモヒカンかとも考えたが、どうやら違うようだ。
優咲「…あのー、どうかしました?」
彗憐「……あ、えと、…なんでも、ない、…です…」
そう言うと視線の主は消えていった。
俺は通路の先に消えていった彼女を、本棚から少し顔を出す形で見た。
その時にはすでに貸し出し口のところに座っていた。
つまり初期位置だ。
俺は適当に取った本を片手に、彼女がギリギリ見える席に座る。
(……ずっとチラチラしてくるな…)
彼女は俺と目が合うとすぐに伏せるが、すぐにまたチラチラとこちらを見てくる。
いったい何をされているのかと、そんな事を考えながら、健次郎を待つ。
しかし今日も来なかった。
昼に健次郎の連絡先を交換しておいたので、今回は連絡が取れる。
俺はすぐに健次郎へメールを送った。
優咲『おい、ずっと待ってるんだけど。』
それに対する返答は、少し、いやかなりあけて届いた。
健次郎『悪い!今日友達の彼女に攫われて、今友達の誕生日に渡すプレゼント探してた!
今日ともう行けそうにないや!本当に申し訳ない!』
優咲「………コイツ…」
俺はイライラする気持ちを抑えながら、とりあえず読み終えた本を元あった場所へ返す。
スマホで時刻を確認する。現在は午後の十六時二十七分を示していた。
そろそろ完全下校の時間だ。
ちなみにさっきのメールが返ってくるまでに、約四十分かかっている。
ふざけてるだろ、アイツ。
頭の中でヘラヘラとするアイツの顔が浮かび上がる。
思わず深い溜息をついてしまった。
そこへたまたまなのか、それとも狙ってなのか、新星がやって来た。
彗憐「…あ、あの、…そろそろ、施錠の時間、です…」
優咲「あぁ悪い、すぐに出るよ。」
俺は新星の言葉を聞き、急いで図書室を出た。
新星は図書室の電気を消すと、扉を閉め鍵をかけた。
優咲「…新星、毎日こんな遅くまでいるのか?」
ふと頭によぎったことを聞いてみた。
新星は小さく頷くと、ゆっくりと歩き始めた。
優咲「誰かと一緒に帰ったりしないのか?」
彗憐「…友達、いないので…」
まずい、一気に気まずくなった。
気付けば職員室の前についており、彼女は鍵を返すために中へ入った。
その間に俺は話題を見つけようと、スマホを開いた。
しかしよい案は見つからず、結局そのまま何を話そうかと悩みながら下駄箱で靴を履き替え、門を過ぎた。
俺は少し気になったことを聞いてみた。
優咲「……そういや、新星はどこに住んでんだ?」
………
……いきなりこんな事を聞くのは流石に怪しいやつか?!
俺は自身がしてしまった失態を、すぐに正そうとした。
しかし、その返答は意外なものだった。
彗憐「…夕咲南、です…」
優咲「夕咲南?俺と同じじゃねえか。」
彼女は普通に答えてくれたのだ。
そして、意外なところが俺と彼女の共通点だった。
俺はすぐに、次の質問をした。
優咲「…じゃあもしかして、幼稚園って、夕咲南西幼稚園か?」
彗憐「え、…あ、はい…、途中入園、ですけど…」
まさか幼稚園まで同じだったとは知らなかった。
その共通点に思わず気分が上がった俺は、本来の目的を忘れて話し込んでしまった。
これもまた意外なことに、彼女は千夏とも仲が良かったらしい。
優咲(こんなに共通点があったのに何で俺は知らなかったんだ?)
そんな事を思いながら、意外と喋ると面白い彼女と、何気ない談笑を交わしながら帰路につくのだった。
夕咲南
黒和や凛月、今回の登場人物である新星の住んでいる団地。
夕咲南西幼稚園
黒和や凛月、佐賀美らが入園していた幼稚園。
少し遅れて入園したのが、新星だった。
新星彗憐
亡き母は世界的大女優だった。
父はエリートなビジネスマンであり、彼の会社のおかげで、何不自由なく新星家は暮らせている。
彗憐は、母の美貌を強く受け継いでおり、素顔を見せると色んな連中に声をかけられていた。
そこで彼女は、自身の髪の毛を伸ばし、わざと不清潔な見た目になることで、身を守っていた。
しかしとある情報流出により、彼女は再び色んな連中に話しかけられるようになってしまった。




