04スローライフや火おこしや釣りをしよう
ダイレクトに当たる羽毛。すべっすべ。もちっもち。
「普通の生物はゴワゴワしてるんだ。だから魔法生物として作った時にもちふわ、とろふわに設定しておいた」
彼が自慢したくなる理由がよくわかる。
「ルティウスと出会ってよかった」
しみじみと呟くと彼はからりと笑う。今実感したのか?と。
「モフモフの生物と暮らすなんて現実的じゃないもん。餌代とか、場所代とか」
「そう言うと思って改良を加えてる。小型化とお前の魔力を得て日々成長する様に」
「ふああああ。幸せっ」
手をうにうに動かしてモフモフを堪能する。
「生態も違うから臭くならない。鳴かせるかもいつでも変えられる仕様にして、好きな様に模様もカスタマイズできるぞ」
「ブラッシングは?」
「しても問題ない」
「ぎゅってしていい?」
男が頷くとフィオナはルティウスの方を抱きしめた。てっきり鳥の方かと思ったルティウスはおっかなびっくりして硬直。
「ありがとうのハグ」
「あ、ああ。わかった、から」
「なんで慣れてないの?」
「人とこんな風に触れ合うことは全くしてこなかった」
「徹底的にしてたんだね。嫌なことしてごめんね?」
「いや、いい。おれが特別に慣れてないからな」
離れた。ルティウスはちょっとオドオドしてから、鳥をもう一匹出す。それは大きなスズメ。
「よく近所の電線に停まってるスズメだ」
「ああ。こっちは俺専用だ。いなくても飛べるが」
「明日飛ぶの?私飛ぶの初めてなんだけど」
「シートベルトもつけてあるし、鞍もある。寝てても落ちない」
「飛行機じゃあるまいし、寝てらんないって」
苦笑いする。それに、初めての飛行となるわけで緊張するに決まっていた。
「どうやって方向とか?」
「あらかじめ場所を言えば勝手にルートを検索して勝手に言ってくれる。カーナビみたいなもんだ」
「おー、流石は便利に作ったね」
「まぁな」
彼は胸をグッとそらす。とても嬉しそうな仕草だった。
(ルティウスは相当溜め込んでるなぁ)
噂でしか知らない最強の男がこんな顔をするなど、誰も知らないのではと思えるくらいの表情の豊かさだった。日常に触れるたび、自分の心は温かい光で満たされていく。
彼も同じようにいつか、そう感じて欲しい。互いの声に耳を傾け、穏やかな時間を共有した。その日々は、まさに現代を彷彿とさせる空気感。
話も当たり前のように通じ合う。それだけでもう十分。二人は長々と毎日飽きもせずに話し続けた。
そうして過ごしていると彼がいかにこの世界から見て、すごすぎるのかよくよくわかった。これは彼に世間が湧き立つのもわかる。
彼はあまりに有能すぎるのだ。自分もあまりのやり方に待ったをかけることもある。程よい不便を楽しむことをとんと忘れているのだろう。
鳥に早速乗り込むと初フライトへと至る。ふわっと浮き上がり彼もて慣れた様子で操縦した。フィオナはしがみつくように乗っているのでヘンテコになる。
「大丈夫か?」
「な、なんとか〜」
終わったら全身筋肉がピクピクしていた。明日は筋肉痛だろう。明日が怖いんだけどな。
「明日は筋肉痛で動けなさそう」
「ああ、回復薬飲むか?」
「いや、筋肉痛を楽しむ」
「え?」
なぜ?と言いそうな彼に「それが生きているということなの」と説明するも、これは共感されるようなものではないのも理解しているから、理解されなくてもいい。
同じ同郷でも気持ちは同じではない。境遇は違うし生きてきた世界もちがうから。そこは別れておかないと共存は大丈夫だけど、執着へと変化していきかねない。
「ねえ、動画撮ってみない?」
「え?突然だな」
「私たちの出会いも突然だったでしょ。なんでも物事は唐突なんだよ」
「言われてみれば?」
首を傾げる彼にふふ、と笑う。どんどん己のペースに慣れつつあるみたい。こうやって友だちは友だちになっていくのかもしれない。
彼は真に友だちはいなかったのかも。自分みたいに。なにもかも世界ごと違うから、馴染めなかった。
日々の暮らしは苦しいので、人付き合いなぞやっている余裕はなかったのだけれど。
「じゃあ、やろうか」
「顔は映すか?」
「モザイクでいいよ」
「身バレは……しないか?」
「私たちだけの記録にしたら?」
提案するとそれはいい、と嬉しそうに首を縦に振るう。こうして日誌のように映像を残すことになった。
いろんなことをやる。料理をしたり釣りをしたり。魔法を使わない。不便なスローライフを二人は楽しむのだ。キャンプをしたりもした。
「釣りな」
釣り糸を眺めて二人は垂らす。慣れない仕草なので、やったことはないみたいだ。どうやって魚を取っていたのかと聞く。
「電気で……異世界だから違法じゃないんだしな」
「便利だけど釣りも釣りで楽しいよ」
釣りには楽しさよりも食べ物目的だ。
「よし、やる」
「連れてきたら魚のほぐしたご飯の混ぜたものにする。釣れなかったら……お芋の混ぜご飯」
「はぁ?どっちも食べたいんだが?」
怒りながら嬉しがっていた。やらなかった方は、明日するからと落ち着かせておく。彼は嬉しいのか口元を緩ませる。釣りにも気合を入れてくれたのはいいが、釣りに必要なのは待つ時間と忍耐力なのだ。
「待つ間は別のことをするんだよ」
「そうか……やるつもりだったが待つしかないんだな」
彼はやる気を落として、別のことをやるために切り替える。なにをするのかと話し合う。
「私たちはスローライフをしているんだから、スローライフをやるために話し合えばいいんだよ」
「スローライフ?やろうとして始めたのに、いつまでもゆったりできてなかったんだよなぁ」
遠い目をするルティウス。相当忙殺されていたみたいだ。新薬を開発したとも聞いたことがあるので、それを聞いていると確実に休めてなさそうだなとは思う。
苦労しているわけではないが、こころにゆとりが皆無なのだ。きっと真面目だから今、こうして人間不信になったのだろうなと把握。ルティウスはフィオナを見ながら、何をしようかと正面に視線を戻す。
二人にして悩むと火を起こそうという流れになり、必死にやった。魔法なしでやってみるかとなったらあまりにも点かなくて困ってしまう。
「もっと便利な道具があるのに。キャンプはもうちょっと便利なものを使うんだぞ?」
彼も、キャンプの知識については知っているのか目をこちらに向ける。結構無茶だったかな。
「外でやるのはなかったから、ここまでだとは私も予想外だった」
フィオナはお手上げだと笑う。ルティウスはえっ、という顔をする。
「なんだ。失敗したのは当然なのか」
「うん。でも、悪くないよね」
多少の不便を味わうのが、ゆったりとした生活。ルティウスに着火してと言うと彼は笑いながら火をつけてくれた。このようなことも楽しむべき。
「今のも撮影してた?」
「してた」
あとから見て、二人で見直そうよと告げると彼は頷き納得してくれた。のちのちの鑑賞会が楽しみだ。
釣りは釣れなかったので、お芋になった。




