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私にだけに見せる素顔が可愛い最強の男は今日も話が通じることに感動しているらしい  作者: リーシャ


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02一人にしないでくれ

 今は炊く時間が暇であるために、軽くお互いのことを話すことになった。


「フィオナ。貴族でもないから名前だけ」


「ルティウス。同じく……本当に、そうなのか」


「疑う気持ちはわからなくないけど。好きなだけ言えるけどね。地球は青くて、水の星とか?犯人はヤズ!とか?」


「わかった。十分だな」


 先程の落ち込みようが、なかったかのように笑う男。


「随分と露骨でふるいにかける質問だったね」


「同郷を探すためだ」


「犯人の質問は私の世代では知ってるけど二代先の世代の人は知らないかも」


「そうなのか?」


「どっちかというと、有名なキャラクターとかの方が見つけやすい」


「キャラクターという言葉が出てきている時点で疑いようがない」


「ルティウスはそんなに探してたのってなんで?」


「おまえこそ、探そうと思わなかったのか」


「いやぁ、私以外いるわけないと思ってたし。探しても無駄に絶望するだけだよ?さっきのあなたみたいに」


「そうだな。やる必要のない質問で散々失望した」


「で、とうとう見つけられたのは執念だね」


「自分を褒めたい。全力で」


「あと、やっぱり危機管理的に異世界人って誤魔化す人がいるだろうし、その質問の仕方はダメだと思う」


「だめ、なのか」


「だって、怖い。なんだか気迫とか。それに私は女であなたは男だから、異世界人だから執着されたら、人生詰むよね?」


「そういう理由もあるのか。おれは別に粘着行為をしようとは思ってない。ただ、異世界の認識や価値観を話し合いたかっただけだ」


「例えば?」


 ルティウスは爛々と瞳を輝かせて質問するためにか、紙を出す。


「いつか言い合うために長年書き続けたものだ」


「凄いなぁ」


 そんなに話したかったのかと、感心する。


「例えばだ。名前呼びは慣れないからさん付けで呼びたい」


「あ、わかる」


 フィオナも生まれて話せるようになったときは、近所の人の名前を呼び捨てにするのは難しく、何々さんと呼んだ。

 しかし、相手によっては距離を感じるらしく、友達になりそうな人でも距離を感じていると言われたので友達ができなかったりした。


 大きくなったら世渡りのために無理に呼んだりしてなんとか周りと摩擦を起こさないようにしている。


「ルティウスもルティウスさんって呼ばれたい?」


「慣れたからどっちでもいい。フィオナはどうだ。フィオナさん」


「くすぐったい!」


「おれもだ」


 お互いあるあるに共感する。


「じゃあ、次は。異世界では普通に食べていたものを食べ物じゃないと言われていて食べられない」


「「栗」」


 同じ二つの声が重なる。栗も人の食べ物ではないと散々言われていて、食べる時はこっそり。


「あと、お米」


「向こうの大陸の一部じゃ食べられる」


「もしかして、和国?」


「そうだ。サムライ国」


 横文字だけど覚えられなくて、そう呼んでいる。


「サムライ国って呼んでるのか」


「ニンジャ国と迷った」


「サムライの方がしっくりくるかなー」


「おれも同感だ」


「刀とか触ったことある?」


「ある。使いにくいが、かっこいいから実は何本かある」


「えっ!見たい」


「これだ」


 フィオナの懇願に男は嬉しそうに鞘に入った刀を闇から出す。


「その闇のかたまりって、アイテムボックスでしょ」


 異世界のファンタジー。


「さすがにわかるよな。他の奴らはなにがなんだかわからないまま驚く」


 誰でも欲しい。フィオナも欲しい。


「定番だから」


 取り出された刀は美しい。


「白い刀とは……作らせたでしょ?」


「バレたか。実は特注で」


 自慢げに披露するそれは、確かに匠の作ったものらしさがある。


「イメージが頑固親父的なものなんだけど、よく作ってくれたね。割と普通の国だったの?」


「いや、かなり排他的で。米を食ったら気に入られた。おかわりを三十回したら」


「食べ過ぎ!米に飢えてる食べ方!」


「くく、ああ。めちゃくちゃ飢えてた」


 段々、お互いに笑みも増えていく。


「あ、察した」


「なにがだ」


 フィオナはルティウスの正体を看破してしまった。


「全てを手に入れた最強の贈り人のルティウスって、本人だよね」


「……その二つ名はおれからしたら微妙でな」


 否定しない相手にやっぱりそうかとなる。


「贈り人よりも他の方がいいの?」


「というより、二つ名はいらない」


「なるほどなるほど」


 フィオナは理解した。それはもう完全に。


「最強のっていうのは?」


「事実だから、気にしない」


「事実なの?話四割盛ってるのかと」


「確かにこういう世界では話は盛られてもおかしくないが、本当に最強になったらしい」


 本人は嬉しくも嫌そうでもない。


「あ、さらに私、ぴんときた。炊飯器の製作者もルティウスだ」


「大正解」


 とはいえ、それは先ほど出したから簡単に知れたこと。


「となると、ルティウスの家は家電使いたい放題」


「おれの頭には料理のレシピがないから米を炊かせるのが精々なんだがな」


「勿体無い。炊飯器には色々やれることがあるんだよ。茶碗蒸しとか、炊き込みご飯とか、ケーキとか」


 指折り数えているとルティウスがその手を包む。


「おれのうちに来て使ってくれ」


 どれに心が惹かれたのか。


「ところでルティウスの周りにはハーレムが築かれているとか、なんとか聞いたことがある」


「考えてみてくれ。おれ達の世界の国は一夫一婦制だ。異世界に来たからと急に一夫多妻の思考に変わらない」


 手を握られたまま、話は続く。


「お前は望むか、逆ハーレムを」


「羨ましいとは思うけど、やっても管理できる自信はない」


「管理は大変だ。きっと政治云々の関係も出てくる」


「小説だ」


「そうだ。あながち的外れでも、そんなことはないということでもない」


「結構そんな事態になるんだね」


 ルティウスは疲れたため息を吐き出す。


「英雄譚のように煽てられるのはもう慣れた。それはいいんだが、こうやって価値観の違いを酷く叩きつけられる」


「あー、ゲームの武器の話とか?」


「米を食べていたら、嫌な顔をされたり」


 ルティウスはうんざりした表情で愚痴を言う。


「梅干しが美味いと言ったら、梅干しとはなんだと言われた時の寂しさは計り知れなかった」


「確かに寂しいかも。私はそもそもわかり切ってるから言わないけど。梅干しじゃなくて明太子が好きとか」


「明太子。それも今現在開発中だ。だが、不評で反応も悪い」


「見た目で受け入れられない、あるあるだ」


「だが、お前なら受け取ったら喜ぶかもしれないな」


「喜ぶ喜ぶ。本当に好きでさぁ。熱々のご飯と一緒に。お茶漬けにしたりするのもいいんだけど」


「本当か!研究員の美味しいが見た目がと言って……引き攣る顔を引っ叩きたくなった心が今、昇進した」


「見た目が見た目だから、そこはどうにか折り合いつけ合おう?私達だって、見た目で嫌厭するものとか、匂いで不評なのとかあったんだから」


「いや、無理だな。おれのアイデアで飯を食いながら、食わず嫌いをするやつらになんて」


「最強の男なりに、鬱憤溜まってるなー」


 人嫌いというか、人間不信すら感じられて。


「もしかして、この世界の人たちあんまり好きじゃない感じ?」


「……おれの意見なんて誰も求めてない」


「チヤホヤされて有頂天かと思えば、かなり深刻な状態になってたんだねえ」


 最強の存在なのに、周りが持ち上げすぎてウンザリしてしまっているようだ。


「そっか……私は嬉しいけどね。なにがあっても怖い目に遭わないし。炊飯器とか、使えるし」


「うちにあるから絶対来いよ。約束な」


 持ち直した英雄とも言われる男は小指を出す。


「今もこれ、やる人いたんだ?あはは!」


「なんで笑う?」


「これ、小学生の時以来見てない。今になってするのかって、懐かしすぎるっ」


「言われてみれば、おれもこれをやるのは久々だ。なぜか自然に出てきた」


「約束の方法でってなると、これが思い浮かぶせいだよね。ほい」


 小指を絡めてあの歌を歌う。男も拙く歌う。外れていたけど、心地よい。


「ゆーびきった」


 約束を終えたフィオナはルティウスを見る。緩み切った笑みで小指を見つめていた。この世界でも美しさと勇ましさを感じられる整った顔で、女性にモテると誰でもわかるカンバセ。


「お、炊けたみたい」


「あれを聞くとドラマを思い出す」


「わかる。時代背景を感じられるドラマって、体験してないのになんだか落ち着く」


「だが、炊飯器はいいぞ」


「自慢じゃん」


 二人で笑いながら中を開ける。ふわっとコメの良い香りと栗の甘さのある香りが鼻腔を擽った。


「栗ご飯……!」


 ルティウスは涙声で呟く。それを半分にしてよそって、二人で食べる。そして、フィオナはルティウスを眺めていたずらな顔をした。


「ルティウス。ほら、これ、忘れてるんじゃなーい?」


 ルティウスはなんのことかとこちらを見た。フィオナはニヤッとして両手をゆるりと合わせる。ハッとした彼は同じく手を合わせる。

 パチっと小さな音が重なると「もうそんな習慣もなくなってた」と泣きそうな顔になっていく男。顔色がわからないから、違うかもしれないけど。


「せーの、で言おう」


「ああっ」


 フィオナは声を出して、ルティウスも久しく言っていない言葉を二人して合わせる。


「「いただきます」」



 *



 栗ご飯をもりもり食べて、満腹になった二人。ルティウスの方を見てから時間を見る。外を見ると真っ暗だ。


「ルティウス。もう遅いしそろそろ帰った方がいいんじゃない?」


「……!」


 ルティウスはフッと目に影を作り、外を見るとこちらを向く。


「明日は、なにか……用事でもあるのか?」


「ないけど?」


「なにか仕事は……してるのか」


 気をつかうように色々聞いてくる。


「子供達に勉強を教えてる。手習塾」


「塾か。この世界でフィオナみたいな人がいたら、天才も扱えるかもしれないな」


「うーん、私は向こうでもここでも平凡だし」


「そんなことない。唯一無二だ。おれの心を救った恩人」


「言い過ぎじゃないかなぁ」


 ふふっと笑う。


「週に一回だから特に忙しいってわけもないよ」


「……ああ」


 名残惜しげに瞳を揺らす。それに、感化された。最初は同郷だと嬉しくなったが、思っていたよりも酷く孤独で迷子の子供のように顔を俯かせる。


「おれも……手習塾に通っていいか」


「大人もいいから、通えるけど。今更学ぶ必要はないと思うけどね」


「いや、そんなことはない。なんだったら、手習塾を手伝ってもいい。戦闘術はやっているのか?」


「私に戦闘なんて無理無理!この華奢な体じゃね?」


 ルティウスは目をパッと明るくさせる。


「給料なんていらないから、なにか手伝わせてくれ」


 彼の懇願にフィオナはうーんとなる。その対応がなにかを爆発させたのか、ルティウスがこちらに来て傅く。


「え、急になに?」


 そして、フィオナの座った姿の膝に手を乗せて、蚊の鳴くような声でぽつりとこぼす。


「頼む……一人にしないでくれ」


「……ルティウス」


 胸がキュッと詰まる。男の苦しげな願いに、最強と呼ばれて全てを手に入れたのに、なにも得られてなかった姿を知った。


 フィオナは頭を撫でる。


「一人になんてしないよ」


 と、力強く宣言。


「私は孤児だし親もいないんだ。もしよかったら……一緒に毎日さ、過ごす?」


 提案する。フィオナだって、生まれた時から一人だった。孤独を感じなかったと言える程、強くない。ルティウスはこちらの言葉にこくりと頷く。


「毎日一緒に居たい」


 男は直ぐにその誘いを、承諾した。


「あ、成り行きで撫でてたや」


 フィオナはうっかり、反射的に頭を撫でていたことを謝る。


「構わない」


 離れかけた手を掴んだルティウスは首を振る。


「頭を撫でるなんて、誰もしない。嫌じゃないならいつでもしてくれ」


 またポンと頭に乗せるように誘導される。


「やっと見つけられたんだ。遂に。長かった」


 同じ価値観を持つ相手を探し求めたルティウスは、フィオナという到達点を漸く見つけられた。

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