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Red Eyes  作者: 上月海斗
6/15

第五話 リク・カミーラ


「……いいにおい」


 部屋に漂う焼きたてのパンの匂い。


「どうですか? 今日は厨房を借りて久しぶりにパンを焼いてみたんですよ」


 そう言ってエリアルは椅子に腰掛けた。焼きたてのおいしそうなパン。そして付け合せとして置いてあるスクランブルエッグとコーヒー。


「毎日、ここの食事って言うのも飽きてしまいますしね」


 ニコッと笑うエリアル。それとは、正反対にポカンと口を半開きにした二人。クリスとレンだ。


「どうしたんですか? 二人とも」


 呆けている二人に問い掛けるルイ。


「エリアルさん。料理できるの?」

「ええ。私は、ずっとこの子を養ってきたんですよ。少しぐらいなら出来ますよ」


 意外な一面を見る二人。


「じゃあ、食べ始めますか」

「はい」


 四人は少し遅めの朝食をとり始めた。


「あ、よかった。いい感じに焼けてる」


 エリアルは自分の焼いたパンを千切り口に入れた。


「おいしい! もしかしたらここのシェフより料理上手いよ」


 同じようにパンを口に放り込んだクリスが感嘆の声を上げた。


「本当においしいっす。ルイ先輩、毎回こんな上手いもん食ってたんですか。うちのクリスの作ったものなんてまったく」

「まったく何かな?」


 スクランブルエッグに添えてあったフォークがレンの喉元に添えられる。さすが剣士ともいえる身のこなし様である。


「はわわわわわっ。クリスさんのお料理もとってもおいしゅうございます」


 滝の様な涙を流すレン。

 それを見て笑うエリアルとルイ。


「そうそう、僕がお師匠様に弟子入りした時の食事もこのメニューでしたよね」

「あの時はこれしか作れなかったんです!」


 エリアルは真っ赤になって応えた。


「世界一の奇術師の弱点は、実は料理だった……なんてね。ってあれ?」


 首を振るクリスとレン。


「何やってるんだ、二人とも。ってお師匠様!?」

「……」


 眼の座ったエリアル。聞き取れるか聞き取れないかの小さな声で言う詠唱。


「我は願う。劫火の炎!」

「なっ、お師匠様ぁぁぁぁぁ!」


 無論、この後ルイが黒焦げになったのは言うまでも無い。


 ◆ ◇ ◆


「ふえぇぇぇ。痛いよ~、熱いよ~」


 半泣きで訴えるルイ。


「はいはい! まったくもう!」


 そう言ってエリアルは、魔法で作った氷をルイに当てた。

 上半身に軽いやけどを負ったルイは、当然のごとくベットに横たわっている。


「大体、あなた賢者でしょ。あの程度の魔法は受け止められるでしょ」

「だって、お師匠様ゼロ距離で魔法撃った」


 しばしの沈黙。


「ほ、ほら。もう大丈夫でしょ。自分に回復魔法をかけないと痕になりますよ」

「あ、ごまかした」


 とは言いつつも、しっかり光の力を開放しているルイ。いつかどこかで見た光景とまるっきり同じだった。


「穏やかな光者よ、悠久の光を我に! 血よ肉よ、我の傷を塞げ!」


 詠唱が終わると何か暖かい物に包まれた感じがした。引いていく痛み。


「まったく。朝から何をやってるんでしょうね、私達は」


 嘆息混じりにつぶやくエリアル。

 朝からどっと疲れたと言った感じだった。


「エリアルさんってルイ君には容赦ないのね」

「俺もそう思う」


 二人は、ぐったりと嘆息した。この二人が抱いていたイメージと言うのは『優しい面倒見のいいお姉さん』と言うイメージだったが『怒ると何をするか判らないお姉さん』に定着していた。


「偽善者なんですよ。お師匠様は――ぎゃあああ!」


 部屋に木霊する悲鳴。

 この後、再びルイが黒焦げになったのは言うまでもない。


 ◆ ◇ ◆


 三人がこの洞窟で出会い、すでに七日が経とうとしている。全てに万能なエリアルとルイは戦う感を取り戻し、魔法しか使えなかったレンは少しずつ体術を。そして、攻撃魔法の使えないクリスは更に剣に鋭さを増していた。劇的に進化を遂げた四人の戦闘能力。すでに、四人の手にかかればケルベロスでさえ弱い部類に入ってしまう。

 そして、


「キュイ~!」


 遠くの方で聞こえる鳴き声。


「うん?」

「何だ?」


 刹那、洞窟内が揺れる重苦しい声が洞くつに響く。まるで四人を試すように事は起きた。

 暗澹の支配する洞窟。地下二階に足を踏み入れた四人は戦闘の物音を耳にする。激しい奇声が洞窟内に轟く。


「まさかとは思うけど」

「多分ガルムですね」

「誰か戦ってるのかな」


 そう言うなりクリスは三人をおいて駆け出した。


「おい! 一人で行くなって!」


 鬼火の照らす範囲から迷う事無く出て行くクリス。慌ててクリスの後を追う三人。

 そして、三人が最初の曲がり角に付いた瞬間、奴は居た。


「うげっ! 本当にガルムだよ」


 ぼやくルイ。

 そして、ガルムの足元には小さな、本当に小さな動物がいた。リスのような身体とオレンジ色の体毛。ザクロ石のような両目。そして、額にはやはり赤く光るルビーが付いていた。カーバンクルだ。どうやらガルムに襲われていたのはカーバンクルらしい。すでに力を使い果たしたのか、その身体は力なくぐったりとしていた。


「まずい、おい! こっちだ!」


 声をあげ、モンスター達をこちらに引き寄せるルイ。咄嗟の判断だった。ガルムはこちらに気がついたらしく足をこちらに向けた。


「行くよ、レン!」

「はい!」


 鞘から剣を引き抜くルイ。一瞬後、疾風に如くガルムに斬りかかった。蒼い閃光が走り、ガルムの首を落とした。時間稼ぎには充分な攻撃だ。


「クリス、カーバンクルに回復魔法を! お師匠様もクリスの援護をお願いします」

「回復魔法ってこの子モンスターだよ」

「いいからかける!」

「判ったよ~、ルイ君は人使いが荒いんだから」


 そう言いながらカーバンクル保護に向かうクリスとエリアル。

 素早くカーバンクルを抱き上げガルムとの距離をあけるクリス。


「穏やかな光者よ、生命の源を我に授けたまえ」


 詠唱が終わると同時に軟らかな光がカーバンクルを包む。


「これでいいんだよね」


 クリスの手の中で震えているカーバンクル。だが、その傷はすっかり治っていた。


「おっけ~。レン! 僕が斬り込んだ後に魔法だ!」

「了解!」


 詠唱を始めるルイ。


「絶大なる炎よ。紅き帝王よ! 我と共に敵を討て! 炎よ! 我と一つになれ」


 左手につけている魔法玉が鋭く光る。蒼白い刀身は、紅く色を変えた。魔法剣だ。ルイが、装備を変えて劇的に進化した魔法剣。紅く光った刀身。その刀身からは、炎は一切出ていない。以前の魔法剣ではありえなかった現象である。魔法玉で増幅された魔法と、刀身が魔力で出来たサイコソード。この二つが組み合わさる事で刀身と魔法が一体化するのだ。


「弾けろぉぉぉぉ!」


 紅いの閃光が再生をしているガルムの身体を縦に裂く。そして、即座にバックステップ。ルイはガルムとの距離を開けた。刹那、切り口を中心に爆発した。


「レン! 合わせろ!」

「はい!」



『絶大なる炎よ。赤き帝王よ! その姿を爆炎に変え、我に力を与えよ!』



 重なる二人の声。クリスは剣を掲げルイは両手を前に突き出す。その直後二本の火柱がガルムに向けて放たれた。業火に包み込まれるガルムは、身動き一つせずその場に倒れ伏せた。だが、まだその姿を宝石に変えていない。


「しつこいんだよ!」


 再生を繰り返すガルムに毒づくルイ。


『金色の光に包まれし騎士よ。そなたの偉大なる光を刃に変えて敵を撃て!』


 とどめと言わんばかりに詠唱を終えるルイ。


「吹き飛べっ!」


 熱光線が燃えているガルムを打ち抜く。響き渡る轟音。ようやくガルムはその姿を宝石に変えた。


「よし!」


 剣を消し鞘に収める二人。以前に比べれば会心の勝利だ。


「やったね、ルイ君」


 カーバンクルを抱きかかえたクリスが二人に駆け寄る。クリスの言葉に親指を立てて余裕を見せるルイ。あれほど苦戦したガルムを倒すこの装備。やはりかなりの物なのだろう。


「ほら、もう大丈夫だよ」

「キュイ」


 抱きかかえた腕からはカーバンクルが顔を除かせていた。


「うわ~。私、純モンスターなんて初めて見ました」

「僕もだ」


 純モンスターとは、この世界に本来から居たと言われるモンスターである。いつの頃か宝石モンスターが溢れ出したこの世界では純モンスターの数は極端に減少したのだ。


「おいで」


 屈託のない笑顔を浮かべ手を差し出すルイ。


「キュイ~」


 クリスの手からルイの手へ移り渡るカーバンクル。結構人なつこい様だ。

 そして、そのままルイの頭の上まで登るカーバンクル。


「うわっ! あいたたたた! 引っ張るなって」


 どうやらカーバンクルが気に入ったのはルイのお下げ髪の様だ。


「キュイ、キュイ~」

「おわっ! あ~あ。ほどけちゃった」


 結ってある部分がほどけ散らばる髪。カーバンクルは満足そうにルイの頭に座り込んだ。


「あはははは!」


 声を揃えて笑うクリスとレン。


「何? 何で笑ってるのかな」

「いや、悪い。笑うつもりは無いんだけどルイ君が髪の毛のほどけたら女の子だよ。……だっはっはっは」


 ルイは抗弁しようとして――そして、やめた。と言うよりツボに入ってしまったこの二人を止めるのはまず無理だろう。諦めてカーバンクルと戯れるルイ。


「しかし、そのカーバンクル本当に人なつこいね」


 クリスが手を伸ばす。だが、


「いたたたたた!」


 指をかまれるクリス。慌ててその手を引っ込めた。


「嫌われてるみたいだな、クリス」


 けらけらと笑うレン。


「おにょれ、回復までしてあげたのに。さっきまで猫かぶってたな?」

「はは、手本を見せてやるよ。よく見てな」


 レンはそう言ってカーバンクルに手を伸ばした。刹那、カーバンクルの目が怪しげに光る。


「ぎゃあああああ!」


 もがくレン。顔面を引っ掻かれたのだ。


「もっと嫌われてるみたいだね。レン」

「むぅ~」

「可愛いですね」


 唸るレンを尻目にエリアルの声が洞窟に響く。 

 エリアルの手の中でちょこんと座るカーバンクル。


「何故だ」


 同時に呟くクリスとレン。


「あはっ、可愛い」


 頭を撫でるエリアル。カーバンクルは嬉しそうな声で鳴いた。


「こいつ、俺等にはなつかないくせに」


 プルプルと拳を振るわせるレン。


「まあまあ。落ち着いて」


 慌てて止めに入るクリス。


「あ~あ。それにしても、こんなになつかれちゃって。どうするんですか、このカーバンクル」


 嘆息するレン。


「飼いましょう」


 短く応えるエリアル。


「キュイ~」


 エリアルの手の上で嬉しそうに鳴くカーバンクル。そして素早くルイの肩の上に飛び移った。


「俺達に飼える訳ないっすよ。自然にかえした方がこいつの為っす」

「グゥゥゥゥ」


 今度は威嚇するように鳴いている。どうやら人間の言葉が理解できるらしい。


「一緒についてくるかい?」


 カーバンクルの頭を撫でるルイ。


「キュイ~!」


 再び嬉しそうに鳴くカーバンクル。


「だってさ、レン」

「むぅ~」


 諦めた様に唸るレン。


「分かったっす」


 頷くレン。だがこの答えの裏には実はひっかかれたくないと言う気持ちが込められていた。


 その日の夜、


「この子に名前を付けてあげましょう」


 無双亭の食堂でエリアルの声が響いた。


「別にカーバンクルはカーバンクルでいいんじゃないっすか?」

「グゥゥゥゥ」


 昼間同様、威嚇されるレン。


「わかったよ~、考えますよ」


 そう言ってレンは滝の様な涙を流した。


「そうだな、キュイ~って鳴くカーバンクルだから……」


 考え込むレン。


「レッド・ア太郎」



『何故』



 真顔で返す三人。声までしっかりと揃っている。レンの意見はあっさりと却下された。


「ぐおぉぉぉぉぉぉ! 顔が~! 俺の顔が~!」


 顔を抑えもがくレン。その顔には再び引っかかれた痕があった。レッド・ア太郎は、カーバンクルにとっても拒否されたらしい。苦笑しながらそれを見る三人。


「ルイ、何かいい名前ないんですか? あなたに一番なついているんだからあなたが決めることだと思います」

「キュイ~!」


 その通りだと言いたげに鳴くカーバンクル。


「う~ん、そうだな~」


 レン同様に考え込むルイ。数秒の間と沈黙。


「コロなんてどうかな」


 恐る恐る言うルイ。カーバンクルがお気に召さなければ引っかかれる運命が待っている。


「コロ?」

「何か見た目がころころしてるからコロ」


『こいつもレンと同じレベルだったか』


 ルイに振った事を激しく後悔するエリアルとクリス。そして、レンと同様引っ掻かれるのだと確信する。

 だがしかし。 


「キュイ~」


 身体全体で喜びを表す一匹と、静まり返る三人。

 跳ねるカーバンクルと唖然とするエリアル。と言うよりも特徴だけで決めた名前にここまで喜んでいるのを見て驚愕しているのだ。


「ま、まあこの子がそういうのなら私はいいと思いますよ」

「レッド・ア太郎よりはマシだね」


 驚きを隠せないエリアルと腕組をするクリス。


「よし、決定。じゃあ、お前は今日からコロだ」


 手を差し出すルイ。

 カーバンクル改めコロは、小走りしてその手の上に乗った。

 こうして、ルイ御一行は三人と一匹になったのだった。

 

 ◆ ◇ ◆


「はは、ははは、あははは」


 乾いた笑い声が洞窟を支配する。ルイの声だ。


「レンさん。ルイが壊れた」


 嘆息するエリアル。


「キュイ~」


 首を左右に振りながら肩をすくめるコロ。案外カーバンクルというモンスターは頭がいいみたいだ。人を小馬鹿にする事も出来るらしい。と言っても今の四人には怒る気にもなれないが。


「大丈夫だって、一階に比べれば全然狭かったじゃないっすか。新しい階段を見つけたぐらいで……見つけた、見つけちゃったんだよね」


「で、でも、この階段を下りたら最下層かもしれないですよ。そうすれば私達の目的も……」


 フォローするエリアル。だが、


「二階への階段を見つけた時も同じ事言ってたよね。エリアルさん」


 と、突っ込みを入れるクリス


「うっ!」


 痛い所を突かれるエリアル。


「はあぁぁぁ、いつになったらこの洞窟は終わるんだろう」


 深い溜め息を吐くクリス。


「う、うぅぅぅぅぅ」


 徐々に気落ちしていくエリアルとレン。四体合体、簡易ブラックホールの出来上がりである。


「キュイ~!」


 それを見かねたのか突如騒ぎ出すコロ。ルイの頭から軽やかに飛び降りた。


「どうした? コロ」

「キュイ~、キュ、キュイ~!」


 器用に後ろ足で立ち上がり、前足で階段を指すコロ。身振りで何かを伝えようとしているみたいだ。


「凄いな。お前二足歩行できたのか」


 くだらない事に感心するレン。刹那、洞窟に響くレンの悲鳴。コロがレンのすねを齧ったのだ。


「キュイ~」


 付いて来いと言わんばかりに階段を下りるコロ。


「あ! 待て! モンスターがいたら危ないぞ!」


 ルイの静止も聞かずひたすら階段を下りるコロ。仕方なく三人は階段を下りていった。

 そして、


「何だここは」


 階段を下り切った直後、驚くべき視界が広がっていた。

 まるで洞窟とは思えないような広い空間。そして、はるかかなたに見える空間の終わりと数々のモンスターの死骸。ここでは、なぜか宝石モンスターは宝石に姿を変えていなかった。

 そして、やや遠くの方に見える人影。青年だ。レンと同じ様な中背中肉の男。そして右手には自分の身長と同じぐらいの長剣。格好から判断すると聖戦士だろうか。そして、その男には酷く見覚えがあった。


「……リク」


 小さく呟くルイ。


「やっと見つけた。お師匠様! リクです!」


 この一年、ずっと追いかけていた者がついに目の前に現れたのだ。

 ルイが皆の方を向くのとほぼ同時だった。力強く地面を蹴るレン。一瞬にして、リクとの差を詰める。


「レン!」


 呼び止めるがレンは止まる事無くリクとの距離を詰めた。そして、放たれるレンの拳。

 ――ドゴッ

 鈍い音。レンの拳がリクの顎を捕らえる。

 吹き飛ばされたリク。


「レン! 何をしてるんだ! クリス、止めに行くよ」


 無言のクリス。それどころかクリスも剣を構えていた。


「……クリス」


 殴り飛ばされたリク。唇から滴る紅い雫。殴られた衝撃で口を切ったのだろう。彼はゆっくりと立ち上がった。


「誰かと思えば、お前か。レン。本当に転生したのか?」


 口を袖拭うリク。

 殺伐とした雰囲気を放っている。


「それに、お前達。……まだ生きていたのか」


 リクは訝しげにルイを一瞥した。


「まあいい。貴様等ここに何しに来た。また、殺されたいのか?」


 背中に背負う長剣を抜き取るリク。


「なんだと……」


 ルイが向かおうとするがそれは叶わなかった。


「ぶっ殺す!」


 ルイよりも速くレンが動いていたのだ。血相を変え、回し蹴りを放つレン。

 だが、リクは全てを見切ったようにしゃがみ、軽々しくその蹴りを避けた。そして、立ち上がるのと同時にその長い長剣で逆袈裟に持ち込んだ。


「くっ!」


 刀身に掌手を当て、軌跡を反らすレン。

 弾いた右腕からは血が流れ出ていた。


「さっきまでの勢いはどうした」


 嘲笑う様に剣を突きつけるリク。


「レンさん!」

「レン!」

「悪いっす。皆、手を出さないでください。これは俺とリクの勝負です」


 静かに呟くレン。


「何言ってるんだよ! 僕は……」

「判ってる!」


 遮られるルイの言葉。


「判ってる。でも、俺もこいつに恨みがあるんですよ!」

「……レン」


 戸惑うルイ。


「暗澹を切り裂く閃光よ。紫電を纏いし鬼神よ。我は願う。裁きの力!」


 手に紫電を纏わせるレン。


「貴様は俺に何をした。貴様はクリスに何をした!」


 湧き上がる憎悪を背負い突きつけられた剣を払うレン。

 そして、青年の腹部に走る電撃。レンが腹部に拳を突きつけたのだ。

 激しく放電されるレンの拳。蒼白い光が辺りを包んだ。


「くっ! 相変わらず凄い魔力だな。レン」

「氷壁か」


 うっすらと腹部に張られた氷。それで電撃を防いだのだ。

 とっさに後ろに跳び距離を置くレン。


「ほほう。強くなったな。それに頭を使うようにもなった。それは褒めてやる。だが俺の邪魔をするな!」


 凄まじい咆哮と共に冷気が満ちる。

 青年を中心に凍りつく地面。詠唱も無しに突如発動する魔法。よく考えてみれば先ほどの電撃を防いだ氷壁も詠唱を唱えていない。


「な、何が起こってるんだ」


 初めて見る現象に戸惑うルイ。


「知っているか? 俺は三百年前、ある人間にこんな技を教わったんだ」


 薄っすらと笑うリク。


「まずい! 逃げるよ!」


 急速に集まる粒子の粒。そして、その粒子は氷柱へと姿を変えていく。そしてリクはその中心に居た。まるで自分が人柱になるとでも言うように。


「くっ! 限界突破オーバードライブか」


 以前、エリアルに教わった事がある。魔法を幾重にも重ねて使う事で、魔力が増幅され臨界点を超える瞬間がある。その事を限界突破と言う。そして、その魔力の引き起こす衝撃は計り知れない物がある。だが、そんな事をしてしまえば膨大な魔力に呑み込まれ肉体は消滅してしまう。


「……これが、限界突破だって?」


 あまりに唐突な出来事。呆然と立ち尽くすルイ。


「キュイ~!」


 コロの悲鳴。その悲鳴を聞いて正気に戻るルイ。


「逃げますよ。ルイ! あれがもし、限界突破だったら私達は助かりません!」


 手を引かれる様にして階段を駆け上るルイ。

 刹那、後方から吹き荒れる冷気を帯びた疾風。魔法の発動を意味していた。

 階段を上りきった直後、揺れる洞窟。ぱらぱらと岩の破片が落ちてきている。

 ある程度敵と戦い、洞窟の空気が振動すると言うことは多々あったが洞窟自体が振動するのは初めてである。次第に大きくなり、数秒後の後、ようやくその揺れは収まった。


「何て奴だ」


 毒づくクリス。


「ちくしょう。俺は、またあいつに勝てなかったのか」


 レンの拳が力なく岩壁を叩いた。零れ落ちる涙。


「……レン」

「俺は、また」


 洞窟にはレンの嗚咽がいつまでも響いていた。


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