第四話 新旧激突!
「っらっしゃい!」
店の奥から覇気のある声が聞こえてきた。
小奇麗な店内。棚に飾ってある、武器、防具。それと様々な薬草の類。まさに道具屋と言った感じだ。広い店内はそれなりに儲けている証拠だろう。
クリスは、そのまま店のカウンターまで進み、腰につけていた袋を差し出した。
「この宝石をお金に変換したいんですけど」
エリアルはそう言って腰につけていた袋を店員の前に差し出す。
「あいよ」
店主はそう返事をして宝石の数を数える。優に千を超える宝石。
「う~ん。よくこれだけ貯めたねえ」
「ええ、苦労しましたから」
「これだったら、九万ギグスで買い取るよ」
「九万ギグスですか。いいでしょう。商談成立」
一枚一枚渡される金貨。この大陸では主にギグスと言う通貨が用いられる。世界を共通してボークと言う通貨があるのだが、クレハ大陸では大抵は、このギグスが主流となっているのだ。
とは言いつつも結局の所、ギグスでもボークでもデザインが違うだけで素材は金だ。値打ちは大して変わらないのだ。
「さあ、お金も入ったし、おじさん。何か良い武器無い?」
「良い武器ねえ。ちょっと待っててよ」
そう言ってカウンターからいろいろと取り出した。
その種類は、モーニングスターに暗殺者用の短剣。ルイの使っていたロングソードやブロードソードのライトファイター向きの片手で持てる剣。そしてバスターソード、ツインヴァイパーと言った両手持ちの強力な武器、はっきり言って選り取り緑である。
「お姉ちゃん。見た所、剣士だろ。これなんか、おじさん的にお勧めしておくよ」
そう言って店主は一本の剣を取り出した。
朱色に染められた両刃の刀身。翼を広げた鳥をモチーフにしたのだろうか、両翼を広げた銀色の柄。その剣の全てが印象的だった。
「珍しい刀身だろ。闘神の剣って言うんだ」
「切れ味は?」
「使ってみるかい?」
手渡される剣。驚くべき事に重さがあまり感じられない。大抵、剣と言うのはそれなりの重さがある。それは、袈裟斬りにした時に本来の力に加えて剣の力で、重い攻撃にする為である。
「何、この剣。……軽い」
「驚いたろ。切れ味を見たらもっと驚くぞ。ほれ」
店主はそう言うと一枚の銅貨を指で弾いた。一ギグスだ。様は斬ってみろと言いたいのであろう。
クリスは、含み笑いを浮かべ腕を動かした。刹那、弾かれたギグスは空中で一瞬停止し、そのまま引力に引かれ地面に落ちた。
「マジで?」
驚嘆の声を上げる三人。地面に落ちたギグスは八等分されていた。最低四回は斬りつけたと言うことになる。
「切れ味もいいね。気に入った。おじさん、これいくら?」
「二万ギグスでどうだい?」
「買った」
即決したクリス。ほくほくとした表情を浮かべている。
「おじさん。じゃあ、僕に合う武器ってある?」
刃こぼれした長剣を店主に見せる剣。
「うわっ、かなり劣化が進んでいるな。何をしたらそんなになるんだ?」
店主の問いかけに少しながら戸惑い苦笑するルイ。
「僕、実は賢者なんですよ。魔法剣でこうなりました。だから魔法剣に耐えられる剣が欲しい」
一瞬、驚愕な表情を浮かべる店主。
「賢者? あの、『万能の聖者』と呼ばれているあれか」
「うん」
「難しい注文だな。でも、無い訳じゃない。ちょっと待ってな」
そう言って、カウンターに並べてある武器とは別の物を取り出した。そして、その物を見て呆気に取られるルイ。
「おじさん僕に武器を売る気無い?」
店主が取り出した物、それは剣の柄である。
「まあ、落ち着けよ。こいつは、サイコソードって言う武器だ」
「サイコソード?」
聞き慣れない武器。おそらくあまり流布されていないのだろう。手に取るルイ。
「な、何これ」
「はは、驚いたろ」
柄が、異様に重いのだ。ルイが今使用している剣と同じかそれ以上だ。
「その柄は、魔力を力に変えるのさ。魔法を使う容量で刀身をイメージしてみな」
なにやら難しい事を言う店主。
目を閉じるルイ。静寂が辺りを包む。徐々にイメージされるオリジナルの刀身。すると、鍔の先からうっすらと剣の形を成した白い半透明な物が現れた。大きさは、すでに大剣の域に達している。
触ってみると、ちゃんとそこに何らかの物体がある。しかも、不思議な事に、こんな大きな剣が出現したにもかかわらず、重さは柄を持ったときとまったく変わらないのだ。
「それが、サイコソードさ。柄が重いのは、攻撃を重くする為さ。魔力は重さを持たないからな」
「へえ~」
ルイはそう言って剣を消した。
「切れ味のほうは?」
「まあ、人によって色、形や切れ味はバラバラさ。言っただろう。この剣は君の思い描く剣を忠実に具現化するんだ。君の描いた剣はそんなにナマクラなのか?」
「なるほど、気に入った。いくら?」
「そうだな。三万ギグスでどうだい?」
「だって、お師匠様。良いですか?」
「別に構わないですよ。お金ならまだありますから」
そう言ってエリアルは袋の中の金貨を出した。
「じゃあ次は俺達っすね。おじさん、この店には、魔法玉は置いてある?」
「ああ、あるよ。ちょっと待ってな」
ごそごそとカウンターを探す店主。
「あった。これだろ?」
カウンターに置かれる宝玉。玉の中心には六芒星がくっきりと映し出されている。
「おお~、これこれ! 人数分ある?」
レンが聞くと店主は短く「あるよ」と言って三つ宝玉を足した。
目の前に置かれた魔法玉が、ほくほくするレンの顔を映し出す。
「ねえ、レン。何それ」
「ああ、これ? これは魔法玉って言って魔力を増幅させる宝石だよ。魔力の弱い人間でも魔法を使うことが出来る。当然、俺達の魔法も強化されるって訳だ」
「あらまあ、便利な道具」
驚きを見せるクリス。
「おじさん。これを装飾品かなんかに出来るっすか?」
「当たり前だ。ここは道具屋だぞ。何でも材料はそろってるよ」
「それだったら私はこの剣にはめ込んで欲しいな」
クリスはそう言って先ほど購入した剣をカウンターに置いた。
「僕は、ブレスレットがいいな」
「私も」
「だそうっす。俺はペンダントにでもしといてください」
苦笑しながら告げるレン。
「あいよ。じゃあ明日にでも取りに着てくれ。魔法玉の御代はその時だ」
「了解。さあ、今日はゆっくり休もう。俺は、もう疲れた」
こうして四人は無双亭へと足を進めるのだった。
◆ ◇ ◆
翌朝。
四人は昨日の道具屋に居た。
「おっさん。昨日、頼んだのできてる?」
「ああ、出来てるよ」
店主はカウンターから銀色に光るブレスレットとペンダント、そしてクリスの剣を取り出す。光沢を放つ装飾品。そして柄の部分に銀で添えられた魔法玉。全てが見事な出来栄えだった。
「いくらですか?」
「そうだねえ。二万ギグスでいいよ」
「分かりました」
エリアルはそう言って袋の中から数枚の金貨を取り出した。
「まいど」
店主はそう言って一礼をする。
四人は少し笑みを作りそれぞれの装備を取った。
クリスは腰に剣を、ルイとエリアルは左手にブレスレットを、レンはペンダントを首に。
各々の強化された装備品。
「これで少しはマシになるかな?」
「さあ、少なくとも楽にはなると思いますよ」
含み笑いを浮かべるエリアル。
「これで通用しなかったら詐欺でしょ。あの洞窟自体が」
みなぎる自信。
「だったら、力試ししてみないっすか? 闘技場で」
不意に開かれたレンの口。
「でたな、遊び人本領発揮」
ジト眼のクリス。だが、口は笑っている。それほど嫌がっては居ないようだ。
「僕も別に構わないかな?」
頭の後ろで手を組むルイ、軽く伸びをしているようだった。
「私は、反対です。怪我でもしたらどうするんですか?」
「大丈夫だって。エリアルさん」
ぶつくさ言うエリアルの背中を押すクリス。
こうして四人の足は闘技場へと向けられた。
◆ ◇ ◆
「本当にやるんですか?」
「当たり前でしょ。それにモンスターも前のチャレンジャーが全部片付けちゃったんだから。後は私達しかいないもん」
悪戯気に笑みを作るクリスと渋面のエリアル。その言葉は、まるで狙っていたかのようだった。
「あまり気が進まないです。仲間同士で対決するなんておかしいですよ。しかもペア戦でしょ。貴方達、私達に勝つつもりなんですか?」
「もちろん。それに組み手は、お互いの悪い所を見つけるいい稽古だと思わない?」
「そうですか?」
首を傾げるエリアル。何でこうなってしまったのだろう。自分はただモンスターと戦いたかっただけなのに。
「私達みたいなレベルの魔術士はこの世でそう何人も居るもんじゃない。ましてや、宮廷に選ばれたもの同士の対決なんて絶対と言うぐらいない。今日ここに居る観客達はツイてるね」
「私は、昨日買った魔法玉の性能を確かめたかったんですけど……」
寂しそうに手に持っている杖を見つめるエリアル。
「僕もですよ。まさか、武器が使えないなんて」
同時にルイも似た仕草をした。
闘技場での対人戦は、刃物の使用を禁止されている。剣士は木刀で、魔法使いは魔力制御装置をつける事になっている。レンチームと戦う事になっているエリアルは、魔法玉、ルイの装備のサイコソードと魔法玉は使う事が出来ない。当然レンも同じ条件だ。その代わりと言っては何だが、ルイの腰には樫の木で作られた木刀と、右腕には魔法制御装置となる青い宝玉がはめ込まれたブレスレットが付けられていた。当然エリアルも樫でできた杖を持ちブレスレットが付けられてた。
「はあ、こうなった以上やるしかないのですね」
嘆息混じりのエリアルの心境などお構い無しに司会はどんどん事を運んでいる。
「さあ、次は本日のメインカード、ルイ・ヒルダス、エリアル・ルシファレス対レン・クロイツ、クリストファー・シルフィードの対決だ~!」
闘技場に響くマークの声。
「さあ、司会者もお呼びだよ」
開く門。そして背中を押されるエリアル。
会場に足を踏み入れると耳を劈くほどの大歓声か四人を向かい入れた。
「はあ、怪我が無ければいいのですが」
舞台中央でエリアルが肩を落とす。
「もう、心配性だな~、エリアルさんは」
クリスは深い溜め息を吐く。
「そっか~、エリアルさん。もう、おばさんだもんね」
衝撃的な一言。偶然その言葉を拾ったマークのマイクがクリスの声を増幅させ会場全体に響かせた。
おばさん。オバサン。オヴァサン。
同時にそれはエリアルの頭の中にも木霊した。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ! おばさんは、まだ、いやぁぁぁぁぁぁ!」
滝の様な涙を流しながら首を振り髪を振り乱すエリアル。
「お、お師匠様落ち着いて!」
「だって、ルイ君は事実上、年取らないし~。私達まだ十代だし」
とどめの一言だった。冷や汗を流すルイとレン。何かがまずい。いや、もはや『まずい』のレベルを超えている。ルイとレンは死を覚悟した。ルイに限っては一度死んでいる身でありながら再びである。
「この小娘が~! よっぽど死にたいらしいね!」
「出来るもんならやってもらおうじゃないか! これでも、宮廷魔術士の看板背負ってんだ!」
「上等!」
もはや、口調が別人のエリアル。完全にキレたらしい。今ここに、新旧の宮廷魔術士の争いが勃発した。
殺気立つ二人。そして、ぶわ~っ涙を流すルイとレン。
「まあ、準備も出来たみたいだし……」
「まだ出来てな~い!」
ルイの悲痛の叫びがマークに向けられるがそれはあっさりと流された。客からしてみればこれ以上にない面白い見世物なのだから。
「さあ、どんな風に死にたい? 好きなように逝かせてあげる」
殺気の篭ったエリアルの眼。
「はわわわわ」
全力で逃げ出そうとするレン。だがあっさりとクリスに首根っこを掴まれた。流石、光魔術と剣術を極めただけの事はある。素早い動きを見せるクリス。
「後で死にそうになるぐらいしばかれるのと今死ぬ気で戦うの、どっちがいい?」
「今戦わせていただきます」
レンに、もはや逃げ道はない。
「お師匠様、頑張って~!」
一方、ルイの方は傍観者になりきって事を乗り切ろうと言う魂胆だ。
「貴方もです! 相手は腐っても宮廷魔術士です! 全力で行きなさい! じゃないと……」
エリアルの持っていた杖はルイに向けられた。
「精神、燃え尽きるまで全力で行かせていただきます」
木刀を構えるルイ。
「では、始めてもらうよ! いざ尋常に……始め!」
闘技場に響くマークの声。戦いの幕は切って下ろされた。
「さあ、援護を頼むよ! レン」
返答も聞かずに飛び出すクリス。疾風の様に闘技場を駆ける。
「ルイ。応戦です。殺す気で行きなさい」
「それはちょっと……」
困惑するルイ。
「いいから行きなさい!」
ルイの背中に蹴りを入れるエリアル。その表情は鬼神の如く凄まじい物があった。
「もらった!」
更に追い討ちをかける様に声が聞こえた。いつの間にか目に前に居たクリスは木刀を振り下ろしていた。
――ガッ!
乾いた音が会場に響く。ルイが木刀を横に構え、クリスの太刀を遮ったのだ。
「危ないなぁ。もうちょっと反応が遅かったらやばかったよ」
ようやく、戦闘モードに切り替えたのか口調の変わったルイ。そして、鍔迫り合いに持ち込む。
「ちぇ、ルイ君さえしとめられれば、あんなおばちゃん怖くないのに」
舌打ちするクリス。
「こらこら、これ以上お師匠様を怒らせないでくれ」
苦笑するルイ。
「嫌だよ。だって面白いんだもん!」
「それが本音か」
溜め息をつくルイ。だが、一向に力は緩まない。ガチガチと音を立てた鍔迫り合いが続く。
一方、取り残されたエリアルとレンは、激しい攻防を繰り広げてきた。
「金色の光に包まれし騎士よ。そなたの偉大なる光を刃に変えて敵を撃て!」
「聖なる光に包まれし獅子よ。その威光を蒼い冷気に変えて、我の前に鉄壁の壁を成せ」
レンは、熱光線で攻撃を仕掛ける。だがエリアルは、その攻撃を氷の壁を張り、いとも容易く相殺させた。
お互い魔力制御装置を付けているにもかかわらず凄い威力だ。
「どうしました? 貴方の力はそんな物ですか? これでは退屈しのぎにもなりませんよ」
挑発するエリアル。
「言ってくれますね、エリアル先輩。でも、俺も伊達に宮廷魔術士の看板を背負ってる訳じゃないんですよ」
そう言うとレンは両手をエリアルに掲げた。そして、
「暗澹を切り裂く閃光よ。紫電を纏いし鬼神よ。我は願う。裁きの雷!」
詠唱を唱えるレン。だが、それだけでは終わらなかった。
「金色の光に包まれし騎士よ。そなたの偉大なる光を刃に変えて敵を撃て!」
再び、別の魔法を使ったのである。
二重魔法だ。二重魔法とは、二段魔法を応用し、発展させたものであり、同時に二つの魔法を使う事で殺傷力を高めた高等魔術である。
「へえ、さすがは宮廷魔術士ですね。その技が使えるんですか」
感心するエリアル。
「えへ、凄いでしょ」
レンの両手に魔力がたまっていく。
「ええ、凄いと思います。では、その技の弱点を教えてあげましょう」
エリアルはにっこりと笑い、持っていた杖をレンに向けて投げた。
「うわっ!」
顔面で杖を受け止めるレン。今まで構築した、魔力は一瞬にして霧散した。
「二重魔法の欠点は魔法が発動するまでのラグタイムなんですよ。戦場にそれだけの時間が許されていますか?」
答えは否だ。モンスターとてバカではないのだ。
「いたたたたた。参項になるっす」
顔面を押さえて立ち上がるレン。だが、その顔は自信に満ちていた。
「やっぱり、長丁場は不利になるっす。そろそろ、決めさせてもらいますよ」
レンは不適に笑った。
「クリス! そろそろ決めるぞ!」
「おう!」
高く飛び上がるレンとクリス。そして、詠唱。
「広大なる大地を駆ける緑風よ。絶えることの無い神風を今ここに!」
レンの風の魔法。二人の身体は風に包まれ更に高度を上げる。舞台に居るルイ達がまるで豆のようだ。
「覚悟してください! 紅の十二翼を持つ竜王よ。汝、爆炎に姿を変え我と共にあらん事を。我は願う、紅蓮の十二翼!」
聞いた事の無い詠唱。刹那、レンの両手から十二本の紅い閃光が発せられた。鮮やかに弧を描く紅蓮の光。
「躱せるもんなら躱してみろっす!」
紅い軌跡はレンの声に反応するように破裂して行き爆炎に姿を変える。
舞台を包み込む爆炎。そして、炸裂する炎。闘技場は劫火の炎に包まれた。一応加減はした物の、これで倒れなかったら詐欺である。静まりかえる闘技場。あまりの凄さに観客は、呆気にとられていたのだ。二人で、空中に浮いた理由。それは、クリスを巻き込まないためだったのだ。
「へへっ、これで倒れなかったら詐欺です。これならさすがのルイ先輩達でも――」
「躱せちゃうんだな、これが」
地上から聞こえるルイの声。粉塵を巻き上げ炎の渦が空へと消えて行く。
ゆっくりと姿を現すルイとエリアル。かすり傷すら負っていない。
「……詐欺だ」
頭を抱えながら呟くレン。
「まったく。人を殺す気ですか? 普通の人間だったらやばいですよ。今のは」
ぼやくエリアル。普通じゃないだろというクリスの突っ込みはあえて無視をした。
「絶対障壁っすか」
「当たり前だろ! 賢者の特権だよ! 広大なる大地を駆ける緑風よ。絶えることの無い神風を今ここに!」
自分の身体に風を纏うルイ。そして静かにつぶやく。
「お師匠様。すぐに戻ってきますから」
「ええ、行って来なさい」
エリアルの返答を聞くと、ルイは静かに呟いた。
「風よ、我の思うがままに……」
穏やかな風が闘技場に吹く。そして、その風に身体を任せるルイ。
「今度は、僕等の番だ」
突如、風は強くなり、ルイの身体はレンに向かって猛烈なスピードで進んでいく。
「いい加減、遊びは終わりにしてもらうよ」
瞬時に間合いを詰めたルイ。透かさず撓る様な蹴りを繰り出し、レンに連打を与える。
「うぉぉぉぉ!」
最後にルイの回し蹴りがレンの延髄を捕らえた。渾身の一撃、確かな手ごたえが伝わる。
「がはっ!」
やはり肉弾戦ではレンに勝ち目は無いのだろう。風の制御を失いゆっくりと落ちていくレンの身体。レンの魔法で浮いていたクリスの身体も共に落ちていく。勝ちを確信するルイ。
落下していくレンの身体。どうやら意識は無いようだ。
目標が完全に動かなくなった事を確認したルイ。次に、ルイはクリスに標的を移した。風を操りクリスの身体を中に浮かせる。
そして、
「さあ、どうする? これで君は一人だけになった。降参するなら今のうちだ」
「誰が降参なんて……」
と言いかけた瞬間、クリスの鼻先数センチを氷の刃が走った。
「チッ、外したか」
とエリアル。
「こ、こここ、こ、降参します!」
手をあげるクリス。軍配は上がった。
「勝者! ルイ・ヒルダス、エリアル・ルシファレス!」
こうして、闘技場は大歓声に包まれたのだった。
◆ ◇ ◆
「ねえ。もう機嫌直してよ~」
仏頂面のレンに頭を下げるルイ。辺りはもう暗い、四人のあの試合から何時間立ったのだろう。すっかり夜になっている。レンは、さっき目が覚めたばかりなのだ。
「酷いっす。クリスだけ助けてさ……」
「そんな事言ったって気を失ったんだからしょうがないじゃないか」
「それは、そうだけど……僕は納得いかないな」
レンは左手に巻かれた包帯を見て切なげな顔をした。既にクリスが魔法で治している為痛みはない。
「でも、凄かったじゃないですか、あんな魔法使えるなんて思っていませんでしたよ」
「そうそう。あのいけぞんざいな魔法。あんなの良く考えたと思うよ。お前あんなの洞窟では全然使ってなかったじゃないか」
紅蓮の十二翼と名づけられた魔法はレンのオリジナルの魔法だ。紅い十二本の翼を持つと言われる竜王に見立て十二本のを放つ荒々しい魔法である。そもそもオリジナルで魔法を作るという作業はよほど精霊に愛されていないと作る事が出来ない。魔法の構成イメージを一から作り上げ、オリジナルのカオスコードを精霊と一緒に共同で作り上げていくのだ。そして、レンはそれらの事を平然とこなしているのだ。それを考慮しただけでも凄まじい才能である。
「そりゃそうでしょ。洞窟なんだから、あんな魔法撃ったら洞窟が崩れちゃいますよ。それに、なんだかんだ言ってしっかり躱してたじゃないですか!」
更にレンの逆鱗にふれたらしい。
「当たり前だよ! 躱さなかったら僕はともかくお師匠様が危ないだろ」
「そうですよ。私もあそこで木っ端微塵になって死にたくは無かったです」
「なあ。いい加減、機嫌直してよ~」
「じゃあ、今日の賞金で夕飯奢ってくれたら許します」
「うん。好きな物、頼んでいいよ」
「じゃあ、私ドラゴンのステーキ」
「ああ、好きにして」
溜め息を吐くルイ。
こうして、四人の腕比べは幕を閉じた。
◆ ◇ ◆
ルイ達がはしゃぐほぼ同時刻。
漆黒の闇の中、蠢く人影がゲートの街を走る。その足取りはキラベルの洞窟へと向けられていた。
男だ。右手には自分と同じぐらいの長剣を持っている。
「待っていろよ、レグナの眼よ。そしてこの俺が必ず覚醒させてやる」
月光に照らされ怪しく光る長剣。そして男の影は月夜に消えた。




