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Red Eyes  作者: 上月海斗
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第三話 魔窟

 四人がパーティを組んでから三日が経った。


「……」


 黙りこくる四人。そんな中、レンの腕だけがすらすらと動いていた。羊皮紙の上を這う一本の羽ペン。そして、そこには絵が描かれている。地図を書いているのだ。


「どう? 上手くマッピングできてる?」


 クリスの声が洞窟内に響く。


「ああ、一応はできてるよ。大体あってるよ」


 自分の書いた地図を確認するレン。

 と言うのも、この洞窟は本当に広く、そして幾重にも枝分かれしているのだ。時には行き止まりの箇所を発見したり、時にはモンスターの巣窟を発見したりと様々である。

 先日など、帰り道が解らなくなり、迷子になると言う惨劇が起きた。何とか出られたものの、外はすでに暗澹に包まれていた。つまり、深夜になっていたのである。今まで、ある程度モンスターを倒してからマッピングを行なえばいいと考えていたが、それが教訓となり、常時マッピングをして行く事になったのだ。

 そして、目の前には三つに枝分かれした道。まだ、マッピングしていない道である。


「もう、迷うのは嫌です。お願いしますよ、レンさん」


 エリアルに念を押されるレン。


「へいへい」


 嘆息しながらも地図に印を加えるレン。


「まずは右から行こう」


 的確に指示を出すレン。順を追っていかないと必ず道に迷う。マッピングをする上では外せない行為だ。


「あいよ」


 歩き出す四人。

 だが、その足はすぐに止まった。


「ったく。この洞窟は何匹モンスターがいるんだ?」

「さあね」


 毒づくレンと相槌を打つクリス。

 黒い毛並み。そして、狼を思わせる四肢と胴体。印象的な鷹の顔と翼。翼獣シームルグだ。そして、その隣には小脇に自分の首を抱えた首無しの鎧。デュラハンだ。右手には大剣を持っている。二匹とも今日初めて戦う敵だ。


「ルイ君、鷹と鎧どっちがいい?」

「う~ん。鎧かな? 動き遅そうだし」


 二人は、そう言って鞘から剣を引き抜く。


「了解。翼獣は引き受けた。レン! 援護を頼むよ! ルイ君とエリアルさんは鎧を頼んだ!」

「おう!」

「行くよ!」


 バックステップを取るレンと疾風の如く斬り込みに行くクリス。凹凸のある洞窟ではある程度、スピードは殺されてしまう。にもかかわらず、クリスと翼獣との距離は一瞬にして詰められた。凄まじい瞬発力である。


「うぉぉぉぉぉ!」


 クリスの咆哮と共に、閃光が走る。洞窟内に響く翼獣の奇声。痛みに耐えるような鳴き声だが致命傷ではない。


「すごいな、って感心してる場合じゃないんだよね。僕達もやらないと。おい! こっちだ!」


 声に惹かれるようにデュラハンの足がルイに向けて動き出す。


「来た来た。悪いけど、すぐ片付けさせてもらうよ」


 ルイはそう言って右手を翳した。


「お師匠様。行きますよ」

「ええ」

『暗澹を切り裂く閃光よ。紫電を纏いし鬼神よ。我は願う。裁きの雷!』


 重なる声。刹那、二つの蒼の軌跡がデュラハンに走った。

 パリパリと電撃特有の音が洞窟内に響く。

 計り知れない衝撃と、光がデュラハンを包む。

 衝撃で陥没した鎧。だが、その足は止まる事無く、こちらに向かってくる。


「さすが、丈夫だね。だけど――」


 ガッ!

 金属音が後方から聞こえた。何か、金属が堅いものにあたった様なそんな音が。

 硬直するルイ。頬からは一筋の血が垂れていた。


「な、何が起きた?」


 何が起きたか把握できていないルイ。だが、状況を理解するのは容易い事だった。

 デュラハンの持っていた大剣が無いのだ。つまり、デュラハンは剣をブーメランの様にして投げたのだ。


「……やってくれたね」


 殺気立つルイの眼。

 そして、その直後に爆音が響く。炎の魔法だ。しかも、二段魔法。ひしゃげた鎧は、すでに原型を留めていない。爆発の衝撃で押し潰されたのだろう。所詮、デュラハンとは鎧と宝石を媒体にした、亡霊でしかない。媒体を失えば自然と消滅するのだ。さらさらと砂に姿を変える鎧。後には宝石だけが残されていた。胸を撫で下ろすルイ。


「ルイ! 落ち着くのはまだ早いですよ」


 駆け寄るエリアル。

 刹那、洞窟内に声が響いた。


「レン!」


 凛としたクリスの声。そう、戦闘はまだ終わっていないのだ。

 声のした方を向くとクリスに向けて、猛スピードで翼獣が突っ込んでいた。


「聖なる光に包まれし聖女よ。その威光を蒼い冷気に変えて、我に蒼の氷槍を与えよ!」


 詠唱が終わった瞬間、きらきらと光る粒子が槍の形を作る。氷で槍を作ったのだ。


「いっけ~!」


 氷槍はレンの声にあわせて弾丸の如く飛んで行く。そして、見事に翼獣の額に突き刺さった。


「うりゃ」


 そこを透かさずクリスが斬りつける。洞窟内に響き渡る絶命。翼獣は宝石に姿を変えた。


「楽勝!」


 そう言ってクリスは、その宝石を拾い上げ腰に下げている袋に入れた。


「本当に楽勝?」


 突っ込むエリアル。その突込みに対して片眉を上げるクリス。どうやらその言葉が気に触れたらしい。負けずと口を開くクリス。


「ごめんなさいね。私、エリアルさんみたいに年増じゃないから、戦闘経験少なくって」


 クリスがそう言った途端、ぶちっと何処かで、何かがキレる音がした。それは、間違いなくエリアルの頭の中で血管が切れた音なのだが。


「あら、そうね。ごめんなさい、気が付かなくて。まだまだ発達してないですもんね、特に胸とか」


 言葉の一つ一つが重い。と言うより痛い。


「ルイ先輩。行こうか」


 そそくさと羊皮紙と羽ペンを取り出すレン。


「そ、そうだね」


 足を進める二人。

 その日、洞窟の中を異様な殺気が支配したのは言うまでも無い。


 ◆ ◇ ◆


「……よし」


 羊皮紙に描かれた線が止まった。かなり長い距離を歩いた気がする。単に足場が悪く歩いた感じるするだけかもしれないがそんな気がした。


「これで、マッピングは完成!」


 歓喜に溢れるレンの声。だが、これは現実逃避に過ぎない。


「レン。現実を受け止めようよ」


 滝の様な涙を流すルイ。同じようにレンも涙を流していた。四人の前には階段があるのだ。地下に深く伸びる階段。その先は魔法で作り出した鬼火でさえ照らし出すことが出来なかった。

 だがここまで来たのだからと言う気持ちが強く誰もひきかえそうとは言うものは居なかった。ゆっくりと一歩一歩、慎重に階段を降りる。長い長い階段。ルイが鬼火を大きくしたが下が見えない。


「何処まで続くんだ? この階段は」


 相変わらず足場が悪い。階段自体が風化してボロボロなのだ。はっきり言って歩きづらい。

「何か、地獄への入り口って感じっすね」

「何言ってるんですか。もう階段終わりますよ。ほら」


 指を刺すエリアル。遠くの方で階段が途切れている。ようやく階段を下りきるのだ。平坦な地面。だが、同時にそれは見たくは無いものも映し出した。


「……嫌な予感」


 犬型のモンスター。見慣れた三本首。見かけはケルベロスとあまり変わらない。ただし、一つだけケルベロスと異なる部分がある。ゾンビ化しているのだ。腐りかけた体。まるで爛れた肉だ。


「あれって、ガルムじゃない?」

「……」

「……」


 沈黙が辺りを包む。

 地獄の門番として恐れられている存在、ガルムとケルベロス。そして、ガルムとケルベロスの強さを比較するとガルムはケルベロスの三倍は強い。

 どうやらこちらの存在には気が付いているらしい。ゆっくりとこちらに足を進めてきている。


「レンのヴァカ~~~!」


 クリスの慟哭の叫びを残し、逃げるようにして階段を駆け上る四人。


「レンさんが地獄の入り口、何ていうから~」

「あそこにあれが居るのは偶然っす~!」


 一瞬にして階段を上りきる四人。平地……と言ってもかなり足場は悪いがこの程度だったら戦うことは出来るだろう。


「ルイ先輩! 相手はまだ階段を上っている最中です。魔法を撃って多少でも弱らせましょう」

「了解!」


 そう言ってレンとルイは両手を階段に向けて翳した。


「広大なる大地を駆ける緑風よ。絶えることの無い神風を今ここに!」

「絶大なる炎よ。赤き帝王よ! その姿を爆炎に変え、我に力を与えよ! 我は願う、劫火の炎!」


 ほぼ同時に発動するレンとルイの魔法。

 幾重にも重なる真空の刃と火柱。放たれた炎は風に乗り、灼熱の竜巻を巻き起こす。


「いっけ~!」


 二人の声が洞窟内に響く。二人の起こした竜巻は階段を下っていく。

 そして数秒後、洞窟内に轟く雄叫び。そして、轟音。


「まずい! 皆、僕の後ろに隠れて!」


 ルイがそう叫ぶと、再び両手を前に翳した。

 うっすらと乳白色の光を放つ両手。絶対障壁を展開した証である。

 刹那、大気が振動を始める。低い地鳴り。


「来る!」


 ルイが短くつぶやいた瞬間、凄まじい炎と真空波が四人を飲み込んだ。

 先ほど二人が放った魔法だ。ガルムの吐く炎で跳ね返されたのだ。


「うぉぉぉぉぉ!」


 気合を入れるルイ。

 少しでも気を抜いたら四人とも黒焦げだろう。吹き荒れる熱風。そして、炎を纏った竜巻。空気は乾燥し、雑草などのあらゆる物に引火する。岩壁は赤く焼け、そして風化する。その渦中に四人は居るのだ。


「消えろぉぉぉぉぉ!」


 渾身の叫び。徐々に消えていく炎。治まる突風。


「助かったっす」


 へなへなと崩れるレン。


「やるぅ~。さすが賢者だね」


 歓喜の声を上げるクリス。


「何馬鹿な事言ってるんですか。これから来るんですよ」


 まったくその通りであった。今のはガルムの一撃に過ぎない。

 そして、すべてが治まった時、見たくない姿が光に曝された。不気味に伸びる三つの首。狼の様な四肢。荒々しい乱杭歯と光の宿る眼。異形とも言えるその姿は、まさに地獄の門番と言う通り名が相応しい。だが悲劇はそれだけでは終わらなかった。おまけが付いて来たのである。

 極めて人間に近い体つき。だが、それはあくまで体つきだけだ。厳つい顔。そして、長く伸びた爪、全身を堅い鱗で覆っている。竜人ドラゴニュートだ。


「クリス。竜人の相手できる?」

「出来なくてもやれって言うんでしょ」

「うん。ごめんね。レン、君はお師匠様と一緒に僕の援護をしてもらっていいかい?」

「判ってますよ。あんまり気は進まないけどやるしかないっす」


 ゆっくりと剣を引き抜くルイ。


「お師匠様。あいつの気を引くことは出来ますか?」

「当然でしょう」


 エリアルはそう言って小さく詠唱した。放たれる火柱がガルムを飲み込む。


「ありがとう、お師匠様」


 そういい残し、ルイは地面を蹴った。剣を構えガルムに向かって走る。縮まる距離。

 渾身の力をこめて首を叩き斬る。剣は鋭く軌跡を描き、一つの首が地面に落ちた。


「――うげっ!」


 だがその切り口はすぐに再生を始め首の形を成した。


「気持ち悪い!」


 再びルイは剣を振り下ろした。

 一方、クリスの方は竜人を相手に苦戦していた。俊敏な動きも厄介なのだが、それ以前の問題がある。岩のように堅い鱗。鉄壁の守りによってほとんどの太刀筋は弾かれてしまう。

 激しい攻防。竜人は思ったよりも力が強く、そしてその攻撃一つ一つが重い。剣で防ぐと言うよりも剣を使って攻撃の軌道を受け流すと言う感じだった。

 袈裟斬り様に爪を立てる竜人。


「堅いんだよ。あんた!」


 振り下ろされた竜人の爪を受け止めながら毒づくクリス。重い攻撃に手が痺れる。


「くっ!」


 その状況に耐えられなくなったクリス。剣で爪を弾き上げ怯んだ隙に、腹部を突いた。一点集中すれば堅い鱗も貫けると考えたのだ。そして、クリスの考えは当たっていた。

 肉が裂ける感覚が剣越しに伝わってくる。身体の構成が堅いから余計に手ごたえが気持ち悪い。


「早く宝石に変わりなさいよ!」


 突き刺さった剣を更に深く突き刺す。

 震える手。クリスの慟哭の叫びが洞窟に響く。

 だが竜人は、一向に宝石に変わる気配は無い。それどころかこの状態からもなお爪を突きたてようとする。


「くっ、負けるもんか!」


 渾身の力を込めて突き刺さった剣を横薙ぎにするクリス。


「うぉぉぉぉぉ!」


 咆哮を上げ剣を薙ぐ。



 ――ガキン。



 鈍い音。クリスの剣が音を立てて折れた。


「うそ」


 根元からぽっきりといった剣を見て呆気に取られるクリス。

 丈夫過ぎる竜人の肉体。剣を失った今、こうなってしまってはもうどうする事も出来ない。刃先は見事に竜人の腹部に刺さったままだ。

 刹那、


「三人とも伏せて!」


 凛としたレンの声が後方で響く。

 その言葉に即座に反応する、三人。


「蒼い衣を纏いし者。すべてを蒼に染める水帝よ! 偉大なる汝の力を示せ! 我は願う! 蒼の刃!」


 レンを中心に円形の水幕が広がる。一筋の、鋭い刃と化した水。鋭く薄い水の刃は、すべてを薙ぎ払いそして消えた。勝利を確信した四人。だが信じられない光景が目の前に広がる。

 三つの首を失ったガルム、だが、奴は生きていた生きていた。

 レンの放った一撃は、竜人を切裂き、ガルムの首を薙ぎ落とした。だが、竜人は倒せた物のガルムは再生を使って防いだのだ。


「しとめ損ねたか」


 毒づくレン。 


「クリス! これを!」


 ルイは、そう言って愛用の剣をクリスに投げた。

 ガランと音を立ててクリスの足元に落ちる。


「僕は、魔法で応戦する」


 ルイはそう言ってガルムに向けて右手を翳した。落とされた三本の首はすでに再生を始め首を形成している。奴を倒すには身体全体をばらばらに切裂くしかないのだ。


「広大なる大地を駆ける緑風よ。絶えることの無い神風を今ここに!」

 幾重にも重なる真空の刃が、再生中のガルムに向けて放たれた。


「グォォォォォォ!」


 刹那、凄まじい咆哮が洞窟内に響く。振動は超音波となり、洞窟を揺るがす。真空はあっけなく旋風へと姿を変えた。


「くそっ!」

「ルイ! アンデット系は燃やすのが一番です! そうすれば再生が出来なくなる」


 後方から聞こえるエリアルの声。そして、詠唱。


「金色の光に包まれし騎士よ。そなたの偉大なる光を刃に変えて敵を撃て!」


 甲高い音をたてて、真っ白な閃光が火柱をあげる。


「絶大なる炎よ。赤き帝王よ! 我は願う、劫火の炎!」


 続けて、ルイの魔法が発動。ガルムに向けられた紅蓮に光が軌跡を描く。

 そして爆発。

 爆発で岩が砕け粉塵が舞い上がる。視界を断たれた洞窟内。


「しまった!」


 厄介な事にガルムの生死を確認する事が出来ない。


「くっ、逃げますよ」


 少なくとも再生する時間は稼げたはずだ。

 全力で走る四人。

 どれほど走ったのだろう。息が上っている。

 ガルムの姿は疾うに見えなくなりいつの間にか光が差し込む場所まで来ていた。

 自然の光。強烈な光が瞳孔を突く。


「うわっ!」


 固く瞼を閉じるが、瞼を通じて光が差し込んできた。


「はあ、あそこでガルムは反則っす」


 嘆息するレン。


「それに竜人なんて私初めて見たよ。おかげで私の剣折れちゃった」


 見事に柄だけとなってしまったクリスの剣。もうこうなっては剣とは言えないが。それを見て、嘆息の息を漏らすクリス。


「僕の剣も、刃毀れ多いしもうこの装備だとちょっと不安かも」


 剣をクリスから受け取り光に当ててみる。刃毀れが多く、よく見るとうっすらとひびまで入っている。


「なんかすぐ折れそう」


 苦笑するルイ。ルイ御一行は、まさにボロボロと言った感じだった。


「新しい武器買いに行きましょうか」


 無難な提案。四人は洞窟を後にした。


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