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Red Eyes  作者: 上月海斗
2/15

第一話 不死の少年

「金色の光に包まれし騎士よ……」


 少年は、ゆっくりとカオスワードを口にする。

 人が魔法を使う時には、ほとんどが精霊の力を借りる。

 魔法とは使用者が頭の中で組み立てた魔法のイメージを精霊がくみ取り、使用者の魔力と精霊の力によって具現化される物である。

 そして、そのイメージを精霊に分かりやすく伝え、語りかけている言葉をカオスワードと呼ぶのだ。

 つまり、少年は魔法を発動させている最中である。

 張り詰めた空気。少なくとも少年の周りはそう感じることができた。


「……そなたの偉大なる光を刃に変えて敵を撃て!」


 詠唱が終わった瞬間、甲高い音をたてて、真っ白な閃光が火柱をあげる。炎は土煙を巻上げ、標的となったモンスターを包み独特の舞を踊り消えた。

 後には宝石しか残っていない。モンスターが死んだ証拠である。硝煙が辺りを包む。固く、固められた地面。囲むように覆う岩壁。逃げ道は何処にも無い。ここは闘技場なのだ。

 刹那、闘技場に歓声が上る。

 ここ、クルツ大陸のほぼ中央に位置する貿易都市、ゲートは異様な熱気に包まれていた。


「勝者! ルイ・ヒルダス」


 ルイと呼ばれた少年は片手を上げその歓声に応えた。

 彼の名前はルイ・ヒルダス。

 年齢は十八歳。

 小さめの身長と少し童顔とも言えるその顔は、まだ青年と言う言葉は少しに合わない感じがする。

 肩ぐらいまである金色の髪。その髪は、後ろで一本に結われさっぱりとしている。

 服装は動きやすさを求めているのだろう、革で作られたジャケットとズボン。その衣服は黒で統一されていた。

 そして、それよりも印象的な物。それは彼の眼だ。

 左眼は、澄んだ空の様に青い碧眼。だが、右眼は燃える様な真紅の瞳をしていた。


「楽勝!」


 強気な言葉と、自身に満ちた顔。今の彼はまさに敵無しといった感じである。


「さあ、次の対戦相手は……いいのか? これ?」


 マイクパフォーマンスをしている闘技場の司会者、マーク・クレハは、少し戸惑っている。


「何言ってんのさ。さっさと次の相手を出しちゃってよ」


 この闘技場ではすでに常連となっているルイにとっては、ここのモンスターとの対決は遊び場、兼、修行場と化していた。


「まあ、彼の強さなら問題は無いだろう。次の相手は――」


 重々しい扉がゆっくりと開かれる。

 うっすらと輪郭が見える。かなり大きい。

 そして完全に姿が移し出された瞬間、ルイは身震いをした。

 体長は二メートル弱。三つに枝分かれした首。歯は鋭利な乱杭歯で、噛まれたらただでは済まないだろう。


「なっ! 何でこんなのがここに!」


 明らかに取り乱すルイ。


「次の相手は、地獄の門番で有名なケルベロスだぁ!」


 そして、マークの声と歓声。だが次の瞬間。


「ウグゥゥゥゥゥ」


 低い唸り声が歓声をかき消した。


「死なないでくれよ、ルイ! 健闘を祈る! ってか~」


 そう言ってマークはマイクパフォーマンスを終える。


「まったく! 勝手な事を言っちゃって」


 だが、相手がここにいる以上戦わなくてはいけない。それが闘技場のルールなのだ。

 湧き上がる歓声と、唸るケルベロス。


「まあ、死ぬことはない……か」


 そう呟くルイ。ゆっくりと剣を鞘から抜く。

 抜き放った長剣が、太陽の光を照り返した。


「だけど痛いのは嫌だ。本気で行かせてもらうよ」


 剣を持つ右手を引き、左手を前に突き出す。独特の構えをするルイ。

 そして、


「絶大なる炎よ。紅き帝王よ! 我と共に敵を討て! 炎よ! 我と一つになれ」


 詠唱が終わりを告げた瞬間、驚くべき事に炎が剣に纏わりついた。

 魔法剣。ルイがもっとも得意としている技の一つだ。これは『魔法』と『剣技』を合わせた技で基本的には賢者しかできないと言われている技だ。

 魔法使いの性質は基本的には大きく光と闇で分かれている。例えば、さっきルイが使った攻撃系の魔法は、闇属性に位置する。それと対称的に回復系を特徴とするのが光属性の魔法である。

 人は生まれた時から、光と闇、どちらかの属性を持っており、使える魔法は属性によって決まる。術者が光属性の者は光属性の魔法しか使うことは出来ない。例え、対称の属性の魔法を鍛えたとしても使えるようになることはまず無い。それは闇属性の者にも同じ事が言える。

 だが、ごく稀な例で、両方の属性を持ち合わせている者が居る。ルイの場合だ。二つの属性を持つ者。それが『賢者』となるのだ。

 賢者は、昔から『万能の聖者』と呼ばれ崇められて来た。今も、その名残が強く残っていて、神の使いと言う説もあるぐらいだ。それぐらい貴重な存在なのだ。


「行くよ!」


 柄を強く握り締め、ルイは地面を蹴った。

 だが、


「グゥゥゥゥ」


 低い唸り声が闘技場に響く。そして、その直後。三つの首は深く息を吸い込んだ。間違いなくこれから何かをするモーションだ。


「まずい!」


 滑り込むようにその場に伏せるルイ。その瞬間、ルイの上を火柱が通りすぎた。


「怖っ!」


 急いで体勢を立て直し距離を取る。


「――――くそっ!」


 毒づきながらの詠唱。


「絶大なる炎よ。赤き帝王よ。その姿を爆炎に変え、我に力を与えよ!」


 刹那、火柱がケルベロスに向けて放たれた。だが、ケルベロスは三つの口から炎を吐き出しそれを相殺させた。

 熱風が辺りを占める。


「マジかよっ!」


 今までのモンスターとは桁外れの強さ。久しぶりに感じる焦燥感が少しだけ気持ちよかった。


「次は、決めるよ!」


 再び、柄を強く握り地面を蹴った。

 その結果、ケルベロスとの距離は一瞬で縮まり射程距離内に捕らえる事に成功した。


「うぉぉぉぉぉ!」


 凄まじい咆哮と共に剣を振り下ろす。

 閃光一線。ルイが剣を振り下ろすとほぼ同時にケルベロスの首が一つ落ちた。

 そして、その切り口と頭は燃え上がり炭化する。剣に纏っていた炎がケルベロスの首を焼いたのだ。


「やったね!」


 自分の勝ちを確信するルイ。

 だが、ケルベロスの眼はまだ死んでいなかった。


「グゥゥゥゥゥ!」


 けたたましい咆哮。

 刹那、ケルベロスは、首を突き上げたのだ。内臓を抉るような一撃がルイを捕らえる。


「うぐっ!」


 強力な一撃。更にケルベロスはその瞬間を逃さなかった。

 衝撃で浮き上がったルイの体に再び首で攻撃したのだ。今度は叩きつけるように。


「ぐがっ!」


 強烈に地面に叩きつけられるルイの体。大きく跳ね、そして転がる。


「……うぅぁ」


 かろうじて意識は保っているようだ。だが、苦しそうに呻きなかなか立ち上がろうとしない。いや、正確には立ち上がる事が出来ないのだろう。

 そして、ゆっくりと歩み寄るケルベロス。

 まるで、獲物をしとめたかのようにゆっくりと……


「くそっ……なんて奴だ」


 剣を杖のようにして立ち上がるルイ。酷く背中が痛むのか足に殆ど力が入ってない。気を抜いてしまえば崩れ落ちてしまうだろう。

 だがそんな時でも、戦いは戦いだ。

 じりじりと歩み寄るケルベロス。そしてケルベロスはルイの右の首筋に噛み付いたのだった。


「ぎゃぁぁぁぁぁ!」


 吹き出る血飛沫。ルイの首から大量の血が流れ出る。


「おい! 係員! 早くケルベロスとルイを引き離せ!」


 その状況で一番早く動いたのはマークだった。だが……


「なーんちゃって」


 突如復活するルイ。ざわめく会場。


「あ、やばい。ちょっと遊びすぎたかも」


 苦笑するルイ。気付いた時には、会場は引きに引きまくっていた。

 時たま聞こえる悲鳴と『キャ~! お化け~!』と言う声。


「あちゃ~」


 頭を抱えるルイ。


「まあ、いいや。とりあえず、倒させてもらうよ」 


 ケルベロスの首筋に剣をあてがいそのまま引いた。ぼとりと音を立て落下していく首。


「さあ、反撃開始だ!」


 そう言い残し気合を入れるルイ。あれだけ血を流してもにっこりと笑っているのだ。そんなルイを見てケルベロスが逃げ出そうとする。本能で危険を察知したのだ。


「逃がさないよ」


 そして、ケルベロスに両手を翳す。


「絶大なる炎よ。赤き帝王よ……その姿を爆炎に変え、我に力を与えよ! いっけ~!劫火の炎!」


 詠唱が終わった瞬間、紅蓮に輝く光がケルベロスを目掛けて一直線に軌跡を描いた。


「あっ!」


 短く発せられたルイの声。

 そして爆発。土煙をあげる地面。凄まじい衝撃と激しい熱風が闘技場を包んだ。


 ◆ ◇ ◆ 


 あれからどの位、時間がたったのだろう。

 ルイは天井を見ていた。と言うより目をあけたら自然と映ったと言った方が正しい。

 見慣れない天井。だが、初めてではない。

 闘技場の医務室のベットだ。

 ケガをしているのだろうか、打撲の痛みが肩と背中に走る。


「……気が付きましたか?」


 部屋に居るのは彼一人ではなかった。それは最初から気が付いていた。

 視線だけで見ると、若い女性の姿が目に映る。


「お師匠様」


 ルイがお師匠様と呼んだ彼女は、エリアル・ルシファレス。

 年齢は、ルイより二つ上の二十歳。

 腰までよりやや長い真っ直ぐな銀髪と、やわらかい印象の顔の輪郭。そして、右の眼は碧眼であり、左の眼は真紅の瞳。ルイと同色でありながら対照的な瞳をしていた。

 服装は、柔らかそうな黒いローブを纏っている。

 かなりの美少女のランクに位置されるが、彼女の正体を知っていて口説こうとする者は居ない。

 ――世界一の奇術士。

 誰がつけたかは知らないが、それが彼女の通り名だった。魔法に関することなら右に出るものはいない。それが例え黒魔術や白魔術、ましてや召喚術に至るまですべてを網羅している凄腕なのだ。


「もう、ひやひやさせないでくださいよ。今日の試合で、『捨て身の勇者』なんてあだ名までついたんですから」


 がっくりと肩を落とすエリアル。


「でも、頑張りましたね。ルイ」


 優しい笑顔がルイに向けられる。


「これで勝ち方がもっとまともだったら良かったんですけどね。自分で使った魔法の衝撃で吹き飛ばされて壁に頭をぶつけて意識を失うのはちょっといただけないです」


 まったくその通りである。あの時ルイは、確実に勝利を確信した。と言うより事実、勝つ事はできた。ただ一つの誤算を除けば……。

 それはケルベロスとの距離だ。爆発を起こした場所があまりにも近すぎたのだ。無論、ルイは吹き飛ばされ、そのまま壁に激突。

 なんともみっともない幕切れとなった。


「はあ、そこまで計算してなかった」


 ルイはそう言って両腕で顔を覆う。その瞬間ある事に気が付く。


「……あ」


 ルイの髪を優しく置かれた手。優しく暖かな光が傷を癒してくれていた」


「あんまり心配をかけさせないで下さい。ルイ」


 エリアルはそう言って笑った。


「はは。すみません」


 そう言って起き上がり備え付けの鏡を除くルイ。


「でも、大丈夫ですよ。僕は死なない」


 ルイはそう言って髪の毛をかき上げた。

 鏡に映るルイの顔。紅く、鮮やかな右眼がすべてを捉える。


「あれからもう一年が経ったんですね」


「そうですね」


 二人は少し遠い目をした。


「私がもっと場を読んでいれば貴方は死なずに済んだのに」

「また暗くなる~。もういいですよ、その事は」


 すっかり自分の死を受け入れたルイ。だが、初めて自分の死と直面した時、自我を失うほど嗚咽したのだった。そして、ルイが命を落とした理由。それは、一つのアイテムが深く関係している。

 そのアイテムの名前はラルヴァの剣。邪神記という伝説から生まれた魔剣である。

 邪神記とは、この世の中で最も有名で信憑性の高い伝説とされている。

 そのあらすじはこうだ。

 約三百年前、『カオス・ルーク』と言う邪教徒を集めた宗教団体があった。そして彼等は混沌を司るレグナと言う邪神を作り出しのだった。

 レグナは最高の剛力、最高の魔力、最高の知力を手に入れ暴走を繰り返した。

 そして、『カオス・ルーク』はこの世を支配する事になる。

 だが、多くの国が支配される中、人々は連合軍なる物を作っていた。四精霊に魅入られし者、大聖女ハーネ・ライコスを中心に各国の兵の四人を集めた四聖者と共に戦いを挑んだ。

 そして、激闘の末、ハーネは自分の命と引き換えに邪神レグナに打ち勝つ。だが、レグナは死ぬ間際に宝石をモンスターに変える呪いをかけたのである。そして、それは宝石モンスターとして世界に散りばめられた。

 こんな何処にでもありそうな伝説だが実際の所、本当の事は判らない。ただ、宝石モンスターがこの世に現れた有力な理由として今でも言い伝えられているのだ。

 そして、ラルヴァの剣とは邪神レグナが、愛用していたと言われる魔剣なのだ。この剣を持った者は邪神レグナに取り憑かれ邪心に満ちる。使用者は破邪となり殺戮を繰り返し続けるのだ。

 何故、今ごろになってこの剣が現れたのかは不明だが、二人はこのアイテムのに深く関わる事になった。

 そして、二人がこのカオスアイテムと関わる事になった理由。それは二人が就いていた職にある。一年前、彼等は宮廷魔術士と言う職に就いていたのだ。宮廷魔術士。それは、宮廷が……つまり一国が認めると言う魔術士の証でもある。魔道を心得る者なら一度は憧れる称号の事だ。

 そして二人は第二十八代目宮廷魔術士と言う称号を得ていた。つまり、この二人は国が認めるほどの実力と言う事になる。

 事の発端は一年前。クルツ国、国王ゲイル・ツヴァイルによってこの剣を封印するように命令が下されたのである。

 命令を承諾したルイとエリアルはすぐさま使用者を追った。使用者の名はリク・カミーラ。元は聖戦士だった男だ。

 繰り広げられる激しい死闘。そして、運命は訪れたのだった。

 その戦いで命を失ったルイは、エリアルのネクロミノコンで蘇ったのである。


「あの時ルイが私を庇ってくれなかったら私は間違いなく死んでいました」

「またそういう事を言う~。あの状況はあれしか方法がなかったんです。いいじゃないですか。結果的に二人とも助かったんだから。って、それで僕等は職を失ったんだっけ」


 ルイはそう言って笑った。


「笑い事じゃないですよ。それに貴方は助かってないです」


 がっくりと肩を落とすエリアル。宮廷魔術士と言う肩書きを持っている以上、禁呪を使えば宮廷魔術士を解雇される事は明白だった。だが、エリアルは職よりも弟子を選んだ。それだけ、ルイの事を大切に思っていたのである。


「でも、リクは何処に行ってしまったのでしょう」

「さあ」


 そして、二人が旅をする理由。それは、ラルヴァの剣の封印、もしくは破壊である。職を失い、剣とは無関係になった今でもその思いは変わる事はない。一刻も早く剣を見つけ出し被害を最小限に抑えようとしているのだ。


「未だ、正確な情報はつかめていないし。はあ、先は長そうですね」


 溜め息をつくエリアル。


「僕は、結構楽しんでいますよ。お師匠様の事、好きだから」


 ルイは、そう言って人差し指を立てた。刹那、真っ赤になるエリアル。


「うっ! それは、今言う事じゃないでしょ!」

「ははは、お師匠様からかうと面白い」

「……」


 眼の座ったエリアル。聞き取れるか聞き取れないかの小さな声で言う詠唱。


「我は願う。劫火の炎!」

「なっ、お師匠様ぁぁぁぁぁ!」


 無論、この後ルイが黒焦げになったのは言うまでも無い。


「ふえぇぇぇ。痛いよ~、熱いよ~」


 半泣きで訴えるルイ。普通の人間なら間違いなく死んでいる。


「はいはい! まったくもう!」


 そう言ってエリアルは、濡れたタオルをルイに被せた。

 上半身に軽いやけどを負ったルイは、当然のごとくベットに横たわっている。


「大体、あなた賢者でしょ。あの程度の魔法は絶対障壁で受け止められるでしょ」


 賢者が万能の聖者と呼ばれる理由。それは、ここにある。

 ――絶対障壁マジックシールド

 光と闇の力を同時に発動させると互いの力が中和され、無属性の魔力が生まれる。属性を持たない魔力はすぐに消滅してしまうのだが、その消滅する魔力と同時に相手の魔力もかき消してしまう力がある。つまり攻撃魔法は一切効かなくなる。この力こそが万能の聖者と言われる由縁だった。


「だって、お師匠様ゼロ距離で魔法撃った」


 しばしの沈黙。


「はは、はははは。もう大丈夫でしょ。ほら、自分に回復魔法をかけないと痕になりますよ」

「あ、ごまかした」


 とは言いつつも、しっかり光の力を開放しているルイ。流石に不死人に火傷の痕をつけたらゾンビになってしまう。それだけはルイも避けたいところだった。


「穏やかな光者よ、悠久の光を我に! 血よ肉よ、我の傷を塞げ!」


 詠唱が終わると何か暖かい物に包まれた感じがした。

 消えていくヒリヒリとしたやけど特有の痛み。


「まったく。医務室で何をやってるんでしょうね、私達は」


 嘆息混じりにつぶやくエリアル。


「お師匠様の短気~」


 再びエリアルをからかうルイ。学習能力がないというかなんと言うか。再び医務室にルイの悲鳴が響き渡った。


 ◆ ◇ ◆


 夕暮れの道を歩く二人。夕映えは石畳を、いや、全ての物を紅く染めていた。 

 他愛のない話をする二人。端から見れば仲のよい姉弟のように見えるのだろうか、もしかしたら恋人同士と見られているのかもしれない。行き交う通行人は皆こちらを見て笑顔を作る。


「お金は稼いだし、しばらくの宿代も困る事はない!」


 今日得た賞金をぐっと握り締めて、ルイは勝ち誇った表情を浮かべる。


「感謝しています」


 にっこりと笑うエリアル。宿代を稼ぐのはルイの仕事だ。たまに、危険な時もあるが、自分の存在を消されない限り死ぬことはない。少々荒っぽいが闘技場で稼ぐのが一番手っ取り早いのだ。

 その代わりと言ってはなんだが、エリアルは昼間情報集めをしている。


「お師匠様の方は、何か進展はありましたか?」

「相変わらず剣の情報はないですね。でも、別の物がでてきたんですよ」

「別の物?」


 足を止め立ち止まる二人。


「レグナの眼です」

「レグナの……眼」


 レグナの眼。それはラルヴァの剣と並ぶカオスアイテムである。邪神レグナの眼といわれる膨大な魔力を秘めた真紅の宝玉だ。その宝玉は宝石をモンスターに変えると言う特殊能力を持つと言われている。このアイテムこそがこの世の宝石モンスターを生み出した原因と言い伝えられているのだ。だが、実際レグナの眼を見たと言う人物は居なく、その仮説を実証できる物がないのだ。


「また微妙な物が」


 苦笑するルイ。こう言ったレグナがらみの情報は多数出てくるのだが今まで一回も当たりが無い。

入ってくる情報もガセが殆どなのだ。中でも一番酷かったのは『レグナの蝶ネクタイ』である。何処の世界に邪神が蝶ネクタイを締めているのだと言うのだろう。とにかく、こう言った類のネタは珍しくなかったのだ。


「この街のはずれにキラベルの洞窟と言うのがあるのは知っていますか?」

「はい、知っていますよ。まだ一度も行った事はないですけどね。宝石モンスターの巣窟だって道具屋の親父が言ってました」


「この街にはですね。意外な伝説があったんですよ。え~と」


 エリアルはそう言って懐から何かを取り出す。羊皮紙だ。その羊皮紙には細かい字でびっしりと何かが書いてある。


「あ、ここですね。この部分、この街には邪神記のその後の伝説みたいな物あるんです。大盗賊サイク・ルキアってご存知ですか?」


「はい。邪神記と同世代に生まれたこの大陸を支配していた盗賊の親玉ですよね。って言うか、知らない人はいないでしょう」


「ええ。実はですね。生前、彼は自分の遺産と一緒にレグナの眼を封印したらしいんです」

「はあ」


 ルイがそう言うとエリアルは少しだけ笑みを含む。


「まだ気が付きませんか? キラベルの洞窟は、サイク・ルキアの遺産を隠した場所だとしたら?」

「あっ」


 ようやく辻褄の合ったルイ。モンスターの巣窟と言われているキラベルの洞窟。そして、レグナの眼の特性。つまり、レグナの眼で遺産をモンスターに変換させたと考えるのが普通だろう。


「なるほど。でも、そのアイテムを手に入れてどうするつもりなんです?」

「勿論、私の神術でレグナの眼と共鳴を起こさせます。少なくともレグナの魔力はそう簡単に消えないはずですから。うまくいけばリクの場所も割り出せる」


「本当ですか? でも、それって街に伝わる言い伝えなんでしょ。だったらこの街の人が既に手に入れていると思わないんですか? それか、いつもみたいにガセでしたなんて事になるんじゃないんですか?」


 物凄く怪訝顔をするルイ。第一、もしあるとしても三百年も前のお宝だ。既に誰かに取られ無い物と考えるのが普通だろう。


「あまいね。甘すぎるよ、ルイ君」


 眉毛を少しだけ吊り上げてルイを一瞥するエリアル。キャラが変わっている。気分はすっかり名探偵だ。


「……あんた誰ですか」


 ルイの冷静な突込みをさらりと流し再び口を開いた。


「レグナの眼はモンスターを生み出すアイテムですよ。つまり、あの洞窟にモンスターが居る以上それはありえないのです!」


 人差し指をルイに突きつけた。まあ、もっともな意見だ。


「で? お師匠様はそこにレグナの眼がまだあるとお考えで」


 上下に首を振るエリアル。


「大丈夫ですよ、私達の力なら」


 確かに色々な意味で大丈夫だろう。


「そうかなぁ」


 自信なさ気に呟くルイ。


「ルイ。貴方の悪い癖はすぐ内向的に考える。もっと前向きに生きなさい」


 渋面を作りエリアルを一瞥し『お師匠様のその自身は何処から来るの?』と心の中で突っ込みを入れるルイ。


「さあ、行きますか? 止めますか?」

「……あまり、気乗りがしないけど、どうせ止めても聞かないんでしょ」

「流石ルイ。よくお判りで」

「仕方ないです。行きますよ」


 これも、リクを見つける為だと思いしぶしぶ頷くルイであった。


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