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Red Eyes  作者: 上月海斗
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第十一話 勝機

「ほう。ようやく出てきたか」


 呟くリク。


「いささか、人数が足らないようだが?」

「残念な事に今動けるのは、僕だけなんでね」


 肩をすくめるルイ。


「馬鹿な奴だ。一人で勝てると思っているのか?」


 どうやら相手の失笑をかったらしい。


「さあ、その余裕がいつまで続くかな?」


 にっこりと笑うルイ。

 直後、ルイの姿が消えた。斬り込みに行ったのだ。


「うぉぉぉぉぉ!」


 柄を強く握り締め剣を横に薙ぐルイ。

 サイコソードが氷狼の右前足を捕らえ、そして振り抜かれる。切断される足。そして起こる爆発。


「まだまだ!」


 そして詠唱。両手は、氷狼の腹部へと向けられていた。


「広大なる大地を駆ける緑風よ。絶えることの無い神風を今ここに!」


 風を操り、まるで、氷狼の腹を掻っ捌くように無数の真空が斬り付けた。

 バランスを崩す氷狼。


「どうだ!」

「くっ! どうやら高みの見物とは行かないらしいな」


 このままではまずいと判断したのかリクが氷狼の頭からルイを目掛け飛び降りた。


「死ね」


 ラルヴァの剣を突き立てるようにして重力に身を任す。


「おわっ!」


 転がるようにして、リクの攻撃を躱すルイ。体勢を立て直し斬撃を放つ。

 身をよじり遠心力を味方につけた渾身の一撃だ。長剣とは思えない恐ろしく速い太刀筋がリクを捕らえる。


「くっ!」


 ラルヴァの剣を縦に構え、その斬撃を防ぐ。


「ふっ、やっぱり左手がないと力が出ないかい?」


 崩れ落ちそうなリクの左腕を見てルイは更に斬撃を放つ。袈裟斬りに持ち込み左手を集中的にねらう。


「くっ! 調子に乗るな!」


 まるで、カウンターを入れるようにリクの剣はルイの腹部をとらえた。


「まったく。頭悪いね、お宅も。僕は死なないっての!」

「ふっ、死なない相手をどうやって仕留めるか知っているか?」


 不気味に笑うリク。ゆっくりと剣を引き抜いた。


「しばらくの間、動けないようにすればいいんだ。封印って奴だ。永久凍土に埋もれるがいい!」


 刹那、氷狼が二人に向けて猛吹雪を吐いたのである。

 徐々に凍り付いていくルイ。一方リクの方はこの猛吹雪の中へ依然としている。流石は氷の精霊なのだろう。


「くっ。今だ、レン! 撃て!」

「了解!」


 叫ぶルイに同調するレン。入り口の所で高々と手を掲げている。


「へっ! 俺達の狙いは、その馬鹿でかい氷狼なんだよ!」


 そう、全ては囮だったのだ。氷狼を倒してしまえば後は手負いの獲物を狩る様な物だ。左手を負傷したリクにこの四人が倒せるはずがないのである。


「紅の十二翼を持つ竜王よ。汝、爆炎に姿を変え我と共にあらん事を。我は願う、紅蓮の十二翼!」


 一瞬後。レンの手から希望の光が放たれた。

 凄まじい轟音。巻き上がる炎は氷を溶かし、全ての水分を蒸発させた。


「いっけ~!」


 まるでレンの言葉に反応するように、洞窟を埋め尽くす炎。全てが赤一色に染まっていった。

 灼熱の炎が、氷狼とリクを飲み込む。もちろん、ルイも例外ではなかったが。


「怖~! 殺す気か!」


 炎の中から聞こえる声。ルイの声だ。


「あほ~! 絶対障壁がなかったらどうする気だったんだよ~」


 どうやら、洞窟を埋め尽くす炎の中に自分の居場所だけは確保していたらしい。


「それでも、ルイ先輩は死なないでしょ」

「あほ~。炭化して消える……うわっちぃぃぃぃぃ!」


 どうやら、服に引火したらしい。無属性の魔力を放出したまま走り回っている。


「ルイ先輩! こっちっすよ」


 レンがそう言うと猛スピードでルイが駆け込んできた。まるで弾丸のようである。


「大丈夫ですか?」

「これが終わったら絶対にシバく」


 プスプスと煙を出すルイ。


「はは、覚悟しておきます」


 苦笑するレン。


「さてと、締めにかかりますか」


 ようやく鎮火して行く炎、開けていく視界。岩は焼けて赤くなり、凄まじいほどの熱気が立ち込めている。そして、完全に炎が消え去った瞬間、四人は驚愕した。


「嘘だろ? あんなので……」


 呆然とするレン。

 黒く、焼け残った人型の灰。それはおそらくリクなのだろう。いや、正確にはリクだった物だ。


「おい! リク! 手前、何、勝手に死んでんだよ」


 駆け出すレン。


「納得いかねーぞ! おい!」


 灰を手で救うレン。


「……レン」


 その時だった。レンに向かって走る無数の氷槍。


「うがっ!」


 鮮血を吐くレン。そのままリクの遺体の横に倒れ込む。


「これで納得がいったか? レン」


 リクの声だ。


「なっ、……精霊体だと」

「ああ、そうさ。レグナの復活の時が来たからな。この身体が邪魔になったのさ」

「なんだって、じゃあ私たちは、……間に合わなかったの?」


 膝から崩れるクリス。


「いや、違うな。多分、地上の奴等はまだ生きている。俺の身体と、氷狼を生贄に使ったのさ」


 刹那、レグナの眼が無気味に光る。


「俺はこれからレグナと同化する。さあ、邪神記の始まりだ」


 ◆ ◇ ◆


 酷く遅く感じた。目に映る全ての物が遅く、鮮明に見える。

 凄まじい魔力。球体が異形の物へと変わって行く。邪神の力が今解き放たれるのだ。

 揺れる洞窟。振動する大気。身も凍るような凄まじい凍気と、足が竦むような魔力。


「くっ! まさか二重に罠を仕掛けているなんて」


 肩を落とすエリアル。四人が一番恐れていた事が現実になってしまったのだ。

 結局の所、リクは知恵で勝負していたのである。戦いが始まる前、『時間が経てば復活する』と言ったのはこの事だったのだ。


「まずい、ルイ君! レンを連れて逃げるよ! 洞窟が持ちそうも無い」


 崩れた天井が、岩石となりルイ達を襲う。


「くそ! 今はそれしかないのか」


 早急にレンを抱え、全力で階段を駆け上る。


「ルイ先輩……」


 力なく口を開くレン。


「なんだよ!」

「すいません。俺の所為で……俺には止める事が出来なかった」


 流れる涙。本当に悔しそうな顔をしている。


「あほか! 弱気な事を言うな、投げ捨てるぞ」


 そう言いながら全力で走るルイ。


「だって、レグナが復活したんですよ」

「だから、あほだって言うんだ。復活したら倒せばいいじゃないか。お前は炎の精霊なんだろ。僕だって不死人だ。ハーネだっているんだろ。何とかなるかもしれないだろ」

「こら! 私だっていますよ。」


 横を走る、エリアルがレンにパチッとウインクをした。その肩にはコロもパチッとウインクをしている。どうやらエリアルの右腕は完全に復活したらしい。それどころか、怪我をしていた全ての場所が治っている。流石はクリスだ。


「さあ、ルイ! とばしますか」

「はい!」

「クリスさん、掴まって!」


 手を差し伸べるエリアル。


「おっけ~!」


 そう言ってエリアルの手を掴んだ。


『広大なる大地を駆ける緑風よ。絶えることの無い神風を今ここに!』

「いっけ~!」


 猛烈なスピードで出口を目指す四人。

 揺れは、一層激しくなり壁の亀裂は既に割れ目へと変化し、地割れを起こす。


「く、崩れるよ。エリアルさん。もっとスピード上げて!」

「判ってますよ!」 


 とは言っても既に目一杯のスピードを出しているのだ。


「オバサン! 急げって言ってんだよ!」

「っんだと、コルァ!」


 突如殺気を放つエリアル。しかも、『コラ』が巻き舌になっている。


「覚悟、決めろよ。この小娘がぁぁぁぁ!」


 まるで、ヤンキーのような言葉使い。

 刹那、さっきまでのスピードの三倍はあろうかと言うスピードで突っ切るエリアル。

 あっという間にエリアル達は視界から消えていった。


「……あほだ」

「すいません。うちのクリスが」

「外に出たらクリスが死んで無い事を祈るよ」


 うなだれる二人。だが、崩れる洞窟はそんな時間をも与える事を許さなかった。


「ぐが!」


 ルイの頭に大人の足のサイズを少し大きくしたぐらいの岩が落ちたのである。


「ルイ先輩!」

「いたたたたた。の、脳が揺れる」


 少しだけよたよたしながらも出口を目指す。


「大丈夫ですか、ルイ先輩」

「ああ、何とかね。これは疲れるからあまりやりたくはないけど、こんな状況じゃ仕方ないね」


 溜め息を吐くルイ。


「広大なる大地を駆ける緑風よ。絶えることの無い神風を今ここに!」


 再び風の魔法を使うルイ。


「な、二重魔法!? ルイ先輩、使えたんですか?」

「甘い! 僕が宮廷魔術士に選ばれた理由はこれさ」


 精神を極限まで高めるルイ。


「広大なる大地を駆ける緑風よ。絶えることの無い神風を今ここに!」


 刹那、信じられないスピードが二人を襲う。


「さ、三重魔法!? あんた化物ですか」

「化け物いうな。さあ、急ぐよ」


 音速を超えそうな勢いでかっ飛ぶルイ達。


「うわわわわ」


 焦るレン。だが、その甲斐もあってか、遠くの方で光が見える。出口だ。


「よし! 出口だ」


 徐々にスピードを落とし、光の中に飛び込む。

 眩い光が眼を劈いた。 


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