No pain no gain(1)
緩いウェーブのかかった癖毛の黒髪。灰色の虹彩を持つ眼。
上瞼がその虹彩の上部にかかっている、いわゆる三白眼。ヨーロッパ系の、彫りが深い顔立ち。
歳は三十代半ば。本人は、36か37だと思う、と言っている。
彼がいた国は、国を挙げて少年兵の育成に力を入れていた。多分に漏れず、彼もまた、かつては少年兵だった。
「幸運が重なって、大人になるまで生き延びただけ」と言うが、彼は己の実力で生き延びた人だ。
彼は青年になると、特殊部隊のメンバーになり、約三年前まで第一線で活躍していた。
しかし、彼がいた国は、もうない。地図から消えてしまった。
ずっと戦争していた隣国と統合し、新しい国家として歩み出した。
彼はそうなる前に国を出て、私と行動を共にするようになった。そこに至るまでは、まぁ、いろいろな経緯がある。
彼の名はサヴァンセ。
彼の育った国の言葉では「梟」という意味になる。
彼は戦災孤児で、生年月日や本名が不明。だから、軍でつけられたコードネームを、自分の呼び名にしている。
私は彼を「サバちゃん」と呼ぶ。わざわざ「サバちゃん」呼びする理由は、特にない。