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18 -8 ︎years ago

       ***



 

 土曜日のお昼。天気は雨。

 朝からずっと降っていて、秋のはずなのに、感じる寒さは冬みたいだ。


 今日も空襲警報が鳴り響いている。

 

 この家は古いから、近くで砲撃があると、ガタガタと建物全体が軋んでうるさい。今もガタガタ揺れている。

 昼でも夜でも、気がつけば空襲警報が鳴るから、慣れてしまった。


 本当は大好きなアニメがやっている時間なのに、今日は空襲警報のせいでニュース番組が流れている。

 退屈なTV画面にうんざりしながら、お皿に乗った魚の缶詰の中身と硬いパンを、フォークで順番に突ついた。

 どちらも大嫌いなメニュー。おいしくない缶詰の魚と、パサパサで硬いパン。

 

 スーパーマーケットは閉店しないで頑張っているけど、品物の数はだいぶ減った。お菓子なんか全然手に入らない。

 

 こういう、国から配給された食料品が、毎日のごはんとして出される機会が増えてきた。


「ライオニオ、ちゃんとごはんを食べなさい!」

 ママは、ごはんに集中しない僕を咎めてくる。

 ママのお皿には、僕よりも少ない量のごはんしか乗っていない。


「もっとたくさん食べて、強く大きくなって、リエハラシアと戦わなきゃ!」

 ママはいたずらっ子のような笑顔で言うけど、

「軍はヤだ」

 なんで大人は、子供の将来を、戦争に行く前提で話してくるのか、僕にはわからない。

 

「ヤだとか言わない! パパだって立派に戦ってきたんだから」

 ママは甲高い声で叱りつけてくる。

 うちのパパは、戦争に行って、足を吹き飛ばされて帰ってきた。

 今は家で、毎日寝ているだけ。薬のせいで眠くなるらしい。


 ママが言うには、戦争で心が少し疲れちゃったらしい。だからパパは、軍に戻れない。


 怒り始めたママを落ち着かせるために、渋々、魚の身にフォークを刺して、口に入れる。

 おいしくないな、と思った。

 次の瞬間、ゴォォォォンと低い音が聞こえた。

 それは、ただの音じゃなかった。建物が崩れ落ちて、潰される時の音だった。



 

 僕の家が、砲撃されたんだ。

 



 目を開けると、視界の端に瓦礫が転がっているのが見えた。

「ここがどこかわかる?」

 僕の顔を覗き込むのは、ママじゃない。

 「ここは、僕の家だよ、家の跡形もないけど」と答えたかったのに、声が出なかった。

 息が苦しい。身動きできない。僕はどうなっているんだろう。

 

「もうすぐ救護班が来るから、頑張りなさい」

 声をかけてくるのは、カーリーな赤い髪、濃いブラウンの眼の、おばさん。

 ねぇ。助からないなら、そう言ってほしい。

 

「知ってる? 私、軍では有名人だったの」

 おばさんはニヤッと笑って、僕の頬や頭を撫でた。

 クィンザグア? 英雄? とかいろいろ言われたけど、何を言われたのか、全然理解できなかった。

 

「私みたいな有名人に会えたんだから、君はラッキーボーイ。君は絶対死なない」

 おばさんは僕へ話しかける合間に、近づいてきた救護班に合図を送った。

 「やっと救護班が来たから、助けてもらえるんだ。あんたが声をかけ続けたおかげじゃないよ」なんて思った。



 

 嘘だよ。


 

 

 あの時、あんたが僕を、瓦礫の中から助け出してくれなかったら、僕が生きているわけないんだ。


 あんたは僕の、命の恩人だよ。

 ありがとう、「クィンザグアの英雄」、アリスティリア・ヤシルド=リングネンツェ。



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