風呂
「はぁ~~~、あったまるぅ~~~」
私は、一息ついた。
私は、夕食後の今、お風呂に入っている。
石造りのお風呂で、底は木の板が敷いてある。
まるで、五右衛門風呂だ。
(ヨーロッパに、五右衛門風呂なんて、あったっけ?)
(いや、そもそも異世界なんだから、私の常識は、通用しないんだ……)
「湯加減はどうかしら~?」
ローラさんだ。
外で、薪をくべてくれているようだ。
「ちょうどいいです~」
私は、大きな声で答えた。
「アルビー先生は、今どうされていますか~?」
「あぁ、あの人なら、書物で研究中よ~」
(書物で研究?魔法の研究でもしているのかな?)
「ローラさん、そろそろあがります~」
「分かったわ~。寝間着とタオルを用意するわね~」
ローラさんが、走って、玄関のドアを開ける音が聞こえた。
そう、このお風呂は、家の外の小屋にあるのだ。
私は、五右衛門風呂について、おばあちゃんから話に聞いていただけだったので、とても新鮮な体験だった。
トントン。
「アイリーンちゃん、入っていいかしら~?」
小屋のノックの後、ローラさんの声がした。
「どうぞ~」
キィ。
ドアがそうっと開いて、ローラさんが入ってきた。
「ごめんなさいね~。寝間着とタオルを忘れるなんて」
「大丈夫です。すぐ持ってきてくださったじゃないですか」
「娘が着ていた物があったからね。良かったわ」
「娘さんがいらっしゃるんですね」
「えぇ。もう結婚して、家を出たけどね」
「そうなんですね」
「アイリーンちゃん、ご兄弟はいらっしゃるの?」
「妹が一人」
「まあ!そうなのね。ウチは、娘が一人でね、兄弟を欲しがっていたものだわ」
「そうなんですね」
私は、マイペースな香織の事を思い出して、クスリと笑った。
「良かったわ」
ローラさんが、微笑んだ。
私が、怪訝な顔をすると、ローラさんはこう、続けた。
「幸せがね、笑顔を呼ぶのと同時に、笑顔がね、幸せを呼ぶの」
「笑顔でいなさい。きっと、良い事があるから」
「はい。ありがとうございます」
私は、微笑んだ。
ローラさんの娘さんの寝間着は、寸法が私にぴったりだった。
(これなら、寝苦しくない。良かった)
「さぁ、湯冷めする前に、家に入りましょう」
「は~い」
私と、ローラさんは、家に入った。
「アイリーンちゃん、寝る前に、ココでも飲む?」
「ココ?」
「ミルクを使った、甘い飲み物よ。飲むとホッとするわよ」
(ココアみたいなものかな?)
マグカップに淹れてくださった飲み物は、ココア色で、甘い香りがした。
(やっぱり。ココアそっくりだ。味も……、ココアだね)
「お口に合うかしら?」
ローラさんが心配そうに言った。
「はい。美味しいです」
「良かった。歯磨きしたら、寝室に案内するわね」