家路
「えっ、帰る方法をご存じなんですか?」
私は、身を乗り出して、聞いた。
「ホッホッ。
わしは、魔法を使えば、元いた世界に戻れるのではないかと、考えておる」
アルビー先生は、長い髭をさすりながら、言った。
「では、アルビー先生の力を借りて……」
「いや、わしでは、力不足じゃ。
アイリ、お主自身が、魔法を使う必要がある」
(私が、魔法を使う?)
「それは、どういう……」
「わしは、魔法を教えることは、できる。
お主が、魔法を習得するんじゃ」
「で、でも……」
「魔法を知らない世界から来たんじゃろう?
不安な気持ちもわかる。
じゃが、お主が、魔法を使うしかないんじゃ……」
アルビー先生は、ふと、窓の外を見た。
いつの間にか、夕焼けで空が赤くなっている。
「もう、黄昏時じゃな。
家に帰ろう」
「あら、本当ですね。
夕飯の支度をしなくては」
ローラさんが言った。
「アイリーンちゃん、ご飯の支度、手伝ってくれるかしら?」
「はい……」
私は、先ほどの話に戸惑いながら、返事した。
「大丈夫よ。
魔法の話は、後で聞けるから」
ローラさんは、私の様子に気づいて、ウィンクした。
(そうだよね。
魔法を教えてくださるって、おっしゃってたし、私はひとりじゃない)
「お手伝いします。
いろいろ、教えてください」
私は、気持ちを切り替えて、ローラさんに言った。
「いい顔になったわね。
その調子よ」
ローラさんが、微笑んだ。
「では、帰るとするかの」
部屋を出て、建物を外から見てみると、欧風の石造りの家だった。
(可愛い家……)
オレンジの洋瓦の屋根に、ベージュの石造りの壁。
華やかな東欧風だ。
周りの家も同様の造りをしていて、私達が出てきた建物は、見事に周囲にとけこんでいた。
「アルビー先生の家は、遠いんですか?」
私は、アルビー先生やローラさんについて歩きながら、聞いた。
「いや、近い。徒歩5分くらいかの」
(良かった。意外と近いんだ)
「こんにちは、ローラ。
その娘さんは?」
知らない小母さんが声をかけてきた。
「こんにちは、ベティ。
遠縁の娘よ。アイリーンちゃん。
しばらく預かることになったの。
よろしくね」
「ふぅん、そうなんだ。
あんたも大変だね。
やっと子ども達が巣立っていったってのに」
「あら、家が賑やかになるから、嬉しく思っているのよ」
「そんなもんかね。
まぁ、気を付けて帰りな」
「ありがとう」
ベティさんは、ローラさんから私の事を聞いて満足したのか、離れていった。
「ご近所さんよ。
ちょっと噂好きで、ご近所に目を光らせているけど、悪い人ではないから」
ローラさんが、私に耳打ちした。
私がアルビー先生を見ると、アルビー先生は肩をすくめた。
(アルビー先生やローラさんが恥ずかしくないように、言動に気をつけよっと)
私は、物珍しさも手伝って周りをよく見ていたが、あまりキョロキョロしすぎないように、気を付けた。
「ようこそ、我が家へ」
徒歩5分。あっという間にアルビー先生の家に到着した。