不思議な部屋
「ついておいで」
アルビー先生の案内で、私は不思議な部屋に通された。
ネモフィラのような、小さな青い花々の花畑のど真ん中にある、小屋にある部屋だ。
「綺麗な床……、模様が青く光ってる……」
床には、いろんな花柄の模様が、美しく、そして複雑にあしらわれており、その模様はポウッと青白く光っていた。
「ホッホッ。これは、魔法陣じゃ。
この陣に入って、魔法を起動すると、決まった場所に移動することができるんじゃ」
「もしかして、この陣で、アルビー先生の家に帰ることができるんですか?」
「ホッホッ。正確には、わしの家のある地区の、これと似たような魔法陣のある場所に移動できる」
「さて、説明はこのくらいにして、帰るとしようかの」
アルビー先生が、私に魔法陣に入るように、促した。
ごくり。
私は、唾を飲み込んだ。
(初めての経験……、怖い……)
私が、一歩を踏み出せずにいると、アルビー先生は、左手を差し出し、私の右手を握ってくれた。
(温かい……)
アルビー先生の手の温かさに、緊張がゆるんできた。
(ようし、行くぞ!!)
私は、エイヤッと、一歩を踏み出し、魔法陣の中へ入った。
アルビー先生も、一歩踏み出し、手をつないだまま、魔法陣の中央へ進んでいく。
私も、つられて魔法陣の中央へと進んでいった。
「心の準備はいいかの?
わしの手を離すでないぞ」
アルビー先生は、そう言うと、左手で私の右手をしっかりと握ったまま、右手だけで合掌のポーズをとった。
アルビー先生の右手で、何かがキラリと光った。
アルビー先生の右手の薬指にはめてある、指輪だ。
魔法陣と同じように、青白く光っている。
「エリー、花の精エリスよ!
わが声に応え、先導せよ!!」
アルビー先生の、低くて深みのある声が響き渡った。
リ~ン、シャン。
鈴のような音がしたかと思うと、魔法陣が薄桃色に強く光り始めた。
アルビー先生の指輪も、薄桃色に強く光っている。
(まぶしい……)
私は、あまりの眩しさに、目をぎゅっと瞑った。
「着いたぞい」
アルビー先生が言った。
恐る恐る目を開くと、先ほどとは別の部屋に立っていた。
今いる部屋にも、床に魔法陣が青白く光っているが、花柄の模様が、若干違うようだ。
フゥ。
私は、安堵のため息をついた。
「おやおや、緊張したかの。
どこも痛いところは、なかろうな?」
「はい。大丈夫です」
「よしよし、じゃあこの部屋で待っておれ」
アルビー先生と私は、魔法陣の部屋を出て、テーブルと椅子の置いてある、落ち着いた感じの部屋に移動した。
アルビー先生に勧められるまま、椅子に座って待っていると、アルビー先生が、年配の女性を連れてきた。
「ローラ、この子がアイリじゃ」
アルビー先生が、私を紹介した。
「あ、桜宮 愛梨です。
愛梨と呼んでください」
私は、慌てて立ち上がり、自己紹介した。
「アイリーンちゃん?
はじめまして。
アルバートの妻の、フローラ・ガードナーです。
どうぞ、よろしくね」
ローラさんが、微笑んだ。
(すごく、優しそう。
頭に、三つ編みにした銀髪を巻いているんだ、綺麗~。
でも、アイリーンちゃんって……、名前を洋風に聞き取ったのかな?)
とまぁ、色々考えていると、ローラさんが、両手で私の顔を包んだ。
「大変だったわね」
「あ……」
ローラさんのいたわるような声が身に染みて、涙が出てきた。
「私、帰りたいです」
「そうね。
一緒に、帰る方法を探しましょうね」
「ホッホッ。方法は、あるはずじゃ」