指輪
「おはよう」
小屋を出ると、アルビー先生が声をかけた。
既に花畑で作業をしている人々が、何名か居たのだ。
「おはようございます」
皆が、作業の手を止めずに、アルビー先生に挨拶をした。
皆の様子からして、アルビー先生が1番年上で、偉い人のようだった。
「おはようございます!アルビー先生~!!」
ジェムが、アルビー先生に駆け寄った。
「おはよう、ジェム。仕事がはかどっておるようだの」
「はい、先生。
今日は、ネモフィラの花々の調子がとてもよくて、ポーションいらずの感じです」
「何よりじゃ」
アルビー先生が頷いた。
「じゃが、油断するでないぞ。ちょっとした異変の見逃しが、大ごとになるのじゃから」
「はい、先生!!作業に戻ります」
そう言うと、ジェムは持ち場に戻っていった。
「あの、皆さん何をされているんでしょうか?
お花を真剣に見つめられて……」
愛梨が尋ねた。
「ホッホッ。ネモフィラの花の妖精と対話しておるのじゃ」
「ネモフィラの花の妖精と、対話?」
「そうじゃ。この、ガーデニアの花畑の花の種類は、ネモフィラという。
ネモフィラの花には、1輪ずつ花の妖精が宿る。
その、花の妖精と対話し異変に対処するのが、わしらの主な仕事じゃ」
「そうなんですね。
私、てっきり、花畑のお世話というのは、水やりや肥料をまく事などだと思っていました」
「それも、わしらの重要な仕事じゃよ。
魔法で一時ほどで済ますがの」
「一時?」
「ふむ。1時間半ほどじゃの」
(えっ、この広大な花畑の水やりや肥料をまく作業を、たった1時間半ほどで!?)
「ホッホッ。魔法の力は凄いものじゃ。
以前は、半日はかかっておったがの」
アルビー先生は、私の心を読んだように、笑って言った。
「さて、わしらも、ネモフィラの花の妖精達と会話するかの」
アルビー先生の提案に、私は戸惑った。
私には、花の妖精さんが全く見えないのだ。
「あの……」
私が言いかけた時、私の周りに、小さくて黄色くて丸い光の球が無数に寄ってきた。
リ~ン、シャン。
鈴のような音も聞こえる。
ぽとり。
私の足元に、小さな輪っかが落ちてきた。
(可愛い。ピンクの輪っかだ)
私は、かがみこんで、微笑みながらピンクの輪っかを見つめた。
「ホッホッ。ネモフィラの花の妖精から、お前さんにプレゼントじゃ」
「えっ?」
私は、びっくりして、アルビー先生を見上げた。
アルビー先生は、にかっと笑って言った。
「その、ピンクの輪っかは、お前さんの指輪じゃ。
右手の薬指にはめてごらん」
「はい」
私は、恐る恐る、ピンクの指輪をはめてみた。
小さくて黄色くて丸い光の球が、ぼんやりと妖精さんの輪郭を描き出した。
私は、目をこすってよく見てみると、妖精さんの姿がはっきりと見えるようになった。
「ネモフィラの花の妖精さん……?」
私が無意識につぶやくと、ネモフィラの花の妖精さんが答えた。
「は~い!なあに?」
(わぁ!!妖精さんの言葉が、ハッキリと分かる!!)
私は嬉しくなって、笑顔でアルビー先生を見た。
アルビー先生も、ニコニコしながら、頷いた。
「ネモフィラの花の妖精の姿と言葉が分かるじゃろう。
この指輪は、そういう力を持っておる。
ネモフィラの花の妖精からの、贈り物じゃ」
「そうだったんですね。
これで、お仕事お手伝いできますね」
「そうじゃの。早速、始めるとしようかの」




