プロローグ
(……ここは、どこ……?)
私は、白い霧の中にいた。
周りが、全く見えない。
不安になりかけたその時。
サァーーーッと、心地よい風が吹いた。
みるみる霧が晴れていく。
私は、桜の大樹の下にいた。
そして、目の前には、少年が立っていた。
少年は、真っ直ぐ私を見ている。
私は、どうしたらいいか分からなくて、どぎまぎしてしまった。
私の頬が、みるみる赤くなっていくのが分かる。
なんだか、恥ずかしい。
この少年は、何者なんだろう?
とても綺麗な容姿をしている。
澄んだ青い瞳に、青みがかった銀髪。
北欧系なんだろうか、目鼻立ちが、はっきりしている。
すらりとした手足。
すごく、かっこいい。
「アイリ、待ってる」
少年が、私に声をかけた。
まだ、声変わりはしていないようだ。
って、今、私の事を待ってるって言った!?
というか、私の名前、知ってる!?
どうして???
「あ、あなたは、誰?」
私が問いかけると、少年は悲しそうな表情を浮かべた。
「君は、覚えていないんだね。
僕は、……」
ジリリリリリリ!!!
私は、目覚ましの音で、飛び起きた。
「なんだ、夢か」
私は、彼の名前を聞けなくて、残念だった。
あんな、かっこいい人、見たことない。
クスリ。
私は、自分が随分面食いなんだなと自覚して、ちょっと笑った。
「愛梨~、香織~、ご飯よ~」
階下で、お母さんが呼んでる。
いつもの朝ご飯の、いい匂い。
「は~い、今行く~」
私は、大きな声で返事して、妹の香織を起こしにかかった。
「ほら香織、起きて。
朝ご飯が冷めちゃうよ?」
「う~ん、あと5分……」
香織は、まだ夢の中のようだ。
こういう時は。
バッと布団をはいでみる。
「わっ、お姉ちゃん!?」
ガバッ。
香織が、ようやく起きた。
「おはよ~、香織。
今日もいい天気だよ~」
私は、言いながら、カーテンを開けた。
「も~、昨日遅かったんだから、寝かしてよ~」
香織は、ブツブツ文句を言いながらも、服を着替え始めた。
「お先~」
私も、パパっと着替えを済ませて、階下に降りた。
「おはよう」
ダイニングで、お父さんとお母さんが私に声をかけた。
「おはようございます」
私もにっこりと返事した。
今日の朝食も、美味しそうだ。
こんがりと焼けたチーズトーストに、野菜サラダ、目玉焼き。
お母さんお手製の野菜ジュース。
今日も1日頑張れそう!
うきうきしながら席に着くと、後から、香織も席に着いた。
「愛梨、香織、今日は、どう過ごすんだ?」
お父さんが尋ねた。
「私は、いつものジョギングかな」
「そうか。香織は?」
「ん~?まだ、決めてな~い」
「そうか。明日の学校の準備は忘れるなよ」
「は~い」
なぜ、学校が明日からか?
今日は、日曜日だからです。
「お姉ちゃん、もっと、ゆっくりしたらいいのに~」
香織が言った。
「ハハハ……」
私は、笑った。
(のんびり過ごしてもいいんだけど、朝のルーティン(ジョギング)をこなさないと、気持ちが悪いんだよね……)
あ、自己紹介、遅れましたっ。
私、桜宮 愛梨と、申します。
現代日本の、中学1年生。
容姿は、まぁ、普通かな。(と、自分では思っている)
身長、体重ともに平均的。
学力も平均的。
優しい両親と、のんびり屋な妹に囲まれて、幸せに暮らしておりますっ。
と、いうことで、私、朝のルーティンに出かけてきますね♪
「じゃあ、行ってきま~す」
私は、思い切り玄関のドアを開けて、一歩踏み出した……が。
玄関から先は、空の上だった……!!
私は、バランスを崩して、地上に向かって、真っ逆さまに落ちていった。
「えええええええ!?」
私は悲鳴を上げながら、どんどん地上に近づいていった。
地上は、ネモフィラのような、青い花で覆われていた。
空の青に花の青。
通常ならば、絶景だと喜ぶのだが、今はそんな場合じゃない!!
何とか、地上に激突だけは免れたいのだが、妙案が浮かばない。
(ど、どうしよううううううう)
私は、怖くなって、ギュッと目をつぶった。
……すると。
フワッとした。
(フワッと?)
そうなのだ。
背中にパラシュートでも付いたかのように、ゆっくりと、フワフワと降下し始めたのだ。
(え?どういうこと?)
私の頭の中は、クエスチョンマークでいっぱいだった。
トン。
地上に、無事に降り立った時。
震えが後からきて、その場に座り込んでしまった。
(こ、こわかったぁ!!)
途中まで、すごいスピードで降下した恐怖と、無事に降り立った安堵感で、私の気持ちはぐしゃぐしゃになった。
涙が止まらない。
顔も、ぐしゃぐしゃだ。
「ホッホッ。無事に降り立つことができたようだの」
誰かが、背後から歩み寄ってきた。
(誰?)
私は、振り返ってみた。
そこには、銀髪のおじいさんが立っていた。