身を焦がすような恋
身を焦がすような恋―そんなもの自分には無縁だと思っていた。
そんなものがあるなら体験してみたいとも。
そんなことを考えていた昔の自分を心底ぶん殴ってやりたいと思う。
冗談じゃない、こんなもの知りたくなかった。
相手に聞こえるのではないかと思うくらい高鳴る自分の心臓の音、息の仕方も忘れて溺れたと錯覚するほど苦しく、その人しか見えなくなるほど狭まる視界、恋心に殺されそうだ。
彼―綾瀬翔に恋したきっかけはいたって普通。
日常にありふれた会話で、恋心を抱くには単純すぎるくらいだ。
私―立川結は彼と高校の同じのクラスで、隣の席だった。
2年生になってクラス替えをしたばっかりで、みんな様子をうかがっていた。
ある日の授業中、彼が消しゴムを落としてしまい、私の方まで転がってきた。
無視する訳にもいかないので拾って渡した。
何も特別なことではない普通の会話―のはずだった
「ありがとう」
まさに青天の霹靂。彼から目が離せなかった。
彼のお礼を言って柔らかく笑った顔に釘付けになった。
いわゆる、一目惚れ。
1回目のまばたきで恋に落ち、2回目で理解し、3回目で後悔した、一目惚れをするなんて。
初恋という訳でもない、付き合っていた人だっている。
でも、こんなこと初めてだった。
底なし沼に足を滑らせてしまったのだ。
「結ちゃん、一緒に帰ろ?」
「分かった、今行くね」
まさかあれがきっかけで話すようになって、一緒に帰る仲になるなんて思わなかった。
おかげで毎日心臓の音がうるさい。
一目惚れなんてすぐ冷めると思っていた。
甘かった、むしろどんどん好きになっていく。
彼の心地よい声も、優しい性格も、あの時恋に落ちた笑顔それ以外の表情も全部、全部―
「―好き、だなぁ」
「えっ?」
…私は今何を言ったんだ?好きと言ったのか?
あぁ、最悪だ、言うつもりなんてなかったのに。
告白なんてしたら気まずくなってしまう。
一緒帰れるだけで十分だった、幸せだった。
それが壊れてしまう。
「…好き?勘違いしてたらごめんだけど、俺のことが?」
「…うん、好き、好きなの、最初から翔君のことが」
あぁ、止まらない、心の奥底からこぼれ落ちてく。
彼の口が動くのが見える、いやだ、聞きたくない―
「―俺も、結ちゃんのことが好き、ずっと」
「…えっ」
人間驚きすぎると何もすることができなくなるとは本当だったのか。
まさか、彼も私のことが好きなんて、夢にも思わなかった。
「俺から言うつもりだったけど、先越されちゃったね、両思いだったなんて…でもこれは俺から言わせて、俺と付き合って下さい」
「―はい、よろしくお願いします」
彼のいたずらっ子のような笑顔が見える、そんな顔初めて見たな。胸が高鳴りが鳴り止まらない。
今日も私はあなたに身を焦がすような恋をする。
処女作で拙いところもあると思いますが、楽しんでいただけていたら幸いです。