MP消費がハンパないから禿げるんだ。
ルルミナは、ボロボロの靴で町を歩いていた。お腹はペコペコ。道の石に躓いて、靴が破れてしまった。
「こんな靴で明日からどうやって工場へ行こう……。弟と妹がお腹を空かせてるというのに」
歩道に座り込み、スンスンと鼻を鳴らして泣いた。
大人はみんな忙しく早足で、このかわいそうな女の子が見えていなかった。
ちょうどそこを、靴屋のパムが通りかかった。町で有名な世話焼きおばさんだ。
「なんだいアンタ、靴底がポッカリ抜けてるじゃあないか。ヤダねえ。直してやるから、うちにおいで」
「でも、払うお金がないわ」
「そんなこと、子どもが気にしなくていいのさ。さあさ、おいで」
と、パムはルルミナの小さな手を引いて歩いた。
靴屋には、パムの弟のアルおじさんがいた。アルは口を大きく開いてサンドイッチを齧ろうとしているところだった。
ぐううう、とルルミナのお腹が鳴った。
アルは、まだ口をつけていないサンドイッチをルルミナにあげ、靴を直し始めた。
トントントントン。
抜けた靴底を釘で打つ音を聞きながら、ルルミナはサンドイッチを一口だけ頬張った。パンとベーコンとトマトとレタスの味が、口いっぱいに広がった。もっと食べたかったが、残りをナプキンに包んだ。
「全部食べないのかい?」
「弟と妹の、晩ごはんにするから」
パムは、フウッとため息を吐いて、
「あぁ、ヤダヤダ、本当にヤダねぇ」
と言って、アルの後ろに立った。
そして、アルの髪の毛を数本つまむと、ブチっと抜いた。
パムがフウッと息を吹きかけると、髪の毛はお札のお金に変わってヒラヒラと宙を舞った。
ルルミナは、目をお月さまのようにまん丸くした。
「これで食べ物を買ってあげな」
アルは自分の頭をなでながら、修理の終わった靴を履かせてやった。ルルミナは何度か床を踏みしめて、軽く飛び跳ねた。
「こんなに動きやすいの、はじめて」
「また壊れたら直してやる。もう暗い。とっと帰りな」
しっしっ、とアルがルルミナ追い出した。
ルルミナは、帰り道にソーセージとポテトとリンゴとバナナを買った。家に着くと、アルからもらったサンドイッチと一緒にテーブルに並べ、弟と妹と食べた。
次の日、ルルミナがお礼を言いに靴屋に行くと、中に男の子がいた。昨日と同じように、パムはアルの髪の毛をお金に変えて渡した。
男の子と入れ違いにルルミナが店に入ると、「あら、今日は顔色がいいね」とパムが笑った。
ルルミナは二人にお礼を言った。
「パムおばさんとアルおじさんは、どうして町の子どもを助けてくれるの?」
二人は顔を見合わせた。
「私たちは、昔、子どもをさらって、無理やり働かせる悪い魔法使いだったのさ。ねえ、アル?」
「でも、さらった子どもから、よくお礼を言われたね。なあ、パム?」
「そうさそうさ。聞いてみると、元いたところはずいぶんひどかったってな。ねえ、アル?」
「うちならご飯は食べれるし、自分のベッドもあったから。俺たちは町の大人たちを困らせてやるつもりだったのに、なんだか同情しちまってね。なあ、パム」
「そうさそうさ。お腹を空かせた子どもがこんなにいるなんて、ひどい話だろ。ねえ、ルルミナ?」
ルルミナは二人の魔法使いの話に、黙ってうなずいた。
それからも二人は、町の貧しい子ども達を助けてくれた。パムとアルのおかげで、ルルミナは立派な大人になれた。
ある日、パムが病気になった。治療するにはたくさんのお金が必要だったけど、みんな、二人にはあの魔法があるから大丈夫だと思っていた。
でも、パムは医者に診てもらうこともせす、治療も受けず、どんどん弱っていった。
「どうして魔法を使わないの?パムとアルならお金なんていくらでも出せるでしょ?」
ルルミナが靴屋の二階で寝てるパムを起こさないよう、小さな声でアルに聞いた。アルはかぶっていた帽子を脱いで見せた。
「この通り、もうずっと前から髪なんて一本も残っちゃいないのさ」
アルの頭は、ツツルツルのピカピカだった。子どもたちを育てるために、すっかり抜いてしまって一本も残っていなかった。
「私たちのために全部使っちゃったのね。ごめんなさい」
「なあに、好きでやってたことさ。それに、もう年だからそろそろ魔法の国に帰ろうと思っていたところさ」
その日を最後に二人の魔法使いは、町からいなくなった。
ルルミナは、靴屋のあった場所で、子ども無料の「魔法のパン屋」を開いた。ルルミナ他にも、パムとアルに育てられた子が大人になって、たくさんの魔法の店ができた。
パムとアルはもういない。その代わり、この町は世界で一番子どもにやさしい町になった。
終